SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2024年8月30日

#919 小林 賢太 『信頼される存在に』

期待された2年目のシーズンは、小林選手にとってどんなシーズンだったのでしょう?そして次のシーズンに向けて目指しているラグビーは?(取材日:2024年8月上旬)

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◆どういうことを求められているか

――昨シーズンは多くの試合に出ましたが、どんなシーズンでしたか?

2シーズン前は初キャップを取ること、まずは試合に出たいという気持ちが強かったんですけれど、昨シーズンはチームが勝つために自分が何が出来るか、自分のパフォーマンスについてどういうプレーをしなければいけないのか、チームからどういうことを求められているのか、というところにフォーカスしてみました。結果的にメンバーに選考してもらい、出続けることが出来ました。個人的には10数試合に出られたことは、良かったと思います。

――チームから求められることは誰から言われるんですか?

監督あるいはアオさん(青木佑輔/アシスタントコーチ)からです。ストロングポイントについて自分自身の認識とコーチ陣との認識をすり合わせて、求められているところと自分が強みだと思っているところがマッチする感じです。僕だけに限らず、ひとりひとりに強みがあると思うんですけれど、プレーしてどこでアピールするかというところは、結構マッチしていたかなと思います。

――具体的に言うと、どういうところですか?

僕はワークレートと、プレーにたくさん参加するということ、そしてシンプルにボールキャリアーが強みだと思っていますし、その点がフィールドプレーで求められているところだと思います。

――以前からボールに触りたいと言っていましたが、得意のボールキャリーを出すためにワークレートを上げているんですか?

そこは結局は繋がると思います。ワークレートはボールを持っていない時も同じで、ディフェンスラインをセットしたり、キックチェイスでしっかりと上がったり、いろいろと繋がるところがあると思うんですが、その2つが自分の強みだと思っています。

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◆よりディフェンスにフォーカス

――ディフェンスについてはどうですか?

昨シーズンはディフェンスのリーダーに入らせてもらいました。リーグワンの試合ではインターナショナルな試合に比べると、点の取り合いで得点が多く入ることがあります。ディフェンスというよりもアタックがメインなスピーディーなリーグというイメージだと思いますが、その中で1点でも取られなくて、1点でも多く取れれば試合には勝てるので、そういった意味でもディフェンスはとても重要だと思っています。

そこが自分の課題でもあると思っていたので、昨シーズンはディフェンスのリーダーに入れさせてもらって、リーダーという役割を与えられたことによって、よりディフェンスにフォーカスしないといけないと、シーズンを通して感じながらやっていました。

――それはフォワードの中でのリーダーだったんですか?

いや、チーム全体でのリーダーです。キャプテンとバイスキャプテンとは別に、チーム全体でアタックとディフェンスのリーダーが複数人いて、大枠の中、例えばタイトファイブ、バックロー、あとはゲームをコントロールするバックス3人がリーダーをやっていました。

――昨シーズンは得点を取ったけれど、取られもしましたよね。そこは個人としての課題でもあり、チームとしても課題でしたか?

僕はディフェンスのリーダーに入っていたので、シーズンを通して、ディフェンスにフォーカスして試合をレビューすることが多かったんですけれど、そういった中で、良いシチュエーションもありましたが、どこかで自分たちのシステムをやり切れなかった時に、スコアされてしまうという機会が多かったと思います。

――そこはどう改善すれば良いということが見えていますか?

ディフェンスのコーチが変わるので、これからのシステムがどうなっていくかは分かりませんが、アタックもディフェンスもフィジカリティのところは絶対的に必要になってくる部分だと思うので、そこはチームとしても個人としても、「フィジカルのバトルで負けない」ということが、いちばん大事だと思っています。

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◆フィジカルバトル

――2シーズン前に比べて多くの試合に出ましたが、自分で成長したと思うところはどこですか?

正直、2シーズン前は初めて試合に出させていただいて、試合のメンバーに選ばれることに必死でした。昨シーズンも決して安心できる状況ではありませんでしたが、自分のこういうところがチームから求められていて、こういうことをすれば評価されることが分かったシーズンでした。自分のストロングポイントや、自分のキャラクターをどれだけ出せるか、同じポジションの他の選手との差別化はどうすれば出来るか、ということにフォーカスしてシーズン通して戦えたので、それが試合に出ることが出来た要因かなと思います。

――自分のことを客観視できたような感じですか?

そうですね。2シーズン前は目の前の試合のことばかりでしたが、自分に対してベクトルを向けられたというか、視点が変わったというか、自分を客観視できるようになったことは、ひとつ変わったポイントかなと思います。

――そういった視点で見た時に、自分の来シーズンに向けた課題は何ですか?

フィジカリティのところです。ラグビー的なスキルは自信があるんですが、ラグビーをやる上でのフィジカルバトルのところはまだまだレベルが足りていないと思うので、そこをもっと強くしていくため、このプレシーズンを過ごせたらと思っています。

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◆身体はギフト

――フィジカルバトルに勝つためには何が必要ですか?

