2024年8月 9日
#916 山本 敦輝 『良いスクラムを組み続ける』
アーリーエントリーで1月にチームへ合流し「1日でも早い試合への出場」を目標に掲げ、最後の3位決定戦でそれを達成した山本敦輝選手。その時の心境、そして来シーズンへの目標を聞きました。 (取材日:2024年7月下旬)
◆今後に繋がる5分
――試合に出ることを目標にしていた昨シーズン、最後の3位決定戦で、しかもラスト5分という時間での出場でしたね
やっぱりあの舞台に出させてもらえることが嬉しかったですし、試合前のメンバーの雰囲気とか、5分だけでしたが試合に出た時の会場の雰囲気とか、そういうところを1年目から経験させてもらえたので、今後に繋がると率直に思います。
――緊張しましたか?
良い意味での緊張はしていましたね。そこは勢いで行きました。
――実際に呼ばれるまではどうだったんですか?
自分の中ではラスト20分くらいは出られるかなと思っていましたし、呼ばれてからも実際に出るまでには時間があって、同点だったので、大変なタイミングで出されたなと思っていました(笑)。
――同点の状況については?
正直、自分のパフォーマンスの事しか考えていませんでした。まずは自分が良いプレーをしないと、チームに繋がらないと思っていました。時間が5分だけだったので、とりあえずは動きまくって、ちょっとでも存在感を出したいと思っていました。スクラムがあれば良かったんですけれど、出場した後にはなかったので、変なミスをしないで思いっきりプレーしようと思っていました。
――それは出来ましたか?
正直、ボールにもあまりタッチ出来ていませんでしたし、出来たかと聞かれると、なんかすぐに終わった感がありました(笑)。
――最後に勝った時にグラウンドに中にいた心境は?
目の前で相手がボールを落として、江見さんが拾って、それがトライに繋がりました。素直に嬉しかったですね。逆転したことを実際にグラウンドで喜べるというのは、違うなと思いました。
◆人としての礼儀
――自分が考えていたよりもデビューは早かったですか?
アーリーエントリーの時から早く出たいと思っていたので、正直、ちょっと遅くて、なんなら「今シーズンは難しいかな」と考えていました。その中で最後に出させてもらったのは大きかったです。ここで出させてもらうというのが、本当に良かったと思います。
――サンゴリアスに入ろうと思ったのは、同志社大学時代の宮本啓希監督(当時/サンゴリアスOB)の影響もあるんですか?
僕が3年、4年の時に監督をやられていましたが、めちゃくちゃ勧められたわけではありませんでした。いろいろなチームに行かせてもらって、チームの雰囲気とかを感じたりしている中、監督のキヨさん(田中澄憲)から「日本人選手をしっかりと育てる」ということを言っていたので、そこが良いなと魅力的に感じました。実際にサンゴリアスの練習に参加したら、宮本監督のもと、大学でもやったことがある練習をやっていたのは感じましたね。
――4年生時は監督からキャプテンに指名されたんですか?
そこは同期のみんなが選んでくれました。
――キャプテンということで、監督とのコミュニケーションは他の選手よりも多かったわけですね?
多かったですね。普通にぶつかることもありましたし、結果が結果だった(関西Aリーグ8位、入替戦勝利)ので、僕も監督も思うようにいかなかったなというシーズンでした。でも、ラグビーのスキルだけではなくて、社会人として、人としての礼儀とかをとても学んだと思います。実際に社会人になって、いろいろな人に挨拶に行く時に、ヒロキさん(宮本啓希)だったらどういう行動をするだろう?と頭によぎったりします。だから、大学2年間で教えてもらったことは良かったと思っています。
大学生なので、その辺りが雑だったと思います。その中にヒロキさんが来て、急にチームを締めてくれた感じがしたので、正直、それについて行けない選手も実際にはいたと思います。でもやっぱり言っていることは正しいですし、そこに反抗するような選手もいたんですけれど、そういうところがしっかりしている人だったので、本当に見習っていきたいと思っています。
――キャプテンとしては大変でしたね
そうですね。だいぶ大変でした(笑)。
◆一緒に声を出す
――昔からキャプテンをやってきたんですか?
そうでもないですよ。高校の時もキャプテンではありませんでした。
――大学でキャプテンをやってみてどうでしたか?
いちばん身体を張らなければいけませんし、いちばん声を出さなければいけないし、それでいていちばんミスをしたらいけないので、そう言ったところが初めてキャプテンをやって、それを当たり前にやらなければいけないことが難しいと感じました。
――自分のことにプラスしてそういうこともやって、得るものは多かったのでは?
そこはもちろん頑張ってやってきたんですけれど、どうですかね(笑)。リーダーシップを発揮して頑張ったつもりですけれど、正直、結果が出なかったので、それが正しかったのは分かりません。やっぱりサンゴリアスに来て、キャプテンや声を出している選手などを一人にしないということはありますね。大学の時は声を出しても返してくれない時もあって、声を出している人にそういう思いをさせたくないと学んだので、一緒に声を出すようにしています。
――キャプテンにはプレーで引っ張るタイプと言葉で引っ張るタイプがいると思いますが、自分としてはどちらのタイプですか?
