2024年12月13日
#934 中村 亮土 『絶対に勝たなければいけない緊張感が好きでやめられない』
考え方、心の持ち方、精神的な方向性。誰もが真似出来るわけではないその姿勢に、中村亮土選手のラグビーが詰まっています。(取材日:2024年11月下旬)
◆いち後輩
――今日はゴルフの宮里藍さんが選手の皆さんへお話しされました。ゴルフ好きの中村選手にとって得たものが多かったのでは?
とても楽しかったです。自分にベクトルを向けるという話があって、そこで再確認できたのは、個人競技も団体競技もスポーツ選手として変わりはないんだということ。そこが共通点だと思いました。そして、自分がコントロールできるところにフォーカスしていく。
さらに、周りに携わるスタッフに対しても、どういう接し方をしないといけないか。そこは新しい観点というか、今まで僕は自分に対しての接し方とか自分がどうするかということに目を向けていましたけれど、年齢が下の選手たちが入ってきて、彼らの悩みを聞いたりもしますし、そういう時にどう対応するのかが参考になりました。
――お父さんの話もありましたね
僕が最後に質問して、僕は3児の父親ですし、宮里さんも3兄妹ということで、お父さん、お母さんがどう教育していたのか、みんながプロゴルファーで、人としても素敵な方ですし、どういう教育をしてきたのかが気になりました。ゴルフが中心の中でもプロとしてじゃなくて、人間としてまず正しくありなさいとずっとおっしゃっていたそうです。僕もそこを参考にしながら、子どもたちと接していきたいなと思いました。
――お子さんは何歳になりましたか?
7歳、4歳、2歳です。めちゃくちゃ可愛いです。
――あっという間に時間が経つので、とても大事な時期ですね
今回は日本代表に入っていないので、家族との時間が出来たというか、子どもの成長を間近に見ることが出来ているので、幸せだなと感じています。あと、いちばん上の子は、ある程度は話も出来て、自分のことも出来るようになっているので、子どもというよりもいち大人、いち後輩として接しています。
――子どもにとっても嬉しいんじゃないですか?
嬉しいと思います。ベースとして、期待じゃなくて信頼をしてあげて、その中で自由にやらせてあげるということを、僕は子育ての中で大事にしているかもしれないですね。
――それは自分もそう育てられたんですか?
そうやって育てられたと、大人になってから気付きましたね。それは僕にとってすごく居心地が良くて、安心感があって、伸び伸びと出来た要素だったので、それは自分の子どもにもしてあげたいなと思っています。
――そうすると、これだけ自信を持った人になるわけですね
そうなって欲しいですね(笑)。
◆もうひとつ先を探っていく
――宮里さんのお話は好きなゴルフの参考になりましたか?
もう一緒ですね。ゴルフとラグビーって違うようで、マインドの持ち方とか準備の仕方は一緒だと思います。どういうルーティンを持って、どういう考えを持って、どういうプレーをするのか。プレーに対してのプロセスは人それぞれだと思いますが、同じ流れで臨むことが大事なので、今回話を聞けたのは、それぞれパフォーマンスを上げるために要素があるということ。メンタルだったり、技術、フィジカル、精神面、社会性、そのどこにフォーカスして良くしていくのか。それをちゃんと分析して、日々やっていかないと、あやふやなままで次のステップには行けないので、自分を客観視して分析していくことが、とても大事なんだなと思いました。
――いくつかフォーカスするポイントがありますが、日によってフォーカスするポイントが違うんですか?
違うと思いますし、時期によっても違うと思います。結局、ラグビーも自分がミスした時に何が良くなかったのかを考えるんですけれど、直接的なことで言うと、例えばノックオンしましたという場合。ボールをもらう前に手を挙げていなかったとか、ちょっと前のパスが悪かったとか、直接的な原因を探すことはあるんですけれど、もう一つ前を辿ると、じゃあなぜここにパスが来たのか、なんでハンズアップしていなかったのか、そのもうひとつ先を探っていくんです。事前のコミュニケーションが無かったとか、自分は外のスペースを見ていたから手を挙げていなかったとか、ひとつ前のところに原因を見ていくと、何となく次の反省点が見えてくるということがあります。
ゴルフも同じで、ここのショットをミスった。その原因はグラウンドが悪かったとか直接的な要素もあると思いますが、じゃあなぜミスったのか。グラウンドもそうですけれど、その前に同じような場所でトップしていたとか、切り替えが上手く出来ていなかったとか、それは精神的なマインドセットのミスだったと気づけると思います。そこが勉強になったし、改めてそうなんだと感じましたね。
◆スポーツそのものの楽しさ
――ゴルフとラグビーが似ていて、ゴルフが大好きということは、ラグビーも大好きということですよね
ラグビーは大好きですよ。緊張感がとても好きで、ゴルフも人に見られていて、パターとか緊張する時がありますよね。ああいう緊張感が好きで、ラグビーも強い相手とか、ビッグゲームとか、ここの試合で絶対に勝たなければいけないという緊張感が、僕にとってはとても心地良いんです。あれが好きでやめられないのかもしれないです。
――それは前から好きなんですか?
