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ニュースリリース
  • (2021/9/7)

第43回 サントリー地域文化賞 選評・受賞者活動概要

選評

 第43回サントリー地域文化賞には、地域の特質を濃厚に反映した活動が集まった。「しかりべつ湖コタン」は、湖が全面凍結する期間のみ出現する。氷のベッドのホテル、氷上露天風呂、氷のグラスで飲むアイスバー、氷の迷路、スノーモービル、クロスカントリーツアーなど、この地域だからこそ、それもごく短い期間に無常の空間を遊ぶ洒落た感性が素敵だ。3月に氷が溶け始めると全てが消え、湖に溶けて戻っていくという。環境を害さない、日本人の無常観に合った上級の遊び空間を作り続けている。
 「秋田県民謡協会」は、その規模の大きさに注目した。秋田県には1000曲以上の民謡があり、地元のさまざまな機会に唄われるだけでなく、プロの歌い手が全国に秋田民謡を広めている。そこで協会は次世代の育成に力を入れ、5部門の学科と実技による検定試験を実施している。7段階の認証制度で公認指導者も育成し、民謡を学校の部活に取り入れる取り組みや、出前授業などを実施している。このような継承の努力は尊敬に値する。
 「民俗芸能を継承するふくしまの会」は、800近くあった福島の民俗芸能が、2011年の東日本大震災の後、担い手が他地域に出て行ったために、多くの団体が継承の危機にさらされたことで立ち上げられ、その後、民俗芸能団体の調査、連絡、助成事業の周知、専門家の派遣、映像記録の推奨など、精力的に活動している。会のサポートによって再興した芸能や祭祀も70以上にのぼるという。極めて重要な支援活動であり、民俗芸能が消え行く他地域のモデルにもなるであろう。
 「霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動」は、全国でも稀な景観を作り出している。課題は多い。ひとつは、漁協等が保存会になっているにもかかわらず観光として市から補助、委託を受けており、実際の漁はしていないという点である。もうひとつは今後の技術伝承である。しかしその景観は多くの人に愛されており、地域を活性化していることは間違いない。よって地域文化賞に値すると判断した。
 「群馬交響楽団」は多くの人が知っている著名な交響楽団である。従って今さらという考え方もあったが、二つの点で賞の贈呈を決めた。ひとつは自主的に群響を応援する県民の会があり、県民による合唱団も結成されるほど、県民の生活に浸透し愛されているという点である。もうひとつは、小中高生のころから音楽に親しむ地盤を群響が移動音楽教室や楽器セミナーによって作り続けている点である。このような県民と一体化した努力によって、アマチュアからプロフェッショナルに成長していく物語をもった交響楽団は類稀(たぐいまれ)であり、地域文化賞に値すると意見が一致した。
 以上のように、今年はとりわけ地域の特質を明確に持ち続けてきた取り組みに、賞を贈呈することができた。 

田中 優子(法政大学名誉教授)評

  

北海道鹿追町  しかりべつ湖コタン

◎受賞理由
「しかりべつ湖コタン」は、期間限定で氷上に現れる幻の村。地域住民を中心としたスタッフが全力で楽しみながら運営し、冬の十勝の魅力を発信している。その姿が多くの人々を惹きつける点が高く評価された。 