パワーもそうですし、スキルもそうですけれど、やっぱりコンタクトの回数を重ねることでしか伸びない部分はあると思います。

――痛いしハードワークですよね

痛いですけれど、それをやらなければ自分が求める結果は出ないと思いますし、それをやることでチームに還元されると思います。コンタクトを重ねることでフィジカル的にも強くなりますし、テクニック的にも上がると思っています。

――いちばんハードな練習ですね

そうですね。そこが今、自分に足りない部分だと思っています。

――素朴な疑問ですが、スキルに自信があって、ボールを触ることが好きなので、バックスをやっていたら良かったんじゃないかなと思うのですが

いやいやいや(笑)。身体に恵まれて、スクラムを組める体格に成長することが出来たので、そこはギフトですね。

――バックスをやりたいと思うことはありませんか?

ぜんぜん無いですね。小学や中学まではバックスもやったことはありましたが、それがパスのスキルに繋がっていると思います。そこは自分の経験値じゃないですけれど、フロントローだけどそういうスキルを使えるという、他の人との差別化になっているところだと思います。置かれた環境じゃないですけれど、バックスが良いなと思うことはなくて、フロントローとしての魅力、役割があると思っています。

――ラグビーの象徴的なものがフロントローという意識がありますか?

いや、僕としては、ラグビーの魅力は、「人それぞれにあった役割がある」ところだと思っています。僕みたいな大きめの人がいたり、一方でスリムで足が速い人がいたり、様々な人が15人集まって出来るスポーツがラグビーの魅力だと思っています。だから、このポジションが良いということはないですね。

――どのポジションでも良かったということですか?

そうですね。自分の適性がフロントローだったということです。

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◆ラグビー選手として目指したい場所

――自分を客観視してみて、この後どんな選手になっていくと思いますか?

正直、「こういう選手になる」ということは見えていなくて、ただ自分の目の前の課題などは明確になっています。自分の展望を話すのは難しいですね。

――日本代表への意欲は?

いま日本代表には選ばれていなくて、前回もバックアップメンバーでした。日本代表になりたいという気持ちは個人的にもありますし、次回のオーストラリアで行われるワールドカップは、いちラグビー選手として目指したい場所ではあります。

――年齢的にも良いタイミングだと思いますが、その時の自分の姿をイメージ出来ますか?

現段階で選ばれていないということに対して、もっと頑張らなければいけないという気持ちが強くて、自分の理想と現実のギャップに対して突き詰めなければいけないと思っています。

――チームの監督やコーチから求められていることが、日本代表からも求められているといいですよね

6月の初めに、エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)とお話しする機会があって、その時にエディーさんが評価してくれているところを言ってもらう機会をいただけたので、そこもクリアにはなっています。

――自分の課題や位置などが見えてくると楽しいですか?

今のところ自分の現状が衰退していると感じたことは無いので、そういう意味では自分を振り返る時に成長を感じられていて楽しいですね。

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◆自分にとって誇れるものに

――いま何のためにラグビーをやっていますか?

自分のためですね。例えば、誇りとか、自分がラグビーをするひとつの理由として、周りからリスペクトされるというか、それは最終的にたどり着く場所だと思います。5歳からラグビーをやっていて、こんなに同じことを長くやり続けたことはラグビーしかないので、ここまでやり続けて来て、日本代表を目指したり、そこを突き詰めるのであれば、最後にどう着地するか分かりませんが、自分にとって誇れるものにしたいと思っています。それと同時に、人としてなのかラグビー選手としてなのかは分かりませんが、僕が発言したことで、「この人が言うのであれば」というような、信頼される存在になりたいと思っています。

――それには相当、自分に厳しくしないといけませんね

そうですね。以前、「なぜラグビーをしているのか」と考えることがあって、それを言葉にすることが難しいと感じました。恥ずかしいことではありませんが、「なぜやっているんだろう?」って考えることってあまりないじゃないですか。もちろん好きだからということもありますが、それ以外の理由と考えた時に、そういう部分がラグビーを仕事にしてやっている理由なのかなと思います。

――ラグビーを突き詰めようと決めたのはいつですか?

勝負をしたいと思ったのは高校を選ぶ時で、中学までは県の選抜に選ばれたりしていたわけではありませんでした。僕は兵庫県出身なんですけれど、高校では親元を離れて、福岡県の東福岡高校に進学しました。その決断をした時が、勝負の道が始まった時かもしれません。結局、ラグビーで生きるというよりも、高校の後に大学、社会人というプロセスがある中で、「なぜ東福岡を選んだのか?」と聞かれたら、「憧れていた」というのがいちばんの理由なんです。いま思えば結構なギャンブルというか、勝負に出たタイミングだったかなと思います。そこがいちばんのターニングポイントだったかもしれません。

小学生、中学生の時に、花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)を良く見に行っていました。垣永さんが高校生の頃の試合を見ていました。東福岡高校が強くて、3連覇した時ですが、その姿がカッコよくて、自分にとって憧れでした。

――憧れの場所に入っていって勝負しようと?

