石原 嘉人Yoshito Ishihara
これまで当社では、グローバルプレーヤーとして「世界の巨人たち」と戦うために、さまざまな財務体制づくりを進めてきました。今回、私が携わったサントリー食品インターナショナル(SBF)のIPO(新規株式公開)案件とビーム社買収案件も、グローバル戦略の一環として位置づけられたものです。SBFの東証1部上場では、グローバルプレーヤーとして世界と戦っていくための財務体質の強化を目的に、市場からの資金調達に踏み切りました。一方のビーム社の買収は、海外のスピリッツ市場への進出に向けた基盤づくりを目的としたものです。 私はニューヨークから帰国後の2012年4月頃から、本格的にこの二つの案件に参画。サントリーにとって初めてとなる上場でしたので、その責任の重さを感じながらも、新たなことに挑むワクワク感もありました。一方で、買収案件も同時並行的に進めなければなりませんでしたので、かなりのスピード感をもって進める必要もありました。
市場から資金調達をするためには、投資家にとって魅力ある企業でなければなりません。まずは投資家にアピールするための戦略づくりがスタート。どれだけの資金を調達し、その資金で何をするのか、事業の成長性・収益性などをアピールするためのストーリーづくりが行われました。こうしたストーリーづくりは、SBFの専門チームが中心となって進められました。私の役割はサントリーホールディングス(SHD)の財務担当者として、グループ全体の財務を統括する観点からさまざまな判断材料を提示し、上場に向けたサポートをすることでした。とりわけ私が深く関わったのが、SHDが保有するSBF株の一部売り出し。
売り出し比率の検討においては、SBFの成長の為の資金獲得という上場本来の主旨に留意しつつ、SBFとSHD双方が財務体質の改善・投資余力の獲得を実現するためのバランスを考え、さまざまなシミュレーションを繰り返しながら、最適な値を導き出していきました。私がこの案件に関わってから約1年後の2013年7月、SBFは無事上場を果たし、現在も上場時の公開・売出価格を大きく上回る水準で株価が推移しています。
ビーム社の買収案件では、私は主に買収資金の調達を担当しました。ビーム社買収はサントリーとして最大の案件。多額の資金を最善のストラクチャーで調達することが私のミッションでした。ブリッジローンの組成スキーム・ブリッジローンからパーマネントファイナンスへの置き換え戦略を検討するとともに、買収後サントリーグループの財務体質が中長期的にどう推移するかを繰り返し分析し、最適なスキームづくりを目指しました。
資金調達オプションのメリット・デメリットを整理するうえでは、銀行、弁護士など社外専門家との議論を重ね、金利上昇・為替変動・流動性といった観点からリスクを分析。外貨建て劣後ローンや海外市場での社債発行など、前例なき資金調達にチャレンジしました。特に海外市場での社債発行においては、米国をはじめとした社債投資家と直に連携を取り、まとまった米ドル資金を調達できたことが印象に残っています。SBF上場もビーム社買収も、サントリーにとって過去に前例のない案件でしたので、多くの苦労も難しさもありましたが貴重な経験が得られました。グローバルプレーヤーとしての企業価値を高めるために、財務部門として何ができるのか。今回の経験を糧に、グローバルを舞台にした財務のスペシャリストとして活躍していきたいと思っています。
* 内容・社員の所属は取材当時のものです。