2024年10月25日
#927 呉 季依典 Vol.1『上目遣いで相手を見る』
聞きたいことが次々に出てきて質問を重ねると、ひとつひとつの話題にたくさん答えてくれた呉選手。あっという間に相当な量のインタビューとなり、2回に分けて掲載することになりました。(取材日:2024年10月上旬)
◆悔しさが原動力
――昨シーズンはリーグ戦12試合に出場、出来はどうでしたか?
プレシーズンの準備が、しっかりとシーズンでの結果に出たなということが、いちばんですかね。
――具体的にはどういう準備ですか?
分かりやすく言うと、オフに入る前にS&C(ストレングス&コンディショニング)やラグビーコーチからテーマやターゲットが提示されるので、提示されたターゲットに対するしっかりとした準備ということです。ターゲットをクリアするためのフィットネスやジムでの準備が上手くいったと思いますし、一生懸命やった結果がしっかりと出たと思います。
――それは、持久力や瞬間的なパワー、スピードなど総合的なものですか?
自分の課題というか、そもそもの純粋なフィットネスも含め、反復する同じプレーを何度か繰り返すことができるようなフィットネスや、その中でのコンタクトの強度に耐えられる準備です。見山さん(S&Cコーチ)、ひらまっちゃん(平松航/ヘッドS&Cコーチ)を中心にやってくれて、オフ期間中はほとんど休まなかったですね。
――そこにはその前のシーズンでの危機感があったんですか?
間違いなく悔しかったです。チームとして優勝できなかったこともそうですし、ホリさん(堀越康介)が怪我をしてチャンスが回ってきたと受け止めていたので、何よりもその時の悔しさが原動力になりました。
――悔しさをもとに頑張った結果、かなり自信はつきましたか?
試合に出ることによって経験値もついてきますし、選ばれることによってチームからの信頼も少しずつ勝ち取れているのかなと実感もしています。今シーズンで4シーズン目、昨シーズンは3シーズン目で、チームにも馴染めてきたからこそ、本来のスタイルを自然と出せるようになってきたというのが、ひとつ大きな要因だと思います。
――結構、人見知りしますか?
いや、何て言うんですかね。サンゴリアスのメンツは周りから見ても良い選手が揃っているので、僕は他チームから来たということもありましたし、自分はしていないつもりでしたけれど、多少なりとも遠慮していたのかもしれません。
――それはどこで気がついたんですか?
正直、僕は初めから失うものは何もないし、ガツガツ行っていたつもりだったんですけれど、足りていないことをいろんな先輩に言われました。特にフッカーでセットプレーの要になるところなので、アオさん(青木佑輔/アシスタントコーチ)ともたくさん話しました。最初の頃は、全部のスクラムで負けていましたし、「どうやって組めばいいんだろう」という感じでした。
その中でスクラムもひとつのスタイルじゃなくて、相手がこうして来たらこう組むということを覚えて来て、そうやって戦える武器が出来たことによって余裕も出来ましたし、他のプレーにも気を回せるようになったと思います。アオさんにも「サンゴリアスに来た当初は何も武器を持っていなくて素手で戦っていたやつが、やっと盾と矛を持って戦える準備が出来た」と言ってもらいました。
◆毎日ハードワーク
――現状の課題は?
体調管理です。頭から行く癖というか、「自分が行かないと、やらないと」と思うことが、余裕がなく頭から行ってしまうので、その熱さはいいけれど、何も考えずに突っ込んでいたらただのアホだと思います。そこでどう頭はクールにプレーは熱く出来るか、正しいスキルでやらなければいけないと思っています。そこは昨シーズンに痛いほど感じました。
――その方法は見つかっていますか?
