SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2024年8月16日

#917 中野 幹 『強烈なプレーを』

昨シーズン、ほぼ全試合に出場した中野幹選手。シーズン前のニュージーランド留学で見つけた感覚を、更に次のシーズンへ、どう活かして行くのでしょうか?(取材日:2024年8月上旬)

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◆試合経験

――昨シーズンは1試合を除きすべての試合に出て、いちばん試合に出たシーズンだったと思いますが、どんなシーズンでしたか?

シーズンが始まる前から、良い流れが出来ていたと思います。オフシーズンにニュージーランドに留学をさせてもらい、それによって試合経験が積めて、レベルが高い選手がいる中でプレー出来たので、そこで通用するという自分にとっては自信になりました。その流れの中でサンゴリアスに帰ってきてプレー出来たので、とてもコンディションが良かったと思っています。そのままスタートダッシュを切れたので、最初はその勢いでいけて、やっていく中でサンゴリアスにアジャストしながら、上手く進んでいけたと思っています。

――コンディションが良かったというのは、試合経験を積んだままシーズンを迎えられたということですか?

試合経験を積んで帰ってきて、最初の練習試合が10月で、それから3~4試合の練習試合をやって、そのままシーズンを迎えられました。シーズンに向けて練習試合で最後に研ぎ澄ましていくという段階で帰ってきて、その流れに乗って行けたと思います。

――試合経験を積むことが課題と言っていましたが、経験すれば成長できるという感覚を掴みましたか?

試合を積んでいけばいくほど経験値を得られて、本当に試合で使える技術とかプレーがあるんです。例えば、試合に出ずに外から見ていて、こういうプレーが良いなと感じるプレーがあったとしても、まだその段階では試合で使えるものではありません。練習でどれだけ良いプレーをしていても、試合で使えるものではないかもしれないし、実際に試合でやってみないと分からないものになるので、やはり試合で経験が積めるというのは、僕にとっては大きかったです。毎試合、試行錯誤しながら、「これしてみよう」というプレーを次の試合で試してみて、どうだったかがフィードバックできて、それを繰り返せたので、とても成長できたと思います。

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◆形にとらわれない

――ニュージーランドではどのくらいの試合に出たんですか?

ニュージーランドでは9~10試合くらい出ました。毎週試合があって、帰国する最後の週にも試合があって、それに出て帰ってきたという感じです。

――実際にその経験によって、ここが成長したというポイントはどこですか?

いちばんは、ニュージーランドでラグビーをして衝撃を受けたのが、形にとらわれないということです。抽象的なんですが、例えば、決められたシェイプの中で、こうやってステップを切らないといけないとすると、日本ではその形を練習するんですが、形だけにとらわれてしまったら、本当は違うところにスペースがあるのに、そのチャンスを活かせないということがあると思います。

ニュージーランドの選手は、そこで判断が出来るし、形が良くなくて、このプレーはあまり良くないと感じても、そこで抜けたりするんですよ。その嗅覚みたいなものがあるんです。「あいつは個人プレーをして形にとらわれてないけれど、ガッとラインブレイクする」というような感じで、そういうところを間近で見ていて、「あいつは個人プレーをしてチームの和を乱している」と見るのではなくて、自分に活かせるものなんじゃないかなと見ていました。形だけにとらわれないということを学べましたね。

――それを実際にやるのは難しいと思うんですが、どう工夫したんですか?

要は決め打ちをしないということが大事で、僕が感じたこととしてはニュージーランドの人は前を見て判断していると思いました。日本でもトップの選手は決め打ちをせずに、前を見て判断してプレー出来ていると思います。それをやるためには前を見ることが出来る余裕がないといけませんし、その余裕を作るためには、例えばアタックでは、ボールキャッチをする時に、ボールを取ってから前を向いていては遅いんです。ボールを取ることに50%を置いておけば、残りの50%は前を見ることに使えると思います。いろいろな要因があると思うんですけれど、ちゃんと前を見に行かないと見えないですし、そういうことを意識しながらプレーしていた感じです。

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――ボールキャッチに50%だと、ボールを落とす可能性もありますよね

その可能性は実際にあるんですけれど、成長するためには仕方ないと割り切ってやっていました。それでやっているとボールも取れるようになってくるので。

――そうすると50%の質が上がるということですよね

目の前の失敗には一喜一憂せずにしていました。シーズンを通して、一喜一憂することもなかったと思います。細かく見ればありましたが、大まかに見るとなかったんです(笑)。試合に勝って嬉しい、試合に負けて悔しいということはありましたが、日々のプレーの中、毎日練習をする中での一喜一憂は無くて、毎日どうやったら成長できるかにフォーカスしていたので、ミスしたとしても、全く落ち込むことはありませんでした。

昨シーズンはあまり無かったんですけれど、もし僕が試合に出られなかったとしても、一喜一憂せずに過ごしていたと思います。「毎日成長する」と決めていて、そこだけにフォーカスしていたので、そういった意味では、普段は一喜一憂していなかったと思います。

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◆判断したことを100%やり切る

――型にはまらなくなって、その場でいちばん良いものを判断できるようになってきたんですね?

