私たちは水をそのまま飲むだけでなく、お茶やコーヒーをいれる時や、料理をつくる時にも水を利用しています。飲料や料理にとって水は欠かせない存在であるだけでなく、どのような水を使うかによって飲料や料理の味わいを左右する場合もあります。
料理に用いる水の役割には、加熱・冷却をする、調味料の味をしみこませる、だし、茶、コーヒーなどの有効成分を抽出する、などさまざまな働きがあります。
お茶やコーヒーをいれるときも、酒類を造るときも、おいしさは茶葉や原料だけでなく水にも大きく影響されます。
1)緑茶と水
緑茶の味は、特に水に影響されやすいと言われます。緑茶の主な成分は、旨み・甘み成分の「テアニン(グルタミン酸エチルアミドというアミノ酸の一種)」、渋み成分の「カテキン(エピカテキンなど)」苦味成分の「カフェイン」ですが、この3つは特に水の温度や硬度に左右されやすい成分です。一般的には、緑茶のデリケートな香りを楽しむためには、硬度の低い軟水を使うとよいと言われています。
2)コーヒーと水
コーヒー豆の種類やロースト方法、ひき方などによっても変わってきますが、一般的には、軟水でいれると豆本来の香りや味を引き出し、コーヒーそのものの特徴が出ると言われています。一方、硬水でいれた場合は、カルシウムがいやな苦味の溶出を抑えてまろやかな味になり、またマグネシウムが多い水だと苦味が引き立つと言われます。
3)酒類と水
「銘酒のあるところは水もおいしい」というように、酒と水は切っても切り離せない関係です。日本酒、ビール、ウイスキーなど、酒類の原料を発酵させるときに、水に含まれるミネラルが酵母などの働きに大きく関わるため、仕込み水のミネラル成分の違いが、できあがった酒の味に影響するのだと言われています。
日本酒は、硬度の低い水で作ると軽くソフトな甘口の酒に、高い水で作るとキレのよい辛口の酒になるといわれていましたが、現在では酒造りの技術が進んで、さまざまな水から多種多様な酒が作られています。
ビールも9割が水でできているため、原料の水は大切な要素です。日本でよく飲まれている淡色ビールには軟水が適していて、濃色ビールには硬水が適していると言われています。
世界の有名なウイスキーの蒸溜所は、良質な水のある場所に建てられています。やはり仕込み水の質によってウイスキーの味が左右されるためです。
1)ご飯を炊く
一般的には、軟水が適していると言われています。
米をとぐ場合、米は最初の乾いた状態のときに吸収力があるため、最初にミネラルウォーターを注いでひと混ぜしてその水を流し、もう一度同じことを繰り返してから、水道水(できれば浄水器を通した水)で米をとぐとよいでしょう。
2)だしをとる
風味が命の和風だしは、材料だけでなく水の良し悪しで味が左右されると言われます。だしの素材の成分を十分に引き出せるのは、やはり硬度の低い軟水だとされています。硬水を用いた場合、水に含まれるミネラルがだしのうま味に関係するアミノ酸や核酸と結合し、うま味として知覚できなくなってしまうためです。昆布やかつお節は臭みが出ないうちに、すばやくだしをとることが大切です。
3)スープストックをとる
洋風スープのもとになるスープストックは骨付きの鶏肉や牛肉、牛すじ肉などを香味野菜などとともに煮込んで作りますが、このとき使う水は硬度が高めの中硬水がよいと言われています。 水に含まれるミネラルが肉類のたんぱく質と結びついてアクとなって溶け出すため、そのアクを丁寧にすくいとっていくと、澄んだおいしいスープができあがるのです。このとき水に含まれていたミネラル分も取り除かれるので、肉をやわらかく煮込むことができると言います。
【参考文献】
- 早川光/著 『ミネラルウォーターガイドブック』 新潮社
- 井上正子/監修 『ミネラルウォーターBOOK』 新星出版社
- 河野友美/編 『新・食品辞典11 水・飲料』 真珠書院
- 谷腰欣司/著 『トコトンやさしい水の本』 日刊工業新聞社
- 酒文化研究所/編 『酒と水の話 ~マザーウォーター~』 紀伊国屋書店
- 高野健次/著 『紅茶 おいしいたて方』 新星出版社
- 栃倉辰六郎 他/監修 『発酵ハンドブック』 共立出版
- 水ハンドブック編集委員会/編 『水ハンドブック』 丸善