SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2024年9月27日

#923 村田 大志 『世界中で自分しか出来ない仕事』

一昨年、選手引退。昨シーズン、副務。そして今シーズンから主務。新任の村田主務に仕事内容や目標を聞きました。(取材日:2024年9月上旬)

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◆発見や学びの毎日

――今シーズンから主務になりましたが、今の仕事の面白さは?

まだ面白いというところまで余裕はありませんが、毎日その日にいろいろなことが起きて、いろいろなことに追われたりしながら、充実していて成長しているという感覚があります。

――やりがいがありますか?

やりがいはめちゃくちゃありますね。まだ本当に基本的な部分で、「こういうことが起きた時はこうしなければいけないんだ」と学んでいる段階で、自分なりのアレンジとかは出来ないですけれど、発見や学びの多い毎日を送っています。

――現役時代にやっていたサントリーの営業の仕事とは違いますか?

ぜんぜん違うんですかね。僕がやっていた時の営業の仕事は、選手兼任だったので、業務量や業務の深さみたいなところは、もしかしたら一般の社員の皆さんに比べたら少なかったと思います。営業の仕事だけをやっていたら、今の仕事と同じように難しさややりがいを感じていたかもしれません。

極端な話をすると、いま世界中で自分しか出来ない仕事をやっている感覚があるので、とても責任を感じていると共にやりがいを感じています。目的がとてもシンプルな組織に所属していると思うので、そこに向かってみんなで進んでいるということは、やりがいもありますし充実していますね。

――どこに「自分しか出来ない仕事」を感じていますか?

コーチング以外のところはほとんど絡んでいると思うので、自分しか持っていない情報もたくさんあると思いますし、いま自分がいなくなったらなかなかカバー出来ない部分もあると思います。日本でもトップレベルのラグビーチームの主務というのは、日本のラグビーチームの中でも特別だと思いますし、そのチームの大事な仕事をやっているという意味では、他にいないと思います。

――今までは2人体制でしたよね

主務と副務で、昨シーズンは副務としてやっていました。主務はぜんぜん責任の重さとか、ドライブしている仕事の量も違うので、副務の時とプレッシャーが違います。

――主務になって、なぜ副務がいないんだ とは思いませんでしたか?

いや、別に「いないんだー」くらいな感じです(笑)。自分の責任が増えて、今の仕事が出来れば副務が来た時に楽だと思いますし、渡せる仕事が増えた時に自分なりにもっとオリジナリティある仕事が出来ると思うので、基礎固めという意味でもひとりでやるには良い時期だなと思います。

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◆チームへの感謝や愛情

――現役を引退した後、副務、主務となりましたが、自分が望んだ形ですか?

選手の最後の1年間は、ある意味時間をもらって、自分のキャリアを考えながら現役が出来ていました。最初はサンゴリアスのスタッフをやりたいという気持ちはなくて、社業に戻ることが自分の考えているキャリアでした。でも今しか出来ないこと、自分しか出来ないことはどっちかなと思った時に、サンゴリアスに携わり続けることは特別なことだと思ったので、最終的に今の道を選びました。

――現役に対しての未練は?

全くありませんでした。終わりを決めてやったからこそ、最後の1年は頑張れた部分もありましたし、最後の数年はほとんど試合に出られなくて、モチベーションが難しい中で、極端に言えば、このチームへの感謝や愛情だけでラグビーをやっていたので、ゴールを決めてもらえてとても幸せだったなと思います。

――今もなかなか試合に出られないベテラン選手がいますが、そういった選手とはコミュニケーションを取ったりするんですか?

いや、ある意味、今のベテランの選手って、一緒にラグビーをしていた選手が多いですし、割と話さなくても共通認識を持った選手が多いです。試合に出られなくて苦しいとは思いますが、僕がその気持ちを分かっていると分かってくれていますし、僕も分かった上で普通に接してあげたいと思っています。

僕がそうだったんですよ。「キツイだろ?」とか「チームのために頑張っていて偉いね」とか、そういうことを言われるのがとても嫌だったんです。だから、普通にラグビーに打ち込めるように接したいと思っています。

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◆今日、何してた?

――主務の仕事をファンの人たちに説明するなら、どんなことがありますか?

