SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2025年1月 3日

#938 河瀬 諒介 『15番を着続ける』

開幕戦からフルバックで先発出場し、2戦目にはハットトリックを達成する一方、サヨナラトライを逃した河瀬選手。その時と現在の心境、そしてこれから目指すものを聞きました。(取材日:2024年12月下旬)

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◆取り切らないといけない

――リコー戦の3本目のトライは、グーンと加速したように感じましたが、自分の感覚はどうでしたか?

ボールを持った時には前に相手がいなかったので、これは行くしかないと思って(笑)。フォワードを1人かわした後、2人が来ているのが見えて、一度スピードを緩めたら相手も止まったので、これは行けると思いました。結構スピードが出たんじゃないかなと思ったんですけれど、GPSの数値はそこまで出てなかったですね。

――1本目、2本目のトライは流れで取った感じですか?

そうですね。もうボールを持ったらトライという感じでした。

――4本目のトライかと思われましたが、あのプレーについてはどうですか?

いやー、もう紙一重だったので、悔しいですね。やっぱり15番としては、あそこで取り切らないといけないと感じています。

――プレーとしてはギリギリでは?

内に切るか、外でトライを取りに行くか、パスが来ている間に考えました。行けると思ったんですけどね。

――試合後はグラウンドに残っていましたが、あの時はどんなことを考えていたんですか?

やってしまったなと。あそこまで攻め続けていて、内に切ればまだプレーは続いていたと思いますし、もしかしたらプレーが続いてトライまで行ったかもしれませんし、ボールを受取った瞬間から外側に走って行ったらトライになっていたかもしれないとか、"かもしれない"がずっと頭の中にありました。本当にネガティブなことしか考えられませんでした。試合に出ているひとりとして、サンゴリアスの代表としてやっぱり勝たなければいけないという思いがいちばんにあるので、それに対して勝てなかったというのはとても責任を感じています。

――その責任を一心に背負っているように見えました

いろいろ考えたらネガティブなことばかり出てくるので、考えないようにしておこうと思ったんですけれど(笑)。

――そのネガティブな状況からは抜け出せましたか?

少し時間はかかりましたけれど、終わったことは変えられませんし、シーズンは続いていくので、引きずっている暇もありません。また1週間後にはトヨタ戦なので、だから試合の日は落ち込んで、日を跨いだらまたトヨタに向けて頑張ろうと思いました。

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◆成長した部分

――今シーズンはフルバックで出場していますがどうですか?

ウイングよりもフルバックの方が自由に動けますし、僕の強みのスピードとかハイボールキャッチとかをアピールするには、フルバックの方が良いと思っています。自分的にもフルバックの方が落ち着きますね。

――今までもフルバックが本業という意識だったんですか?

フルバックが良いなと思いつつ、試合に出られればどこでも良いと思っていました。今シーズンはフルバックで出る機会が巡ってきたので、チャンスだと感じています。

――フルバックは最後に守らなければいけないところであり、最後に決めなければいけないところでもありますが、2試合やってみて、今の課題はどこになりますか?

課題はディフェンスのところで、パナソニック戦では抜かれたこともありましたし、ウイングとのコネクションがもう少し出来るようになれば、チームとして良いディフェンスになれると感じています。

――良いタックルを決めるシーンもありましたよね

リコー戦は上手く良いコースに入れてタックルが出来たので、そこはパナソニック戦から成長した部分だと思います。

――チームとして開幕2連敗、試合後のロッカーの様子は?

正直、あまり覚えていません。自分のことにガーっとなり過ぎて、あまり覚えてないですね。

――試合後1日休んで、休み明けのチームの様子はいかがでしたか?

もちろんリコー戦で反省すべきことは反省して、次のトヨタ戦に向けてどう活かすかとチームで話していましたし、雰囲気も悪くはないかなと思っています。

――開幕戦よりも2戦目の方が手応えは掴みつつあるんですか?

今までやってきたことが出せた時は良いアタックも出来ますし、それこそ22mラインに入った時のアタックは上手くいったところもあったので、そこは良いところかなと思います。トヨタ戦に向けてやることは明確になっているので、それを遂行するだけだと思います。

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◆いま積み上げている

――ランとキックとハイパントキャッチが評価されていますが、キックはどうですか?