まだ出来ないですけどね(笑)。判断できるようにトレーニングしています。それが大事だと感じました。

――キャッチも50%の力でそれほどミスなく出来るようになったということですね

良いように言ったらそんな感じです(笑)。まだ出来るようになっていなくてミスも起きますし、前が見えていなくてミスする時もありますけれど、その場で自分が判断したことを100%やり切るということもラグビーにとっては大事なことだと思っていて、「これで良いかな?」という迷いの中でのプレーは弱いですし、ミスも起きやすいですし、周りとコミュニケーションも取りにくくなります。「これで決めた」という判断を100%貫く、プラスαでその判断が、パスとかコンタクトとか、10番に裏にパスするとか、その選択肢の中のいちばん良い選択肢を取れた、という精度を上げていきたいんです。

――その精度を上げるために気をつけていることは何ですか?

やはり、アタックに関してはクリーンにキャッチをすること、アーリーキャッチをすること、前を見てどこが空いているのかを判断すること。あとは自分の世界に入り過ぎずに、後ろから10番がボールを呼んでいるとか、僕の横にいるティップランナーや走り込んで来てくれるプレーヤーがどんな声を出しているのかを聞く余裕があれば、そのオプションもプレーしやすくなると思います。その精度には、余裕があるかどうかも大事になってくると思います。

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――余裕というのは、もう少し具体的に言うとどんなことですか?

経験だと思います。そこでも思ったことがあって、ラグビーの試合にたくさん出ていると、「このシーンって、こういうことが起きるよな」ということが何となく見えてくるんです。そういう予測が出来るようになってくるんです。あと、相手のディフェンスがめちゃくちゃ詰めてきた時とか、そういうことを試合の中で何回も繰り返していると、「大体こんな感じかな」と分かるようになってくる。そうすると、頭の中がグルグル回らず、やることが明確になって、余裕が出来てくるんじゃないかなと思っています。昨シーズンの1年間、試合中に焦らずにプレー出来たのは、良くなったことだと思っています。

――その経験は何かに書いていたりするんですか?

書いたりはしていないですね。僕がノートに書いているのは戦術のこととか、ミーティングのことがほとんどです。あとは自分の感覚みたいなところを信じてプレーしています。

――感覚が変わってきているということですか?

そうです、そうですね。

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◆もっと強くコンタクトできる形

――今後はどんな感覚が出てきそうですか?

今のプレースタイルを、もう少し強化していかなければいけないと思っています。ボールキャリーひとつとっても、タックルひとつとっても、コンタクト局面の時にどういうインパクトを残せるかが、僕の中でのキーだと思っています。そこがいちばん成長できたと、今シーズンは思いたいんです。

スクラムに関しては、僕の感覚としては一気に爆発的に強くなることはなくて、一昨年のシーズンはやられることも多かったんですけれど、昨シーズンはコツコツ積み重ねてきたことによって、やられることが少なくなって、自分がプレッシャーをかけることも増えてきたと思います。少しずつ成長してきているので、今シーズンもまた良くなると思っています。

ボールキャリーやタックルは癖みたいなものがあると思うんですけれど、自分の身体の中でもっと強くコンタクトできる形があると思うので、それを見つけたいと思っています。それを使えるようになりたいと思っています。ボールキャリーとタックルを成長させたいですね。

――全体を見ることと、そこに集中することと、両方やることは大変ですよね

そんなに上手くいかないとは思うんですけれど(笑)、毎年毎年、そういうことにチャレンジしていって、100%は無理だけれど、50%でも良いから成長したと思えるシーズンにしたいと思っています。だから、やっぱりチャレンジはしたいですね。

――少し上を目指してチャレンジするということは楽しいですよね

面白いです。めっちゃ面白いです。

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――ニュージーランドに行く前よりも面白いんじゃないですか?

あー、行く前よりもぜんぜん面白いですね。「ニュージーランドに3ヶ月行って、成長できるの?」と思う人もいると思うんですよ。でも、僕はニュージーランドに行って大きく変わったので、お勧めなんですよね(笑)。

――目指すところは更に高いところだと思いますが、今のレベルでの安定感は出てきましたか?

安定感は多少出てきたと思います。大きなミスをすることも少なくなりましたし、安定して平均点を出せるということは多かったと思います。その中で自分にしかない武器を突き詰められるかが大事だと思うので、昨シーズンではそれが運動量で、プロップが走らないようなところを僕が走っているというところが強みでしたが、そのままだったらライバルに負けると思いますし、またもうひとつ成長しなければいけないと思っているので、コンタクト局面の力強さがもう一段階上がれば、また別の世界が見えてくる気がしています。

――パワーをつけるトレーニングはしていますか?