僕が入学する前の年に、花園で優勝しているんですよ。その時がめちゃくちゃ強くて、その当時は県外からあまり選手を取っていませんでした。僕からしたら中学までは地元で過ごして、高校から過ごしたことのない福岡に行くということ自体が勝負でした。入学してみて、同期が50人近くいて、部員も120人くらいいたと思います。その中から試合の23人に選ばれるということは、あまり考えていませんでした。単純に「そこでラグビーがしたい」というフワッとした感じでした。

行くと決めたからには試合に出たいじゃないですか。自分はラグビーを頑張ることでしか、チームからも認められないし、初対面の50人近い同期からも認められない。だから頑張るしかないと決意しました。

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◆やるならチャンピオンに

――辞めたいと思う時はありませんでしたか?

ラグビー人生で辞めたいと思ったのは、中学生まででした。小学生の頃も中学生の頃も、何回も辞めたいと思ったことはありました。ただ、東福岡高校に入って、運良く1年生から試合に出させていただいて、そこからトントン拍子じゃないですけれど、試合に出させていただくことで自分の中で自信がつきました。そして大学を選ぶ時、小学生の時に早明戦を見に行って、早稲田が明治に圧勝して、「早稲田ってカッコいい」と思っていたのが頭の片隅にあって、早稲田大学も僕の中で憧れの場所でした。たまたま早稲田大学から誘っていただいて、運もあったと思います。

――小学校、中学校の時に辞めたいと思ったのはなぜですか?

その時はシンプルにラグビーが楽しくなかったですね。今のラグビースクールは分かりませんが、練習もキツくて、小学生、中学生の時はラグビーをやるよりも見る方が好きでした。それで辞めたいと思っていました。

――そこで辞めてしまう可能性もありましよね

あまり覚えていませんが、ラグビースクールに行って、何回も「もう辞めます」と言ったことがありました。ラグビーが嫌すぎて、「もう辞めます!」って言ったり、練習に行かなかった時もありました。

――続けていて良かったですね

結果的にはそうですね。

――見ていて、勝つラグビーが魅力だったんですね

そうですね。やるならチャンピオンになりたい、トップを目指したいということが自分の中にあるんだと思います。

――社会人ではどうですか?

優勝を狙える位置にはいると思うんですけれど、なかなか難しいというか、現実としては結果がついてきていないと思います。

――それを現実にするためには何が大切だと思っていますか?

そこは自分でも分かっていなくて、高校や大学って、そのメンバーでやるのは1年限りで、サンゴリアスでも退団する選手はいるものの、全員がガラリと変わることはありません。そういうところが学生と社会人の違うところだと思っています。トップリーグの経験もありませんし、リーグワンでの優勝も経験していないので何とも言えませんし、大切なところは自分でも分からないところです。ただ今までの日本一になった経験から言うと、「全員がハードワークする」ところは、どのカテゴリーにおいても必要なことだと思っています。

――それは毎年のテーマでもありますか?

毎年のテーマだと思っています。チームのみんな全員口を揃えて「ハードワークする」と言っていると思いますが、それは最低条件なのかなと思います。

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◆海外でラグビーをする経験

――オーストラリアに行っていたんですね?

7月1日から28日まで行きました。丸1ヶ月くらいです。オーストラリアから帰ってきた週にフィットネスのテストをやりました。

――オーストラリアどうでしたか?

オーストラリアに行った理由としては、昨年バーバリアンズに行った時の友だちに会うことと、英語力を伸ばすことで、個人として行きました。バーバリアンズではラグビーをしましたが、海外でラグビーをする経験がなかったので、行ってみたいと思ったんです。

――トレーニングもしたんですね

基本的にラグビーのトレーニングをしましたし、ストレングスやサンゴリアスでのシーズンに向けてのランニングメニューなどを行いました。

――何がいちばん良かったですか?

昨年のバーバリアンズの経験で、たくさんの知り合いが出来て、そのメンバーと再会できたことが、まずラグビーをやっていた良かったと思うことでした。僕はまだぜんぜん英語が話せませんが、ラグビーを通して分かり合えることが多く、みんなが「オーストラリアに来たのか!」と時間を作ってくれました。そしてチームメイトのハリー・ホッキングスの結婚式があったんですが、共通の友だちも多くて、その結婚式に行ったりしました。いろいろな人に会えたことがいちばん良かったと思います。

――ホッキングス選手の結婚式はどうでしたか?

人生の中で友だちの結婚式に行くことが初めてで、初めての結婚式をオーストラリアで経験しました。貴重な経験をさせていただきましたし、素晴らしい結婚式でした。

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◆ボールを持っていない時のプレー

――今シーズンはファンにどんな姿を見て欲しいですか?

今シーズンはボールを持っていない僕に注目して欲しいです。それはワークレートだったり、最初に話したディフェンスのところですね。

――なぜボールを持っているところではなく、持っていないところなんですか?

ボールを持ったら何かする自信はありますし、ボールを持ったら絶対にみんな見るじゃないですか。その逆じゃないですけれど、ボールを持っていない時のプレーに注目してもらいたいですね。

――ボールを持っていない時、何かをしている時なんですね

何かをやっていると思ってください。何かをやります。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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