2024年9月13日
#921 野村 直矢 『常にチームのことが見えていなければいけない』
昨シーズン、アシスタントチームディレクターとしてチームに戻り、今年はさらに責任が大きくなった野村チームディレクター。その役割について、そしてサンゴリアスへの思いを聞きました。(取材日:2024年9月上旬)
◆ラグビーノート
――ではスピリッツインタビュー宜しくお願いします。
はい。あ、思わずノートを開いてしまった。
――チームディレクターという役割になって、会議等の始まりにノートを開くようになったんですか?
癖ですよね。昨シーズンも開いていました。選手の時もずっとラグビーノートをつけていて、そのノートはメチャクチャたまっています。でも時代は変わりましたね。iPadに書いている選手もいますし、保存の仕方が変わっていますね。
――そのノートを見返しているんですか?
見返しますよ。毎日見返しています。私はすぐ忘れちゃうから、誰と何を話したかを書いています。
――小学生の時に学校帰りにランドセルを放り投げていてそれをお母さんが拾いに行っていた野村さんからは想像できません
選手の時はずっとやっていましたよ。いつからノートを書き始めたかは、はっきりとは覚えていないですね。大学時代にはノートは無かったかもしれません。書き始めたのは、自分の中で大切というよりは、書いておかないと忘れてしまうということかなと思います。
◆1%でも高いパフォーマンス
――昨シーズンにチームにスタッフとして戻る前は、スタジアムで応援してくれたりしていました。選手から応援する側、そしてスタッフなって、自分がやらなければいけないことはだいぶ違いますか?
そうですね。2023年9月にチームに戻ってきたので、まだ1年です。その時はリクルートとアシスタントチームディレクターだったので、また今回も役割はぜんぜん違う感じはします。
――チームに戻ってきて、リクルートとアシスタントチームディレクターとしての役割は合っていると思いましたか?
合っているかは分かりませんが、チームディレクターのアシスタントだったので、前任の朗さん(浅田)に任せていた部分があったことと、あとはリクルートは自分が1人でやっていて、今の大学4年生のリクルートを私が担当させていただいて、そのプレッシャーというか、責任感はとても感じていました。
――良いリクルートは出来ましたか?
出来ました。そして、今シーズンからはチームディレクターなりましたが、リクルートも兼任させてもらっています。
――チームディレクターとして、どんなことをやろうと思っていますか?
9月第一週のキックオフミーティングでも話したのですが、私たちマネジメントサイドとしては、選手がグラウンドでプレーするのに1%でも高いパフォーマンスが出せるような準備をしようとしています。
――それはやることに限度がない?
準備にやり過ぎは無いですね。とにかく選手としてこのチームにいたことと、5年間マネージャーもやらせてもらったので、そういう経験を踏まえて、常に何が出来るかを考えて、選手だけじゃなくスタッフもパフォーマンスが上がるようにサポートすることだと思っています。
――選手とマネージャーは全く違いますか?
ぜんぜん違います。活動する時間帯も変わってきますね。このクラブが好きですし、成長させてもらったという気持ちが、頑張れる力になっているのかなと思います。
――選手がいちばん?
選手がいちばんです。勝ちと負けしかない中で、試合でチャレンジできるのは選手しかいませんし、クラブの価値も選手とスタッフが一緒に作っていくものだと思っています。
◆まずは自分に厳しく
――昨シーズンにまたスタッフとして帰ってきて、チームに期待されていたのは野村さんの厳しさではないかと思っていました
そうですね。昨シーズンはリクルートで、半分くらいはグラウンドにいなかったりしました。マネージャーの時もそうですけれど、アシスタントチームディレクターでも今でも、グラウンドの中でみんなと一緒に動いていることが多いんです。今シーズンは立場も変わって、帯同できるから楽しみですよ。
――帯同して厳しく行きますか?
まずは自分に厳しくしないといけないですね。
――チームを見ていて、厳しさは大事だと思いますか?
その厳しさで選手のパフォーマンスが上がるんだったら、大事ですよね。スタッフも含めて、逆のパターンもあるかもしれません。人それぞれのアプローチの仕方が、あるんじゃないかなと思います。キヨさん(田中澄憲/ゼネラルマネージャー)も晃征(小野/ヘッドコーチ)も、基本的に厳しいですよ。
――ここ数シーズンで勝てていない要因は何だと思いますか?
昨シーズンチャンピオンの東芝さんとは何かが違っていて、その結果だと思っています。結局は結果が出たところが正解じゃないですか。東芝とパナソニックの決勝も紙一重でしたよね。どうやったら勝てるかということと、僕らのスタイルであるアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを、これからチームで進化させて、どんどん作っていかなければいけないと思っています。
――グラウンドの中でみんなと動いているということですが、体力的には問題ありませんか?
全く問題ありません。選手の体力とは別で、自分の仕事量に対する体力は問題ないです。
――普段から鍛えているんですか?
最近、時間が無くなってきて、週に1回出来るかできないかになってきましたね。私がグラウンドに出て、みんなと一緒に動くということは、「常にチームのことが見えていなければいけない」という思いからです。チームの問題を分かっていなければ解決も出来ないので、それが私の役割だと思っています。
――ヘッドコーチとは密にミーティングをしているんですか?
個々でもやりますし、毎日話しますね。スタッフには全部情報を共有しています。
――それを選手に落とし込む?
ラグビーのグラウンドレベルのところはラグビーコーチがやります。もちろん私もミーティングには参加します。スケジュールも含めて、私たち全体で、マネージャーもS&Cもラグビーコーチ、メディカルも含めて話をしています。
◆やるしかないだろ
――チームディレクターという話を受けた時はどんな気持ちでしたか?
