2025年2月14日
#944 箸本 龍雅 『何かを変えなきゃいけない』
タックルを決め、ボールキャリーでも存在感を示した箸本選手。"心技体"の"技体"以上に、"心"の部分が変わっていました。(取材日:2025年2月中旬)
◆いちばん良いキャリー
――神戸戦は途中出場ながら、多くの良いプレーがありましたね
今シーズンの出場はすべてリザーブからですが、少ない時間の中でいかにチームの中での自分の役割を遂行できるか、チームが80分間戦っている中で自分は勝つために何をしなければいけないか、自分ではなくチームとしてという視点で考えるということを今シーズンは特に意識していますが、それが出来てきているのかなと思います。
――前半攻めていたサンゴリアスが、後半は逆に攻められていて、ディフェンスにやりがいを感じている箸本選手が攻められている時間に入ったのは、良いタイミングだったのでは?
そうですね。ディフェンスが多い時間帯で出たという認識ではありませんでしたが、結果的にそういう状況で出ました。タックルのヒットでちゃんと当たれている部分はありましたが、個人的にはまだまだクオリティを上げられるという自信はありました。もっとドミネートして、タックルで相手の勢いを止めることはもっともっと出来ると思いますし、そこにはぜんぜん満足していません。
――ボールキャリーについてはどうですか?
今までサンゴリアスに在籍して、公式戦の中ではいちばん良いキャリーを出せたシーンでした。やっと公式戦でやりたかったキャリーを、少しだけですが出すことができました。あれをコンスタントに出すことがチームとして必要とされることではあると思うので、まず第一歩としては自分の中で自信になりました。
――今回そのキャリーを出せた要因は?
練習の取り組みです。火曜日がいちばん激しい練習ですが、そこでフォーカスしていることは、常にボールをもらえる位置に立つ、前を見て早くセットするということで、今シーズンは継続して意識して取り組めています。試合と同じくらいの強度で練習できている成果が、今回のキャリーに繋がったと思います。
◆身体が強くなった
――あのキャリーからは、とにかくがむしゃらに行くというところを感じましたが、本人の意識は?
あれはそれこそ役割で、僕のところにボールが来ると思っていたので、1対1のコンタクトのところで勝つということにフォーカスしていました。
――1対1のコンタクトで勝った結果があのゲインだったわけですね
そうですね。最初からあれを狙っていたわけではありません(笑)。
――身体も大きくなったように感じますが、そこも好影響ですか?
身体が大きくなっているかは分からないですが、体重は落としました。身体が大きくなったという感覚よりも、強くなったという感覚はあります。当たりのところでも、体重が軽くなっても負けてないという感覚があります。
――自分の中ではやっとそういう感覚になってきたという感じですか?
そうですね。今までは体重を重くしていて、自分のやりたいプレーとギャップがある時期もありました。そこが頭と身体の意思が一致してきたような感じはしています。
◆相手の映像をよく見る
――次に目指すところは先発メンバーだと思いますがいかがでしょう?
スタートから出たい気持ちはあるんですけれど、リザーブで出ている時には「スタートを勝ち取ってやる」という目標でプレーはしていません。逆に今まではそういう意識でプレーしてしまっていたので、それが成果に繋がらなかったり、がむしゃら過ぎるが故に空回りしてしまっていたということが結構ありました。
今シーズンは特に、相手の映像をよく見るようになりましたし、チームが何をしたいかを自分の中で噛み砕いて理解しているつもりなので、そこでやる自分の役割が明確だからこそ、そこに対してのクオリティが少しずつ上がってきているという感覚があります。
――役割はどうやって絞っているんですか?
絞っているというか、自分の選択肢というよりもチームがやりたい方向性に合ったやり方をしています。自分はこれが出来るからこれをやりたいという気持ちは、今は全くないですね。そこの考え方がいちばん変わったかもしれません。
――それは昨シーズン出場が減ったことへの反省からですか?
