私はアンクル・トリス。
1958年の誕生以来サントリーの挑戦を見続けている。サントリーのことなら現役社員の誰よりも詳しいんだナ。
グローバルトップを目指すサントリーの「らしさ」が現れている戦略を、私が領域別に解説するゾ。
この項では、それぞれの事業の重要戦略に表れている「サントリーらしい勝ち筋の作り方」を見て行こう。
アンクル・トリスとは?
1950年代、日本が戦後の経済復興で活況づく中、サラリーマンの一日の疲れを癒すオアシスとしてトリスバー・サントリーバーといった大衆バーが雨後のタケノコのように日本全国に出現しました。
バーの止まり木で一杯のウイスキーを楽しむ人々の心情を、等身大で語る存在として産まれたのが「アンクル・トリス」であり、当時寿屋に在籍していた柳原良平氏の筆によって誕生しました。若い頃からお酒と言えばウイスキー、「とりあえずハイボール」が口癖。小心者だが時々思いきったこともする。
どこか憎めない多くの人から愛されるキャラクターとして、1958年の登場以来トリスブランドの象徴としてTVCMや広告でサラリーマンの気分を代弁してきました。現在は、バーテンダー姿に装いを代えるものの、親しみやすいキャラクターはそのままに、トリスハイボールの魅力を伝える存在としてTVCM・広告に登場しています。
「やってみなはれ」。初代社長・鳥井信治郞の言葉で、2代目社長・佐治敬三はビール事業への進出を決意した。当時は第1次洋酒ブームの最中。「ウイスキーなら苦労せずとも売れる」雰囲気に危機感を抱いた敬三は、最難関であるビール事業に敢えて挑戦したんだナ。
ビール事業の歴史は、1963年の武蔵野工場竣工と『サントリービール』発売から始まり、生ビールブームの先駆け『純生』や麦芽100%の『モルツ』、発泡酒ブームを先導した『ホップス<生>
』などがヒット。だが、競合の定番商品を前にビール事業は赤字が続いた。
しかし2005年、『ザ・プレミアム・モルツ』のモンド・セレクション最高金賞受賞を機に、ついに反転攻勢へ。『プレモル』は“ハレの日に飲む特別なビール”として、日本におけるプレミアムビール市場創出に成功したんだナ。
ビール事業黎明期
ビール事業転換期
『プレモル』以降、急成長したビール事業は2014年10月分社化。次は「サントリービール」の主な戦略を紹介するゾ。
“プレミアムビール”人気は、競合各社による同様商品の乱立も引き起こした。危機感をもったサントリーでは、中期目標「プレミアム復権」を掲げ、『プレモル』の“神泡”プロモーションを敢行。その結果、「プレミアムビール市場」を牽引するトップランナーとしての地位は、さらに盤石なものになったんだナ。
縮小傾向にあるビール市場だが、贈答品としても人気の「プレミアムビール」の市場推移は安定している。あわせて“日々の食卓に最もふさわしい”をコンセプトとした『金麦』、米国でも好評のノンアルコールビール『オールフリー』、糖質ゼロを実現した『パーフェクトサントリービール』などのブランド強化により、幅広い層のファン獲得に成功しているんだナ。
2022年7月には、ビール、ワイン、スピリッツなど複数事業を束ね、国内酒類事業の製造から販売まで一本化した「サントリー株式会社」を設立。より迅速に消費者ニーズに対応できる体制に強化されたゾ。
そして11月に、炭酸割りを前提にしたアルコール度数16%のビール『ビアボール』が誕生。炭酸で作る濃さもアレンジも自由なビールという新たなカテゴリーを創出したんだナ。
食品酒類総合企業として成長するため、装置産業であるビール事業を手掛けることで近代的産業への脱皮をはかった敬三の念願は今、叶いつつある。黎明期から「戦略的事業」であったビール事業には、サントリーのDNAが深く刻まれているんだナ。