僕としてはプレーが大事だとは思っていますが、実際に得意なことは声掛けだと思います。
――コミュニケーションが得意なんですね
得意というよりは不得意じゃないという感じです(笑)。
◆味方に頼りまくる
――いつラグビーをとことんやると思ったんですか?
大学2年生くらいだと思います。実際にリーグワンのチームから「声をかけるかもしれない」と言われたりして、自分はそんなプレーヤーなのかなという感じでした。それが素直に嬉しくて、自分がリーグワンで出られるのかと驚きでした。
――自分の持ち味として、どこが評価されていると思いましたか?
やっぱりスクラムだと思います。スクラムの安定感のところで、ペナルティーを取って取られてというプレーじゃなくて、良いスクラムを組み続ける、そういったところが監督やコーチからも信頼を勝ち取れると思うので、そこは自信がありますし、次のシーズンでもそこでもっと信頼を勝ち取りたいと思っています。
――スクラムに強さと安定感があるんですね
結局は強くなければいけませんし、かと言ってちょっとしたペナルティーになるようなこともしないという部分が、安定感かなと思います。
――考えながらプレーしている感じですか?
そうですね。相手の組み方とか、もちろん事前に映像を見て学びますし、実際に組んでみないと分からない部分もあります。そこで考えながらやっています。
――安定して力を出す、つまらないミスはしない、そういうプレーをやり続けるコツは何ですか?
やっぱりスクラムはひとりでは組めないので、味方に頼りまくるじゃないですけれど、「もっとこうして欲しい」とか、フッカーにもそうですし、ロックやフランカーにもそうですし、いろんな要望をして助けてもらうことですね。
――それはどこで気がついたんですか?
単純にひとりでは組めないので、ひとりよりふたり、どんどん巻き込んだ方が良いなと気づいたというか、そういうものだと思っています。
◆やったことへの手応え
――ホームページのプロフィールを見ると「読書」「コーヒーを飲む」が目に止まりました。静かにものを考える人という印象を受けましたが、それが外れてはいなさそうですね
読書にしても小説というよりも、誰かの自伝などを読む方が好きだったので、そういう本を読んで「こういう考え方もあるのか」と感じたり、そういうところから学んだりしています。
――どんな本が印象に残っていますか?
ラグビー選手の本などが印象に残っています。堀江さん(翔太/埼玉ワイルドナイツ)や姫野さん(和樹/トヨタヴェルブリッツ)も本を出しましたし、ラグビー選手の本を読むと、その人のラグビー人生が書いてあるので面白いなと思います。
――自分で書きたいとは思いませんか?
思わないです(笑)。そんな書けるようなあつい人生じゃないので(笑)。
――ラグビーが面白いと思ったのはいつからですか?
ちゃんと考えてラグビーをするようになったのは高校2年生くらいだと思います。ラグビーは中学から始めたんですけれど、それまではただガムシャラにボールを持って走って当たってというプレーだったんですが、高校2年生くらいからは考えてプレーするようになりました。その時のコーチから「考えてやれ」と言われて、それで考え出してプレーしたのが自分の中でも転機かなと思います。そこから面白味を感じましたね。
――考えてプレーすると、結果が変わったんですか?
個人の評価が変わってきましたね。それまではメンバーに入れなかったんですけれど、高校2年生くらいからメンバーに入れるようになりましたし、3年になった時には監督からも信頼されていました。
――何を考えて、どのようにプレーしたんですか?
本当に何も考えていない状態から、例えば、相手に当たる時の姿勢であったり、相手のスペースを見てパスをした方が良いのかキャリーした方が良いかだったり、そういうことを考え始めました。それまでがゼロで、ボールをもらってただ走れば良いというスタイルでした。
――ただボールをもらって走るだけでも、ラグビーは面白いと思っていましたか?
面白いのは面白いんですけれど、評価されるようになってやっと面白くなってきたと思います。
――評価されるところの価値はどのように考えていますか?
単純な評価としては、メンバーに入るとかなんですけれど、他の誰かと違ったことで、例えばウエイトで頑張って、それが評価されてメンバーに入ったりすると、とても嬉しく思いますし、メンバーに入って試合に勝てたら更に嬉しいと感じて、面白いと感じると思います。やったことへの手応えがあることですかね。
――考えるようになる前、それでもラグビーを続けていた理由は?
続けないという選択肢はなかったですね。先に兄がラグビーを始めていて、兄も同じ常翔学園に進んでラグビーをやっていました。その姿をずっと見ていたので、自分もそういう舞台に立ちたいと思っていました。だから、辞めるという選択肢はなかったですし、辞めたいとも思いませんでした。
◆身体をぶつけて相手を倒す
――いまお兄さんは続けていないんですか?
今はもうやっていないですね。ラグビーはやっていないんですけれど、ラグビーについていろいろと聞いてきます。自分は三兄弟で、弟がいま常翔学園の1年生なので、弟のプレーを見ながら兄弟で話すということもあります。
――みんなフォワードなんですか?
