選考委員 夏井いつき氏(俳人)による選評
「蘭越(らんこし)パームホール」は、「町の人に質の高い音楽を」との思いで建設した音楽ホールを拠点とする活動。生の音を楽しめる80席余りを、安価なチケット代で提供。代表を務める金子一憲(かねこ かずのり)氏の志への共感と、響きの良いホールで演奏をしたいという思いが、少額ギャラでの出演という類い稀な仕組みを構築。地域の人たちも加わっての蘭越流のおもてなしも、心あたたまる交流を作り出す。現状では金子氏の私財による部分が大きいが、今回の受賞がこの素晴らしい活動を次代へ繋ぐきっかけとならんことを、切に祈りたい。
「たかさき絵本フェスティバル」は、絵本好きの市民の熱意によって継続されてきた質の高い原画展。母親たちの「絵本の勉強会」が、「時をつむぐ会」結成へと発展。展覧会の企画、絵本選定、展示方法、チケット販売等、素人の域を越えた活動として育ち、文化活動における難問の一つ、資金確保にも手堅い成果をあげている。代表の續木美和子(つづき みわこ)氏の理念は、若い世代にも浸透し、広報やデジタル強化等の面においても新しい人材が活躍していて実に頼もしい。30年にわたる活動は、今、理想的な実りを手にしている。
「えちごせきかわ大(たい)したもん蛇(じゃ)まつり」は、「せきかわふるさと塾」が母体となって、新しく創成したまつり。水害に纏わる大蛇伝説が村に伝わっている点に目をつけ、村人総出で藁の大蛇を作るというアイデアを捻りだした。村内54地区が分担したパーツを組み合わせ、長さ82.8メートルの大蛇を担いで練り歩くさまは痛快だ。人口減少に伴う担ぎ手不足も、「国際ボランティア学生協会」との連携によって新しい交流を生み出した。老若男女が集ってワイワイ楽しむ。そんな本賞の精神を、まさに体現したまつりである。
「勝山左義長ばやし保存会」は、300年以上の歴史を持つ奇祭「勝山左義長まつり」を支える活動。独特のおどけた仕草で披露されるお囃子が特徴であるこの左義長行事の維持には、太鼓は勿論、三味線や笛など囃し手の人材育成が必須だ。「子どもばやしコンクール」「おはやし講習会」に加え、「体験会」も実施。地区外の子どもも参加できる等、継承のためのアイデアを柔軟に取り入れる。古い革袋に新しい酒を入れる努力を惜しまない姿勢に拍手を贈ると共に、新しい酒を更にどう薫り立たせていくか、増々期待したい。
「全国『かまぼこ板の絵』展覧会」は、かまぼこ板をキャンバスとした作品展。当時、町立美術館であった「ギャラリーしろかわ」の職員・浅野幸江(あさの ゆきえ)氏の熱意と個性が推進力となって開催された第一回には、一万点以上の作品が集まり、山間の町に来館者が押し寄せた。この展覧会の存在が、地元に活気をもたらし続けている事実もまた、文化による地域貢献に他ならない。行政主体の文化活動を、職員個人の資質に依存せず継続していくことが今後の課題だが、今回の受賞が何らかの後押しとなることを願ってやまない。
北海道蘭越町(らんこしちょう) 蘭越パームホール |
◎受賞理由
手づくりの80席のホールに演奏家を招き音楽の楽しさを広めながら、地域に根差したもてなしで観客と演奏家、地元の人々が集う場所を提供している。ホールと音楽を中心とした心温まる交流の輪を広げている点が高く評価された。
◎活動概要
北海道蘭越町はニセコ連峰等の山岳に囲まれた雄大な自然を有する人口4,500人ほどの農業中心の町である。代表の金子一憲(かねこ かずのり)氏は「蘭越町の人に質の高い音楽を聴いてもらいたい」との思いを抱くなか、土地を譲渡されたり、自身もよく訪れていた私設「札幌パームホール」(現在は閉館)から備品を受け継いだりしたことを契機に、2003年に私財を投じ「蘭越パームホール」を開館。地元の大工・知人らの協力を得て、ほぼ自分たちの手で作り上げた。以来20年以上、演奏家をホールに招き、蘭越町を中心とした人々に質の高い音楽を届けている。