まずスピリッツビジネスの三つの魅力を紹介するゾ。一つめはスピリッツ商品の高い収益性。嗜好性が強く、ブランドが重視されるため、ブランド力があれば高価格商品として高い利益率が期待できる。二つめは世界市場で今後も見込まれる需要の成長性。三つめは競合の少なさ。スピリッツビジネス(特にウイスキー)は設備投資をしてから仕込み・販売に至る時間軸が10年単位と長いため、参入障壁が高いんだナ。
2014年、米ビーム社を総額160億米ドルで買収して誕生したサントリーグローバルスピリッツ社は、『ジムビーム』のような確立された大型グローバルブランド群に加え、世界に広がる販路を獲得した。さらに日本と世界の「匠の技」を掛け合わせ、続々と新たなグローバルブランドが生まれているゾ。
2017年発売の桜・柚子などの和素材をベースにしたプレミアム・ジン『ROKU(ロク)』に続き、技術融合の最難関と言われたウイスキーでも、2019年に日米共同開発品であるバーボンウイスキー「LEGENT(リージェント)」が誕生。世界5大ウイスキー産地にある自社蒸溜所の原酒のみをブレンドしたサントリーワールドウイスキー『碧
Ao』も、世界を驚嘆させた。特に近年はこのようなプレミアム商品が海外でも好調なんだナ。
また、商品を使った飲み方提案もサントリーの強みの一つ!ウイスキーを炭酸水で割った
“ハイボール”は、日本だけでなく海外でも拡大中。アメリカでは専用サーバーごとバーに売り込み、今では3000店以上で提供されている。
2019年には世界最大のウイスキー消費国であるインドにウイスキー「OAKSMITH」を投入し、ここでもハイボール普及計画が着々と進んでいる。山崎の地に日本初の本格モルトウイスキー蒸溜所の建設に着手したのが1923年。来る2023年には、ウイスキーづくり100周年を迎える。
グローバルにおいてもより一層プレゼンスを高めるべく、次の100年もサントリーは突き進んでいくゾ。
2013年に、サントリーグループから分社・上場したサントリー食品インターナショナル。グループ内でも、海外企業の買収を通じていち早く海外展開を進め、日本・アジアパシフィック・ヨーロッパ・アメリカの4つの地域で事業を展開、売上収益に占める海外比率は50%を超える。
サントリー食品インターナショナルは、世界の全市場で画一的な商品を展開するのではなく、現地のお客様の嗜好の変化を捉え新しい価値を届け、それぞれの市場でお客様から最も愛され、選ばれる会社になることを目指しているゾ。
この「サントリー食品インターナショナル流の勝ち筋」によって、お客様のトレンドの一歩先を行く、ユニークなポジションの確立を図っている。
この勝ち筋を実現させるために、独自の成長戦略を実行しているゾ。まず「First Mover」としてコアブランドイノベーションや新しいカテゴリの創出を行い、「Game
Changer」として新市場や新飲料モデルの開発やM&Aを積極的に推進。更なる成長を支えるために、各国の優れた知見とノウハウをグループ全体に迅速に横展開する「センターオブエクセレンス」やDXも推進している。また、リソースを最大限お客様に近い現場に送り、市場変化に即断即応できる体制を構築するなど、構造・組織改革にも取り組んでいるんだナ。
サントリー食品インターナショナル流の勝ち筋を実行し、それぞれの市場で愛されるために、各市場のお客様の嗜好の変化の半歩先を見続け、世代を超えて愛されるブランドを磨き続けること、つまり「コアブランドイノベーション」によってお客様に価値を届けることに力を入れてるゾ。
日本で長年愛されてきたRTDコーヒーブランド「BOSS」は、国内と海外でお客様の嗜好や変化に合わせ、磨いてきたコアブランドイノベーションの一例。「働く人の相棒」のブランドコンセプトは不変で、「働く人」を現地の市場に合わせて定義し、中味やパッケージを消費者に合わせ徹底的に変更するという戦略が、国内だけではなく海外のお客様の心をも掴み始めているんだナ。
日本では、1992年に缶コーヒーとして発売されたが、社会の変化と「働く人」の変化(オフィスワーカーの増加)に伴い、パッケージと中味を大幅に変更。お客様に徹底的に寄り添った結果、売上も増加した。
