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公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事・堤 剛、鳥井信吾)は、わが国で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈る「佐治敬三賞」の第24回(2024年度)受賞公演を「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」と「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」の2公演に決定しました。後日贈賞式を予定しています。
●選考経過
応募のあった2024年実施公演について2025年1月26日(日)当財団会議室にて選考会を開催。慎重な審議の結果、第24回(2024年度)佐治敬三賞に「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」と「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」が選定され、3月17日(月)の理事会において正式に決定された。
●賞金 200万円 今回は同時受賞につき各100万円が贈られる。
●選考委員は下記の9氏
浅井佑太、伊藤制子、岡田暁生、小室敬幸、白石美雪、長木誠司、沼野雄司、野々村禎彦、水野みか子(敬称略・50音順)
●受賞公演
「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」
<公演概要>
日時:
(プログラムA)
2024年1月26日(金)19:00開演/1月27日(土)15:00開演
(プログラムB)
2024年1月27日(土)19:00開演/1月28日(日)15:00開演
会場:アトリエ第Q藝術(東京・世田谷区)
出演:山本昌史(コントラバス)
曲目:
(プログラムA)
ジョン・ケージ/《The Wonderful Widow of Eighteen Springs》
一柳慧/《空間の生成》
森田泰之進/《速驚曲第3番》※山本昌史委嘱作品/初演
木下正道/《石をつむIX》※山本昌史委嘱作品/初演
ジェイコブ・ドラックマン/《Valentine》
フィリップ・ボアヴァン/《ZAB ou la Passion selon Saint-Nectaire》※日本初演
(プログラムB)
高木日向子/《Lost in____VI》※山本昌史委嘱作品
藤倉大/《Bis》
森田泰之進/《速驚曲第3番》
木下正道/《石をつむIX》
ヤン・ロバン/《Myst》※日本初演
フィリップ・ボアヴァン/《ZAB ou la Passion selon Saint-Nectaire》
主催:山本昌史
「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」
<公演概要>
日時:2024年12月7日(土)18:00開演
会場:晴れたら空に豆まいて(東京・渋谷区)
出演:
田中悠美子(義太夫三味線)
内橋和久(ギター/ダクソフォン)
New Little One(スガダイローPf. 細井徳太郎Gt. 秋元修Dr.)
安達楓(DJ)
曲目:
高橋悠治/《われを頼めて来ぬ男》梁塵秘抄による
藤倉大/《Jiai(慈愛/地合)》義太夫三味線のための※田中悠美子委嘱作品/初演
一ノ瀬響/《心の澄むものは》梁塵秘抄より
#即興演奏 with 内橋和久
#Playsセロニアス・モンクwith New Little One
田中悠美子/《I was here》※初演
(開演前・転換・終演時)
Listening Style DJ by安達楓『録られた音響世界を聴く』
企画・主催:田中悠美子
<贈賞理由>
「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」
山本昌史はコントラバス奏者という立場を超え、現代の作曲界をグローバルな視野で捉えながら、他の演奏家たちの視野になかなか入らない作曲家の作品を採り上げて、それらをみごとなパフォーミングで披露する。このひとがいるおかげで、ことに日本の現代音楽界は格段に広い地平と展望を得ている。2023年に神奈川県立音楽堂で催された「紅葉坂プロジェクトvol.2」では、ピエール・ジョドロフスキのライヴエレクトロニック作品に広い空間を用いて八面六臂の活劇的演奏を繰り広げた山本だったが、2024年1月のThe Unplugged Theatre(アンプラグド・シアター)は、それとは対照的なアトリエ第Q藝術というインティメットな空間で催された。3日間にわたり2つのプログラムで行われたこの演奏会は、凝縮された音と荒行的な演奏行為の数々によって、会場の空気の密度を破裂させんばかりに高め、聴衆を強度の興奮状態へと導いた。現代作品によるこのエクスタシーは近年では珍しいものだ。