◎活動概要
北海道十勝管内の鹿追町と上士幌町にまたがり、大雪山国立公園内にある唯一の自然湖である然別湖(しかりべつこ)は、標高810mに位置し天空の湖とも呼ばれている。ここに毎年冬の間だけ、幻の村「しかりべつ湖コタン」が現れる。コタンとはアイヌ語で村または集落などを意味する。
始まりは1980年。若者3人が冬の然別湖で楽しく遊ぶために、凍った湖の上にイグルー(カナダやアメリカに住むイヌイットが狩猟時に使う仮住まい)を作り始めた。1982年には、この動きを知った湖畔のホテル経営者や鹿追町も協力してイグルー3戸を作り上げ、第1回「しかりべつ湖コタン」が開村(同年実行委員会設立)。翌年その様子がテレビ放映されたことをきっかけに、地域の若者がこの「究極の冬遊び」に関わりたいと多数集まってきた。
それ以来毎年、湖が全面凍結する12月下旬以降、研究を重ねたオリジナルの工法で、湖から切り出した氷や湖畔に積もる雪だけを使用して建造物が作られてきた。より良いイベントにするために試行錯誤を重ね、今では、氷のベッドやテーブルが置かれた「ホテル」、世界初の「氷上露天風呂」、手作りの氷グラスで飲み物を楽しめる「アイスバー」、コンサートや展覧会などが行われる「ホール」など、10以上の建造物が立ち並び、国内外から4万人以上の訪問客が訪れる。
最大の特長は、ここに集う人々の「楽しみたい」という強い思い。「地元住民を中心とした沢山のスタッフが、一つの目的を達成するために一体となり、真剣に楽しく作業するからこそ、毎年異なる『しかりべつ湖コタン』が出来あがる。やらされ仕事では絶対にできない。」とある実行委員は言う。実行委員を筆頭に参加している人々がみな楽しそうにしているのを見て、さらに人が集まってくるのがこのイベントの良さである。
2000年からは運営ボランティアを公募。毎年国内外から35名ほどが参加し、1週間~数カ月滞在して運営をサポートする。訪問客として訪れた人が翌年はボランティアとして参加するケースもあり、さらに、ボランティアを機に鹿追町に魅了されて移住した人もいる。また、「しかりべつ湖コタン」は地域住民が地元に住み続けたいと感じる理由にもなっている。
雪と氷以外は一切使用していない「しかりべつ湖コタン」は、3月下旬に役目を終えた後はゆっくりと湖へ溶け帰っていくが、そこで体感した感動がいつまでも心に残るように、この「究極の冬遊び」も地域の文化として永く受け継がれるだろう。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
喜井 知己(きい ともみ)氏
(然別湖コタン実行委員会実行委員長、鹿追町長、61歳)
〈連絡先〉
石川 昇司(いしかわ しょうじ)氏(然別湖コタン実行委員会副実行委員長)
電話:0156-69-8181(株式会社北海道ネイチャーセンター)

◎北海道内のこれまでの受賞者
函館市  函館西部地区バル街(2019年)
上川地域 「君の椅子」プロジェクト(2015年)
釧路市  北海道くしろ蝦夷太鼓(2010年)
壮瞥町  昭和新山国際雪合戦(2007年)
札幌市  加藤 博氏(個人)(1999年)
札幌市  YOSAKOIソーラン祭り(1998年)
函館市  市民創作「函館野外劇」の会(1993年)     
士別市  士別サフォーク研究会(1991年)
札幌市  札幌こどもミュージカル(1990年)
東川町  東川氷土会(1989年)
置戸町  おけと人間ばん馬(1987年)
函館市  南茅部沿岸漁業大学(1985年)
旭川市  木内 綾氏(個人)(1983年)
江差町  江差追分会(1982年)
函館市  カール・ワイデレ・レイモン氏(個人)(1979年)

 

秋田県秋田市  秋田県民謡協会

◎受賞理由
指導者の育成や若手への伝承など次世代への取り組みに力を入れ、コロナ禍の中で新しいことにも挑戦しながら、県全域で、人々の暮らしの中で唄われてきた秋田民謡の普及に務めている点が高く評価された。