前からというか、本当に小さい頃から強い相手とやる時にワクワクしたり、そういうマインドを持っていて、もともとそうだったので、その共通点がいちばん近いかもしれないですね。
――普通は萎縮したり、やりたくないという気持ちになると思いますが、そこでワクワクするのはなぜだですか?
それがスポーツそのものの楽しさだと思っています。
――相当強い相手だったら、敵わないなとは思わないんですか?
それはないですね。ゴルフだと、僕より上手い人は数知れずいるので、そういう時は学びにフォーカスして、どういうマインドで、どういう打ち方でどういう技術を持ってやるのかを、ちゃんと見ながら学ぶように切り替えます。ラグビーの場合は、同じ土俵に立ったら同じステージなので、それはないですね。
◆他人を変えることは出来ない
――ここは自分ではコントロール出来ないこと、これは頑張らなければいけないこと、という線引きはどのようにやっているんですか?
僕は切り離さないかもしれません。情報として得て、それをエネルギーに変えたり、そこは関係ないとブツっと切ったりします。とりあえずは受けますね。それこそコントロール出来なくても、天気などは自分のパフォーマンスに絶対に影響します。風とか雨とか。じゃあどうしなければいけないのか、プレーに対して影響する要素なので、そこは考えたりします。
例えば、SNSでの反応とかは気にしないですね。いや、気にするかもしれないですね。応援してくれるポジティブな意見は素直に受け入れつつ、ネガティブな意見に対しては自分のエネルギーに変えるというか、そこをどうひっくり返していくかという楽しさに変えているかもしれないですね。
――楽しさに変えるということは、自分でコントロールできる部分ということですね
はい。相手の意見を変えようとするのはコントロール出来ない部分ですよね。他人を変えることは出来ないときっぱり思っているので、しないですね。
――それは前からですか?
それは前からじゃないかもしれないですね。徐々に、大学から社会人までやってきて、後輩の中には頑張って欲しいと思う選手もいました。僕の中でこうしてあげたい、こうなって欲しいと話していた時があったんですけれど、彼はそんな気持ちはなくて、頑張るけれど何となくやっているという感じでした。それに対して何故?と思いましたね。人って変えられないけれど、自分は常に変われると。影響させられる人間ではありたいけれど、人を変えようとは思わなくなりました。変わるのは自分次第だと思っているので、自分が変わっていったのも人から影響させられたけれど、変わったのは、自分がどうやったか、自分が行動したから変わって成長してきたと思うので、それを人に求めると、なかなか受け取る方、やってあげる方もしんどくなってくるのかなと思います。
――将来指導者になった時を考えるとどうですか?
本当に我慢ですよね。先ほども話に出ましたが、我慢だと思います。指導者は、いつそいつが変わるか分からないので、我慢し続けることが仕事だと思います。良い影響を及ぼし続ける、継続することが大事なのかなと思います。
僕は何か目的がないと、継続も出来ない人間だと思います。何となく始めたことや本当に好きなことじゃなければ、すぐに出来なくなりますね。目的があることとか、好きなことに対しての熱量はめちゃくちゃ高いと思います。ガッと行くので、興味がないことと好きなことはハッキリするかもしれないですね。
自分の中で、新しいことに挑戦することは好きですよ。自分が出来ないことは悔しくて、人並み以上に出来るようになりたい人間なんですよ。それである程度できたら、本当に好きじゃなければやめると思います(笑)。ゴルフはそうじゃないですね。上を見れば見るほど、自分の目標設定も変わってきますよね。
◆あとは上がる一方
――昨シーズンの自分の出来はどうでしたか?
シーズン中もちょっと身体のコンディションが良くなくて、ずっと慢性的な怪我があって、それのケアと練習のバランスが難しかったですね。もっとやりたいけれど、痛くなっちゃう。そのより向上していかなければいけないところは、結構難しかったです。使わなければ治る部分ですので、今は治ってリセットされて、身体の状態としてはとても良いですね。
――そこで上手くバランスを見ながら我慢したということは、昨シーズンだけじゃなく先のシーズンも見ていたということですか?
