魚の形態は多種多様です。その大きさ一つを取ってみても、わずか1.5センチで成魚となるハゼがいる一方で、全長21メートル体重21トンにも達するジンベイザメも存在します。脊椎動物に占める種数の割合は魚類が圧倒的に多いのです。魚類は、淡水(川、湖、沼、池)に住む淡水魚と、海に住む海水魚に分けられます。
淡水魚の中には、河口など淡水と海水が入り交じる汽水(きすい)で暮らす魚や、海と川を行き来するものもいます。たとえば、ウナギやアユ、サケのように一生の一時期を海水で過ごす魚もいますし、ボラやスズキなど一生の多くは海水で過ごすものの一時期に限り淡水に移動する魚もいます。このように、一生の一時期でも淡水で過ごす魚も含めて、淡水魚と呼んでいます。
海水魚と淡水魚は住む場所が違うため、それぞれの環境に応じた体の仕組を持っています。
海水の特徴は、その塩分濃度(約3.3~3.5パーセント)にあります。海水の塩辛さの正体はナトリウムイオンなどですが、ナトリウムイオンは、二つの面で生物に対して害を与えます。
一つめは、その毒性。生物の細胞内に入り込んでしまうと、悪影響を及ぼしてしまいます。そのため、すべての生物細胞の細胞膜には、細胞内に侵入してきたナトリウムイオンを体外へ排出する仕組みを持っており、これはナトリウムポンプと呼ばれています。
二つめの害は、高い塩分濃度が持つ脱水力です。水には「浸透圧」という特徴があり、半透膜を通して薄い濃度のものから濃い濃度のものへ移動する(濃度の低い方から高い方へ移動)性質を持っています。生物細胞の塩分濃度は0.9パーセントなので、もし海水がそのまま体内に侵入すると、細胞内の水が外に流れ出し、脱水状態になり死に至ってしまいます。
このため海水中に生活する魚の仲間は、まず鰓(えら)で塩分を排出し、塩分が少なくなった水を飲むのです。胃で吸収され血液に入った塩分は、腎臓でさらに抽出され、塩分の濃い尿として排出されます。ここで活躍しているのが、前述のナトリウムポンプです。海水魚は、細胞に必要な水を自家製造しているのです。ただし、軟骨魚類(サメ・エイ・ギンザメ)やシーラカンス類は、体内に尿素を蓄積して浸透圧を上げることで身体の外に水を奪われるのを防いでいます。
一方、淡水魚はどうでしょうか。淡水魚の場合は、海水魚と逆のことが起きてしまう危険にさらされています。つまり、体内の塩分濃度のほうが淡水よりも高いため、水分が細胞に侵入し、やがては水ぶくれになって破裂してしまう危険があるのです。そこで淡水魚は、水を少量だけ飲み、そこから必要な酸素と塩分だけを吸収し、大量の尿を排出しています。アユやサケなど、海水と淡水を行き来する魚は、この浸透圧調節を環境に応じて器用に切り替えているのです。
【参考文献】
- 岡村収・尼岡邦夫/編 『日本の海水魚』 山と渓谷社
- 川那部浩哉・水野信彦/著 『日本の淡水魚』 山と渓谷社
- 中村運/著 『生命にとって水とは何か』 講談社
- リバーフロント整備センター/編 『川の生物 フィールド総合図鑑』 山海堂
- ハゼの生理学
(http://homepage2.nifty.com/PhD-mukai/Laboratory/Remarks/Physiology02.html)