◎活動概要
「民謡の宝庫」といわれる秋田県には、現在確認されているだけでも1000曲以上の民謡がある。明るい旋律の唄が多く、労働に伴うものや、祭りや祝い事・宴席で披露されるものなど、多彩な唄があり、プロの歌い手が国内各地を回って披露してきたことで今では全国的に広まっている。
かつては大家族の生活の中で自然と耳にし、口ずさまれていた民謡だが、核家族化や娯楽の多様化等の影響でその存在は次第に薄れてしまった。こうした状況の中、「民謡を唄っている者同士、互いに切磋琢磨して親睦を図りながら秋田民謡を盛り上げよう」と、アマチュア愛好家による「秋田県民謡同好会連合会」、プロの民謡家による「公益財団法人日本民謡協会 秋田県連合委員会」「一般財団法人日本郷土民謡協会 秋田地区連合会」の3団体が集結し、1980年12月に「秋田県民謡協会」が設立された。
設立後、県内すべての民謡を対象として県内一を競う「秋田民謡王座」や全国から参加者を募って競い合う「秋田民謡全国大会」の開催など、様々な活動を展開してきた同協会が、現在最も力を入れているのは、指導者の育成である。秋田民謡がこの先も永く唄い継がれるためには、歌詞の意味や歌い方などを正しく理解し、次世代に唄い継ぐことができる指導者の育成が重要との考えから、毎年、公認指導者の検定試験や研修会などを開催している。検定試験では講師から名誉教授まで7段階で指導者を公認しており、公認された指導者の中には、自ら子ども向けの民謡教室を開いて、地元の子どもが幼いころから民謡に親しみ、唄の背景や込められた思いを学ぶ場を提供するなど、同協会の意を汲んで積極的な普及活動を行う人も多い。
また同協会は、民謡愛好家のすそ野を広げるための重要な取り組みとして、若手を対象とした伝承活動にも積極的に取り組んでいる。秋田県教育委員会を通じて、県内の学校と協力して民謡クラブを設置する取り組みを行っているほか、学校に講師を派遣して民謡や和楽器を指導する出前授業なども行っている。その他、動画サイトを活用して秋田民謡のPRを行ったり、オンラインで民謡教室を開催する等、コロナ禍の中、新しい手法で若手への伝承を進めようとチャレンジを始めた会員もいる。
人々の暮らしの中で長年唄い継がれ、地域の大切な文化財産でもある秋田民謡。その普及に県全域で取り組む「秋田県民謡協会」は、先人たちが育ててきた民謡を受け継ぎつつ時代に合わせた伝承・普及活動に取り組むことで、今後も益々発展し民謡界を牽引していくことが期待される。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
王藤 正蔵(おうとう しょうぞう)氏(秋田県民謡協会理事長、73歳)
〈連絡先〉
佐藤 富一(さとう とみいち)氏(秋田県民謡協会事務局長)
電話:080-5563-3176

◎秋田県内のこれまでの受賞者
小坂町  エコの文化が根づくまち 小坂(2010年)
大仙市  大曲の花火(全国花火競技大会)(2006年)
羽後町  西馬音内盆踊保存会(2003年)
秋田市  秋田伝承遊び研究会(1980年)

 

福島県郡山市  民俗芸能を継承するふくしまの会

◎受賞理由
東日本大震災で打撃を受けた福島県の民俗芸能の現状の調査、復活・継承のための各種支援に取り組む。芸能への支援を通じて、避難先で暮らす人々の「ふるさと」への思いをつなぎとめていることも高く評価された。

