日本はペットボトルのリサイクルでは世界有数の先進国で、約94%の回収率、そして約86%のリサイクル率を誇る。ただし新たなペットボトルとして再生されるのは約20%*1
で、大半はトレーや繊維など別の用途向けに加工されたり、資源として海外に流出したりするため、リサイクルの輪はそこで止まってしまう。
こうした現状の中でサントリーグループは、2030年までにペットボトルの素材をリサイクル素材と植物由来素材に100%切り替え、化石由来原料の新規使用をゼロにする「100%サステナブル化」を宣言。持続可能な社会の実現を率先して目指す覚悟を内外へ示した。その推進役となっているのが、使用済みペットボトルを再び新たなペットボトルとして水平循環させるための「ボトルtoボトル(BtoB)水平リサイクルプロジェクト」である。
*1 2021年度の数値(出典:ペットボトルリサイクル推進協議会年次報告書2022)
※ペットボトルは資源として何度も循環できることを伝える新ロゴマーク『ボトルは資源!サステナブルボトルへ』を国内ペットボトル全商品(ラベルレス商品を除く)へ22年から順次展開
齋藤 義弘
Yoshihiro Saito
サントリーホールディングス株式会社
包材部 包材開発グループ
小笠原 直也
Naoya Ogasawara
サントリーホールディングス株式会社
サステナブルPET実行プロジェクトチーム
田中 慶佑
Keisuke Tanaka
サントリーホールディングス株式会社
包材部 包材開発グループ
佐藤 恆士朗
Koshiro Sato
サントリーホールディングス株式会社
包材部 包材調達グループ
サントリーグループが、プロジェクトとしてBtoB水平リサイクルの取り組みを始めたのは2010年のこと。当時はサステナビリティの概念がまだ一般的ではなく、ペットボトルにおける環境対策としては、飲料メーカー各社とも「エコ」や「省資源」のための軽量化推進が主流であった。
こうした中で、ペットボトルを資源として持続的に利用できるBtoBの水平リサイクルにいち早く着目し、リーダーとして初期のプロジェクトを牽引したのが齋藤義弘である。理論上は何度も繰り返しリサイクルできるとは言うものの、社内では「口に直接触れ体内に摂取する飲料の容器という特性上、リサイクルペットボトルが果たしてお客様に受け入れてもらえるのか」という、懐疑的な声が多かった。だがまずは「やってみよう」という信念のもと、齋藤はプロジェクトの立ち上げから1年後の 2011 年に、協栄産業(株)との協働により BtoB メカニカルリサイクル*2システムの開発に成功。飲料メーカーでは日本初の快挙を成し遂げる原動力となった。安全・安心なリサイクルペットボトル誕生の幕開けである。
*2 回収ペットボトルを選別・粉砕・洗浄後そのまま原料としてリサイクルすること。回収ペットボトルを化学的に分解し再びペット樹脂を作るケミカルリサイクルより環境負荷が少なくCO2削減効果が高い。
再生処理する過程でボトルに色味が付くことなどもあって、開発当初は安全面・衛生面に対する社内の懸念を払拭するのに苦労したと齋藤は振り返る。
齋藤「お客様に安心・納得していただくことが何より重要なので、安全性の検証を重ねた上で、そのファクトを持って社内の各部門に説明し理解を得るのに時間をかけました」
このサステナブルなシステムで再生されたリサイクルペットボトルは、「サントリー烏龍茶」「伊右衛門」2ℓなどの容器に採用され、「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」「地球環境大賞」など数々の賞を獲得。環境負荷の少ないリサイクル方法として注目され社会的に高い評価を得た。
そして2014年、チームはさらなる環境負荷の低減に向け、新たな挑戦への一歩を踏み出すことになる。
既存のメカニカルリサイクルでは、回収したペットボトルを粉砕・洗浄してできたフレークを高温で溶融し、それを結晶化させた樹脂ペレットをプリフォーム*3の成型工場に輸送して乾燥させた後、再び高温で溶融しプリフォームを成型していた。
この2度の溶融工程に挟まれた「結晶化処理」「輸送」「乾燥」の各工程を無くし、溶けたフレークから直接プリフォームを成型するF(フレーク)to P(プリフォーム)を実現することで、CO2排出量をこれまで以上に削減し再生効率化を図ろうというのがチームの新たな挑戦課題である。
FtoPによって均一な品質のプリフォームを成型するには、溶かしたフレークを成型機に安定した圧力で流し込むことが重要である。この技術の開発には協栄産業が持つフレークの処理技術に加えて、イタリアのSIPA社が持つプリフォーム成型技術と、オーストリアのEREMA社が持つペットボトル再生技術が必要であった。
この4社協働による工程革新を推進するエンジニアとして招集され、後に齋藤からプロジェクトリーダーのバトンを受け継いだのが小笠原直也である。小笠原の役目は、まだ机上の構想段階だった新工程を実際に稼働させることにあった。