いや、それは全く関係ないですね。恥ずかしいことではありますが、これまではあまり相手の映像を見ていなかったんです。自分はこういうプレーが出来る、こういうプレーがしたいということだけを考えてプレーしていました。だから試合によっては、チームがやりたいこととマッチしないことがあって、そのことにも気づけていないことがありました。
◆まずは自分で分析する
――そこはどうやって気がついたんですか?
休みのふとした時に、相手の映像を自分で分析してみようかと思ったんです。自分で分析して相手の特徴を出して、月曜日にその分析を持って行ったんです。それでコーチとのミーティングと照らし合わせると、その内容が合っていたんです。その時点で、その週のプレー、チームとしてやりたいことに対応したプレーが明確に分かって、その週の試合でのパフォーマンスも結構良かったんですよ。
相手を見ることは大事だと思いました。コーチの分析を聞くことって、人から人の噂を聞いて間接的に伝わった情報と似ていると感じていました。その人から直接聞いたことの方が、そういう場合は明確ですよね。それと同じで、まずは自分で分析することが大事だと思いました。
――今まではそれをやらなくても、ある程度出来ていたということですね
出来ていたのは大学までで、社会人になってからは出来ていなかったと思います。何となく、自分が出来るプレーをいつか出していけるのかなと思っていましたが、そうはいかないですよね。それでラグビーを全体的に考えるようになって、試合でパフォーマンスを出せている人は、絶対にチームのやりたいことを理解していると思います。チームとしてどう動くかが、サンゴリアスでは大事だなと思うようになりました。
――よりディフェンスしやすくもなりますね
そうですね。相手の分析をしているので、どういうアタックをしてくるのかがよりイメージつくようになりましたね。
――そうなると相手の映像を見ることが楽しくなってくるんじゃないですか?
その分析がチームの分析と合っていると楽しいですし、役割がより明確になりますね。月曜日はインプットの日なんですけれど、そこでチームがやりたいことと自分がやることを明確にして、火曜日の激しい練習の時にそれがどれだけ出来たか、そしてそれを反省して、週末に向けてより明確にして、精度を上げていくという取り組みが、今のところ上手くいっていると思います。
――次の東芝戦では、自分のやるべきことは明確になっていますか?
明確ですね。あとはやるだけです。週末は頭がクリアになっています。週の前半はメンバーに入るか入らないかも分かりませんし、いろいろとインストールしなければいけないことがあって頭がパニックになるんですけれど、家に帰ってそれをノートにまとめると、次の日の朝起きた時には結構スッキリした状態になっています。ですから試合後の練習再開の1日目が、自分の中でとても大事ですね。
◆頭を使って準備
――家の近くのランニングは今でも続けているんですか?
最近は走っていないですね。あの時はそれが大事だったかもしれませんが、今はどちらかというと頭を使って準備しているので、運動能力の準備というよりも、頭の準備の方が効率が良いなと思っています。
――相手が見えるようになって、改めて感じるラグビーの面白さは?
アタックの時は、今までは自分がボールをもらったスペースでどれだけ出来るかを考えていたんですけれど、それはチームがやりたいラグビーのいちフェーズに過ぎないと考えるようになって、次にこの場所に行って、起き上がった時にはチームはこっちに行きたいから、自分はこっちに行くよなと全体的に見ることができるようになりました。そういうことを考えられるようになって、ラグビーをチームでやる感覚がより強くなりました。自分で何とかしようという気持ちには、あまりならなくなりました。
――気持ちがシンプルになった感じですか?
そうですね。言い方が悪いかもしれませんが、これで良いんだというか、その分ひとつのプレーの責任は重くなりますが、この場所では絶対にこれをやらなければいけないという感じです。今まではここで100点を出す、ここでめちゃくちゃ前に出て活躍するというような考え方でしたね。
――そういうように変わると、次のプレーへの準備、動きも早くなるんじゃないですか?
はい、間違いなくそうです。無駄な動きが減ってきて、行くべきところに行くという感じです。
◆ポジティブに捉えれば自分に返ってくる
――いつから映像をよく見るようになったんですか?