◎活動概要
福島県は「浜通り」「中通り」「会津」という気候風土の異なる3つの地方から成り立ち、個性豊かな神楽や獅子舞、田植踊(たうえおどり)などの民俗芸能が継承されてきた。2010年の調査では、県内に約800の民俗芸能の保護団体があり、浜通りにはそのうち430団体が存在した。
しかし、2011年の東日本大震災と原子力発電所事故により、浜通りを中心に甚大な被害をうけ、約16万人が県内外への避難を余儀なくされた。生活の基盤が奪われ、地域の住民が守り続けてきた民俗芸能の継承も突如として危機に陥ったのである。
震災後、宮城や岩手では県が民俗芸能の被害状況の調査や支援に乗り出したが、原発事故の対応に追われる福島では行政の手が回らなかった。そのため2011年9月、民間有志12人が「民俗芸能学会福島調査団」を組織し、独自に伝承者や指導者の被災状況、道具の被害についての調査を開始した。翌年から民俗芸能保護団体の活動再開にむけた支援にも着手。2015年には、調査団を法人化して「特定非営利活動法人民俗芸能を継承するふくしまの会」が誕生した。
ふくしまの会では、福島県から「民俗芸能復興サポート事業」を受託し、毎年約50団体を訪ねて、人材育成支援やネットワーク形成、行政との意見交換等を行っている。また、県と協力して毎年開催する「ふるさとの祭り」は、民俗芸能披露の貴重な機会となっている。さらに継承に必要な衣装や諸道具の修繕・新調や記録撮影のため、主に文化庁の補助事業を活用し被災地の保護団体の支援をしている。これまでに交付された補助金は約1億6000万円にのぼり、被災地では70団体以上が活動を再開するに至った。
しかし長引く避難や人口の減少などにより、現在も活動の継続が難しい団体は少なくない。そのような団体には、映像記録を残すように勧めている。撮影が継続への意欲を高めることもあり、演者が集まることで、休止していた活動を再開するきっかけになることもあるという。映像には演じる場面だけではなく、太鼓の打ち方や笛の指使い、着付けなども個別に記録する。後継者が映像を見て学べるだけでなく、活動が途絶えた場合にも、将来活動を復活させるための資料となる。その他にも、次世代の担い手育成のため、地域の学校と保護団体の連携を呼びかけるなど、様々な形で活動継続に向けた働きかけを行っている。
祭りや芸能は、地域の人々の助け合いと協調の精神を育む核となってきた。とりわけ慣れ親しんだ土地を離れて暮らす人々にとっては、芸能は人々の心をつなぐ「ふるさと」そのものとなっている。地域の宝である芸能を未来に継承してゆくため、「民俗芸能を継承するふくしまの会」の活躍がより一層期待されている。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
懸田 弘訓(かけた ひろのり)氏(特定非営利活動法人民俗芸能を継承するふくしまの会理事長、84歳)
〈連絡先〉
國分 球子(こくぶん まりこ)氏(特定非営利活動法人民俗芸能を継承するふくしまの会事務局長)
電話:080-1856-4025

◎福島県内のこれまでの受賞者
川俣町   〈特別賞〉 コスキン・エン・ハポン(2011年)
会津若松市 童劇プーポ(1995年)
川俣町   コスキン・エン・ハポン(1993年)
檜枝岐村  檜枝岐 いこいと伝統の村づくり(1992年)
いわき市  いわき地域学會(1991年)
福島市   FMC混声合唱団(1979年)

 

茨城県  霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動

◎受賞理由
霞ケ浦のシンボル「帆引船・帆引網漁法」を保存・伝承するため、3つの保存会が中心となって、観光船の運航、後継者育成、フォトコンテスト等のPR活動、船や漁具の調査・記録など幅広い活動を行っている点が高く評価された。