現在、冬季約半年を除き月に1~2回公演を開催。大変響きのよいホール設計や生音の臨場感が、観客だけでなく演奏家をも魅了している。たくさんの人に音楽を聴いてもらいたいという思いから入場料は少額を貫いてきた。さらに、定番のクラシックにとどまらず、ジャズやオペラといった様々な音楽、落語や人形劇といった芸能まで公演内容は幅広い。小樽や余市などの後志(しりべし)地方、中には道外から訪れる熱烈ファンもいて、公演時は町内外の子供から老人まで幅広い音楽好きが集まり、大いに盛り上がる。
公演後にホールに隣接する宿舎で催す「打ち上げ」も醍醐味の一つ。町内放送で公演の開催を聞きつけると地元農家が新鮮な食材をホールに持ち寄るなどの町民の協力もあり、地元の食材を囲んで演奏家と観客が交流する。さらに演奏家には、滞在中に農家の収穫体験などで町民と交流したり、町内の温泉や羊蹄山(ようていざん)を望む絶景を堪能してもらったりと、温かい蘭越流のもてなしの限りを尽くす。観客だけでなく、演奏家もホールのファンとなり、ホールや音楽を中心とした交流の輪が蘭越町に広がっている。
近年は、演奏家による公演だけでなく町民による活動もサポートする。10年ほど前、町のピアノ教室から「活動していたお寺が使えなくなり、活動場所を探している」との相談を受け、ホールを教室のために開放。今も子どもたちの学びや交流の場となっている。また、2022年には音楽を発表したいという町民の思いを汲み、音楽祭「音楽の集い」を企画。小学生から大人までアマチュアの演奏家が集まり、交流が生まれた。活動開始から20年以上経った今でもホールの活動は拡大を続けている。
「ホールがいままで以上に『町の交流の場』になってくれたら嬉しい」と金子氏は語る。これからも蘭越パームホールには音楽と人々が集う喜びの声が響き続けるだろう。
◎代表および連絡先
〈代表〉 |
◎北海道内のこれまでの受賞者(かっこ内は受賞年度)
函館市 函館市民映画館シネマアイリス(2022年)
鹿追町 しかりべつ湖コタン(2021年)
函館市 函館西部地区バル街(2019年)
上川地域 「君の椅子」プロジェクト(2015年)
釧路市 北海道くしろ蝦夷太鼓(2010年)
壮瞥町 昭和新山国際雪合戦(2007年)
札幌市 加藤 博氏(個人)(1999年)
札幌市 YOSAKOIソーラン祭り(1998年)
函館市 市民創作「函館野外劇」の会(1993年)
士別市 士別サフォーク研究会(1991年)
札幌市 札幌こどもミュージカル(1990年)
東川町 東川氷土会(1989年)
置戸町 おけと人間ばん馬(1987年)
函館市 南茅部沿岸漁業大学(1985年)
旭川市 木内 綾氏(個人)(1983年)
江差町 江差追分会(1982年)
函館市 カール・ワイデレ・レイモン氏(個人)(1979年)
群馬県高崎市 たかさき絵本フェスティバル |
◎受賞理由
長年にわたり創意工夫を凝らした絵本原画展を毎年開催し、絵本の魅力を発信。絵本と子どもたちへの愛にあふれるイベントを通し、地域の文化向上に貢献している点が高く評価された。
◎活動概要
群馬県高崎市で毎年冬に行われる「たかさき絵本フェスティバル」。約2週間の会期中、会場の高崎シティギャラリーの展示室には色とりどりの絵本原画が並び、絵本を楽しむ人々の笑顔があふれる。
始まりは1994年。高崎市で絵本書店を営む續木美和子(つづき みわこ)氏は、アメリカの貴重な絵本原画の展覧会が、全国の主要都市を巡回することを知った。「東京ではなく、地元高崎で家族や友人と芸術鑑賞をしたい」という想いから、当時書店で開いていた絵本の勉強会に集まった仲間たちを中心に、「時をつむぐ会」を結成。出版社のつてをたどり、高崎への絵本原画展の誘致を決心した。
誘致にかかる費用の350万円に対し、県からの補助金は20万円。残りはメンバーを中心とする多くの仲間たちで、必死に売り歩いたチケット収入でまかなった。結果として第1回原画展(1995年)は約1万人が来場し大成功。会場となった高崎シティギャラリーには、連日人が押しかけた。第2回(1996年)以降は企画から運営まで全てを自分たちで行い、以後毎年1~2月に約2週間の会期で開催し、2024年には第30回を迎えた。