正直、そこは反復練習ですね。飛び込まないとか、疲れてくるとそういうスキルがなかなか出来なくなって、「止めなあかん」という一心で飛び込んで、相手にずらされて頭を打ってしまうという感じです。普段の練習もそうですけれど、どれだけしんどい時にも正確なプレーが出来るかだと思います。ひとつの練習にしても、先日の菅平合宿での部内マッチにしても、その中のタックルのシチュエーションをクリップで抜き出して、コーチのネイサン(グレイ/アシスタントコーチ)からフィードバックがあるので、そのクリップを見ながら「まだこういう時は飛び込んでいるな」と分かりやすくなっています。
――すべてリザーブでの出場でしたね
1シーズン目、2シーズン目に比べると、20分くらい出る時もありましたし、10分以下の時もありました。スタートで出ることにはこだわっていますが、昨シーズンの最初の何節かはフィニッシャーが入ってチームを変えていくという試合もあって、フィニッシャーにはフィニッシャーの役割があります。メンバー発表の後の「2番で出たかった」という悔しさは一回忘れて、16番で出来る役割をしっかりとやろうとして臨んでいました。今シーズンは、2番で出たいですね。
――その悔しさがまたモチベーションになりますね
間違いなく。毎日、クラブハウスに来てハードワーク出来ているのは、同じポジションの人たちがいるから、負けたくないという思いで、毎日ハードワーク出来ています。
◆ずっとチャレンジすることには変わりない
――思わず頭から突っ込んでしまうという熱いところがありながら、客席のファンの人たちの表情が見えるとのこと。それは冷静じゃないと出来ないのでは?
そんなに見ないですけれど、熱くなってしまうと周りが見えなくなってしまうんですが、一回プレーが切れた時に意識的に周りを見たりして、余裕を持つというか、視野を広げて淡々とやろうとします。意識的にやっているので、そうやって表情が見えたりするんですね。
――熱くなるのは家族の血ですか?
それもあるかもしれないですし、ラグビーってあれだけぶつかり合っていると、熱くなりますね。超コンタクトスポーツで、やるかやられるかなので、熱くはありますね。
――そのバランスが難しいですね
難しいです。ただ、このチームの人たちはみんなが僕の父親を見たことがあると思うのですが、結構、気合が入った人です。少しでもタックルに行かなければいけない場面で逃げたり、ビビった素振りをしたら、「お前は怖いのか、辞めてまえ」と言われるような。そんな感じで育ってきたので、全部自分でやらなければいけないと思うのは、もしかしたら家柄もあるのかもしれないですね(笑)。けれど、負けん気というか、責任感というところは養ってもらえたと思っています。
――1年目は3試合、2年目は7試合出場で、3年目は12試合でした。以前のインタビューでも言っていましたが、ビッグゲームになると出られていないということで、昨シーズンもプレーオフには出られませんでした。そこはもうひとつのチャレンジですか?
そうですね。僕が2番で出ようが、優勝しようが、ずっとチャレンジすることには変わりないんですけれど、昨シーズンは自分のミスというか、スキル不足で、シーズン終盤にはグラウンドにも立てていませんでした。2番どうのと言う前に16番も着られていませんでした。それが本当に悔しかったので、同じようなことを今シーズンは味わいたくないと思っています。
――着実に成長はしていますよね
それは間違いなく実感しています。それは周りに良い選手がたくさんいて、良いコーチがいるから、そこは感謝していますね。ここまで育ててもらいました。
◆兄弟会
――以前お兄さん(森川由起乙)に「もっと孤独になれ」と言われたそうですね
いちいち周りを気にしてやるんじゃなくて、もっと孤独に、あまり周りの反応を気にし過ぎることなく発言してみたり、そういうことだと思います。
――余計なことは気にしないで、やるべきことをやれということですか?
今は自信がついてきたというか、経験値を積ませてもらって、シーズンを重ねる毎に出場する試合が増えているのは、そういうことだと思います。間違いなく経験値で自信がついてきています。
――その後お兄さんからは何か言われていますか?
今は何も言われなくなりましたね。逆に言うと、兄弟だから、その時のプレーを見ていても分かりますし、スクラムを組む時も何も言わなくても分かりますし、今はちょっとは認めてくれたんじゃないですかね。そういうことは言わないですけどね。
――このインタビューの前に、森川選手に「弟に何かコメントありますか?」と聞いたら、「大丈夫です。無いです」と言っていました
嬉しいですね(笑)。
――兄弟で同じチームでプレーするということは羨ましいことですが、それが2組あるんですね
あまり無いですよね。しかも第一線で出来ているというのは、素晴らしいなと思います。僕らも頑張ってきましたけれど、両親がここまで一生懸命やらせてくれたということもあると思います。尾﨑兄弟のお父さんも、結構気合が入った人ですよ(笑)。
僕らの両親も尾﨑兄弟の両親のことを分かっていますし、向こうも兄弟でやっているので、境遇が似ているんだと思います。そこの絆はありますし、サンゴリアスで兄弟会で集まったりもしています。あまりいないですよね。1組の兄弟はいたとしても、2組がバリバリやっているのはいないですよね。
(続く)
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]