キックは昨シーズンから取り組んでいて、ディーン(カミンズ/アシスタントコーチ)と一緒に個人的に練習をして、自分の癖、良い時の癖と悪い時の癖が自分の中でも分かるようになってきました。試合中にミスキックをしても、何が悪かったのかがすぐに分かるようになったので、次のキックで修正できるようになってきました。

――良い時の癖と悪い時の癖はどんなものですか?

ボールを落とす時にブレてしまうことが、今までは多かったんです。キックの時の自分の身体の動かし方は上手くいくことが多いので、ボールドロップのところに集中してキックを蹴っています。

――ボールが動いてしまうのは、なぜですか?

まずキャッチが上手くいけば、落ち着いてボールドロップ出来ます。相手がキックを蹴った後の蹴り返しなどは落ち着いてボールドロップ出来るんですけれど、例えばスクラムハーフからのパスでキックアウトする時には時間もないですし、そういう時にキャッチをミスってしまうと、ボールドロップが上手くいかない時があります。

――キャッチをミスしないようにするためには?

意識しているのは、ハンズアップして指をしっかりと広げるところです。

――器用そうに見えますが

不器用だと思っています。

――ランが出来て、キックが出来て、ハイパントキャッチが出来れば器用なのでは?

走るのは昔から好きで、ラグビーを始めても好きでずっとやっていたんですけれど、ハイパントキャッチは大学に入ってとても練習をして、出来るようになるまでかなり時間がかかりました。キックもいま積み上げているような感じです。

――走るのが好きであれば3本目みたいなトライは気持ちが良いでしょうね

気持ち良かったですね。

――ああいうプレーをたくさんやるためには、どういうことを気にかけていますか?

スペースをしっかりと見て、空いているスペースを探すということと、あとは内側の選手、幹也(髙本)とか、センターに入る選手としっかりとコミュニケーションを取って、どうやってパスをもらいたいかとか、ボールをもらうタイミングとかを、コミュニケーション取ってやっていければいいなと思っています。

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◆身体を動かすことがとても好き

――これまでのスポーツ暦として、水泳5年、バスケットボール3年、野球2年、サッカー1年とたくさんのスポーツをやってきているので、器用なんじゃないかなと思いました

身体を動かすことがとても好きで、最初に野球を始めたんですけれど、ビックリするくらい下手でした(笑)。小学2年だったんですけれど硬球だったので痛いし怖いし、練習時間も長かったんです。ラグビーも痛いですけれど、野球をやっていて顔にデッドボールが当たったことがあり、嫌だなと思うようになって、小学4年生で辞めました。ポジションは外野かサードで、辞める少し前に監督からサードをやれと言われて、1人でノック50本くらいやらされて苦痛でしたね(笑)。外野で足の速さを活かしてボールをキャッチするとか、そっちの方がまだ楽しかったですね。

――水泳はいちばん長いですね

水泳は姉2人もやっていましたし、泳げた方が良いと思ってやっていました。やっていた時は平泳ぎが得意でした。大学で途中まで教職課程を取っていて、教職を取るには水泳の授業がありました。その水泳の授業でバタフライをやった時は、かなり上手かったですよ(笑)。

――バスケットボールは?

野球を辞めたら土日の予定が無くなったんです。野球を辞めて、ラグビーとバスケットを同時に始めました。ラグビーは日曜日で土曜日が暇で、姉が昔行っていたミニバスを土曜日にやっていたので、それでバスケットもやるようになりました。バスケットはシュートは苦手でしたね。ドリブルでバーッと行って、レイアップは入るんですけれど、シュートは苦手でした。

――あとはサッカーですね

サッカーは小学6年の1年間だけでした。学校の体育でサッカーをすると思うんですけれど、サッカーをやっている人たちに混ざってやったらちょっと上手かったんですよ。それで一緒にやろうと誘われて、それでサッカーを始めました。けれど、サッカーの試合が日曜日でラグビーと重なっちゃうことが多かったので、ラグビーを優先してサッカーの試合にはたまに行くという感じでした。

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◆走るのもフィジカルプレーも楽しかった

――これだけ多くのスポーツの中で、なぜラグビーを選んだんですか?

