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公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事・堤 剛、鳥井信吾)は、わが国の洋楽の発展にもっとも顕著な業績をあげた個人または団体に贈る「サントリー音楽賞」の第53回(2021年度)受賞者を濱田芳通(はまだ よしみち)氏に決定しました。
●選考経過
2022年1月10日(月・祝)当財団会議室において第一次選考を行い、候補者を選定した。引き続き2月25日(金)オンラインにて最終選考会を開催。慎重な審議の結果、第53回(2021年度)サントリー音楽賞受賞者に濱田芳通氏が選定され、3月31日(木)の理事会において正式に決定された。
●賞金 700万円
●選考委員は下記の7氏
岡田暁生、片山杜秀、白石美雪、長木誠司、沼野雄司、舩木篤也、松平あかね(敬称略・50音順)
<贈賞理由>
中世からバロック初期までのヨーロッパ音楽は、絶えず外部世界との関係をさまざまな移動の中で保ちながら聖と俗、社会の上下、国や地域といった狭間で変容しつづけていた。濱田芳通が創る音楽は、そうした時代の姿を映し出す。天正少年使節がもたらした音楽に日本の現在の音楽の源流を探り、ペルーに赴任した司教による採譜から南米音楽のルーツを探ることで、音楽のダイナミックな変成と流転の姿をとらえようとする。ヨーロッパ音楽へのグローバルな視点は、豊かな知識に裏付けられながらも、そこから実演へと飛翔する際には最大限の想像力が駆使され、また影響関係のあらゆるネットワークを知悉しながらの思い切った即興性や、一見異分子的な要素の突き合わせが行われる。それによって当時の音楽が思いもよらぬ生々しさと共にせまってくる。
卓越したリコーダー奏者、コルネット奏者でもある濱田は、同様の生々しさを自身の演奏によるヤコブ・ファン・エイクの《笛の楽園》における、愉悦に満ちながらも超絶的な技術の披瀝によっても、より直接的な感覚に訴えて追求しているが、近年のバロック・オペラ上演では、楽譜から得られるあらゆる情報や、楽譜を超えた情報を取り込み、その生まれた時代の想像される環境に作品をふたたび置くことによって、そこに新たな生命力を吹き込み、新鮮な感動を与え続けている。その大胆な演奏形態は世界的な視野で見ても画期的である。2021年に採り上げた《メサイア》では、楽譜資料への深い洞察を踏まえながら、最小限の精鋭アンサンブルと合唱を用いて響きの上でも特筆すべき斬新さを打ち出し、機動性と柔軟性の両面に秀で、即興性、意外性に富んだ驚くべき演奏を披露した。作曲当時の上演習慣に則り、あくまでも作品の核心を突きながらも現代的な感覚での自在を見せ、これまで耳にしたことのない、現代に奔放に息づくバロック世界を創り上げた。それは本賞にふさわしい成果をあげたと評価できる。
(長木誠司委員)
<略歴>
濱田 芳通(はまだ よしみち) 指揮・リコーダー・コルネット
我が国初の私立音楽大学、東洋音楽大学(現東京音楽大学)の創立者を曾祖父に持ち、音楽一家の四代目として東京に生まれる。桐朋学園大学古楽器科卒業後、スイス政府給費留学生としてバーゼル・スコラ・カントールムに留学。リコーダーとコルネットのヴィルトゥオーゾとして国内外にて数多くの演奏活動、録音を行い、海外でリリースされたCDは全てディアパソン5つ星を獲得、高い評価を受けている。2013年バロック・オペラ上演プロジェクト〈オペラ・フレスカ〉を立ち上げ、指揮者としてモンテヴェルディの3大オペラ《オルフェオ》《ウリッセの帰還》《ポッペアの戴冠》、カッチーニ作曲《エウリディーチェ》(本邦初演)、ヘンデル作曲《ジュリオ・チェーザレ》、レオナルド・ダ・ヴィンチが関わったとされる劇作品《オルフェオ物語》(本邦初演)等、オペラ創成期からバロックに至る初期のオペラ作品を取り上げている。一方、戦国時代にヨーロッパから日本へ伝わった南蛮音楽の研究もライフワークとしており「天正遣欧少年使節の音楽」「エソポのハブラス」「フランシスコ・ザビエルと大友宗麟」等のテーマによりCDリリース、芝居付き演奏会を行っている。
著書「歌の心を究むべし」(アルテスパブリッシング)
古楽アンサンブル≪アントネッロ≫主宰
-受賞歴-
2005年 第7回 ホテルオークラ音楽賞
2015年 第28回 ミュージック・ペンクラブ・ジャパン音楽賞(室内楽・合唱部門)
2015年 第14回 佐川吉男音楽賞
2019年 第6回 JASRAC音楽文化賞
2020年 第50回 ENEOS音楽賞 洋楽部門 奨励賞
2020年 第17回 三菱UFJ信託音楽賞 奨励賞
以上