2011年7月から続いているタイ国チャオプラヤ川の大規模な洪水は、今なお深刻な事態が続いています。その被害はかつて類を見ないほど甚大で、関東平野とほぼ同じ面積の農地が浸水し、洪水による死者は11月末600名を超えました。浸水した工場団地に多くの日系企業の工場があったことから、日本も大きな経済的打撃を受けています。
サントリーと総括寄付講座「水の知」を開設している東京大学では、東南アジアの洪水・水資源管理に関する国際共同研究を1989年から継続していました。
特に毎年のように洪水が発生しているタイ・チャオプラヤ川周辺では国際協力機構(JICA)と科学技術振興機構(JST)の共同プログラム「SATREPS(サトレップス:地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)」により、タイの大学や国王立灌漑局、気象局などと共に気候変動に対する水分野の適応策立案・実施支援システムの構築に関する共同研究が進められています。
また、宇宙からの地球観測に基づいた洪水監視・予測に関するタイ地理情報・宇宙技術開発機構(GISTDA)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究に対する技術的助言も本年度から始められています。
今回の大洪水をうけて、SATREPSでは、被災・水防状況の把握と洪水の発生原因の解明のために10月28日から11月20日にかけ、緊急調査を実施。現地調査チームには治水の専門家として東京大学から「水の知」(サントリー)総括寄付講座特任助教・中村晋一郎先生が参画し、先日11月25日にその調査結果が記者懇談会緊急報告会にて発表されました。
今回の洪水の一番の要因は例年を上回る降雨によるもの。総氾濫量はおおよそ200億立方メートルと推定されるそうです。上流にある主要ダムは一定の治水の役目は果たしていたものの、8か所もの破堤箇所があったことや非常に緩やかで流下能力が低いチャオプラヤ川の特性もあり、今回のような大災害へとつながったといいます。
12月4~9日には同チームによる追加洪水調査が行われ、新たなデータの入手が期待されています。また洪水に関する緊急シンポジウムも12月1日にバンコクで開催されました。世界が力を合わせて「水の知」を高めていけば、今回のような大災害に、事前に警鐘を鳴らすことも可能になってくるはずです。それらを踏まえ、「水の知最前線」では後日改めて中村先生にタイの最新情報を伺い、いかにして科学技術をもって水害から社会を守るのかといったお話を紹介していく予定です。
◆2011年タイ洪水関連情報は、東京大学 生産技術研究所 沖研究室のサイトでご覧いただけます。
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