ワクワクしながらも、今までとは違うプレッシャーがありましたね。やってやろうという気持ちもありますが、やはり優勝しないといけないチームですし、優勝しか期待されていないチームで、それに加えてスタイルも気にしますよね。そのスタイルをどんどん進化させて、作り上げていきたいと思っています。
――やっていく上で、良いイメージをより多く描いていく方か、心配して悪いことを考えて、それをつぶしていく方か、どちらですか?
私は良い方を考えていくタイプですね。「ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう」と考えるよりも、「やるしかないだろ」というタイプです。
――スタッフへのアプローチは?
みんなにアプローチしています。人それぞれで、かなり考え込む人もいますよね。そういう人もいれば、そうじゃない人もいて、それぞれに伝え方はありますね。いろいろな監督と仕事をしてきて、自然と勉強をしてきたかもしれませんね。
――監督のやり方の違いも参考になるということですね
勉強になります。特にアプローチの仕方とか。あとは会社で営業の仕事をしていて、業務用の酒屋さんを担当させてもらっていました。業務用の酒販店さんが飲食店にお酒を運んでくれるわけで、そのためにいろいろなオーナーの人と会うわけです。そういういろいろな人と一緒に仕事をさせてもらって、勉強になりました。
◆サンゴリアスで働く
――チームのスタッフとして働いていて、いちばん面白いと思う時はどんな時ですか?
チームディレクターになってからそんなに時間は経っていないので、毎日ひとつずつクリアしていく感じです。昨シーズンで言うと、リクルートをメインにやらせてもらっていたので、選手がサンゴリアスを選んでくれた時は嬉しかったですね。そしてその選手たちが入ってきた時に活躍してもらいたいと思います。ただ、新しく入ってきた選手だけじゃなく、今いる選手が大事です。一緒に現役でやっていた時に被っていた選手たちがまだ頑張ってくれていますし、営業をやっていた時に同じ部署にいたメンバーもいますからね。
――サンゴリアス愛が強いんですかね
強いと思います。人には負けないと思います。
――営業からチームに戻ることは自らの希望ですか?
ずっと希望はありました。営業時代もサンゴリアスで働くことを目標に、頑張っていました。
――この後もずっと東京サンゴリアスに関わっていきたいと思っていますか?
まあ、離れても同じ気持ちで営業も出来ると思います。マネージャーが終わって営業に行ったんですけれど、OBとしてもサンゴリアスでマネージャーを経験した身として、「ここで仕事が出来なければカッコ悪すぎる」という気持ちでしたし、サンゴリアスの看板を背負っている、という気持ちでした。
――将来、どのようにラグビーに携わっていきたいですか?
どんな形でもサンゴリアスに携わっていきたいですね。やっぱり現場が好きですけどね(笑)。
――現場の面白さは何ですか?
勝ちと負けしかないところで、どちらかが勝つという一瞬に年間の時間をかけて準備をして、それもひとりで準備しているのではなくて、選手55人、スタッフ22人いて、運営スタッフも入れれば、100人を超えるメンバーがいるので、その力を合わせて勝った時は気持ちが良いですよね。
――負けず嫌いですか?
子どもの頃から負けず嫌いですね。
◆私たちのスタイルで勝つ
――どうやれば優勝できると思いますか?
私たちのスタイルを信じて、そのスタイルを進化させ続けていかなければいけないと思います。その中での私の役割としては、今シーズン作り上げていくアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを、みんなで協力していけるように運営していくことだと思います。私たちのスタイルで勝つこと、1位しか目指していません。
――自分たちのスタイルを貫くには何が大切ですか?
信じることですね。あとはそれを進化させていくことです。
――アグレッシブ・アタッキング・ラグビーを進化させていくとは、例えばどんなことですか?
それは難しい質問ですね。例えば、昔みたいに自陣ゴール前からでもボールを繋いでいけばいいのであれば簡単で分かりやすいですよね。けれど、考え方によっては、一回キックしてボールを手放したとしても、ボールを取り戻して前進した状態でアタックが出来れば、それはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーにもなります。いろいろな考え方があると思うので、それを作り上げて、決勝にピークを持って行くんです。私はコーチングをする立場ではないので、みんながパフォーマンスを発揮できるようにサポートすることが、私の仕事です。
――そのためには何を大切にしていますか?
問題を常に把握できていることだと思います。グラウンドのことだけじゃなくてプライベートのこともそうですし、スタッフルームや選手のロッカーで起きていることかもしれません。オン・ザ・フィールド、オフ・ザ・フィールドと範囲は広いですよ。
――人の話をよく聞くことも大切ですよね
そこは結構苦手な方なんです(笑)。ひとつひとつやっていかなければいけないと思っています。
――サンゴリアスの良さ、ラグビーの良さは何ですか?
他のスポーツをやったことがないので比べられないんですけれど、15人という多くの選手が争って試合をして、それに関わるスタッフも、みんなの家族のサポートも、勝つことだけに1年間準備をして決着がつくことが、ラグビーが面白いところですね。
サンゴリアスで考えると、ひとりひとりが責任や役割を大事にして活動しているチームで、みんながサンゴリアスの看板を背負っているんです。サンゴリアスだけじゃなくて、サントリーの看板、パートナー企業の方々の看板、ファンの皆さん、そういうことを意識すれば、私たちのPRIDE、RESPECT、NEVER GIVE UPがすべて出てくると思います。
――そういう話をしたキックオフミーティングの雰囲気はどうでしたか?
緊張感があって、めちゃくちゃ良かったですよ。その後のチームソーシャルも盛り上がって、サントリーという会社らしくて良いなと思いました。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]