ジョン・ケージ、一柳慧、森田泰之進、木下正道、ジェイコブ・ドラックマン、フィリップ・ボアヴァンというAプログラムの並びを眺めただけでも、山本がこれまでのコントラバス奏者、あるいは現代作品奏者たちとは異なった角度、それも「今」の仰角から音楽界を見つめていることが了解されよう。Bプログラムではケージ、一柳、ドラックマンの代わりに高木日向子、藤倉大、ヤン・ロバンの作品が入る。がたいの大きなコントラバスは、いろいろな「付き合い方」が可能な楽器だが、山本は通常奏法に秀でることは言うに及ばず、特殊奏法やばちを使った奏法、楽器を傾けたり裏返したりと言った挙動、打楽器的な扱い、声を伴いながらの演奏・・・あらゆる演奏行為を、あたかもそれがこの楽器本来の奏法であるかのように連続的にこなしながら、それぞれの奏法に緊張感を常駐させる。特殊奏法から見れば、通常奏法こそが「特殊」なのだ。その相対性のなかで、でもけっして演奏が平準化しないのは、ひとえに山本のパフォーミングに漲る強度ゆえである。両プログラムの最後を飾る、長大なボアヴァン作品では、床一面に広げられた五線譜に従いながら、コントラバスという楽器との等身大の格闘技が繰り広げられる。まさに「プラグの外されたシアター」だ。ときに山本は楽器の影に隠れ、見えなくなり、また楽器との添い寝もする。演奏者と楽器と、どちらがこの芝居の主役なのか?いやこれはむしろ「ふたり」の対等なデュオ。山本がコントラバスから音を引き出すと同時に、コントラバスが山本という人格を引き出している。そのチャレンジングな楽器との相克は、まさに佐治敬三賞の精神に相応しい。
(長木誠司委員)
「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」
太棹三味線奏者田中悠美子の40年を超える活動の集大成にあたる公演である。彼女は高田和子を通じて高橋悠治《すががきくずし》《音楽のおしえ》の初演に参加し、高橋が高田らと始めた邦楽器グループ「糸」に加わった。本公演では《われを頼めて来ぬ男》の伝統譜を的確に音にしている。「糸」の委嘱を通じて知り合った一ノ瀬響とは交流が続き、シアターピース《KIYOH》(2010)を共作した。《心の澄むものは》は同日に初演されたネオポップ調の小品であり、三味線の伝統奏法では用いないハーモニクスが良いアクセントになっている。彼女は1990年代半ばから即興音楽に積極的に取り組み、大友良英のバンドGround-Zeroに加入して国際的に認知された。内橋和久とは同バンドの同僚として出会い、内橋が主宰した即興音楽祭Festival Beyond Innocenceの常連だった。内橋との即興が本公演の白眉であり、お互いの音楽性へのリスペクトにあふれた高密度かつ親密な25分の対話が受賞の原動力になった。活動の回顧にとどまらない新しい試みとして、彼女は本公演に向けて三味線曲の創作を続けている作曲家をリサーチし、藤倉大に《Jiai(慈愛/地合)》を委嘱した。田中がオンライン意見交換で伝統曲の暗さを強調した結果、藤倉には珍しい“真っ暗な”曲になった。また、不定形の即興音楽とは対照的な「形のある即興」としてジャズにも取り組んだ。三味線以前に親しんでいたピアノ/邦楽器奏者と日常的に共演/ジャズの形式にこだわらないフリーな音楽性、と条件を挙げてゆくと共演者はスガダイローに絞られ、彼が率いるトリオとセロニアス・モンクの曲をカヴァーすることになった。初顔合わせなので課題も残ったが、内橋との即興では封印していた義太夫の古典を自在に引用するプレイを持ち込み、別角度の評価が上積みされた。なお最後の自作曲《I was here》では伝統奏法に囚われずに楽器固有の音響を引き出し、この音響への愛ゆえに大学からこの楽器に転じた来歴も含めた語り芸として公演を締め括った。
今回の選考では応募公演が短い期間に集中したため視察者も推薦票も割れ、議論の過程で推薦を取り下げた委員が映像資料を参照して未視察の公演に支持を集約してゆく、異例の展開になった。その中で、多様な方向性を高水準で並べた田中の支持が増えてゆき、受賞に至った。彼女のキャラクターに由来する和やかな雰囲気も、長時間の選考過程ではプラスに働いたかもしれない。同様に支持を集めた山本昌史のソロ公演とどちらを選ぶかが最後に議論になったが、現代音楽/現代邦楽を含む伝統的な活動から出発し、しだいに即興音楽に活動の幅を広げていった田中と、ジャズロックのエレキベース奏者として出発し、メインバンドのNATSUMENでは海外公演やフジロックフェスティバルにも出演していた山本が、活動の幅を広げるためにウッドベースに取り組むうちに、現代コントラバス作品に重心を置くようになった歩みは相補的であり、むしろ両公演に積極的に同時贈賞することが、本賞の評価軸の幅広さを示すことにもなるという提案に全委員が賛同した。
(野々村禎彦委員)
以上
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