今シーズンの開幕した後、開幕戦と第2節にはメンバーに入って、その後2試合ではメンバーから外れました。そのメンバーから外れた時に分析を始めました。「何かを変えなきゃいけない」と思いましたね。
――開幕2連敗した時はどう思っていたんですか?
時間が短かったこともありますが、自分のプレーもぜんぜん出せませんでしたし、結果にも結びついていませんでした。チームから求められていることも、あまり出来ている感じがありませんでした。「メンバーから外れるかもしれない」と、第2節を終えて感じるようになりました。そして次の試合からはメンバーから外れました。
メンバーから外れた意味を考える場合、捉え方によってはネガティブに捉えられますよね。僕は「絶対にネガティブに捉えることはしない」という考えを、ここ1、2年で身につけました。ポジティブな理由は探せば絶対にありますし、ポジティブに捉えれば結局それは自分に返ってくると考えていました。
――ネガティブに捉えると、どんどん落ちていってしまいますか?
めちゃくちゃそうです。最初にネガティブな理由が出てくるんですよ。それを打ち消すポジティブな理由を考えるんです。ネガティブに考えていて、良いことが起きたことはありませんでした。ポジティブに考えていたら、それを考えたおかげでこれが出来たという、新たな収穫もあります。メンバーに入ったか外れたかだけじゃなくて、そういうところも含めてすべて月曜日にポジティブに変えるんです。それで火曜日からポジティブに行きます。だから月曜日がいちばんナーバスですね。
――月曜日にインタビューをするとぜんぜん違うことを言うかもしれませんね
うーん、でも口には出さないです(笑)。
◆1%上げる
――ポジティブに捉えるやり方を始めたら、チームも3連勝ですね。それは偶然の一致ですか?
自分としては、偶然としか言えないですね(笑)。自分のやる仕事は結構出来てきていると思います。そこは自信になっています。
――チームとしてはどうですか?
ぜんぜん変わったと思います。2連敗からの引き分けの時も変わりつつあったんですよ。あと少しというところまで来ていました。チームとしての取り組みが形として現れてきている。それが何の取り組みかと言うと、ひとりひとりが1%上げる。それまでは攻めて攻めて、最後のチャンスで取り切れない、それで相手には簡単に取られるということが多かったですが、それは本当にちょっとした理由だったんですよ。そこを詰めていきましょうと話して、それも段々と形になって勝てるようになって、チームとしての勢いもついてきているのかなと思います。
――シーズンの1/3を終えましたが、中盤・終盤に向けての目標は何ですか?
ひとつひとつのプレーの質を上げることです。リザーブで出ることが多いので、自分がその仕事の時はチームの流れを変えられるような効果的な仕事が出来るように、相手を知って、良い準備をして、自分のメンタルも良い準備をして、やり続けることですね。
――最終的なターゲットはスタメンですか?
そうですね。スタートで出たいですね。試合に長く出ていた方がプレーも多く出来るので、スタメンで出たい気持ちは強くあります。この3試合でラグビーの考え方を変えられた気がするので、あとはどれだけ出すかだと思います。
――次の東芝戦に向けての気持ちは?
チームとしては、府中ダービーで歴史ある戦い、プライドの戦いだと思います。相手はフィジカルに来ると思いますし、負けられない戦いですし、フォワードが鍵を握っていると思います。昨シーズンは1試合も東芝戦に出られなかったので、昨シーズンのチャンピオンに対してどれだけ出来るのかというところも個人としてはチャレンジしていきたいと思っています。相手の強みに対して、自分がどれだけ仕事が出来るかというところが楽しみですね。
――ファンの皆さんに「ここは任せて」というところはありますか?
ディフェンスでは、いちばんタックルします。継続的にズバズバ行きます。アタックでは前の試合で良いボールキャリーが出来たので、前に出続けるプレーでチームを勢いづけて、ショーン(ショーン・マクマーン)やタマティ(イオアネ)の素晴らしいボールキャリアーからいろいろと学びながら、自分も良いプレーが出来たらと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]