小笠原「前例のない技術協働だったため、まずはプロトタイプの設備を実際に組み立て、実機を運転しながら手探りで技術課題の検証を行いました。最初のうちはどういう材料を使ってどういう運転をすれば、このシステムが完成したと言えるのかが分からないので、『課題は何か?』を探り出すこと自体が課題、と言える状態でした」
そして長きにわたり安定的に高品質なボトルを造り続けるには、特に安全面・衛生面を含めた品質保証について万全の体制を構築しなければならない。
小笠原「日本の厳しい品質管理基準に適合するため、海外の協働パートナーの理解を得ながら準備と検証に多くの時間を費やしていた時期が一番大変でした」
FtoPの実現に向けて奮闘する小笠原を工場の最前線でサポートし続けたのが、20代の若手ながら後にプロジェクトリーダーのバトンを託されることになるエンジニアの田中慶佑である。イタリアから導入したプリフォーム成型設備を実装するに当たり、田中は日本の厳しい品質基準に適合するよう技術の完成度を高める重要な役割を担った。
田中「イタリアの設備は2013年に発表されたばかりで、実際に導入したのはサントリーが世界で初めて。従来の成型技術と方式が異なり、設備の使いこなし技術が手の内に入っておらず、問題は山積みでした。そんな中、使い慣れない英語でやりとりしながらテストと評価を繰り返し、少しずつ改善を重ね完成度を高めていきました」
中でも田中が独自に設計した品質保証用カメラの設置は、海外メーカーとの品質管理のギャップを埋める上で大いに役立ったと小笠原は評価する。
小笠原「日本で要求される高い品質保証基準を満たすには、何をどのレベルでどう検査するか、そのためにどのような仕様のカメラを設備のどこに設置すべきかなど、多くの制約と課題をクリアしながら装着する必要があったのですが、それらを全て粘り強くやってのけてくれました」
やがてメンバー全員の並々ならぬ苦労と努力の甲斐あって、ついに2018年に世界初の「F to Pダイレクトリサイクル技術」が完成。その結果、CO2排出量は、石油由来原料を使用する場合と比べると約70%も削減できることになったのである。
こうして完成に漕ぎ着けたFtoPダイレクトリサイクル技術だったが、技術の新規性ゆえに、初期管理を含めた導入ステップを、他部署と連携しながら設計する必要があった。そうした中で全国の充填工場と粘り強くやりとりを重ね、FtoPのアンバサダー的な役割を担ったのが、田中の1年後輩に当たる包材部調達グループの佐藤恆士朗だった。
佐藤「開発チームと調達チームが同一部署にいる包材部の特長を活かして、技術的な安全性の裏付けとサステナブル素材の早期導入の重要性を、部内一丸となって様々な尺度から説明し、プリフォーム使用に関わる関係者の理解を得るよう努めました」
佐藤をはじめとする調達チームの主な仕事は、開発チームが創り上げたFtoPプリフォームの導入を進めるため、使用・調達計画の策定とコスト管理、並びに各工場における導入マネジメント、さらには安定的に各工場へ届けるための納品管理と需給調整を行うことにある。2つのチームは言わば一心同体とも言える関係性にあるが、他の大手メーカーでは、調達部門と開発部門が別組織になっていることが多いと思われるため、これはサントリー独自の組織体制と言えるだろう。
佐藤「コスト管理を重視する立場にある調達と、可能な限り良いものを創りたいと考える開発は、基本的には相反する立場。それが同じ組織下にいることで互いの仕事に興味が湧き、互いを理解しようとし、その結果としてフラットに意見を出し合いながら新しいものを生み出すことができる。そんな掛け算的な仕事から結果を出せるのが、このプロジェクトに携わる魅力です」
ボトルからボトルへのサステナブルな資源循環を思わせるように、齋藤がゼロから立ち上げ、小笠原が軌道に乗せたBtoB水平リサイクルプロジェクトは、FtoPという世界初の成果を生み出し、田中と佐藤に代表される次の世代へとバトンが託された。
若きリーダーとしてチームを率い、プロジェクトをさらに進化させる役割を担った田中は、先輩たちの思いを引き継ぎながら今後への決意を示した。
田中「齋藤と小笠原が築いた仕組みをより高めていく視点からの発想と、今までにない全く新しい視点からの発想の両方が求められると思いますが、いずれにせよサステナブル活動のトップランナーとして、新たなイノベーションに挑み続ける姿勢に変わりはありません。サントリーでこのような形で社会貢献できるとは、学生時代には思いもよらなかったので、『自分たちの力でここまでのことができるんだ』という驚きと共に、働く上で大きな魅力を感じています」
そして田中と共にプロジェクトの次世代を担う佐藤も、最先端の技術に触れながら社会を変える活動に携わるやりがいを次のように語る。
佐藤「サステナブルな世の中にするためのフロンティアに立っているという自負と、飲料業界を牽引していくぞという気概を持ちながら、日々プロジェクトに関わっています。今後は、サステナブルな素材を使用したペットボトルの比率を50%超に引き上げる活動にまずは全力を注ぎ、最終目標である2030年の『100%サステナブル化』に向けて邁進していきます」
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