人間の体はほとんどが水でできています。性別や年齢で差はありますが、胎児では体重の約90パーセント、新生児では約75パーセント、子どもでは約70パーセント、成人では約60~65パーセント、老人では50~55パーセントを水が占めているのです。
ところで、なぜ、成長するにしたがって水分の割合が減ってしまうのでしょう? それは、生きるために必要な脂肪が体についてくるからで、その脂肪分だけ水の割合が少なくなってしまうのです。成人の水分量は60~65パーセントと前述しましたが、これを男女に分けてみると、女性のほうが水分量の割合が低くなっています。これは一般的に男性より女性のほうが脂肪が多いからです。また、成人と老人を比べると、老人の水分量はさらに少なくなります。この違いは脂肪の多い少ないではなく、細胞内の水分の低下が原因。筋肉が衰えるのと同様に、細胞内の水分が減っていくのは、老化現象のひとつだと考えられています。
人間の体は100兆個を超える細胞から成り立っており、体重の約65パーセントを占める水分の約3分の2は、この細胞内に存在しています。残り3分の1は、細胞と細胞の間に存在する細胞間液と血液にあり、それぞれ生命を維持するために働いています。
人間は、水と睡眠さえしっかりとっていれば、たとえ食べものがなかったとしても2~3週間は生きていられると言われています。しかし、水を一滴も取らなければ、せいぜい4~5日で命を落としてしまうことになります。体内の水が不足することを脱水症状と呼んでいますが、脱水症状をおこすと、体温を調節する汗が出なくなり体温が上がってしまいます。また、汗や尿が出なくなるため体内に老廃物が溜まり、血液の流れが悪くなり、全身の機能が障害を起こして、死に至ってしまうのです。
まず、体重の約2パーセントの水分が失われただけでも、口やのどの渇きだけでなく、食欲がなくなるなどの不快感に襲われます。約6パーセント不足になると、頭痛、眠気、よろめき、脱力感などに襲われ、情緒も不安定になってきます。さらに10パーセント不足すると、筋肉の痙攣が起こり、循環不全、腎不全になってしまい、それ以上になると、意識が失われ、20パーセント不足で死に至るという報告がされています。
胎児は母親の子宮の中で、羊水という水に守られて成長を続けます。胎児は、水の中にいるのと同じ状況なので、肺で呼吸はしておらず、酸素と栄養は、子宮内に一時的にできる胎盤という器官を通じて、母親から供給されているのです(胎盤と胎児をつなぐ血管が束になったものが「へその緒」)。また、胎児は常に羊水を飲み、排尿していることから、羊水からもミネラル成分を吸収していると考えられています。
母親の胎内で成長をする胎児の様子を見ると、まず受精してすぐの「胚子」と呼ばれる状態のときは、魚と同じような姿をしています。その後、イモリのような形になり、ヒトの姿へと変わっていきます。羊水の中にいる短い期間に、魚→両生類→爬虫類という生物の歴史が凝縮され再現しているように見えると言われています。この説は「動物の受精卵からの発生過程は、動物が進化してきた歴史的過程の再現である」と唱えたドイツの動物学者ヘッケル(1834~1919年)によるものです。羊水の中で、生物の歴史をなぞりながらヒトとして生まれてくる――生命の神秘と不思議が感じられます。
【参考文献】
- 中村運/著 『生命にとって水とは何か』 講談社
- 鈴木宏明/著 『水のはてなQ&A55』 桐書房
- 女子栄養大学栄養科学研究所/編 『水と健康』 女子栄養大学出版部
- 桜木晃彦/著 『図解からだのしくみがわかる本』 新星出版社
- 奈良昌治/著 『水でやせる』 新講社
- 左巻健男/監修 『知って納得!水とからだの健康』 小学館