展覧会では、毎年5~6作品、100~150点の原画を額装して飾る。「絵本を読むように原画を楽しんでほしい」という想いから、表紙と裏表紙を含む全ての原画を展示することが、この展覧会のこだわりだ。子どもの目線に合わせて低い位置に飾られた原画には、絵本の文章も添えられている。
展覧会の準備は一年がかりの大仕事。展示する絵本の選定から始まり、絵本や作家についての勉強会を重ねながら、時には出版社にも訪問して原画の貸し出し交渉や展示内容の検討を進める。展示室の照明や什器の設置も、プロの手を借りながら自分たちで行い、チラシや展示パネルもデザインが得意なメンバーが作成している。展覧会が開幕するとメンバーらが展示室に常駐し、来場者に作品や作家について解説しながら、会話を楽しむという。また、会期中には作家や出版関係者によるトークイベントも開催し、会場では絵本の販売も行う。
そしてこのイベントは展示室だけにとどまらず、地域の中にも広がる。会期中には市内の花屋や飲食店、美容室や映画館に協力を依頼し、メンバーたちが選んだ絵本を詰め込んだ「まちなか絵本ぼっくす」を設置。その場で絵本を読むことができるほか、展覧会チケットの購入もできる仕組みだ。また、公立図書館がその年の原画展の内容に合わせた特設コーナーを設けることもあるという。
「絵本が好き」というメンバーたちの熱意がつくり上げる「たかさき絵本フェスティバル」は、子どもたち、作家、編集者、絵本を愛する全ての人々をつなぐ存在として、これからも続いていくだろう。
◎代表および連絡先
〈代表〉 |
◎群馬県内のこれまでの受賞者(かっこ内は受賞年度)
高崎市 群馬交響楽団(2021年)
渋川市 上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会(2019年)
群馬県全域 富岡製糸場世界遺産伝道師協会(2015年)
大泉町 細谷 清吉氏(個人)(1986年)
新潟県関川村 えちごせきかわ大(たい)したもん蛇(じゃ)まつり |
◎受賞理由
村内の全集落が協力して制作する82.8メートルの大蛇みこしがパレードするユニークなまつりを開催。過去の水害の教訓を継承しつつ村民の一体感を高め、村外との交流も生まれていることが高く評価された。
◎活動概要
関川村は新潟県の北東に位置し山形県と隣接する。清流・荒川に沿った米沢街道に温泉郷が点在し、中心部に国指定重要文化財「渡邉邸」をはじめ18世紀のまち並みが残る人口約5,000人の村である。この村で毎年8月、竹とワラでできた大蛇がパレードする「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」が行われている。
過疎化が進み人のつながりが薄れていくことが危惧されていた関川村では、若者を対象に人材育成を行う「せきかわふるさと塾」を1987年に開塾した。村の魅力を発見し、村に生きる喜びと自信を持ってもらうことも塾の目的の一つだった。当時の村には、地域ごとのまつりはあったものの、全住民が参加できるものがなかった。そこで塾生が中心になって新しいイベントとして考案し、翌1988年に開催したのが、「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」だ。
関川村には「大里峠(おおりとうげ)」という、川をせき止め村を湖にしようとする大蛇の伝説があり、これまでに何度も水害に見舞われている。なかでも1967年8月28日に発生した羽越(うえつ)大水害では多くの犠牲者を出した。「大したもん蛇まつり」では、大水害の記憶を継承するため、大蛇の長さを災害発生の日にちなんで82.8メートルとした。巨大なヘビの胴体を54のパーツに分け、村内54の集落が分担して竹とワラで作る。それを組み合わせた巨大な大蛇みこしが、8月28日に村中を練り歩いた。
