1. サントリーTOP
  2. 企業情報
  3. ニュースリリース
  4. 第44回 サントリー地域文化賞 選評・受賞者活動概要
ニュースリリース
  • (2022/8/30)

第44回 サントリー地域文化賞 選評・受賞者活動概要

選評

 地方のミニシアターの閉館が相次ぐ中、「函館市民映画館シネマアイリス」は市民とともに映画の企画・製作を行うことで独自の道を切り拓いてきた。原作はすべて函館出身である佐藤泰志の小説で、これまでに5本を製作、国内外で高く評価されている。絶版になっていた佐藤の小説は相次いで復刊され、評伝も刊行された。忘れられた作家が映画によって蘇った稀有な例で、地方文化の底力を見る思いがする。
 里山づくりをテーマとする「はるなか」の活動のうち、選考委員会で注目を集めたのが漆文化の再興である。漆の植栽のため、まずは開墾と土壌改良から取り組むその姿勢は「会津の漆器を会津産の漆で作る」という並々ならぬ思いを感じさせる。植栽や下刈りなど、青空の下で汗をかきながらのボランティア作業や、若手作家によるぐい呑み作りなど、遊びや楽しみの要素があることも重要なポイントだ。
 「生態工房」は、近年注目を集める「かいぼり」を支援する活動を長年にわたり行っている。かいぼりの目的は、単に池の水を入れ替えて外来種を駆除することではなく、周辺も含めた生物多様性の回復と環境の保全である。自然との共生というテーマを、楽しみながら共に実践することで人々に広めてきた功績は大きい。全国各地で知識や技術の普及活動を行っており、ひとつの地域に根差した活動ではないが、広い意味での地域文化への貢献であると評価された。
 高岡市金屋町に伝わる民謡・弥栄節(やがえぶし)は、この地の伝統産業である鋳物作りの工程のひとつ「たたら踏み」の作業唄が元になっている。この弥栄節を受け継ぐ活動をしているのが「弥栄節保存会」で、行政のサポートをほぼ受けず、住民自身が担い手となっている。毎月2回の囃子の練習、小中学校での指導、保育士や教諭らを対象とする講習会、指導資料の作成・無料配布など、そのきめの細かさが住民の意識の高さにつながっている。踊りやすくアレンジする、子どもたちの要望を取り入れるなど、時代に合わせた工夫を重ねている点も他地域の参考になるだろう。
 「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」は地域社会とアートをつなぐ存在として、さまざまな新しい試みを行っている。とくに子どもの美術教育に力を入れており、美術や美術館を身近に感じてもらうための取り組みを継続して行っていることが評価された。高校生までの入館は無料で、子どもを対象とする無料のワークショップをほぼ毎月実施している。参加型の企画は学芸員の尽力なくしては成立せず、苦労も多いはずだが、こうした活動は未来への投資にほかならない。
 コロナ禍が長引き文化活動も停滞を余儀なくされる中、本年度の受賞者の活動は、どれも地道な継続の中にきらりと光る清新さ、そして楽しさがある。苦難の時代を生きるヒントは地方にこそあると思わせてくれた。

梯 久美子(ノンフィクション作家)評

  

北海道函館市  函館市民映画館シネマアイリス

◎受賞理由
市民に親しまれる映画館を運営すると共に、地元出身の作家・佐藤泰志の小説をオール函館ロケにこだわり映画化。地元に根差した映画作品を市民と協働して製作している点が高く評価された。