いや、そうでもなかったですね。シーズンの最初の頃はそれが顕著に出ていて、パフォーマンスとしてもそんなに良くなかったんですけれど、付き合い方というか、その怪我に対しての付き合い方を理解してきて、アプローチの仕方も徐々に増やして、それでちょっとずつパフォーマンスを上げてきたという感じでした。
――そこにはワールドカップの疲労もあったんですか?
あったと思います。ここ2~3年くらいいろいろな手術をして、シーズンを通してやれているけれど、ずっと何かしらの怪我をしながらやっていました。だから、パフォーマンスを上げるというよりも、パフォーマンスを戻すに近い感覚でした。まずはベストなコンディションに整える状態が続く中でも、代表の試合があって、コンディションを戻さなければいけないけれど、ハードな練習はしなければいけない状態が続いていました。その中でも今のベストパフォーマンスを出そうとして、とても追われていました。
その状態から、オフシーズンに2ヶ月くらいオフをいただいて、本当に良い状態に戻って、あとは上がる一方だと思っています。痛いところがないので、練習をするのも楽しいですし、向上しているのが実感としてもあって、とても欲が出てきています。
――今は過去最高のコンディションですか?
過去最高かは分かりませんが、それこそラグビーを始めた当初くらいの上手くなりたいとか、もっとやりたいとか、向上したい欲がとても強い状態です。だからとても楽しいですよ。
――引退の時期は先延ばしになりますね
いやー、どうですかね(笑)。
――日本代表にまた呼ばれたら?
代表はもう大丈夫です(笑)。心境の変化はあるかもしれませんけれど。
◆自分の感性を信じてプレーする
――体調と相談しながらやっている中で、チームのためにもっとやりたいという気持ちがあったと思いますが、それを今シーズンに爆発させますか?
そうですね。もう勝ちたいですよね。やっぱり行動としても示していかなければいけませんし、サンゴリアスのプレーはこうあるべきだということを。もちろん練習の中でもそうですし、試合の中でもそうですし、誰でも出来るようなことを毎回できるようにやらなければいけないですね。
――今シーズンのWIN THE ONEというスローガンに繋がりますね
結局はいちばん大事なところだと思います。80分間の試合の中で、人それぞれ、1対1の局面や、絶対にやらなければいけないことが出てきます。そこを自分自身でどう捉えて、どういう意思を持って臨むか、どう決断するかということがあると思うので、15人いるけれど、まずは1人1人がどう振る舞うか、どうプレーするかに対してのテーマだと思います。それが全員合わさって、試合に勝つことが出来ると思うので、本当にひとつひとつを大事にしていく、ひとつひとつのプレーで勝っていく。本当にシンプルだけれど、いちばん大事な要素だと思っています。
――ひとつひとつに勝つためには、まず自分に勝たなければいけませんね
自分に負けるとか、弱気になるとかは、考えません。僕が考えることは、勝つためにどういう準備をするのか、どういうマインドで臨むか、そういうところを念入りに考えるようにしています。
――今シーズンの目標をお願いします
優勝です。個人としては、自分が満足いくパフォーマンスを出し続けることですね。他人の評価じゃなくて。それこそ監督やスタッフからの評価でもなくて、自分が満足できるプレーをし続けることですね。
――より良いものが出せそうだという感覚があるんですね
とてもあります。自分は出来ると思っていますし、自分をいちばん信頼しているので、その信頼を確固たるものに出来るように、日々の練習とか、準備をしっかりしていきたいなと思っています。
――そういう自分にフォーカスする姿勢でやっていると、ゾーンに入りやすいのではないでしょうか?
僕は結構、考えてプレーするタイプなんですけれど、良いプレーをする時って、考えなくて身体が勝手に反応する時なんですよ。それがゾーンに入っているという言うのであれば、ビッグゲームとか注目されるゲームで多いかもしれないです。
――それは相当自信になりますね
自信になりますね。振り返った時に、どういうことを考えて、どういう意思を持ってプレーするかを見るので、この時はこう思っていたということが分かるんですけれど、このプレーは何だろう、身体が勝手に動いてるという時がありますね。
だから、今シーズンは自分の感性を信じてプレーすること。それがひとつの目標ですね。考えてプレーしますし、理解力もある方だと思っていますし、ゲームの流れを読んだりもできますけれど、それを振り払って、感性でプレーしたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]