2025年3月21日
#949 下川 甲嗣 『もう学ぶだけの試合はいらない』
試合にずっと出続けている下川選手。安定したプレーの背景に、どんな思いがあり、どんなラグビーを目指しているのでしょうか?(取材日:2025年3月中旬)
◆自分に責任がある
――先日の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦の出来はどうでしたか?
良くなかったと思います。プレーの質のところで言えば、序盤にタックルで警戒しようと言っていたところで決められなかったり、自分のタックルミスで相手にモーメンタムを作らせてしまったという部分がありました。試合の入りのところで、自分に責任があると感じています。
――その前の試合までは良かったと思いますが、自分自身の手応えは?
自分の感触として、良かったと思えるプレーは増えてきていると思いますが、一貫性というところでは、まだぜんぜん足りていないと思います。これ以上が良いというラインを、超えたり下がったりしています。一貫性があるかと言われたら、まだないと思います。
――ずっと一貫性を目指していたと思いますが、どこを改善すれば良いと思いますか?
上手くいった時もそうですし、上手くいかなかった時もそうですが、シチュエーションは違いますけれど、何がダメだったのかというところを突き詰める作業をしていますが、それをなかなかゲームで出せていないと思います。
◆チャンスをもらってチャレンジする
――その"突き詰める"ということでは、いつ頃ラグビーをとことんやろうと決めましたか?
大学生の時ですね。高校から大学に上がるタイミングでは、自分に自信がなかったんです。選抜も含めて全国の舞台に立てなかったので、自分がどのくらい通用するかという指標も、高校の時にはありませんでした。それで、高校から大学へ入る時に山下大悟監督(当時の早稲田大学監督/サンゴリアスOB)にチャンスをもらって、早稲田でチャレンジするというマインドで続けました。そこで本当に成長させてもらって、もっとラグビーをやりたいと思いました。
――大学でとことんやって手応えを感じたのですか?
いちばん大きかったのは、1年生の時から試合に使ってもらえていたことです。スキルもぜんぜんなかったんですが、試合にたくさん使ってもらえたので、どんどん経験値を積むことが出来て、そうやって成長させてもらって、少しずつ自信がついていったところがありました。
――その時もそうですが、今シーズンも昨シーズンもずっと試合に出続けていますよね。何か使いたくなるものがあるんじゃないですか?
自分では分からないです(笑)。
◆強みになると気づかせてもらった
――プレーをする上で気をつけていることはありますか?
フィジカルで圧倒的な選手でもありませんし、ショーニー(ショーン・マクマーン)みたいに爆発的なパワーを持っている選手でもないので、誰でも出来る仕事の数、いるべき場所に早くいる、動き出し、そういうところを意識してプレーしています。
――体には自信があるんですね
体力には自信があります。子どもの頃から体力には自信があったと思います。
――大学で突き詰めてやって、更に体力に自信がつきましたか?
そうですね。高校の時は、自分には体力があるとは思っていませんでしたが、大学でたくさんの経験を積ませてもらっている中で、そこは自分の強みになるかなと気づかせてもらったという感じです。
――怪我をしないと思いますが、どんなふうに気をつけているんですか?
みんながやっているような怪我をしない予防とか、ケアやストレッチとかはやっていると思いますが、特にこれということはないです。
――いるべき場所に早くいるという部分は、どう鍛えているんですか?
そこは鍛えたという感覚はなく、僕の中で根本にあるのは、高校時代に戻るんですけれど、高校時代は本当に小粒でしたし、例えば東福岡高校の選手と比べると小粒で、ひとりがふたり分くらい仕事をしないと、本当に戦えないようなチームでした。だから、やらないと体が気持ち悪いという感覚になります。その高校時代のDNAが少しはあると思います。
逆に、その部分しか持たずに早稲田に行ったので、フィジカルの部分は恥ずかしいくらいなかったですね。早稲田に入った時に恥をかきました。そこは時間と早稲田での日々が成長させてくれたと思います。
◆チームのラグビーをちゃんと理解できているか
――それだけやっていて、一貫性あるプレーをするために再度聞きますが、今どういうことが必要ですか?
根本には動ける体じゃなきゃいけなくて、動こうというマインドがなければいけないと思います。最近、とても思うのは、チームのラグビーをちゃんと理解できているか?というところがプレーの予測にも繋がってくるので、そういう部分での準備が大事だと感じています。
――体は大きくしようとしているんですか?
体はいろいろと試行錯誤してやっているんですけれど、まだこれがベストの体というのは分かっていません。体を大きくすれば良いというわけでもないですからね。ショーン・マクマーンがいちばん良い例だと思うんですが、そんなに体重が重いわけではないけれど、その分スピードとパワーがあって、とても強いじゃないですか。自分の体はこの状態がいちばん強いというものを持っているんだと思います。
――日本代表に関して目指していることは?
それはまた日本代表に選ばれてから考えたいですね。
――昨年プロになったのは、どんな考えで?
2023年のラグビーワールドカップのメンバーに選んでもらえて、試合にも出られました。それは自分にとっても素晴らしい経験になりました。ただそれまでのプロセスでは、バックアップメンバーでずっとチャンスを伺っているような、こぼれてきたチャンスをモノにするというポジションにいたと思います。僕としては悔しいという思いが大きくて、もし次の2027年のワールドカップを本気で目指すとなったら、そのチャレンジに対して後悔をしたくありませんし、ラグビーに対してしっかりと力を注ぎたいと思いました。その手段がプロという選択肢でした。
――プロになって良かったですか?
はい。今はラグビーに費やす時間、自分の体に向き合う時間が増えたので良いと思っています。
◆泥臭いプレーが出来ている時が良い時
――今チームが厳しい状況ですが、このチームをどう引っ張っていこうと思っていますか?
こう引っ張りたいと意識していることはありませんが、僕は器用なことは出来ませんけれど、泥臭いプレーが出来ている時が自分の良い時だと思うので、出来るだけフィールドに立って、そういうプレーをやるということだと思います。
――それはシーズン終盤に向けての目標でもありますか?
いま言ったところと、ディフェンスのところでリーダーとしてやっているので、チームに対してディフェンスをドライブすることもそうですし、リーダーとして体現しないと説得力が生まれないと思うので、その部分は毎試合のように課題はあると思っています。
――変わるためにどんなきっかけが必要ですか?
難しいですけれど、やりたいことが明確で、それに必要なことが、毎週「今週はこれにフォーカスしてやろう」とやっていきます。それを単発で終わらせることなく、繋げていくことが大切だと思います。僕はリーダーとしてやっていて、そこがどうすれば良くなるか常に考えているところです。
――終盤に向けて、ファンの人たちにチームや自分のここに注目していて欲しいというところは?
もう学ぶだけの試合はいらないと思うので、ここから必要なことは勝つことだけです。勝ちに対して全員がハングリーになって戦うことが大切だと思うので、そこを全員が体現できればと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]