2024.10.18
基盤研究を積み重ね「新たな価値」を創造。サントリーの研究職という仕事

基盤研究の積み重ねが生み出す新たな価値
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(以下SIC)は、「健康先取り」「美味追求」「サステナビリティ」という3つのビジョンを掲げて、さまざまな研究や技術開発に取り組む会社です。
サントリーの各事業会社にもそれぞれ研究部門はありますが、SICでは食品、酒類、健康食品、花などの既存事業を支える研究開発に留まらず、「新たな価値の創造」を見据えた基盤技術研究を行っています。
SICで研究職に携わる金川 典正さん
たとえば、ゴマ由来の「セサミン」シリーズや、「黒烏龍茶」の烏龍茶重合ポリフェノール(OTPP)、「伊右衛門 特茶」のケルセチン配糖体といった数多くの機能性素材の探索や有効性評価があります。これらの基礎研究で得られた知見は各事業会社でも活用され、研究成果が横串で繋がっていくような、幅広い視点に立った研究ができることは、やりがいのひとつです。
また、自然界には存在しない「青いバラ」の研究開発や、将来にわたって水資源を守り続けていくための技術開発など、多様な経歴と経験を持った研究者がそろうサントリーだからこそ実現可能な研究にも力を入れています。
金川さんが勤めているのは京都のけいはんな学研都市にある「サントリー ワールド リサーチセンター」
高い壁にも果敢に挑戦する「やってみなはれ」の精神と、消費者の方にどういう価値を提供できるのかという、研究だけにとどまらない、その先にある「市場性」を意識した研究スタイルは、SICの大きな特長のひとつです。
一般的にはお客様との距離が遠く思われがちな研究部門ですが、学術的な価値だけにとどまらず、お客様の笑顔を念頭に置いて研究が進められるのも、SICならではなのかもしれませんね。
数万件の腸の音を解析! AIでヘルスケアが進化する
現在、私が主に携わっているプロジェクトに「腸note」というアプリ開発があります。
スマートフォンのマイクをお腹に当てて腸が発する音を録音し、その音をAIが解析して腸の活動レベルを算出することで、腸の健康状態や、個人に合った食事、生活習慣などの「腸活」を提案できるヘルスケアアプリです。
一般的な研究開発とは少し毛色が違うプロジェクトのように思われるかもしれませんが、SICでは近年、最新のデジタル技術を使った「デジタルヘルス」という分野にも力を入れています。そこでどのようなサービスを提供できるかを模索し、たどり着いたのが「腸の音」でした。
臨床の場では、腸のぜん動運動の音を聴診器で聞いて診断にあたることもあり、腸の音からわかることはきっと多いだろうと考えたのが、開発のきっかけです。
デバイスのマイク部分をお腹に当て腸の音を収録。AIが解析を行う。
腸の音からさまざまなデータが導き出される。
ただ、腸の音の研究している研究者は世界的に見ても数人しかおらず、ほとんど手つかずの状態からのスタートとなりました。
また、毎日手軽に使ってもらうためには、専用のデバイスではなく手元にあるスマートフォンを使ったものがいいと考えましたが、録音にはどうしてもノイズが混ざってしまいます。
そこで、サントリー社員の協力を仰いで数万件の腸音データを集め、最新の深層学習を用いてモデルを構築し、ノイズと腸音を区別するAIをアプリに実装しました。開発に当たっていちばん苦労した部分ですね。
アプリ開発については、以前「SUNTORY+(サントリープラス)」というアプリの開発のサポートメンバーとして携わった経験が非常に役立ちました。アプリ内の文言やフォームを品質部門に確認してもらったり、法律面で問題はないかを法務部門に確認してもらったり、システム部門とともにサーバーを構築したりと、さまざまな方の協力を受け、約3年の研究開発期間を経て、2023年の2月になんとかリリースに漕ぎつけました。
研究者とお客様がつながり、健康を「共創」していきたい
「腸note」では、腸の音の記録だけでなく、お通じなど腸活の記録を毎日つけることで、自分に合った腸活を進めていただくことができます。「自分の体の音を聞く」という行為も、「意外と落ち着く」「なんだか癒される」というお客様からの声をいただくなど、体験自体を楽しんで使っていただけるとうれしく思います。
腸活とは食事や運動を整えて腸に良い活動を促すことですが、このような健康につながる行動は、成果がすぐに表れるものではなく、継続して習慣化することが何より重要です。
このアプリを使い続けることが、使う方のヘルスケアの一助になったり、行動の意思決定に役立ったりすることで、お客様の健康維持につながっていくことが開発者としての願いですね。
さらに、研究者としては、腸の音という世界初のビッグデータがどんどん蓄積していくことで、いずれは腸の音から体の不調やその兆しがわかるなど、何か新しい発見や後続の研究にもつなげていきたいと考えています。
私自身も、昔からお腹がすごく弱くて悩んでいたこともあり、同じようにそういった悩みを持つ方を救うことができればという思いも、研究開発のきっかけのひとつでした。
私たちのような研究者と最終消費者であるお客様は、もっとも遠い存在かもしれませんが、このアプリを通じて、研究者とお客様が直接つながるツールができたことも、「腸note」の意義のひとつだと感じています。
近年では、ユーザーと企業がともに新たな価値を創生する「コ・クリエーション(共創)」という視点も大切です。アプリを使っているユーザーから直接研究の種をいただき、その成果をちゃんとユーザーにアプリで還元していく……双方がパートナーとして一緒に研究していく未来を「腸note」を介して実現していきたいと思っています。
※内容・社員の所属は取材当時のものです。
ONEDAY SCHEDULE
8:30
- 出社
- スケジュール・メール確認
9:00
- プロジェクトミーティング
12:00
- 昼食
13:00
- 実験 or 実験データの整理・解析
16:00
- データディスカッション or 論文輪読会
19:00
- 退社

金川 典正Norimasa Kanegawa
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
新規ビジネス開発部
2011年 サントリー食品インターナショナル株式会社 商品開発部(現・食J商開部)
2013年 サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 研究部
2024年 サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 新規ビジネス開発部