海外のお客様に対しても、現地の嗜好に合わせ中味とパッケージは徹底的に変えていく、という戦略で展開。BOSSはアメリカで発売を開始し、その後オーストラリア、ニュージーランド、タイ、ベトナム、香港、シンガポールで展開しているゾ。
オセアニアを例に挙げてみよう。オセアニアは歴史的にコーヒー文化が強く、消費者は多様な嗜好性を持っているんだナ。そのため、その幅広いニーズに対応できるよう、複数のフレーバーを展開する必要があった。日本の「プレミアム
BOSS Black」や「贅沢微糖」からアイディアを得て、現地で「Long
Black」と「Latte」を発売。(以下写真参照)また、オセアニアと日本の研究開発チームが共同で中味を開発し、オセアニア限定のフレーバー「Iced Caramel Latte」も新たに発売したゾ。
BOSSの海外展開の大きな成果として、著名なワールド・ブランディング・アワード(2022-23)で今年日本のブランドとして飲料部門で唯一ブランド・オブ・ザ・イヤーを受賞。海外でも認められるブランドに成長していることが分かるゾ。
今後も、それぞれの市場で、現地のお客様の嗜好の変化を捉え新しい価値を届けるというサントリー食品インターナショナル流の勝ち筋で、世界中のお客様に新しい価値を提供し続けていく。
「21世紀は必ず“心”と“健康”の時代になる」。強い信念のもと、1980年代半ばからスタートしたウエルネス事業は「セサミン」や「VARON」などユニークな商品群と通販型ビジネスモデルで増収増益を更新中、現在は売上高1000億円を超える。
健康食品市場では国内シェアトップのサントリーだが、2015年の機能性表示食品制度導入を機に大手企業の市場参入が相次ぎ、競争は激化。トップランナーとしてさらなる成長のため、サントリーでは新たに「モノ+サービス」を軸としたビジネスモデルへ変革中なんだナ。
例えば2023年6月本格展開予定の「らくらく健康生活サービスアプリ・comado」では、商品購入・会員登録をしたお客様に、健康情報、フィットネスの動画レッスン、料理レシピなどを無料提供。会員ステージが上がると、サントリーホールでのコンサートやスポーツの試合観戦への招待などがあり、商品(モノ)購入以降もオンオフのサービスで接点を持ち続けることができる。
問合せ対応や受注業務が主だったコンタクトセンターも、購入履歴等をもとにした提案を行う“お客様一人ひとりに寄り添うコンシェルジュ”に変貌。「モノ+サービス」のビジネスモデルで提供価値を拡張し、競合の先を行くべく邁進中だゾ。
グローバル市場にも一層注力する。親日で外部環境の似ている台湾に対しては従来の“日本の通販モデル輸出”で成功を収めているが、アジア市場全体での成功モデルは確立されていない。
そこでサントリーはアジアリージョン統括会社「サントリーウエルネスAPAC」を設立。日本とAPACにおけるクロスリージョン経営の成功モデルを確立し、グローバル成長も同時に目指していく戦略を進めているゾ。
ビジネスモデルの変革に伴い、組織や働き方も大改革中だ。
事業の機動性を高め、お客様に更に最高品質の価値を提供するため、ブランド・サービスごとに一貫したバリューチェーンを再構築。それを実現できる組織体制へと変更したゾ。
社員一人ひとりに求める役割も、特定の機能の担い手から新たなビジネスやプロダクトの実現担当へとバージョンアップ。それに伴い視座を上げるための施策も積極展開。月1の経営会議には全社員が参加し、続く「経営シンキングタイム対話」でテーマ別にフラットな議論が行われている。
また、すべてのバリューチェーンにDX人材を投入、DX×ビジネスも一気に加速している。ウエルネス事業はビジネスと組織の統合的モデルチェンジの先駆例を目指し、DXを中心にサントリー全体の変革の推進役となるゾ。