僕も分からないですね(笑)。早朝からクラブハウスに来て、夜帰る時に自分の仕事を振り返るんですけれど、「今日、何してたっけ?」っていつも思います(笑)。それくらい仕事が多岐に渡るというか。先ず強化に関わる物品の手配もそうですし、グラウンドの管理、グラウンドの手配もあります。例えば、サンゴリアスのグラウンドで練習しない時もそうですし、練習試合の調整を他のチームとやったり、クラブハウス内で何かが故障したら、いろいろな業者さんと話し合って、見積をもらったりとか、そういうこともやっています。

――合宿についてはどうですか?

合宿の期間を決めたり、合宿中にコーチやS&C(ストレングス&コンディショニング)が「こういうことをやりたい」という話が出てきたら、それを実現するためにいろいろな調整をしたりします。

――ビジターゲームなどの遠征については?

基本的には、京王観光さんというチームのパートナーがいます。京王観光さんと調整をしながら、「グラウンドとこれくらいの距離でホテルを探して欲しい」とか、ホテルのグレードなども話したりしています。あとはいろいろなものをクラブハウスから遠征先に運んでもらわなければいけないので、そういうところの手配もやっています。

――倉庫にいることも多いように感じますが、倉庫では何をしているんですか?

倉庫に物がたくさんあるので、倉庫から物を出したりしています(笑)。倉庫ではウェアの管理ですね。アディダスさんとウェアのデザインの話をしたり、デザインを決めたらどのくらいの量を発注して、「いつクラブハウスに届けて欲しい」という調整をしたり、それで届いたウェアを選手やスタッフに配って、サイズが合わない選手などにはサイズ交換をしたりしています。あとは、ウェアを倉庫に整理して、いつでも出しやすいようにしたりしています。

――気を遣う業務が多く、ある部分が抜けたりしそうですが、その辺はどうカバーしているんですか?

そこは周りの人にとても恵まれていて、経験あるスタッフが周りにいます。例えば、栄養士の大場さんは、栄養に関することだけじゃなくて、様々なことを先回りして「これはどうなっていますか?」と話をしてくれたりします。そこで抜けていたことが分かると、そこから「こうしようかな」と決めたりします。管理人の太田さんもそうですね。僕以上にいろいろなことを知っていて、「村田さん、これはどうなっていますか?」と言ってくれるので、抜け漏れがなくやれていると思います。とても助けてもらっています。

――このクラブハウスが綺麗に使われているかどうかについては?

そこはある程度は自分でも見ますし、選手たちにもドライブして欲しいところです。このクラブハウスの環境とかを自分たちが大事にすることも大切だと思っています。選手の中にカルチャーグループがあるので、そのリーダーたちと「いま気になるところある?」と話しながら、選手主導でやってもらえるように取り組んでいます。カルチャーグループとコミュニケーションを取るのは、基本的にはスタッフでは僕が窓口でやっています。

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◆選手時代の貯金がある

――それだけ業務量が多いと朝が早いと思いますが、朝は何時頃にクラブハウスに来て、まず何をやるんですか?

一応、自分の中で、毎日スケジュールを組みながら「今日はこれをやる」みたいなリストがあります。昨日できなかったリストを今日やることに持ち込んで、まずは今日やることをどれだけやれるか整理したりしています。早い日は5時半くらいからやっています。

毎日のスケジュールによって起きる時間を変えることが嫌なので、毎日、4時か4時半の間くらいには起きて、コーヒーを飲んでからクラブハウスに来ています。朝ご飯は食べていなくて、日に日に痩せていっているので、選手に心配されています(笑)。朝は食べてもスムージーを飲むくらいですね。

――夜は何時頃までクラブハウスにいるんですか?

出来る限り家族も大切にしたいので、夜の7時までにはクラブハウスを出たいと思っています。家で家族と一緒にご飯を食べるようにしています。8時くらいには家にいると思います。

――体力的には問題ありませんか?

そうですね。やっている時には没頭しているので問題ないんですが、帰りの車の中で「あ、めっちゃ疲れているかも」と思う時はあります。けれど、まだ大丈夫ですね。選手時代の貯金があるのかもしれないですね。

――トレーニングはしていないんですか?

今は時間が取れないですね。どうしてもトレーニングをすると疲れるので、仕事に支障が出ちゃいますね。

――家に帰ってからも仕事があったりするんですか?

出来るだけ家では仕事をしないようにしています。出来るだけ完全にオフにしたいんですけれど、思いついちゃう時があるので、携帯にメモを残したり、明日のやることリストに追加したりしています。出来るだけ家でパソコンを開かないと決めてやっています。

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◆同時進行

――節目節目でけじめがついていますか?それともずっと何かをやっているような感じですか?

