白州蒸溜所便り
白州蒸溜所つくりのこだわり ～熟成～
2020年7月14日
こんにちは、森川ユタカです。
3回にわたってお届けしてきた白州蒸溜所のつくりのこだわりシリーズ。
最終回となる今回は、長い年月をかけて複雑な香味を育む「熟成」についてご紹介します。
どうぞお楽しみください！
白州蒸溜所の貯蔵庫
白州蒸溜所のつくりのこだわりシリーズでは、これまで「自然環境」や「水」、「発酵」、「蒸溜」についてご紹介してきました。
今回ご紹介する「熟成」は「蒸溜」に続く工程です。
ウイスキーづくりにおける「熟成」とは、「蒸溜」の工程で抽出された「ニューポット」を木製の樽に詰めて寝かせていく工程です。
数年、数十年と長い期間熟成することにより樽の成分がウイスキーに溶け込み、バニラやナッツの香りなどに例えられる熟成香が生まれます。
それと同時に色合いもウイスキーらしい琥珀色へと変わっていくんです。
森の空気をたっぷりと吸ってウイスキー原酒は熟成していきます
ニューポットは、ブナ科の広葉樹「オーク」の木材からできた樽に詰めて、貯蔵庫で数年から数十年間「熟成」します。
熟成中の樽がたくさん眠っている白州蒸溜所の貯蔵庫に足を踏み入れると、ウイスキー樽の中から揮発した、華やかなウイスキーの香りで満たされているんですよ。
実はこの貯蔵庫に広がる香りは、ウイスキー樽の"呼吸"に由来しています。
白州蒸溜所の貯蔵庫は温度調整を一切せず、貯蔵庫を囲むように広がる、白州の森の自然環境にゆだねています。
貯蔵庫では、季節ごとの気温の変化によって庫内の温度が変わるので、その温度変化によって樽材は膨張や収縮を繰り返します。
そうすることで、樽は呼吸しているかのように樽の中の空気を外に出し、外気を取り込みます。
その間、樽材の成分がウイスキーに溶け込んでいったり、逆にウイスキーに不要な未熟成香が蒸散していきます。
樽の中のウイスキーの量は少しずつ減っていきますが、このようにして香味の成分が濃縮され、ウイスキーはより香り高くまろやかになっていくんです。
この現象は「人間にウイスキーづくりを教えた天使たちが、その見返りとしてウイスキーを少しずつ味見している」という言い伝えから「天使の分け前（Angel's share）」とも呼ばれているんですよ。
熟成期間による樽内の変化（左⇒右へと熟成が進行）
この「熟成」の工程でも、サントリーならではの多彩な原酒のつくりわけを行っています。
ウイスキーは熟成の過程で樽の成分が溶け込み、味わいや香りが変化するので、樽の材質や大きさ、置く場所、樽の前歴によって味わいが異なります。
これらを組み合わせることで、個性の異なる原酒を多彩につくりわけることができるんです。
まず、樽に使う木材は、北米産のホワイトオークやスペインのスパニッシュオーク、国産ミズナラなど、産地の異なるものを使用していますが、例えば、ホワイトオークの樽に詰めるとバニラやナッツのような香味を感じる原酒となります。
また、同じ材質の樽であっても、繰り返し使った樽や、シェリー酒など別のお酒を熟成していた樽といった、前歴の異なる樽を再利用することでも香りや味わいは異なるんですよ。
サントリーで使用される大小さまざまな樽
他にも、樽の大きさも味わいを左右します。
小さい樽を使うと相対的にウイスキーと樽が接する面積が広いため、一般的に樽からの成分の溶け出しが早く、樽がウイスキーに与える影響も強くなります。
一方、大きな樽は比較的ゆっくりと熟成されるため樽の影響が少なく、長期熟成に向いているんですよ。
樽を置く場所によっても味わいは異なります。
白州蒸溜所ではラック式の貯蔵庫を採用しているので、同じ貯蔵庫内でも、樽の置かれた位置の高低差によって温度や湿度が異なります。
こうした環境の違いもウイスキーの味わいに個性をもたらしてくれるんです。
ブレンダーの技が詰まったシングルモルトウイスキー「白州」
このようにして、ひと樽ごとに個性の異なるウイスキー原酒がつくられていきます。
その後、貯蔵庫で数年から数十年間眠っていた多彩なウイスキー原酒は、ブレンダーによって熟成のピークを見極められ、取り出されたのち、匠の技でブレンディングされていきます。
全3回にわたってご紹介した「森の蒸溜所」白州蒸溜所のつくりのこだわり。
こうして、シングルモルトウイスキー「白州」ならではの、軽快で清々しい風味や個性的な味わいが生まれるのです。
ご自宅でウイスキーを手に取るときに、各工程に詰まったつくり手たちのこだわりや熱意に想いを馳せながらお愉しみいただくのはいかがですか。
【工場見学一時休止のお知らせ】新型コロナウイルスの国内感染拡大を受け、感染防止のため、当面の間、工場見学および場内全施設（ショップを含む）を休止させていただきます。見学・予約再開につきましては、日程が決まり次第、白州蒸溜所ホームページでお知らせ致します。（2020年7月14日現在）
