サントリーフラワーズの花との出会いをお届けする企画。今回は福岡県在住の久野さんのお宅におじゃましました。久野さんはサントリーフラワーズフォトコンテストでも数多くの賞を受賞されている“花の達人”。
花づくりの楽しさとは何か、花の素晴らしさとは何かをじっくりとお聞きしてきました。
マンションだから花が育てられない……そんな理由で花を敬遠してしまう人もいるでしょう。でも、それはあまりにもったいない。ちょっとしたアイデアで、庭があるような風景を演出できるというのが久野さんの持論です。久野さんのご自宅はマンションの6階。博多湾が一望できる素晴らしい眺望が自慢のベランダが久野さんの花づくりのメインステージです。ベランダの奥行きは90cmほどで、さほど広々としているわけではありません。
でも白いラティスやウッドデッキ、グリーンのマットなどを上手に配置して、広さや奥行きを感じさせる工夫が凝らされています。
また、遠くからでも花を見てもらえるというのも、ベランダガーデンの大きなメリット。
久野さん宅のベランダでは、夏にはあふれんばかりのサフィニアが華麗に咲き誇り、目前を走る車窓からも目に飛び込んでくるほど。乗客の間でも「あのお宅のお花、キレイね」と評判だそうで、見ず知らずの人が「お花を見せていただけませんか?」と訪ねてきたこともあったとか。
「サフィニアは潮風にも強いから、海が近いこの地域にもピッタリの花なんです」と久野さん。お向かいのマンションには、久野さんのベランダを見て影響され、花づくりを始めた人もいるといいます。
久野さんに影響を受けたのか、小さな鉢植えを育て始めた近所のヤンチャ坊主がいるそうです。その子が目を輝かせて「おばさん、花が咲いたよ!」と報告しに来ることもしばしば。久野さんが花についた害虫を駆除している姿を見て、「虫だからって、簡単に殺しちゃいけないんだよ」と叱られたこともあったとか。花は子どもの心の教育にもなるのだと思うのはそんなとき。だからこそ、「花を育てる喜びを、もっと多くの人に知ってもらいたい」と久野さんは言います。
「鉢やプランターはたくさんなくていい。最初はまず一鉢。それを丹精こめて咲かせることから始めればいいんです」と久野さん。初めて自分で育てた花が咲いたときの喜びは格別なもの。その気持ちを知ることが大切なのですね。
サントリーフラワーズフォトコンテストをはじめとしたコンテストに出品し多くの賞を受賞されていますが、「賞をいただくのも嬉しいですが、花を見て喜んでもらえるのが何よりの幸せ」と語る久野さん。
以前地元で開催された『全国都市緑化ふくおかフェア 花どんたく』に出品したときに出会った山口県・下関に住むおじいちゃんから「あなたの花を見て、元気をもらった」という手紙が届いたときは「花づくりをしていて本当によかった」と思ったと言います。そのおじいちゃんとは現在も手紙や電話のやりとりが続くお付き合い。普通なら出会うはずのないさまざまな人との巡りあいも、花がもたらしてくれる大きな楽しみなのですね。
旅行に行くときはもちろん、近所に買い物に出るときもデジカメは必携。まわりの風景のなかでピンときたものは全部撮影してくるのだそう。キレイなものを見たときに「キレイね」で終わらせず、花づくりに活かせないかを考えてみる習慣がついてしまったのだとか。「見るものすべてが花に結びついているんですね。花づくりのアイデアは、身近な、日々の暮らしのなかにたくさんあるんですよ」
久野さんは毎年お正月にその一年の花づくりのテーマを決めています。そしてイメージどおりにつくることができたときの喜びは何にも代えがたいそうです。
ちなみに2008年のテーマは『ハットショップ』。街の帽子屋さんでヒントを得て、「ミリオンベルを帽子(ハット)に見立てた、華やかなハットショップ風のディスプレイを……」という感じにイメージを膨らませたのだとか。
こんもりと可愛らしいミリオンベルが、久野さんの“フラワーマジック”でどういう表情を見せるのか。とても楽しみですね。
「母は、空襲警報の鳴るなか、花に水をやってから防空壕に逃げたというほど花を愛していた人でした。私の花好きは、母の血を受け継いだんでしょうね」
戦争のさなかでも一輪の花を愛することを忘れない……。
久野さんの花づくりの原点は、お母様の花への愛情にありました。周囲の人々の心を癒す花を育てたい。それが久野さんが花を育てる理由でもあるのです。
同じマンションに住む人たちからも「久野さん、今年もお花、がんばってね」と声をかけられるという久野さん。ご自分で育て、咲かせた花たちが周囲の人たちの癒しになっていることは嬉しいし、大きな励みになるといいます。もはや久野さんの花づくりは、ご自分だけの楽しみではなくなっているのかも知れません。
「花でいっぱいの街に暮らせたら、どれだけ素晴らしいかしら。この街が、“花の街”になってほしい。それが夢なんです。私のつくる花が、そのキッカケのひとつになってくれればすごく嬉しいですね」
「花を育てるために生まれてきたのだと思う」――
無限大の可能性に魅せられた久野さんの花づくりは、久野さんの人生そのものなのです。