森にはさまざまな生物が住んでいます。森を歩いていると、“生命の営みの音”が静寂さの中でにぎやかに奏でられていることに気がつくはずです。鳥のさえずり、虫の声、木々のざわめき、風の音、足もとをガサゴソと動く姿の見えない生き物の足音…。その豊かさは、計り知れません。
そのような森の栄養分は、森の主役である木とそこに住む生物たちの協力によって作られます。木々が成長し枯れ葉や枯れ枝が落ちると、土壌の表層に集積します。それを土壌に住む動物や微生物が分解し、森林植物の栄養源となっていくのです。
森に入って、表層にある枯葉をめくってみると、さまざまな虫などを見つけることができます。森林内は、寒暖、乾湿の差が比較的少なく、また水分とエサが豊富なため、土壌生物にとっては天国のような環境です。豊かな土壌が生物を潤し、またその生物が土壌を豊かにするという、ムダのない自然の共存が成り立っているのです。
森にはたくさんの生物が生息し、目には見えない多数の微生物が活動しています。落ち葉や枯れ枝が落ちて堆積すると、土壌動物である昆虫などがそれを食べ砕き、糞をし、微生物が分解する過程を経て次第に腐植土化していきます。また、動物の死がいや糞も、微生物や昆虫が分解します。その営みは連続的に行われているため、下の方から少しずつ腐植土化し、上のほうにはまた落ち葉が積もっていきます。山歩きをしていると気づくかもしれませんが、森林の土はフカフカとしています。これは、上に蓄積している落ち葉が適度な空間を作り出ししていることと、腐植土に住む動物や微生物たちの動いた跡や糞などによって、土の密度が低くなっているためです。その適度な空間に水を吸い込むことができ、一度吸い込まれた水は、その上に被さっている落ち葉の蓄積により蒸発しにくくなっています。このような自然が生み出したシステムにより、森はたっぷりと水を蓄えておくことができるのです。
健全な森林は木々に覆われており、下草も繁茂しているため、よほどの大雨でない限り、雨が直接大地を叩きつけることはありません。森林に降る雨は、時間をかけてゆっくりとその土壌に染みこんでいきます。まず木々や下草が大地の大きな“傘”の役割を果たしてくれます。もし、この傘がない裸の土地だとしたら(たとえば伐採した後など)、雨は大地に直接降り注ぎ、表層にある枯葉層と腐植土を洗い流してしまうでしょう。
森に降った雨は、枯葉層から腐植土へと染み込んでいきます。この腐植土の中には多くの微生物が存在しているというのは前述の通りです。微生物は、枯葉や動物の死がい、糞などの有機物質を分解するときに、無機酸(炭酸、硝酸など)や有機酸(シュウ酸、酢酸など)を発生させ、これらは鉱物の分解を早める働きを持っています。このような「生物的風化」などにより、大気中の有害な成分を含んで大地に降ってきた雨水が浄化されていくのです。腐植土を通った水は、その後、腐植土の下にある無機鉱質土層へと流れていきます。この鉱質に存在するナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの成分が水に溶け出し、地球の恵みをたっぷりと含んだ水へと変化していくのです。
【参考文献】
- 松永勝彦/著 『森が消えれば海も死ぬ』 講談社
- 藤森隆郎/著 『森との共生』 丸善ライブラリー
- 柳沼武彦/著 『森はすべて魚つき林』 北斗出版