山崎蒸溜所便り
【蒸溜所で働く人】未来につながるウイスキーづくり~貯蔵工程編~
2024年9月20日
こんにちは水野めぐみです。
今回は「蒸溜所で働く人」へのインタビュー企画です。
ウイスキー製造の終盤工程である貯蔵の工程で働く嘉満(かま)さんに、お客様からいただいた質問への答えや、仕事への想いを聞いてきました。
貯蔵ブレンドグループで働く嘉満さん
長い年月、樽の中で原酒が眠る貯蔵庫。貯蔵庫は、見学ツアーに参加されたお客様の写真撮影スポットとして人気があり、見学中に多くの質問をいただく場所でもあります。
貯蔵庫でよく挙がる質問について、嘉満さんに詳しく聞いてみました。
水野 「お客様は貯蔵庫の中に足を踏み入れ、原酒の香りや樽が並ぶ光景を目にすると、とても感動されます。『貯蔵庫の中は温度調節を行っていません』と案内すると驚かれるのですが、なぜ温度調節を行っていないのでしょうか?」
嘉満 「原酒は熟成の間、樽の中で呼吸をしています。熟成は、気温が高い季節には早く、気温が低い季節にはゆっくりと進みます。そのような山崎の四季の変化を樽の中の原酒にそのまま呼吸させることが、個性に繋がると考えているため、あえて温度調整は行っていないのです。」
水野 「その土地の四季の変化も、原酒の個性を育むのに欠かせない要素のひとつなんですね。」
樽の中で原酒はゆっくり熟成が進んでいきます
水野 「樽の置き方、貯蔵方法にこだわりはあるのでしょうか。」
嘉満 「ウイスキーの樽は大きく3種類の置き方があります。この見学貯蔵庫はダンネージ式、白州の見学貯蔵庫ではラック式で樽の貯蔵を行っており、いずれも樽を横にして並べています。海外の蒸溜所ではパレタイズ式といって、パレットの上に数丁の樽を縦に置き、それらを複数段縦に並べている蒸溜所も多いです。これまでの実験により樽の縦置きと横置きとで品質が異なることが分かっており、サントリーウイスキーには横置きが適していることから、この様な置き方にしています。」
山崎蒸溜所の見学貯蔵庫ではダンネージ式で樽を並べています
水野 「ダンネージ式とラック式で、どのような違いがあるのでしょうか。」
嘉満 「ダンネージ式は、床に輪木(りんぎ)という木製のレールを敷いて樽を置き、その上にまた輪木を敷いて2~4段に積み重ねます。上段と下段で温度や湿度などの貯蔵環境がわずかに変わるため、樽の中の原酒の熟成度合いも異なります。熟成の進み具合を定期的に確認しながら、置き場所を変更したりもしています。」
白州蒸溜所のラック式貯蔵庫
嘉満 「ラック式では、より多くの樽を貯蔵できることに加え、高く段数を積んだ場合はラックの上下で貯蔵環境に差が生まれるので原酒の熟成度合いの違いも大きくなります。」
貯蔵庫で樽を転がす嘉満さん
水野 「そのような違いがあるのですね。貯蔵中には他にどの様な作業を行いますか。」
嘉満 「定期的にサンプリングします。その原酒をブレンダーがテイスティングをして、指示をもらって置き場所を変える場合もあります。熟成を早く進めていきたい原酒は気温の高い上段に、長い期間じっくりと原酒の個性を育てたいときは気温が低く湿度の高い下段に移動させてその後の熟成を見守っていくんです。」
水野 「『樽から原酒をどのようにして採るのか』という質問も多いです。」
嘉満 「原酒は、ダボ栓という樽に開けた原酒の出し入れに使われる穴の栓を抜いてチューブを挿し込み、サイフォンの原理を利用して採り出します。原酒を採りだす様子をお見せしますね。貴重な原酒を無駄にしないように慎重に作業をしています。」
原酒のサンプリングの様子を見せてもらいました
嘉満さんと貯蔵庫を歩きながら、ダンネージ式の樽が落ちない並べ方の工夫を教えてもらいました。
下段のレーンの両端は、少しサイズの大きな樽を配置するそうです。
すると輪木の端が少し上がるように勾配がつき、上段の樽が動きにくくなるため耐震性も上がるとのこと。
長い時間をかけて原酒を育てていく職人たち、こうした些細な工夫に至るまで、先人からの技術や知恵を継承し続けているんですね。
嘉満さんは「ウイスキーは製品として世に出るまで、代々受け継がれたつくり手の思いが詰まっているもの。
自分も次の世代につなぐために気を引き締めています。この先、自分の子供が成人したときに、自分が製造に関わったウイスキーで乾杯するのが夢です」と、力強く語ってくれました。
つくり手の想いを知ることで、皆さまがウイスキーを愉しむ時間により深みが加われば、わたしもうれしく思います。
※ご来場には事前予約が必要です。詳細は山崎蒸溜所ホームページでご確認いただき、予約のうえご来場ください。