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公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事・堤 剛、鳥井信吾)は、わが国で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈る「佐治敬三賞」の第18回(2018年度)受賞公演を「第三回 伊左治直(いさじ すなお)個展~南蛮劇場」に決定しました。
●選考経過
応募のあった2018年実施公演について2019年2月22日(金)ANAインターコンチネンタルホテル東京において選考会を開催、慎重な審議の結果、第18回(2018年度)佐治敬三賞に「第三回 伊左治直 個展~南蛮劇場」が選定され、3月11日(月)の理事会において正式に決定された。
●賞金 200万円
●選考委員は下記の7氏
伊藤制子、岡田暁生、片山杜秀、白石美雪、長木誠司、舩木篤也、水野みか子(敬称略・50音順)
<贈賞理由>
摩訶不思議な個展であった。粒ぞろいの曲目と演奏者はもちろんのこと、会場の選定から、チラシのデザイン、プログラム冊子の装丁に至るまで、作曲家の趣味と嗜好が貫徹していた。その趣味と嗜好とは、時代性と空間性の両面での越境である。異種混淆の芸当である。それは当然、祝祭的な、あるいは神事的な表現をとる。人間の本能は安全を求めており、安全とは、いつも通りの日常が続いていることによって、保障される。いつもはいないものが入り込んで混ざってくるのは、差しさわりであり危険なのだ。たとえば現代音楽の演奏会なのにボサノバをやるのは危険だ。そうした差しさわりを正当化しうるのは祭りであり、儀式である。お客さんが来る。マレビトが来る。神様が来る。いつも通りの安全運転ではさばけない。安全はこじ開けられる。そうなったら、非日常の何者かをおもてなしするしかない。宴である。それは越境という行為を否が応にも人々に認めさせる、最高の手段なのである。
伊左治直氏の個展は、越境と混淆の宴を、またとないシチュエーションで、完璧なまでに実現した。何しろ会場が、東京は本郷の求道会館である。大正期の建築である、その会堂は、仏教とキリスト教、東洋と西洋の混淆様式を極めて特異に具現している。この歴史的空間の選択によって、伊左治氏は既に勝利していた。
しかも氏の宴は、西洋クラシック音楽と日本伝統音楽の邂逅といったような、「使い古され、類型化した、想定内の危険」ではない。ブラジル音楽があり、中世・ルネサンス音楽があり、雅楽があり、日本の民俗芸能があり……。世界広しと言えども、伊左治直という唯一の個性ならではの、想定外の危険に満ちた越境の仕方が演出されていた。そこには、伊左治を伊左治たらしめる、ブラジルに表徴される「南へのベクトル」が遍在しており、そんな熱帯趣味的異種混淆格闘技戦が、誰しもが宴にのみ込まれ、トリップできるほどの、マラソン・コンサート的な時間規模において実現され、圧倒的体験をもたらした。出演者はピアノの高橋悠治氏、作曲者自身をはじめ、19人に及んだが、そのうち誰が良かった云々ということでなく、全員が紛れもなく、たとえばムーミン谷であるとかに匹敵するような「伊左治世界」の完璧な住民として立ち現れていた。このあまりに見事な越境の祭儀に佐治敬三賞を贈呈する。
<公演概要>
名称:第三回 伊左治直 個展 ~南蛮劇場
日時:2018年12月2日(日)16:00開演
会場:求道会館(東京都文京区)
曲目:
「酔っ払いと綱渡り芸人」「熱帯伯爵」「アサギマダラと神の少女」
「オウムのくちばし」「八角塔の横笛夫人」
「弦楽四重奏曲『縄』(新作初演)」「空飛ぶ大納言」
「ビリバとバンレイシ」「舞える笛吹き娘」「炎の蔦」「人生のモットー」
出演:
伊左治直(打楽器)、太田真紀(ソプラノ)、岡野勇仁(ピアノ)、織田なおみ(フルート)、加藤美菜子(ヴィオラ)、亀井庸州(ヴァイオリン)、北島愛季(チェロ)、迫田圭(ヴァイオリン)、高橋悠治(ピアノ)、田島和枝(笙)、中村華子(笙)、中村仁美(篳篥)、藤元高輝(ギター)、松村多嘉代(ハープ)、三浦礼美(笙)
主催:伊左治直
以上