◎活動概要
北海道函館市・五稜郭地区にある66席の小さな映画館「函館市民映画館シネマアイリス」は、映画上映を行う傍ら、地元に根差した映画製作を行っている。
1983年、函館で喫茶店を営んでいた菅原和博氏は、映画好きの知人と自主上映グループを結成。映画館や劇場、ライブハウスを利用し、地元では見ることが難しい映画を上映する活動を続けていた。しかし、1990年代前半に函館市内の映画館が次々と閉館。1993年、自主上映会場の一つであった老舗劇場・巴座が閉館したことをきっかけに、菅原氏らは映画館の立ち上げを目指すようになる。「一緒に映画館をつくりませんか」と呼びかけると、市民から約700万円の寄附が集まり、1996年に「函館市民映画館シネマアイリス」が開館した。
代表となった菅原氏は、映画は好きだが映画館の運営に関しては素人。手探りの運営を支えてくれたのは、映画好きの市民ボランティアだった。受付や事務仕事を担うボランティアスタッフは、今もシネマアイリスに欠かせない存在だ。
2008年、菅原氏はボランティアスタッフから一冊の本を薦められる。函館出身の作家、佐藤泰志(1949-1990)の作品集だった。当時、佐藤作品の単行本は全て絶版となっており、地元でも知る人の少ない「忘れられた作家」であった。短編の連作『海炭市叙景』には、函館をモデルとした架空の町「海炭市」を舞台に、衰退する地方都市やそこで生きる人々の苦しみが描かれていた。菅原氏は現実の函館に通じるものを感じ、「人生で一本だけ映画をつくるなら、この作品しかない」という想いを抱いたという。
映画化の道を模索する中、佐藤の同期生やファンと出会ったことが大きな力となった。彼らと共に実行委員会を立ち上げ、「市民発信の映画をつくろう」と活動するうちに協力してくれる市民の輪が広がった。そして、企画に賛同した熊切和嘉監督がメガホンを取り、2010年に映画『海炭市叙景』が公開。美しい街並みや夜景といった世間一般のイメージとは異なる、市民が暮らす町としての函館と、そこで生きる人々の姿を描いた同作は国内外で高い評価を得た。また、映画化をきっかけに佐藤作品が次々と復刊されるなど、同氏の再評価にも繋がった。
その後も、佐藤作品を原作としてオール函館ロケにこだわり、『海炭市叙景』を含めて5作品を映画化。いずれの作品も市民がキャストやエキストラとして出演する他、撮影時の炊き出し、ロケハンの情報提供や製作費の寄附など、市民に支えられた映画づくりを続けてきた。
「町の現実を映しながら、その地で生きていく意味を描くことが、町を愛することに繋がる」と話す菅原氏。シネマアイリスはこれからも函館の町と、そこに住む人々と共に歩み続けるだろう。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
菅原 和博(すがわら かずひろ)氏(函館市民映画館シネマアイリス代表、66歳)
〈連絡先〉
電話:0138-31-6761(函館市民映画館シネマアイリス事務所)

◎北海道内のこれまでの受賞者
鹿追町  しかりべつ湖コタン(2021年)
函館市  函館西部地区バル街(2019年)
上川地域 「君の椅子」プロジェクト(2015年)
釧路市  北海道くしろ蝦夷太鼓(2010年)
壮瞥町  昭和新山国際雪合戦(2007年)
札幌市  加藤 博氏(個人)(1999年)
札幌市  YOSAKOIソーラン祭り(1998年)
函館市  市民創作「函館野外劇」の会(1993年)
士別市  士別サフォーク研究会(1991年)
札幌市  札幌こどもミュージカル(1990年)
東川町  東川氷土会(1989年)
置戸町  おけと人間ばん馬(1987年)
函館市  南茅部沿岸漁業大学(1985年)
旭川市  木内 綾氏(個人)(1983年)
江差町  江差追分会(1982年)
函館市  カール・ワイデレ・レイモン氏(個人)(1979年)

 

福島県会津若松市  はるなか

◎受賞理由
会津藩家老・田中玄宰(はるなか)の名を掲げて、地域住民が力を合わせる里山づくり。「桜の名所、漆の里“会津”」実現に向けて桜や漆の植栽に取り組み、地域の伝統工芸である会津塗を盛り立てている点が高く評価された。