例えばキックオフミーティングがありましたけれど、無事に終わって良かったと同時に、並行して試合までどうしようとか、菅平合宿があるなとか、クラブハウスに掲示するスケジュールを確定させなければいけないなとか、いろいろ考えますね。同時進行でずっとやっているので、一息つくということはないかもしれません。

――いちばん最初に計画をして、年間予算を取って、それで実施するという流れですか?

そのパターンもありますが、どちらかと言うと「これでやってね」というものが来ます。毎年のルーティンになっているものは年間予算に組み込まれているので、あまり大きくずれることはないんですけれど、例えば急に何かが壊れたとか、その予算を取るためにどこかを削らなければいけないということが出てきます。

――昨シーズンから選手がミーティングを行う部屋の椅子が、サンゴリアスのロゴが入ったものになりましたね

あれは仲宗根(前主務)が予算の組み立てをしている中で、「これは買っても大丈夫だ」と判断をして、シーズンのオフ中にやっていました。

――そうやって自分の裁量が活かされる部分も結構あるんですか?

他のチームのことは分かりませんが、サンゴリアスの場合は小回りが利くと思います。「これが欲しい」という話がいろいろなところから出てきますが、基本的にはチームを強くするために相談しに来てくれるので、ある程度の金額までは自分の中で判断をしています。金額が大きいものになると、チームディレクターやGMに相談します。

――トレーニング機器やメンテンナンス機器も含めてですか?

そうです。トレーニング機器に関しては、基本的にシーズン中には入れないようにしていて、シーズンが始まるまでに大きなものは揃えたいと思っています。シーズン前の段階だと相談がしやすいので、「こういう大きなものを入れたいんですけれど、大丈夫ですか?」と話をして、シーズンに入ってからは細々したものや壊れたものを買い足すみたいなイメージでやりたいと思っています。

基本的には強化で必要なものは買いたいと伝えるようにしています。いまノムさん(野村直矢)がチームディレクターですぐ横にいるので、「こういう話があるんですけれど、買いたいです」と話をするか、僕の中で「本当に強化が使って効果が出るかな?」と思ったものに関しては、「こういう話があるんですけれど、どう思いますか?」と、相談の仕方を使い分けています。ノムさんもどちらかと言うと同じ感覚というか、あまり「それは必要ないだろ」という話にはなったことはありません。

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◆どれだけ自分の役割を全う出来るか

――今の仕事の楽しさは何ですか?

チームのために働けているということが、とても幸せですね。選手の時も僕はどちらかと言うと、「自分が目立ちたい」とか「自己実現のためにここにいる」というよりも、チームに所属して「ここでどれだけ自分の役割を全う出来るか」とか「どれだけチームの力になれているか」とか、そういうところにやりがいを感じるタイプだったので、それをより責任大きくやらせてもらっていて、とてもやりがいを感じています。

――WIN THE ONEとして、目の前のことをひとつひとつ勝っていくことになると思いますが、その先にはどんな姿が見えていますか?

何となく自分の中でやりたいこともあるんですけれど、自分の中で結構やりたいこと、やってみたいことが、年々変わるなと思います。様々な経験をして自信を得るたびに、「自分はこんなことも出来るんじゃないか」という気持ちも出てきます。その時に「何でも出来るようになっておこう」という感じではあります。漠然と言っていますけれど、今の目標で言うと、やっぱりこのチームのキヨさん(田中澄憲/ゼネラルマネージャー)とかノムさんみたいに、より大きな絵をこのチームで見ながら、それをドライブできるような立場になれたら、今はいちばんやりがいを感じるかなと思います。

――スポーツが進化していけば進化していくほど、マネジメントがとても大事になっていくと思いますが、その中で大切だな、自分らしさが出せるな、と思うのはどんなところですか?

いまラグビー界全体が、継続可能な業界であり組織であることが、大切なことだと思っています。どれだけサンゴリアスが強くなって、どれだけこのチームが良くなっても、リーグワンが継続しないことには活躍する場もなくなりますし、やっぱり健全な組織や体制は、ラグビー界全体でとても大事だなと思います。

自分がいま予算管理などをしている中で、本当にこのまま継続して出来るのかなと思うこともありますし、自分たちも健全な方向にやっていかなければいけないということが、いちばん大きなことかなと、主務になってみて改めて思います。

――そういう中でラグビーの変わらない価値は何だと思いますか?

