2024.07.12
西岡 真歩│「植物のかかりつけ医」を目指して。サントリーフラワーズ開発担当者のこだわりとは?

サントリーのものづくりの現場へ訪れて、つくり手たちのこだわりを紹介するシリーズ企画「ものづくりの現場から」。第1回目は、花・野菜事業の商品開発・生産の拠点であるサントリーフラワーズ株式会社 イノベーションフィールド(以下SIF)。日本をはじめ世界約30ヵ国に、安全・安心で健康な苗を送り出している現場から、品質の要である苗の病理業務を担う西岡 真歩さんに話を聞きました。
※この記事は、サントリーグループの社内報『まど』2023年11月号から転載しています。記事内の所属および役職等は取材時のものを使用しています。
Q. 西岡さんの業務への「こだわり」について教えてください。
病理業務の主な内容は、全国に販売する苗が健康かどうかの品質チェック、および、苗の生産委託をしている全国の生産農家さんで発生した植物の病気を診断し、その原因を突き止めることです。
診断は検定室での顕微鏡検査で行いますが、実際に苗を育てている現場にもできる限り足を運び、病気にかかった植物の置かれている環境を確認するようにしています。周囲の畑の他の植物からの菌であったり、特定の病気を媒介する虫が発生していたり、病気の原因は多種多様。現場でしか得られない情報も参考に、より精度の高い診断を目指しています。
現場で生産農家さんにお会いする際は、診断結果だけでなく、将来発生する可能性のある病気やその予防に向けて注意すべき点についてもお伝えし、幅広くお役に立てるよう心掛けています。
Q. 今後の目標は?
究極の夢はサントリーフラワーズの「病害ゼロ」を実現することです。病気によって生産量が減るのを防ぎ、苗の生産効率を向上させたいです。そのために、生産農家さんが、困ったときにすぐに相談できる植物のかかりつけの医師のような存在になりたいと思っています。
この夢に向けて、現場の知見を増やすとともに、国内外の病害情報も収集するなど、学び続けていきます。
病理業務の基本工程
1:苗の定期検査
SIFで生産する苗が、病気のないクリーンな苗(=健康な苗)であるかを検査します。抗体の反応を利用してウイルスを検出するELISA検査に加えて、DNAを増幅させてウイルスへの感染を調べるPCR検査※1を行い、ウイルスがいないことを確認しています。生産農家さんへ送る苗の品質と健康を守るための大事な工程です。
※1 SWR(サントリー ワールド リサーチセンター)にて実施

葉をドリルでつぶした後、遠心機にかけ沈殿物を分離し上澄み液を得る。

透明な上澄み液をプレートに入れて抗体と反応させ、ウイルスの有無を検査。ウイルスがあると黄色く変化する。
2:病理診断 病原体の特定
SIFで生産された苗から育った植物全てに責任を持つとの考え方から、生産農家さんや販売店、お客様のご家庭など、どこで育てられた植物でも、病気が疑われる場合は診断をしています。根の量や色に異常がないか、茎内の水の通路にカビが発生していないかなど、顕微鏡を用いて確認します。植物が枯れきってしまう前に検査する必要があるため、スピードも求められます。

病気が疑われる植物が全国の生産現場から届く。

顕微鏡でウイルスや病原菌の有無を確認。
3:病理診断 病原菌の解析
何の病原菌かは目視だけでは判別できないため、原因となる菌を単離してさらに詳細に検査します。菌分離用培地※2 に、病気が疑われる植物から切り取った茎や根の一部を置き、数日間培養器に入れて菌を培養し、菌が培地上で生育したところで、DNAを解析し、菌のDNAデータベースで検索します※3 。そこで得られた候補から、さらに過去の調査や論文と照らし合わせて、原因となる菌を特定していきます。
※2 菌分離用培地:ウイルス、菌などが増殖しやすいよう調製した培地のこと。
※3 SWRにて実施

病原菌以外の菌が入り込まないよう、無菌状態のクリーンベンチ内で作業する。
耐性菌評価
病気に強い品種の開発につなげていくために、開発チームと連動し、菌と植物を接触させる接種試験を行い植物の病気への耐性を評価します。培養した菌を故意に葉に置いたり、土に混ぜたりすることで植物を病気に感染させます。その上で、病気の進行度の違いなどを確認し、耐病性を評価します。

培地で育てた病原菌を葉の上に置いていく。
※内容・社員の所属は取材当時のものです。