◎活動概要
福島県の西部に位置する会津地方は、越後山脈と奥羽山脈に挟まれた内陸の地域である。太平洋側気候と日本海側気候、様々な動植物の北限と南限とが交わり、多雪で湿度も高いことから、古くから自然の豊かな土地であった。ここ会津を桜の名所、漆の里にしようと里山づくりに取り組んでいるのが、特定非営利活動法人はるなかである。
活動のきっかけは、高校時代に生物部で自然保護を学んだ佐藤光信氏の「会津の自然を守りたい」という思い。氏の熱意に打たれた仲間たちが集い、2004年12月にはるなかを立ち上げた。掲げた名は、会津藩で大老をつとめ、天明の大飢饉を乗り越えて地場産業や特産品の基礎を作った田中玄宰(1748-1808)に由来する。
はるなかは、桜、漆、木綿・藍、自然環境、地域活性化の5部会から成り、桜や漆の植樹・維持管理、綿の普及事業、地域住民向け講演会、田中玄宰の墓前整備といった幅広い活動を行っている。会員やボランティアなど、年間のべ400名を超える地域住民が参加していることも特徴である。桜部会では、立ち上げから17年間で40種750本を植樹、早咲きから遅咲きの八重桜系統まで多くの品種を植樹し、長期間楽しめることを目標に活動を進めている。
近年、新たな展開を見せているのが漆部会の活動である。かつて会津では百万本を超える漆が育てられていたが、昭和の終わりには漆液の生産がほとんどゼロになっていた。再び会津を漆の里にして、会津産の漆で会津の漆器を作りたいと願った会員たちは、開墾や土壌改良に努め、2006年に300本の漆を植樹。その後も新たな土地での植樹と月2回の下刈り作業を地道に続け、2021年に初めて漆60本から13キロの漆液を掻いた。植樹から15年越しに採取した念願の漆液は、20~30代の若手職人7名の手によりぐい呑み550個の製作に用いられ、長年の夢が実現。今後は当会の漆液を使った「はるなか」ブランド商品を頒布するシステムを作り、その製作を通してベテランから若手へ仕事やノウハウを継承できる場をつくる考えだ。
恵まれた気候を生かした里山づくりを進め、地域の伝統工芸・会津塗の再興にも励む彼らの姿からは、会津が実に豊かな地域性を持つことに気づかされる。また、鶴ヶ城の城下町として栄え、歴史を重んじる風土が根付くここ会津では、郷土の偉人に光をあてることもごく自然なことだったのだろう。
田中玄宰という先人の故郷への思いを継ぎ、地域に根差した活動を展開するはるなか。彼らが掲げる夢、「桜の名所、漆の里“会津”」はすぐそこにある。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
佐藤 光信(さとう みつのぶ)氏(認定NPO法人はるなか理事長、72歳)
〈連絡先〉
電話:090-9634-1774(認定NPO法人はるなか事務局)

◎福島県内のこれまでの受賞者
郡山市   民俗芸能を継承するふくしまの会(2021年)
川俣町   〈特別賞〉 コスキン・エン・ハポン(2011年)
会津若松市 童劇プーポ(1995年)
川俣町   コスキン・エン・ハポン(1993年)
檜枝岐村  檜枝岐 いこいと伝統の村づくり(1992年)
いわき市  いわき地域学會(1991年)
福島市   FMC混声合唱団(1979年)

 

東京都武蔵野市  生態工房

◎受賞理由
多くの地域で途絶えた「かいぼり」を、都市公園をはじめとする様々な場所の水辺再生の手段として復活。「かいぼり」の現代的意義と楽しさを伝える先導者としての役割が高く評価された。