そうですね。一列目は僕だけです。
――兄弟の中でも子どもの頃から大きかったんですか?
大きかったですね。単純に太っていたということもあります(笑)。最初はフッカーをやっていたんですけれど、フッカーをやり始めた理由が、たまたまフッカーと言われて、そこからずっと1列目でやっています。
――フッカーはどうだったんですか?
やっぱりスローイングが難しかったですね。その日のメンタルによっても変わっていました。高校でもフッカーをやっていましたが、試合の前にはスローイングのことばかり考えてしまっていました。高校の時はリフターが悪くても、すべてスロワーのせいみたいなところがあったので、それが大きなプレッシャーでした。
――大学からは1番ですか?
少しややこしいんですけれど、高校2年生の時に1番も3番もやっていて、1列目をすべてやっていました。それで高校2年の時に評価されたのが1番でした。高校3年の時にまたフッカーをやりだして、前半は2番で後半は1番ということもありました。大学でも最初はフッカーもやっていたんですけれど、1番の方がスクラムの安定感があると言われて、そこからはずっと1番です。
――スクラムは好きですか?
好きなんですかね(笑)。得意なだけで好きかどうかはちょっと(笑)。めちゃくちゃスクラムを組むということは苦手ですけれど、スクラムのことを考えてプレーすることは好きですね。考えてスクラムの組み方を変えたりして、上手くなって強くなって評価されたら嬉しくなります。
――ラグビーのどこが好きですか?
いっぱいあるんですけれど、やっぱり勝った時とか、トライとった時もそうですし、いろんな人に出会えるところがラグビーの良いところだと思います。あとは身体をぶつけて、相手を倒すとか、そういうところが相手に勝った感がありますよね。
小学生の時にサッカーをやっていたんですけれど、サッカーをやっているとすぐにファールを取られていました(笑)。それでとってもストレスが溜まりましたね。ラグビーってそれがないので、そこが良いですよね。
――1番としてのプライドはありますか?
やっぱりスクラムはプライドですね。年齢とか関係なく押されたらめちゃくちゃ悔しいですし、そこはプライドとプライドの勝負だと思うので、絶対に負けなくないですね。
◆スクラムとハードワーク
――昨シーズンはスタンドから試合を見ることが多かったと思いますが、サンゴリアスは思った通りのチームでしたか?
そうですね。レベルが高いチームで、昨シーズンの終盤には連敗してしまって、それが今までの中では異例だと聞いた時に、やっぱりそんなんじゃいけないチームなんだなと感じました。それが1年目だったので、これを普通だと思ったらアカンなと思いました。
――その中でいちばん新鮮だったことはありますか?
大学と比べると、単純にスキルのレベルが高いと感じました。セットプレーだけじゃなく、ボールキャリーやタックルでもそうですね。走り方とかはとても新鮮な感じがありました。
――走りは速くなりましたか?
気持ちは(笑)。
――その可能性はありますか?
それはもちろん。だから、もっとトレーニングしたいなと思いますね。
――来シーズンに向けての課題は何ですか?
まずは信頼されるスクラムが組めるようになること。あとはフィールドのところでハードワークすること。その2つが大事だと思っています。まずはスクラムで存在感を出して、フィールドでもどんどん良いプレーをしていきたいと思っています。
――フィットネスには自信があるんですか?
テストとかは苦手です。みんなで走るとかは得意なんですけれど、ひとりで走るとかは苦手です。
――どの辺でアピールしていきたいですか?
ボールキャリーもそうですし、ディフェンスでも前に出て良いタックルを決めたいですね。高いレベルなので難しくなるんですが、その中でやり続ける力をつけたいと思っています。
――ボールキャリーもタックルも得意ですか?
タックルは上手くいくことが多いと思います。単純に言われたことをやるようになったら上手くいくようになってきました。言われたことをやりまくって、自然と出来るようにしていきました。
――あらゆることをその調子でやっていけば、可能性は無限大ですね
単純と言えば単純ですよね。コーチから「こうやった方が良い」と言われたことが出来なければ、練習をしまくって、それが出来るようにしていけば、強くなっていきます。
◆落ち着くこと
――来シーズンの目標は?
やっぱり1試合でも多く出ることです。ただ試合に出るだけじゃ意味がないので、チームの中での存在感を出すことが次の目標かなと思います。
――長い目で見た時に、どんなラグビー選手になりたいですか?
サンゴリアスでラグビーをやっているからには、日本代表になれるようにやっていきたいと思っています。まずはそこが目標ですね。
――比較的、心理状態も安定していますよね
そうですね。練習中や試合中に感情的にコンタクトプレーをやったりすると、自分的にはミスするタイプです。過去にそういうこともあって、感情的になってはいけないなと感じました。
――自分をコントロールするコツは何ですか?
落ち着くことです(笑)。一度、深呼吸をするとか、感情を落ち着かせて冷静に考えることですね。それで、何を最優先に考えなければいけないのかが、見えて来ると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]