2024年10月11日
#925 大越 元気 『初めて9番を着て出たい』
名前の通りいつも元気で明るい大越選手。「自分はこのチームに何が出来るか」を常に考え、体現している選手ではないでしょうか。(取材日:2024年9月下旬)
◆気負うことなく、いつも通りの準備
――昨シーズンの自分の出来はどうでしたか?
昨シーズンはユタカさん(流大)が怪我をしてしまい、そこから試合に出るチャンスが2試合ありました。そこでのパフォーマンスは、細かい部分で言ったら反省点がたくさんあるんですけれど、長く試合に出られていなくて、ただノンメンバーであってもメンバーであっても、その試合にコミットして、同じ準備をずっとしてきていたので、そのことが自分の中でいちばん大きかったです。パッとメンバーに入れてもらって、試合に出させてもらったとしても、気負うことなく、いつも通りの準備で出来ました。そこでパフォーマンスを出せたというのは、日頃の準備が良かったかなと思います。
――いくら準備をしていても、試合は練習とは違いますし、入り込んでいくのが大変だと思うのですが、どんな感じで入るんですか?
何て言うんですかね。気負うことが無くなったというか、変なプレッシャーもないですし、そういう思いになれたことがいちばんですね。
――気負わないとは、どんな心境なんですか?
今までだったら「ミスしたらどうなっちゃうんだろう」、「ミスしたらこういう評価になっちゃう」という思いが大きかったんですけれど、昨シーズンあたりから「なるようになる」し、「その分の準備はしてきている」と割り切れるようになって、サンゴリアスへの思いというか、そういうものも良い意味でしがらみがなく、「いま自分がやれることはこれだから」というシンプルな考えに至りました。
――年の功ですかね
それもあると思います。若い頃とか、3、4年目くらいまでは、あまり試合に出ることができなくて、久しぶりに試合に出ることになったら、「何かやってやろう」と思っていましたし、そういう時は大体上手くいかないですよね(笑)。あとはサンゴリアスに対してのプレッシャーで、いつプレーを出来なくなるかわからない。そういうプレッシャーもありました。もっとこのチームでラグビーをやっていたいし、久しぶりに試合に出てのパフォーマンスで「ラグビー人生が終わるかもしれない」と、大きいことを言うと、そういう変なプレッシャーもありました。今はそういうものがなく、すっきりした思いで出来ていると思います。
◆自分が出るというマインド
――そういう空回りしている若手がいるとしたら、何と声を掛けますか?
何て声を掛けますかね(笑)。まずは準備だと思うので、なかなか試合に出られていないんだったら、いつ来るか分からないチャンスに向けて、目の前のことを淡々と準備し続けること。ノンメンバーであろうと、メンバーがやろうとしている戦術とか、その試合で行われるサインプレーはしっかりと頭に入れて、試合には出ないけれど、自分が出るというくらいのマインドで毎週準備することが、いちばん大事かなと思います。
――準備には限度がないのではと思いますが、上手くいかない時には準備を怠ってしまうんですかね
準備には限度がありませんが、「ここまでやれば」という開き直れる部分があると思います。上手くいかない時は、そこまでの準備に達していないのかもしれないですね。試合になかなか出られていなくて、不貞腐れる部分もあると思いますし、「何で俺は出られないんだ」という余計な思いを抱くこともあると思います。やっぱりいちばんは、そういう状況でも「このチームのために何が出来るか」ということだと思います。試合に出るためには、毎回毎回、そういう準備をするけれども、ノンメンバーになってしまった時に、どういうメンタリティーでいるかということが、とても大事だと思います。
――若い頃は、チームのためにというよりも、「俺が俺が」という部分が出てしまうんですか?
まさにそういう感じでした。今もそういう思いはありますけれど、「試合に出ないと」という焦りも含めて、それはありましたね。
◆激しい競争、良いライバル
――スクラムハーフというポジションは、今シーズンも新たに選手が入って来るなど、ライバルがたくさんいますね
それを求めてサンゴリアスに入りたい、と思っていましたし、激しい競争があって、良いライバルがいる、それがサンゴリアスだと思います。誰かが抜けて、誰かが入ったというのは、今の自分にはあまり関係がないかなと思います。それが若い頃だったら、とても気にしていたと思います。
――数あるポジションの中でもスクラムハーフの選手は負けん気が強いと思います。その負けず嫌いをポジティブに転換しているコツは何ですか?
いちばんは「自分が自分が」じゃないということだと思います。自分もいるんですけれど、あくまでもこのチームのことをまず考えたら、日頃の準備もそうですし、それなりの行動になると思います。いちばんはこのチームのため、このチームが勝つためなので、その中で自分が試合に出た時にどうするか、になると思います。負けず嫌いで厳しい状況になった時に、どういう気持ちでいられるか。ポジティブに変換するとしたら、サンゴリアスの中の一員として、「自分はこのチームに何が出来るか」ということを考えると、ポジティブになれますね。
――言い方を変えるとすると、弱い自分に負けないようにしている感じですか?
そういうことだと思います。もうひとりの弱い自分に対して、それが出ないように、そいつに負けないように、そういったところで「サンゴリアスの一員としてどうあるべきか」ということは考えています。
――自分が活躍してチームが勝つことがいちばん良いと思います。自分が出ないでチームが負ける、自分が出たけれどチームが負ける、自分は出ないけれどチームは勝つという状況の中では、どの状況が一番いいですか?