◎活動概要
かつて日本の多くの農村で行われていた「かいぼり」。ため池の維持管理のため、地域住民が定期的に集まって、池の水を抜き池底の泥をさらって天日干しする共同作業であり、江戸時代の史料にも人々が楽し気に魚や生き物を捕まえる様子が描かれている。しかし、減反政策や農業従事者の減少によってため池の管理が行き届かなくなるなどした結果、この慣習は多くの地域で途絶えていった。それが1990年代になると、水質改善や外来種駆除に有効とされるようになり、これらの課題を抱える公園や自治体などが池や濠でかいぼりを行うようになった。
生態工房は、都立光が丘公園で自然保護区域の管理運営を行う任意団体として1998年に発足。活動を拡充する中で、生態系に悪影響を及ぼす外来種を駆除するかいぼりが生物多様性の回復にも効果が高いことを知り、都会の池での実践を目指すようになった。2010年、外来魚と水質悪化が問題視されていた都立井の頭恩賜公園の井の頭池で、東京都が2013年度のかいぼりの実施を決定。生態工房は、市民協働のコーディネートを委託された。
実施にあたっては、地域住民がやりがいを持ちながら楽しく参加することを目指した。活動の核として「井の頭かいぼり隊」というボランティアメンバーを募り、準備段階から実施後の池の保全まで継続的に活動する仕組みを作った。さらに池干し期間には池底探検ツアーの開催や、生き物を展示する解説所の設置、かいぼりの成果報告会の開催と、様々な人たちがかいぼりを知り、関わるための工夫を凝らした。都会の多くの住民にとって、かいぼりによって絶滅したと思われていた水草が復活したり、都内でも希少なトンボや水鳥の巣づくりを間近で見られるようになったことは新鮮な驚きで、かいぼりの意義と池の価値をあらためて知る機会となった。
この井の頭池での活動が、地域住民と共に行う生態工房流のかいぼりのモデルとなった。その後井の頭池では2015年度、2017年度にもかいぼりを実施した他、「井の頭かいぼり隊」によるモニタリングや来園者向けの自然ガイドツアーなどの活動を継続受託している。近年はかいぼりに対する関心の高まりから問合せも増え、関東地方の自治体や長野県の団体にも支援を行っており、水辺再生に取り組む住民の輪も着実に広がっている。
生態工房が行うかいぼりのキャッチフレーズは「よみがえれ!わたしたちの池」。かいぼりの復活は、地域の水辺が住民同士の繋がりを保ち、身近な自然を見つめ直すというかつての役割を取り戻すことにもつながっている。古くて新しい水辺の楽しみを伝える先導者として、生態工房の今後一層の活躍が期待される。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
片岡 友美(かたおか ともみ)氏(認定NPO法人生態工房理事長、49歳)
〈連絡先〉
電話:0422-27-5634(認定NPO法人生態工房事務局)

◎東京都内のこれまでの受賞者
武蔵野市 武蔵野中央公園 紙飛行機を飛ばす会連合会(2004年)
文京区  谷根千工房(1992年)
墨田区  下町タイムス社(1988年)

 

富山県高岡市  弥栄節(やがえぶし)保存会

◎受賞理由
高岡の発展を支えた鋳物づくりの作業唄をルーツとする民謡「弥栄節」を、時代の変化や子どもたちの要望に応じてアレンジを加えつつ住民自ら保存・継承する取り組みが高く評価された。