その後も毎年8月にまつりを継続して開催し、現在の大蛇は9代目となる。ヘビを新装するたびに、村の特産品である米の稲わらを使って全集落が協力して制作する。2001年には「竹とワラで作られた世界一長い蛇」としてギネス世界記録にも認定され、今では新潟を代表するまつりの一つとなっている。かつての「ふるさと塾」のメンバーは、現在村や地域の中枢を担う人材に育ち、新しい世代がまつりを支えている。
約2トンの大蛇みこしを担ぐには500人の人手が必要となる。人口の減少にともない担ぎ手の不足を危惧した村出身の学生が、国際ボランティア学生協会(IVUSA)に呼びかけたことがきっかけとなり、毎年約100人の学生が大蛇パレードのために村を訪れる。さらに、関川村で行われるさまざまなイベントにもスタッフとして参加するなど、都会の学生との交流が生まれている。
2020年からのコロナ禍と2022年の新潟県北部豪雨のため、まつりは3年間休止したが、2023年には豪雨被害からの復興の願いも込めて復活した。
日本各地で災害が頻発する中、防災におけるコミュニティの役割は大きくなっている。自然の猛威を伝え、人のつながりを生む「大したもん蛇まつり」は、小さな村の大きな財産といえる。
◎代表および連絡先
〈代表〉 |
◎新潟県内のこれまでの受賞者(かっこ内は受賞年度)
新発田市 人形浄瑠璃「猿八座」(2020年)
阿賀町 津川 狐の嫁入り行列実行委員会(1995年)
小千谷市 片貝 花火まつり(1984年)
佐渡市 佐渡版画村運動(1982年)
福井県勝山市 勝山左義長ばやし保存会 |
◎受賞理由
「おはやし講習会」などを通じてお囃子の担い手を地域の女性や子どもたちにも広げた。地区外の小中高生に向けた「体験会」を新たに始めるなど、次世代継承の牽引役となる意欲的な活動が高く評価された。
◎活動概要
福井県東北部に位置する勝山市は江戸時代に城下町が整備され、明治以降は繊維産業を中心に発展した。2月最終の土日、この町で300年以上の歴史を誇る勝山左義長まつりが開催される。
まつりの二日間、旧城下町にあたる中心市街地の通りには色とりどりの短冊がなびき、住民が趣向を凝らして制作した干支などにちなんだ作り物や絵行燈が飾られ、町は一気に活気づく。その中でひときわ注目を集めるのが、二階建て高さ約6mの櫓で披露される勝山左義長ばやしだ。12地区に設置された櫓には赤い長襦袢姿の老若男女があがり、三味線と唄、鉦(かね)、笛、太鼓によるお囃子を地区ごとに披露する。中でも特徴的なのは三人による太鼓だ。一人は基本の拍子を刻み、一人は太鼓に腰掛けて音を抑える。もう一人は「浮き方(かた)」と言われ、おどけた仕草で踊るように打つ。浮き方は一曲の中で次々と交代して表情豊かな所作を繰り広げ、観客を魅了する。
昭和初期、お囃子は当時勝山に多くいた芸妓が各地区から依頼され、町内で太鼓や笛に覚えのある男衆と共に奏でていた。1950年設立の保存会も、当初は一部のまつり関係者と芸妓たちのための団体だった。しかし芸妓の減少により、保存会の存続はもとよりお囃子の担い手不足が懸念されるようになった。
1970年、大阪万博が転機となった。保存会のとりまとめで各地区の住民や芸妓たちが一丸となってお囃子を披露し、大好評を博した。地元でもお囃子を盛り上げたいという声が高まり、同年まつりで各地区の子どもたちが技を競う「子どもばやしコンクール」が保存会の運営で開始された。1983年からは「おはやし講習会」を開始。初心者が一から学べるため、子どもの親を中心に興味を持った一般女性が三味線や笛を習って活躍できるようになり、活性化の原動力となった。
現在の保存会は、約半数が高校生以下。地区を超えて約40人のお囃子好きのメンバーが集まり、週一回の練習と地元小学校での指導、出張出演などを行っている。出演依頼は県内外からあり、年間20回を超えることもある。まつりや出演時の若い世代の活躍は目覚ましく、子どもたちの憧れにもなっている。