いちばんは自分が出てチームが勝つことで、ふたつ目を選ぶとすると、もちろん自分が出たいですよ。試合に出るためにやっていますからね。とても矛盾しているかもしれませんが、やっぱり試合には出たいですよ。だから、二番目は自分が出て負ける、三番目が出ないで勝つかなと思います。
あくまでもそういう状況になった時には、そういう考え方をするということで、いちラグビー選手として試合に出るということはブラさずにいたいですね。グラウンドに立つこと、そして結果がすべてだと思います。けれど、ノンメンバーになってしまう状況もあるわけで、僕なんかはその状況が多いわけですよね。そうなった時にどうするか。気持ちの持って行き方として、「チームが勝つためにどうするか」ということに、変換するということですね。
◆ゲームを作っていく
――まだこの部分で成長できると感じるラグビーは?
「ゲームを作る」というところですかね。やっぱり9番として、パスが良いとか、キックが良いとか、そういうことは当たり前のことで、9番として何が大事かと言えば、ゲームを作っていくことだと思います。そのゲームを作るということは、昨シーズンにキヨさん(田中澄憲/現ゼネラルマネージャー)にも言われましたけれど、ゲームが分単位でどんどん状況が変わっていく中で、今のチームの状況で「これが必要だ」と、瞬時に判断して、9番と10番でゲームメイクしていかなければいけません。そこの能力は、もっともっと伸ばせるんじゃないかなと思います。
――そこは毎シーズン伸びているところですか?
そうですね。そこに意識を持って行けるようになったのも、成長した部分です。今までだったら、試合に出るためにひとつひとつのパスを伸ばさなければいけないとか、キックを蹴れる状況を見ることができなきゃいけないとか、そういういろいろな段階を踏んだ中で、大きくゲームメイクをしていくところに行きつきました。
――9番を中心にコミュニケーションを取らないとゲームは作れないと思いますが、そこはどう意識しているんですか?
それは普段から、試合の日だけじゃなくて、試合に向けての1週間通しての準備の中で、細かいコミュニケーションをすることが大事ですね。
――そのシーン、そのシーンでゲームを作っていかなければいけないわけで、瞬間的にこっちだと思った時に、そこでみんなが同じ絵を見なければいけないわけですよね。そのためには言葉が大事になるんですか?
その場では言葉が大事ですね。ある共通言語があって、その中で、消していく作業だと思っています。「こうなったら、こうしよう」「こうなったら、ああしよう」と、周りとどれだけコミュニケーションが取れているかだと思います。10番ともそうですし、裏のスペースを見てくれるウイングもそうです。どれだけ試合に向けた1週間の中で、そこを潰して行けているか、準備していけるかだと思います。
たくさんコミュニケーションが取れていて、変化する試合の状況の中で、「この前話したあれをもうちょっとこうしようか」、「コントロールしようか、今はこうしようか」というコミュニケーションが取れるようになると思います。それが無ければ、ひとつのゲームプランだけで終わっちゃうと思うので、そこで柔軟にやっていくということが、もっともっと伸ばせる部分だと思いますし、ユタカさん(流)はそういうところが上手いですね。
あの人はそれに長けていると思いますし、それをずっと間近で見てきていますし、あの人はゲームで上手くいくようにたくさん話すんですよ。サラリーマン的に言うと、ネゴシエーションが上手いですね。いろいろなところで、自分が上手く出来るように予防線を張るというところが素晴らしいですし、そこがとても大事だなと思いました。
◆試合に出られない悔しさ
――身体が大きくなりましたね
今コンディショニング的に下半身が使えなくて、上半身しかウエイトトレーニングをやっていないですからね(笑)。もうちょっと落としたいとは思っています。たまたま今できるトレーニングが上半身だけなので、それで大きくなったという感じです。そこはもう少しコントロールしていこうと思っています。
――身体が大きくなるとスピード面で問題になってきますか?
フィットネスとかもあると思いますが、いちばん適切な体重は分かっていますし、これだけやっていると大きな上半身よりも、しなやかな筋肉が大事だなと思いますね。そこは栄養士の大場さんやS&C(ストレングス&コンディショニング)のコーチと話していければ良いかなと思っています。
――今シーズンの目標をお願いします
優勝することですね。優勝したのは2017-18シーズンが最後で、僕が1年目のシーズンでした。
――その時の喜びは覚えていますか?
その時は1年目ということもあったので、優勝して嬉しかったんですけれど、試合に出られない悔しさの方が大きかったかもしれないですね。
――試合に出られない不安もありましたか?
常にありましたよ。当時、監督だった敬介さん(沢木/現横浜キヤノンイーグルス監督)から、グラウンド内外で毎日、叱責を受けていました。良い言い方をすると、敬介さんに気にかけていただいていたと思うので、そういう言葉の中にプレッシャーも感じていましたし、今まだサンゴリアスでプレー出来ているというのは、そういうことを乗り越えてきたからかなと思います。
――個人としての目標は何ですか?
9番で1試合でも多く出るということですね。公式戦で9番のジャージを着て試合に出たことは無いと思うので、初めて9番を着て出たいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]