◎活動概要
高岡の町は今から400年ほど前、加賀前田家二代目当主の利長(としなが)によって開かれた。その際、利長が産業振興の拠点と位置付けて鋳物師を住まわせ厚い保護を与えたのが、金屋町(かなやまち)と呼ばれる一画である。「高岡鋳物」の産地として大いに栄え長年にわたって高岡の発展に貢献してきたこの地域には、軒先の千本格子が印象的な風情ある街並みが今も残り、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。
金屋町では毎年6月、利長の命日にその遺徳を偲ぶ祭り「御印祭(ごいんさい)」が催される。そこで披露されるのがこの町に伝わる民謡「弥栄節」で、前夜祭では町の目抜き通りを踊りながら練り歩く「町流し」が、本祭では利長の墓前で「奉納踊り」が行われる。町の住民にとってこの民謡は「囃子が聞こえてくると自然に体が動き出す」ほどなじみが深いという。
弥栄節は作業唄をルーツとする。高岡鋳物づくりの現場で夜通し行われた過酷な作業、「たたら踏み」のさなかに、疲れる心身を元気づけ仲間と息を合わせるために工員たちが唄った。大正末期、電化が進むなかで過酷な作業とともに一旦は姿を消したが、昭和に入り、地元産業を支えた唄の喪失を惜しむ有志の熱意で復活。その後、1975年に弥栄節保存会が設立された。現在は、金屋町の自治会員全員が保存会の会員となって、唄と踊りを通じた地域住民の交流促進や、次世代育成を中心とした保存・継承活動を展開している。
御印祭の町流しには、金屋町をはじめ市内全域から約1,000人の踊り子が参加するほか、県内各地から見物客も多数集まり、交流を楽しむ。コロナ禍で御印祭が中止となった2020年・2021年も「リモート町流し」を行い、オンラインでつながった地域住民が心を一つにして弥栄節を踊ったという。次世代育成の活動としては、小・中学生への指導や、保育士・教諭らを対象とした講習会、指導用映像資料の作成・寄贈などを行っている。地域の小・中学生が運動会や文化祭で踊りを披露する様子は、この地域の恒例となっている。さらに、「子どもたちにも唄いやすくしてほしい」「琴を使って演奏したい」といったリクエストに応えてアレンジを施すなど、この歴史ある民謡は今も様々に形を変えつつ大切に継承されている。
保存会会長の藤田益一氏は「『弥栄節』は、高岡の町の歴史・産業と密接にかかわっている民謡。この文化を守ることは、高岡の町を守ることと同じと考えている」と話す。高岡の繁栄を伝える唄として、弥栄節はこれからも末永く唄い継がれてゆくだろう。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
藤田 益一(ふじた ますかず)氏(弥栄節保存会会長、73歳)
〈連絡先〉
金森 仁志(かなもり ひとし)氏(弥栄節保存会事務局長)
電話:0766-22-4175

◎富山県内のこれまでの受賞者
立山町  布橋灌頂会実行委員会(2014年)
高岡市  伏木相撲愛好會(2012年)
高岡市  福岡町つくりもんまつり(2006年)
富山市  全日本チンドンコンクール(2005年)
富山市  富山県民謡越中八尾おわら保存会(2004年)
南砺市  スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド(2002年)
富山市  ふるさと開発研究所(1997年)
南砺市  南砺市いなみ国際木彫刻キャンプ実行委員会(1996年)
高岡市  越中野外音楽劇団(1994年)
富山市  劇団「文芸座」(1981年)

 

香川県丸亀市  丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

◎受賞理由
開館以来30年間、子どもたちのためのアート教育に注力し、美術を身近に感じてもらうための取り組みを継続的に実施。丸亀市民に親しまれる文化芸術活動の拠点として高く評価された。

