金川 典正Norimasa Kanegawa
大学時代は食品生物科学科を専攻し、食品由来ペプチドの新たな健康機能を研究。入社後、サントリー食品インターナショナル株式会社の商品開発部に配属され、DAKARA、ビタミンウォーター、ビックルなどの機能性飲料の商品開発を担当し、中味の開発などに携わる。入社3年目に、サントリーグローバルイノベーションセンターが設立されるとともに研究部に異動し、現在の健康素材の研究に携わる。高校から大学院まで大道芸サークルに所属し、現在も半年に一度は大道芸人として活動を行っている。
サントリーグループでは、創業以来お客様に価値ある商品を届けるため、その商品開発につながる基盤技術研究に力を注いできた。そして、おいしさの追求とともに、健康の研究を推し進めている。清涼飲料の分野においても、1990年代にはウーロン茶ポリフェノールの本格的な研究をスタート。2006年、その成果は抗肥満作用のある特定保健用食品(トクホ)「黒烏龍茶」として結実した。その後、ポリフェノールの一種ケルセチン配糖体にも強い抗肥満作用があることを発見し、「特茶」を世に送り出した。2013年にはさらなる基盤技術研究の充実化を図るために、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(SIC)を設立。「健康先取り」「美味追求」「サステナビリティ」の3つのビジョンを掲げ、食品、酒類、健康食品、花など既存事業の成長を支えるとともに、将来の新規事業の創造を見据えた基盤技術研究をスタートさせた。そして現在も、新たな健康素材の発見に向けて果敢な基礎研究が続けられている。
SICの研究部における私の役割は、健康に効果のある有望な素材を見つけ出し、その素材の有効性を評価・分析し、新たな健康飲料の商品化につなげていくことです。
現在、私が携わっている主なプロジェクトのひとつが、生活習慣病対策用の機能性素材の研究です。中でもメタボリックシンドロームは肥満に伴い高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさるなど、多くの消費者にとって大きな関心のひとつになっています。これらの解決策となり得る新たな機能性素材を見つけ、清涼飲料分野での商品化につなげていくことが、私の最終ミッションです。
素材の探索にあたっては、効果が期待できることや、安全であることだけではなく、消費者の方に安心しておいしく味わっていただけるか、飲料との親和性が大切になります。その素材は水に溶けやすいか、味にどの程度影響するのか、安定的な品質を保てるかといった、飲料に適した素材であることが求められます。素材の探索方法には、サントリーが長い年月をかけて培ってきた基礎的な研究データをはじめとして、論文などの学術情報を集めたり、国内外で開催される学会で得た情報を参考にしたりしながら進めています。
次のステップとなるのが、有効性を評価・分析するために実験を積み重ねることです。商品として世の中に出すためには、安全であることを証明することはもちろんですが、一方でヒトでの有効性を証明する確固としたエビデンスが求められます。例えば、トクホとして申請する場合は、有効性と安全性を示す根拠データはきわめて重要になります。細胞や酵素を用いた試験管レベルなど、ヒトでの試験の前段階においては有効性を示すデータが得られたものの、最終的なヒトでの試験で効果が確認できず、挫折をしたケースが何度もあります。あきらめることなく粘り強く続けることは、研究者にとってはとても大切な資質だと思っています。
現在の私の所属するSIC研究部には、素材有効性を研究する人だけではなく、過去にビールの商品開発を行っていた方、品質保証に携わっていた方、長年成分分析に取り組んできた方など、さまざまな経験を持つメンバーがいます。それぞれが別々の視点から物事を見ることで、意外な糸口を見つけ出すこともあり、多様性がいかに重要か改めて実感しています。サントリーには酒類から清涼飲料、健康食品まで幅広い事業がありますから、多様な経歴と経験を持った研究者が多いのも、SICの特徴のひとつかもしれません。
また、SICの研究スタイルの特徴のひとつは、研究者が市場性を意識していることです。飲料との親和性を考え、美味しさを重視することもそのひとつですが、それぞれがそれぞれの研究アプローチをする中で、つねに一般消費者の方がどのような反応をするかを念頭に置きながら研究に取り組んでいます。基盤研究はお客様との距離が遠く、コミュニケーションがとりづらいと一般的には言われていますが、私自身入社後、最初の配属先が商品開発部だったこともあり、つねにお客様の存在を意識して研究を行うよう心がけています。
SICではミッションのひとつに「新規事業の創造」を掲げています。そのため、若手であっても自分で考えたテーマを提案できる機会があります。新しいテーマを創出するために、「この素材にはこういう成分が入っているから、こういう健康効能があるのではないか」という仮説を立て、実験・検証をし、その仮説が正しかった時、パズルがぴったりはまるような喜びと達成感があります。もちろん、それを商品化につながるような研究成果までもっていくにはまだまだ長い道のりがあります。これまで世の中になかったものを新しく作りだすこと、誰も知らなかった作用メカニズムが解明できることは、基盤研究にとって最大の魅力だと思います。
商品開発部に在籍した2年間は、とても貴重な経験でした。それを活かすことが、今後、研究者としての私の強みになると思っています。例えば、どのような素材成分だったら、お客様が受け入れやすいか、あるいは反対に受け入れにくいかを実感したことがあります。商品開発を行っていた時に疑問に感じていたことを、基盤研究としてより追求するため新たなテーマとして提案したこともありました。商品開発部で培った知見を現在の研究に活かすこと、それが次のステップに必ずつながると思います。
目下の目標はやはり、自分の研究成果を商品化につなげることです。具体的に言えば、トクホなどの健康関連飲料となるような商品を世に送り出したいと思っています。幸い、「黒烏龍茶」の研究開発に携わった上司が身近にいます。そんな上司を目標に、一日も早く目標を達成したいと思います。
* 内容・社員の所属は取材当時のものです。