◎活動概要
帆引網漁法は、明治時代、霞ケ浦湖岸の坂村(現かすみがうら市)の住民によって発明された。帆桁と漁網を綱で直結し、帆が受ける風力と漁網にかかる水圧、および船の自重でバランスをとりながら航行して漁をする世界にも類を見ない漁法である。風力を利用して少人数で操業できることから地元漁師の間に広く浸透し、霞ケ浦のワカサギ漁・シラウオ漁が発展する重要なきっかけとなった。最盛期には900艘を超える帆引船が操業していたと言われており、風をはらんだ大きな帆がいくつも湖面に並ぶ様子は、明治から昭和にかけて霞ケ浦を代表する風景だった。
1960年代後半、エンジンを積んだトロール船の台頭によって帆引船は姿を消したが、1970年代には慣れ親しんだ風景の消失を惜しむ声に応えて観光帆引船として復活。毎年夏から初冬にかけて行われる観光帆引船の定期操業は霞ケ浦の風物詩として地域住民に広く愛されており、その美しい姿と風景は筑波山と並ぶ地域のシンボルとなっている。
現在、「霞ヶ浦帆引き船・帆引き網漁法保存会」(かすみがうら市)、「土浦帆曳船保存会」(土浦市)、「行方(なめがた)市帆引き船保存会」(行方(なめがた)市)が中心となって保存活動が行われており、観光帆引船の操業もこの3つの保存会が行っている。風向きや風力の変化に対する瞬時の対応など、帆引船の操業には高度な技術が求められることから、各保存会では長年にわたって、操船技術に関するマニュアルを作成するなど後継者育成・技術伝承に積極的に取り組んでいる。
また、帆引船の特長である優雅な姿を活かしたPR活動も盛んに行われている。「霞ヶ浦帆引き船フォトコンテスト」は、毎年県内外から多数の応募作品が集まる名物コンテストで、開催回数は2021年で20回を数える。実物と同じ赤杉材を使って精巧に再現された「霞ヶ浦帆引き船模型」は、茨城県郷土工芸品に指定されており、模型船を組み立てる工作教室の参加者は地域の子供たちを中心に1500人以上にのぼる。
近年は、学術的な記録・調査への取り組みも進んでいる。2018年に「霞ケ浦の帆引網漁の技術」が国選択無形民俗文化財に選ばれたことを受け、土浦市、かすみがうら市、行方市の三市による調査委員会が立ち上がった。現在、学識経験者や各保存会の会長らが委員となって、帆引網漁に関わる一連の技術を記録するとともに、そのメカニズムやモノ・人・知識などに関する調査を進めている。
霞ケ浦で生まれ、長く地域住民に愛されてきた帆引船・帆引網漁法が、3つの保存会を中心に展開されている積極的な保存・伝承活動によって、今後も末永く霞ケ浦のシンボルとして愛され続けることを期待したい。 

◎代表者および連絡先


〈代表〉
戸田 廣(とだ ひろし)氏(霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動代表、87歳)
〈連絡先〉
霞ヶ浦帆引き船・帆引き網漁法保存会 事務所
電話:029-896-0017(かすみがうら市歴史博物館内)

 ◎茨城県内のこれまでの受賞者
桜川市     真壁 伝統ともてなしのまちづくり(2011年)
つくばみらい市 つくばみらい市綱火保存連合会(2008年)
取手市     取手アートプロジェクト(2007年)
常陸大宮市   西塩子の回り舞台保存会(2006年)
土浦市     土浦 歴史と自然のふるさとづくり(1987年)

 

群馬県高崎市  群馬交響楽団

 ◎受賞理由
戦後の荒廃の中、文化を通した復興を目指し誕生した日本初の本格的な地方オーケストラ。75年以上にわたり地域と日本の音楽文化の発展に貢献してきたことに加え、コロナ禍における創意工夫を凝らした挑戦が高く評価された。 