◎活動概要
猪熊弦一郎(1902-1993)は、昭和を通して国内外で活躍した香川県出身の現代美術作家である。猪熊は幼少期を県中西部の丸亀市で過ごし、地元に対する強い思い入れをもっていたことから、同市からの美術館創設に関する協力依頼を快諾。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(略称「MIMOCA(ミモカ)」。以下、ミモカ)は、1991年、猪熊の大きなサポートを得てJR丸亀駅前に完成した。
猪熊は「美術館の活動を通じて美しいものがわかり、新しいものに共感できるような豊かな感受性と優しい気持ちを持った人に育ってほしい」という思いから、ミモカが子どもたちを大切にする美術館になるよう全面的に協力。建物正面に手掛けた壁画など落書きにも見える猪熊作品を見て、自分にも描けると思って美術に親しみをもった子どもたちが、繰り返しミモカに足を運ぶ姿を目指した。
猪熊の思いを受け継いだミモカは、「子どものためのアート教育」に力を入れており、開館以来30年間で50万人を超える子どもたちに様々な現代美術作品とふれあう機会を提供してきた。なかでも特徴的なのが、ほぼ毎月欠かさずに開催する子ども向けの無料ワークショップである。これほど長期にわたり継続している月例の無料ワークショップは、全国でも珍しいという。またミモカは「文化芸術が常に傍にある環境作り」にも注力してきた。日常生活の中で子どもたちが気軽に現代美術とふれあえるよう、入場無料の対象を高校生までとしたり、学校への出前講座を積極的に開催してきたほか、猪熊作品を用いた美術館オリジナルグッズの学校行事への提供や、来館やイベント時にもらえるスタンプを集めた子どもに対するプレゼント企画なども行ってきた。
長期にわたるこうした取り組みが実を結び、ミモカは、今ではすっかり丸亀市民の日常に溶け込んでいる。閉館後も開放されているコンコースには、高校生らが集う姿が日常的に見られる。また、幼い頃にミモカでアートに親しんだ人たちが、今では親世代となり、リピーターとして子連れで訪れるようになったという。そうした結果、市民の間では今、猪熊自身ともミモカともとれる「いのくまさん」という愛称が定着し、様々な世代から親しまれている。
猪熊は、「アートは心のビタミン」、「美術館は心の病院」と考えていた。これからもミモカは地元住民の心を豊かにする場所であると同時に、地域を元気づける文化芸術拠点としての役割が大いに期待されている。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
長原 孝弘(ながはら たかひろ)氏(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館館長、77歳)
〈連絡先〉
奥本 未世(おくもと みよ)氏 (丸亀市猪熊弦一郎現代美術館アート・コミュニケーショングループ担当長)
電話:0877-24-7755

◎香川県内のこれまでの受賞者
高松市  イサム・ノグチ日本財団(2012年)
高松市  四国民家博物館(1984年)

  

以上

PDF版はこちら

画像ダウンロード
  • (北海道)大晦日の深夜から初日の出まで行われた函館山山頂での撮影(2010年)
  • (北海道)映画『海炭市叙景』ボランティアによる炊き出し(2010年)
  • (北海道)100人以上の市民エキストラが参加した造船所でのストライキの場面(2010年)
  • (北海道)映画『きみの鳥はうたえる』撮影風景(2017年)
  • (福島県)会津若松市門田町御山での漆の植樹(2014年)
  • (福島県)ぐい呑みデザインの選定会議(2021年)
  • (福島県)若手職人による漆器制作の様子(2022年)
  • (福島県)下草刈り作業後に会津塗を使った昼食(2016年)
  • (東京都)たくさんの来園者が見学する井の頭池でのかいぼり(2018年)
  • (東京都)井の頭池での体験イベント「池底ツアー」(2016年)
  • (東京都)井の頭池のほとりで来園者に解説(2018年)
  • (東京都)埼玉県上尾丸山公園のかいぼりで捕獲した生物の仕分け(2019年)
  • (富山県)御印祭前夜祭で行われる「町流し」(2015年)
  • (富山県)高岡西部中学校学校祭で披露された「箏演奏・弥栄節踊り」(2021年)
  • (富山県)川原小学校での弥栄節の踊り指導 ⒸTCN(2022年)
  • (富山県)教員らを対象とする踊り講習会(2022年)
  • (香川県)工作ワークショップに熱心に取り組む子どもたち(2022年)
  • (香川県)壁や床におもちゃの鉄道レールで大きな絵を描くワークショップ(2008年)
  • (香川県)美術館正面のゲートプラザで行われた子どもファッションショー(1997年)
  • (香川県)「猪熊先生をかこう!」ワークショップを指導する猪熊氏(1991年)