近年まつりの行われる中心市街地は少子高齢化や人口減少で、お囃子の担い手確保が難しい地区も出てきた。そこで保存会では2023年から中心市街地から離れた地域の小中高生向けに、お囃子の楽しさを伝える「体験会」を開催。各地区の住民の理解を深めながら、地区を超えて広く子どもたちにまつりへの参加を呼びかけたいと考えている。今後も保存会は各地区のお囃子継承のサポーターとして、また次世代継承の牽引役として、ますますの活躍が期待されている。
◎代表および連絡先
〈代表〉 |
◎福井県内のこれまでの受賞者(かっこ内は受賞年度)
小浜市 若狭小浜ちりとて落語の会(2023年)
坂井市 日本一短い手紙「一筆啓上賞」活動(1999年)
越前市 今立現代美術紙展実行委員会(1991年)
福井市 朝倉氏遺跡保存協会(1985年)
愛媛県西予(せいよ)市 全国「かまぼこ板の絵」展覧会 |
◎受賞理由
「かまぼこ板」を使った作品募集と展覧会を毎年開催。山の中の小さな美術館が始めたユニークな取り組みが全国の人々を魅了し、地域の活性化にも貢献した点が高く評価された。
◎活動概要
愛媛県西予市城川町は、愛媛県南西部に位置する人口約2,700人の中山間地域である。森や棚田に囲まれたこの地区にある小さな美術館「ギャラリーしろかわ」では、毎年かまぼこ板を使ったユニークなイベント「全国『かまぼこ板の絵』展覧会」が開催されている。
「ギャラリーしろかわ」は、1993年に城川町立美術館(現・西予市立美術館)として開館。町職員だった浅野幸江(あさの ゆきえ)氏は、オープンと共に美術館に着任した。1年目は多くの入館者が訪れたものの、翌年には閑古鳥が鳴く状況に。美術館運営のノウハウもない中、何か人を呼ぶ工夫をしなければと考えていたところ、講演会で美術館に訪れた洋画家の折笠勝之(おりかさ かつゆき)氏より、「絵は誰でも、どこでも、何にでも描ける」と、かまぼこ板に描かれた絵を贈られた。この贈り物がヒントとなり、かまぼこ板に描いた絵の募集と美術館での展覧会を企画した。
予算もなく、何もかもが手探りの挑戦だったが、全国紙に募集告知が掲載されたことが追い風となり、1995年の初回から10,891点の作品が全国より寄せられた。応募された作品を展示する展覧会には約2万人が訪れ、山の中の小さな美術館に「人が湧いてでるようだった」と浅野氏は振り返る。それから毎年作品を募集し、展覧会を続けてきた。
応募する作品は、かまぼこ板に描いたものであれば、絵のテーマは自由。かまぼこ板は100枚まで使用可能で、小さな板一枚に緻密な絵を描く人もいれば、かまぼこ板を何枚も組み合わせ、大きなキャンバスにする人もいる。これまでに0歳の子どもから108歳の高齢者まで幅広い人々から応募があり、誰でも参加できる身近さがある一方、プロの画家も本気で制作するような魅力もあるという。審査員による4日間の審査では、体育館にずらりと応募作品が並べられ、大賞、優秀賞をはじめとする受賞作が選ばれる。
捨てられる運命のかまぼこ板に新しい命を吹き込むこのイベントに魅入られたのは、西予市内、愛媛県内在住者だけではない。これまでに日本全国にとどまらず、世界の30か国以上からも応募があった。
展覧会では、「小さなかまぼこ板に描かれた絵には、応募者の想いや人生が詰まっている。単なるコンテストではなく、応募者一人ひとりを主役にしたい」と、受賞作だけでなく、全ての作品を展示することにこだわっている。近隣の人だけでなく、自分の作品が飾られている様子を見ようと多くの応募者も訪れることで、地元に活気が生まれた。中には、遠方から毎年必ずこの展覧会を見に訪れる「常連」もいるという。人と人との交流を積み重ね、いまや西予市の代名詞とも言える存在となったこのイベントが、これからも発展し続けることを期待したい。
◎代表および連絡先
〈代表〉 |
◎愛媛県内のこれまでの受賞者(かっこ内は受賞年度)
松山市 へんろみち保存協力会(2018年)
松山市 俳句甲子園実行委員会(2012年)
新居浜市 日本のお手玉の会(2003年)
東温市 高畠華宵大正ロマン館(2000年)
内子町 内子 歴史と文化の里づくり(1992年)
以上