◎活動概要
1945年11月、戦禍をくぐりぬけてきた若者たちが文化国家の建設を掲げ、高崎市にアマチュア楽団を創設。戦後の荒廃の中、地方都市から文化を通じた復興を目指す壮大な挑戦が始まった。1947年にプロとしての活動を開始、定期演奏会のほか「県内のすべての子供たちに生の音楽を届けたい」という思いで県内の学校を巡回する「移動音楽教室」など地道な活動をスタートさせた。前年度末までに延べ642万人を超える子供たちが観賞した。まさに日本におけるアウトリーチ活動の先駆といえよう。
発足当初は存続の危機に陥るなど道のりは険しかったが、1955年に同楽団をモデルにした映画「ここに泉あり」で全国的に注目されるなど徐々に軌道に乗り始め、1961年には高崎市が建設した群馬音楽センターを本拠地として活動の幅が広がった。1981年からは県の支援を得てさらに活動が発展、1994年には欧州4か国を巡る海外公演を成功させ、2001年には日本の音楽業界を牽引しているとして文化庁の「芸術創造特別支援事業」支援団体にも指定された。2019年からは高崎芸術劇場に本拠地を移し、ますます充実した活動を行っている。
現在、同楽団の稼働日数は年間200日を超える。「オーケストラをもっと身近に」「県民の心に潤いを」を合言葉に、定期公演以外に、地域に根ざした活動に注力。県内各地に音楽文化を広めるため各市町村のホールで演奏会を開催、地域の施設へのアンサンブルの派遣なども行っている。また、小・中・高等学校向けの移動音楽教室、幼児移動音楽教室、小中学生向けの楽器セミナーなど年に130回を超えるアウトリーチ活動も実施。その結果、県内の小中学生は3年に1回は必ずオーケストラを聴くという群馬県独自のシステムを定着させた。こうした長年にわたる地道な活動により、県民からは「群響」の名で親しまれており、有志によるファンクラブ「群響を応援する県民の会」や「群馬交響楽団合唱団」が結成されるなど、地域住民の生活に溶け込み、地域と一体となった活動を続けている。
昨年はコロナ禍で演奏会はおろか集合練習さえままならない状況に陥った。しかし、そんな時だからこそ音楽で世の中を元気にしたいと、演奏動画のインターネット配信「おうちで群響」に挑戦。毎日欠かさず更新し群響ファンを励まし続けた。楽団員49名による「八木節」や県民等とコラボした「ラデツキー行進曲」などのリモート演奏は好評を博し、再生回数は12万回を超えた。さらにDVD教材の制作にも初挑戦し、県内の小中学校で教材として活用されている。
今後は、これまでの歴史や伝統を守るに留まらず、コロナ禍での経験を活かして、新しい試みにも積極的に挑戦し、活動をさらに飛躍・発展させてもらいたい。

◎代表者および連絡先


〈代表〉
山本 一太(やまもと いちた)氏(公益財団法人群馬交響楽団理事長、群馬県知事、63歳)
〈連絡先〉
悴田 和之(かせだ かずゆき)氏(公益財団法人群馬交響楽団事務局)
電話:027-322-4316

◎群馬県内のこれまでの受賞者
渋川市   上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会(2019年)
群馬県全域 富岡製糸場世界遺産伝道師協会(2015年)
大泉町   細谷 清吉氏(個人)(1986年)

 

以上

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  • (北海道)イグルーが並ぶ「しかりべつ湖コタン」(2012年)
  • (北海道)イグルーを制作する参加者たち(2015年)
  • (北海道)氷上の露天風呂(1980~90年代頃)
  • (北海道)凍った湖から切り出した氷で装飾される「アイスバー」(2015年)
  • (秋田県)第9回秋田民謡全国大会(2018年)
  • (秋田県)指導者向けの研修会(2018年)
  • (秋田県)子供向けの民謡教室(2021年)
  • (福島県)東日本大震災後10年の節目に行ったYouTubeライブ配信(請戸の田植踊、浪江町 請戸芸能保存会)(2021年)
  • (福島県)台風による洪水被害に遭った真結女御輿会(本宮市)の御輿の泥の除去作業(2019年)
  • (福島県)民俗芸能保護団体を対象に行った研修会(2021年)
  • (福島県)民俗芸能の体験ワークショップ(2019年)
  • (茨城県)霞ケ浦に浮かぶ三艘の帆引船(2018年)
  • (茨城県)高度な技術が求められる帆引船の操船技術を継承し、後継者育成に取り組む(2014年)
  • (茨城県)独特な漁法の継承も重要な活動のひとつ(2018年)
  • (群馬県)高崎芸術劇場での演奏会(2019年)
  • (群馬県)幼児移動音楽教室で楽団員と交流する子供たち(2019年)
  • (群馬県)楽団員による楽器セミナー(2021年)
  • (群馬県)移動音楽教室で熱心に演奏を聴く子供たち(1950年代)