今はいろいろなスポーツがプロ化していったり、成功しているスポーツもたくさんあって、そういうところを見ていて素晴らしいなと思うんです。ラグビーを見ていて、自分がラグビーをしていたからかもしれませんが、感覚的な話として、涙が出るくらい感動するスポーツって、そんなにないんじゃないかなと思うんですよね。コンタクトスポーツで、あれだけ人が多いのも特殊だと思うんですよ。そんなラグビーをたくさんの人に見てもらって、感動を届けられるような場を設けるのは、とても大事かなと思います。

――やっぱり身体を張っているということもありますよね

なかなか今の時代、自己犠牲と口に出しづらい時代になってきましたけれど、それを真っすぐにやっている人たちがやるスポーツって、僕は見ていて感動しますし、最後にはあれだけ激しいことをやっていても、握手して抱き合って、敵味方関係なくなるので、教育的な面で見てもとても良いスポーツだと思います。

――自分がやっている時には、自分のプレーには感動しませんでしたか?

しなかったですね(笑)。「あ、今日も1日終わった」とホッとしている感じでしたね。

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◆行かせてもらって良いんですか?

――現役時代は人のために汗をかいているところも素晴らしいと言われていました。今の主務という仕事も人のためにやっていて、繋がっている部分はありますか?

どうなんですかね。あまり苦じゃないというところはありますね。見返りが欲しくてやっているわけではないので、いつも思うことは「有難いな」ということです。特別な組織で、特別なことをやらせてもらっているだけで有難いと思うので、そこに関してはあまり深く考えたことはないですね。

――自分のためにこうしたいということはあまりないと言うことですが、そういうタイプなんですか?

もしかしたら、とても深いところで言うと、そうすることの方が自己実現に繋がっているんじゃないかなと思います。能力が高い選手ではありませんでしたし、自分ひとりで何かを変えられるとは思っていませんでした。でも、人があまりやりたがらないこと、積極的にやらないことをやることの方が、自己実現に繋がるという感覚が、もしかしたらあるのかもしれません。

――トップの選手としてやってきて、どこかで自分には才能があると思っていた時もあったんじゃないかと思いますが?

ないですよ(笑)。本当に特別だと思ったことはありません。

――特別だと思わないと次の上のレベルに進めないと思うのですが、そこはなぜですか?

いろいろな節目で、「一緒にやろう」と言ってくれる指導者の方やリクルートの方がいて、そこで自分の価値というか、「あ、行っても良いんだ」と思って、どちらかと言えば「呼ばれて当然」というよりも、「行かせてもらって良いんですか?」という感覚で進んできました。あと、そこにいた人たちに背中を押してもらったと言うか、自己評価よりも周りの人が「絶対にやった方が良い」と背中を押してくれたので、ここまで進んで来れたなと思います。

――この後は誰が背中を押してくれるんですか?

自分で押さないといけないですね(笑)。もうさすがに誰かに背中を押してもらったり、誰かに手を引っ張ってもらって生きていく年齢でもないので、常に自分はこれから何をしたいのかを、日々考えながらやろうと思っています。

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◆ワクワクするラグビー

――やりたいことが変わっていくと、今後はラグビーじゃなくなる可能性もありますか?

もしかしたらあるのかもしれないですね。これまでラグビーを通して学ぶことがたくさんあったので、それを活かせる場を見つけられたら、そしてそれに興味があれば、そっちに進む可能性もあると思います。

――まだそれを決めるタイミングではないのですね?

まず今やっている仕事を100%か101%か分からないですけれど、最低限みんなが求める100%はやらなければいけないと思いますし、101%とか102%とか、みんなが求めている以上のことに達してきた時に、次のことが考えられるのかなと思います。まだそこにも達していないので、今はここで最低100%になれるように努力していきます。

――話を聞いていると、ラグビー界だけじゃなく、違う世界でもやって欲しいなと思います

僕はサンゴリアス一筋です(笑)。

――ファンに向けてメッセージをお願いします

今シーズンのサンゴリアスは、絶対にワクワクするラグビーをしてくれると思います。自分たちのビジョンやラグビースタイルはこれからも変えませんが、そのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを進化させるためにいろいろなことを変えながら、チーム一丸となって進めていく。根本的にアタックはワクワクすると思うので、そこは期待して欲しいと思いますし、勝たないといけないですね。勝つ以外考えたことがないチームだと思いますし、優勝以外の目標は無いと思うので、勝ちます。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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