中学でラグビー部とサッカー部があって、1週間の体験入部期間があったので、どちらも体験に行こうと思っていました。それで初日にラグビーに行って、次の日にサッカー部の体験に行こうとサッカー部の部室に入りました。僕は小学校の時からずっとラグビーを優先してきたので、サッカー部に入ろうと思っていた人たちみんなは、僕はラグビー部に入るもんだと思っていたそうです。

それで僕がサッカー部の部室に入って着替えているから、サッカー部に入ろうと思っていた人たちは何しているんだろう?と思ったらしいんです。たぶん冗談だと思うんですが、「ラグビー部に帰れよ」って言われたんです。それにプチンってきて、絶対にサッカー部には入らないと思って、そのままラグビー部の練習に行きました(笑)。

――その前からラグビーを優先してきたわけですが、それはなぜですか?

楽しかったからじゃないですかね。走るのもそうですし、小学校の時から身体は大きい方だったので、フィジカルプレーも楽しかったですね。

――今も楽しいところは変わりませんか?

そうですね。ラグビーは走っても良いし、パスしても良いし、キックしても良いし、当たっても良いし、いろんなことが出来ます。サッカーもバスケットもやりましたけれど、強くぶつかるとすぐにファールを取られて、そこがもどかしい部分でもありました。それでラグビーを選んだという部分もあると思います。

――コンタクトして勝つのも好きですか?

コンタクトすることはあまりなかったですけれど、コンタクトして勝てたら楽しいですね(笑)。

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◆ミスしても良いから自分のやりたいことをやろう

――2シーズン前は3試合連続でトライを取っていて、昨シーズンはトライがありませんでしたが、シーズンの半分くらいの試合に出たいと言っていました。それが上手くいかなかったのはどうしてでしょうか?

昨シーズンまでは練習でも試合に出ても、良いプレーを見せないとメンバー選考に入れないと思っていたので、上手くやろうとしたり、ミスしないプレーを選択したりして、保守的になっていました。そういう気持ちでやっていることが、良くないと思ったんです。今シーズンはミスしても良いから、自分のやりたいことをやろうと思ってプレーしています。

――なぜそのように開き直れたんですか?

ニュージーランドに2ヶ月間留学させてもらいました。ニュージーランドの選手たちはみんながそんな感じで、ミスしても「あ、ゴメン、ゴメン」という感じでした。その中でやっていて、初めはミスしたらヤバいと思っていたんですけれど、チームメイトはぜんぜん気にしていなかったですし、自分のやりたいことをやっていいんだと思うようになって、そういう気持ちでプレー出来るようになりました。

――心底思えなければ変わることは出来ないと思うんですが、よく変わることが出来ましたね

今でもミスしたらどうしようと思う時はあるんですけれど、そう思った時に気持ちの切り替えというか、そんな思いではいけないと思えるようになったのは、ニュージーランドの2ヶ月間があったからだと思います。ニュージーランドへ行って、そこがいちばん変わったところだと思います。

――プレーについてはどうですか?

ニュージーランドはサンゴリアスとは違って、試合前に相手チームの分析をして、こういうプレーをしようということがなくて、ミーティングもありませんでしたし、練習も同じような練習ばかりでした。クラブチームだったので、みんな他に仕事をしながらラグビーをやっていて、夜の練習に人が集まらなかった時もありました。サインプレーも元々あるものが少しだけでした。

――留学中、彼らが働いている間は何をしていたんですか?

平日は午前中はジムに行って、お昼を食べて、日によってはその後にもまたジムに行っていました。週1~2回はサントリーのグループ会社であるフルコア社にお邪魔して、仕事の見学やスーパーの店頭を作ることを手伝ったりしていました。

――仕事面での発見はありましたか?

スーパーの店頭を作ることは日本でもやってことがなくて、初めてやりました。エナジードリンクの店頭陳列をやりました。初めての経験でした。

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◆やることが明確になっている

――今シーズン、プレーしていて、集中力が増したと感じることはありますか?

やることが明確になっていると感じていて、自分のやるべきことを試合前の1週間でしっかりと整理して、試合に臨めています。試合中にミスをしても、次に何をやるかが頭の中で整理できていますし、試合前も頭がクリアなので、緊張もあまりせず出来ています。集中力が高くなっていると思います。

――今までは緊張していたんですか?

そうでうね、緊張したりしなかったりですね。

――今シーズンの目標をお願いします

もちろん優勝することを目指していますけれど、目の前の1試合1試合でしっかりと勝ちを積み重ねて、そして1試合でも多く出続けられるようにやっていきたいと思っています。

――自分にとってのWIN THE ONEは何ですか?

15番を着続けることだと思います。セレクションがある中でも15番を着続けることが重要なことだと思います。自分の中でのWIN THE ONEはそれです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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