白州蒸溜所便り
【インタビュー】白州蒸溜所とともに歩んできたつくり手が語る、ウイスキーづくりの歴史と白州という土地の魅力
2023年6月15日
こんにちは、森川ユタカです。
白州蒸溜所は1973年に竣工し、今年50周年を迎えます。今回は、ここ白州蒸溜所に40年以上勤務し、蒸溜所の変遷を見つめ続けてきた小澤さんに話を聞きました。
素敵な笑顔でインタビューに答えてくれた小澤さん
小澤さんは山梨で生まれ育ち、1981年に入社しました。そして白州蒸溜所で42年間、実にさまざまな仕事に携わっています。
小澤「入社以来34年間、醸造グループでウイスキーづくりに携わりました。現在はウイスキーセミナーで講師を務めるなど、社外に向けてサントリーウイスキーの魅力を伝える仕事をしています。」
木桶の発酵槽を覗き、発酵の様子を確認
森川「入社当初の蒸溜所の様子は、どんな感じでしたか?」
小澤「当時は新しく醸造棟を増設し、良質なウイスキーをつくる新たな取り組みを積極的に行っていました。そこでの業務は多岐にわたりましたが、一番印象に残っているのは酵母培養です。酵母は、発酵の工程でアルコール分を生み出す際に加えるものですが、種類や状態によってウイスキーの味わいにも大きく影響します。」
森川「ウイスキーづくりへの強い想いから、酵母を自社で培養したのですね。」
小澤「とても手間のかかる作業でした。雑菌が入ってはいけないので、1度使用した機材は、すべて分解して殺菌作業を行っていたんです。小さな部品やネジを1本も残らず殺菌します。手間をかけた甲斐があって、育てた酵母は『品質がいい』と評価されました。以前、チーフブレンダーを務めている福與さんから、自分が携わった酵母を使用した原酒を褒めてもらったことがあり、非常にうれしかったことをいまでも覚えています!」
白州蒸溜所での懐かしの1枚
小澤さんは、現在の白州蒸溜所を特長づける木桶発酵や高温で加熱を行う直火蒸溜を導入したときも醸造グループに在籍していました。
小澤「当時、ウイスキーづくりに木桶発酵槽を使用するのは日本で初めてのことでした。材質が木ですから、乾燥しても湿りすぎてもダメ。取り扱いがわからず大変でした。また、発酵が進むと炭酸ガスにより泡が発生するのですが、その泡が抑えきれないことにも苦労しましたね。発酵の勢いが強すぎると、木桶から溢れてしまうのです。何度も試行錯誤し、木桶の中で泡を切るプロペラの角度を工夫して溢れないよう調整しました。その装置は現在も使われています。」
木桶発酵槽の中でプロペラを回し発酵の泡を切る
森川「当時工夫したものがいまも受け継がれているのですね!同時期に導入した直火蒸溜にも苦労がありましたか?」
小澤「直火蒸溜もサントリー初の導入でしたので、苦労もありました。直火の火がうまくつかないときは、一晩中、現場の操作盤の前で原因を追及しました。当時はとても大変でしたが、その経験によって電気系統の取り扱いに詳しくなり、図面も読めるようになって、新たな製造設備を立ち上げる際のシステム開発に携わることもできました。」
森川「小澤さんの経験や設備が現在に受け継がれているのですね。」
蒸溜工程では、直火加熱と蒸気加熱で原酒をつくり分ける
(※注)直火加熱とは、ウイスキーの蒸溜工程で、銅の釜を直接熱する加熱方法。釜の外周は1000度以上の高温になり、釜の底に沈んだ酵母や固形分が焦げつきやすくなります。しかしトーストされるため、香ばしい重厚な味わいのウイスキー原酒ができるという一面もあります。
何度も苦しい状況を乗り越えてきた小澤さん、好きな言葉は「継続は力なり」「苦手なことでも続けていれば癖になる」だといいます。たくさんの経験を積んできた小澤さんだからこそ言える言葉ですね。
新緑が美しい醸造棟へと続く小道
小澤さんが42年を過ごしてきた白州蒸溜所。その魅力を尋ねて真っ先に挙がったのは、豊かな自然環境でした。
小澤「お客様からもよく羨ましいといわれます。四季の移ろいを感じながら仕事をするのはやっぱり気持ちがいいですよね。わたしは、新緑の季節が一番好きです。」
森川「場内にいながらにして、森林浴の気分が味わえるのも魅力のひとつですね。」
手がけた歴代の製品を見つめる小澤さん
そんな豊かな自然環境の中で生み出される、シングルモルトウイスキー「白州」の魅力を、小澤さんはどう捉えているのでしょう。
小澤「わたしはシングルモルトウイスキー『白州』は地酒のようなものだと思っています。この地で育まれるウイスキーは唯一無二です。シングルモルトウイスキー『白州』がもつ"爽やかさの中にある繊細なスモーキーさ"は、この白州の地でなければ作り出せないものだと思います。」
森川「水、土地、すべてシングルモルトウイスキー『白州』をつくりあげるうえで欠かせないものなのですね。最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。」
小澤「ウイスキーは熟成を行うため、出来上がるまでに長い時間を要します。ウイスキーを召し上がる際には、その時間を感じてほしいですね。年数表記があるものなら、その年数を振り返ってみてください。自分が何歳の時に仕込まれた原酒だ!と考えながら飲むと、ウイスキーのロマンを感じることができますよ。これは、長期熟成を必要とするウイスキーならではの楽しみ方だと、わたしは思います。」
長い時間を白州蒸溜所とともに歩んできた小澤さんからは、白州への熱い想いを感じることができました。
50年という節目を迎え、100年目に向けて動き出した白州蒸溜所。よりよい味わいを追求するため、小澤さんがかつて携わった酵母培養プロセスも新たに立ち上げます。
良質な原酒づくりを目指す新たな取り組みにもどうぞご期待ください。
【お知らせ】白州蒸溜所は2022年12月より改修工事のため、工場見学及び場内全施設の営業を2023年秋頃まで休止しております。見学・予約再開につきましては、日程が決まり次第、白州蒸溜所ホームページでお知らせいたします。