そうですね。パワーをつけるトレーニングと、ボディウエイトも上げなければいけませんし、それを上げた中で動けなければいけません。そのボディウエイトも脂肪じゃなくて、筋肉で上げていけるようにトレーニングしています。

――怪我にも注意ですね

身体を大きくするとコントロール効かなくなって、怪我をしやすくなりますよね、負荷もかかるし。上手く、身体と相談しながらですけれど、フィジカルのトレーニングに対して、向き合い方はもっと変わると思います。

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◆全勝で優勝

――次のシーズンに向けて、形に見える目標は何ですか?

優勝ですね。リーグワン優勝が形になる目標で、全勝で優勝を目指しています。

――昨シーズン、失点が多かったことについては?

課題はずっとディフェンスにあったと思います。アタックが僕たちの中心にはあるんですけれど、ただ勝つチーム、トップ4に行くようなチームは、やっぱりディフェンスで点を取られないチームということもあると思います。アタックもディフェンスも両方大事だと思います。その中でディフェンスはずっと課題を抱えたまま、少しずつ修正はしていましたし、ハードワークは確実にしていたと思うんですけれど、もしかしたらまだハードワークが足りなかったのかもしれないですね。

――そういう中で、新たなシーズンは全勝を目指せますか?

行けると思っていますし、選手それぞれがもうひとつ意識が上がって、もうひとつスキルが上がって、フィジカルが上がって、練習の強度がもうひとつ上がったら、行けると思っています。実際に昨シーズンの自分たちを超えることが大事で、全勝で優勝することも目標ではありますが、昨シーズンの自分自身の実力を超えて、どんどん成長して超えて行って、結果として全勝で優勝するということはあると思っています。

――チーム全体の意識やモチベーションがとても大事だと思いますが、自分だけじゃなく周りも盛り上げていこうという意識はありますか?

少しはあります。僕は27歳の年で、後輩が結構増えてきたので、自分だけじゃなくて、周りのメンバー、若手を中心にして共に自分が出来ることはやりたいと思っていますし、口だけにならないように、プレーでも示したいと思っています。僕もまだまだなんですけれど(笑)、結構下手もこくし、人間として成熟していないですけれど、自分も成長しながら、みんなとやっていきたいと思っています。

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――人間として成熟していないところは何だと思いますか?

いやー、私生活(笑)。結構、ずぼらな性格なので、だらしないところが結構あると思います。「私生活がプレーに及ぼす影響」を理解していますが、亮土さん(中村)、引退した小澤さん(直輝)などいろいろな方から、「もっと意識した方が良い」と言われますね。僕のロッカーの様子や普段の行いを見てだと思います(笑)。

――改善はしていますか?

自分なりには改善しているつもりではあるんですし、一昨年のシーズンくらいまでは、気持ちの浮き沈みがプレーに出てしまうこともありました。それで「私生活がプレーに出ている」という見られ方をしましたし、実際に僕自身も関係していると思っていました。そこを昨シーズンは見直そうと思ってやっていました(笑)。出来たか出来ていないかは分かりませんが、見ていた方々がどう捉えてくれるかなと(笑)。

――今は独身ですか?

そうです。独身です。

――結婚したら変わるんじゃないですか?

結婚したら変わる可能性はありますよね。けど、結婚はまだ分かりません(笑)。

――それによってプレーが伸びるかもですね

それによってプレーが伸びたら、素晴らしいことですよね(笑)。

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◆僕にしかない強み

――ファンの方々にどういうところを注目して見てもらいたいですか?

3番は結構ライバルがいて、長老のカッキーさん(垣永真之介)、若手のホープのホッキー(細木康太郎)、あと宗志(大賀)、クーニー(ブラッドリー・クーン)など、いるんですよ。みんな強敵だと思うんですけれど、もう全員に勝ちます。

難しいところとして、僕は誰かと勝負をすると、あまり良いメンタルにはならないんですよ。誰かと比べると、そればかりが気になって、良いメンタルにならなくて、それで一喜一憂してしまうことがあります。周りに勝つんですけれど、あまり意識しないというか、自分自身の成長にフォーカスする。その結果、成長して試合に出られる、それで結果として僕がいちばん試合に出ている。そういうイメージです。

――ファンから見たら、結果として常に3番を背負っているということですか?

常に3番を背負っていることが嬉しい状況ですし、僕にしかない強みを感じてもらえるようなプレーをしたいと思っています。スクラムが強いのはもちろんですが、ボールキャリーやタックルでも楽しんでもらえるような、強烈なプレーをしたいと思っています。それを楽しんでほしいと思います。

そろそろカッキーを安心して引退させたいなと思っています(笑)。安心させて、「サンゴリアスはもう大丈夫」って伝えたいですね。カッキーさんのことが好きだから、そろそろ休んでほしいなと(笑)。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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