2024年7月26日
#914 福田 健太 『アグレッシブ・アタッキング・ラグビーの架け橋になる』
リーグワン30キャップ10トライ、日本代表1キャップ(2023仏ワールドカップ)のスクラムハーフ・福田選手がサンゴリアスに加わりました。早速、初めてのインタビューを試み、その意気込みを聞きました。(取材日:2024年7月中旬)
◆雨でも晴れでも素手が良い
――過去の写真を見ると、毎年髪型とヒゲが変わっていますね
あまり理由はないですけれど(笑)。髪型はいつも気分で変えています。シーズン中も変わるので、髪型は気まぐれですね。ヒゲについては、僕は結構、願掛けみたいな感じで、例えば、試合の日のパンツは赤というのがあるんですよ。
最近、そのパンツの色のこだわりはなくなってきたんですけれど、例えば、ホテルで寝るときはこの服を着るとか決まっています。忘れ物をするのは嫌で、なぜかというとラグビー以外のことを考えるのが嫌だからです。例えば、その試合で動きが悪かった時に、あの時に自分がドタバタしていたからだとか、言い訳を見つけたくないんですよ。ヒゲがあったからどうだった、ということはないんですけどね。ラグビー以外のことを気にかけたくないんです。
――例えば、食べ物なども決まったメニューがあるんですか?
ありますね。油物は食べないですね。例えば、試合の日の朝は、絶対にアイスコーヒーをかちこみたいんですよ(笑)。遠征に行くと、まずはGoogleマップを開いてコーヒー屋さんを調べます。その位置をある程度頭に入れて、試合の日の朝はスケジュールがタイトな時があるので、どこかで時間を見つけてコーヒーを買いに行って、バスで飲みながら試合会場に向かいます。時間にもよりますが、少し時間に余裕がある時にはコーヒーを飲みながら試合に向かう準備をしたりするんですけれど、基本的には試合会場に向かうバスの中でアイスコーヒーを飲みます。
――他のことを気にしないようにし始めたのは、いつ頃からですか?
大学時代から気にし始めました。大学時代はまだ自分のスタイルが確立されていなかったので、いろいろなことにチャレンジしていました。例えば、スクラムハーフは指にテーピングを巻く人が多いんですけれど、僕は高校時代にカッコつけでつけていました。ただ、僕としてはあまり効果がありませんでした。指に巻くテーピングもいろいろな種類があるので、大学時代も雨の日はどのテーピングが良いんだろうとか、試行錯誤していました。あとは、雨の日はスパイクをどれにしようとか。大学2年生くらいまでは、いろいろと考えることが多かったですね。けれど、そういう時ってパフォーマンスが良くないんですよ。
そこでたどり着いたのが、基本的にはスパイクは練習と試合で同じ種類のものを履いて、同じ状況で試合をすること。なぜ大学1年の時に迷っていたかと言うと、週末は雨だけれど練習中は晴れていたりするじゃないですか。その時に指のテーピングはつけた方が良いのか、つけない方が良いのかとか。指のテーピングって雨で濡れると感覚が変わってくるんですよ。
そんなふうにいろいろ考えすぎると良くない、ということにたどり着いて、雨でも晴れでも素手が良いということに気づいて、テーピングをつける、つけないで悩むこともなくなりましたし、スパイクで悩むこともなくなりました。自分がいちばん良い状態の時は、細かいことを何も考えないでラグビーにフォーカスしている時、ということにたどり着いたのがきっかけです。だから、大学の時は、試合の時には必ずこのスパッツを履くとかも決まっていました。それも消耗品なので、今は練習で履くのも試合で履くのも同じものになっています。
◆限界を作りたくない
――同じ様にラグビーのプレー面ではいろいろと変えていっているんですか?
自分の持ち味は常に忘れないことを心掛けてプレーしています。だから、自分に足りない部分を日々磨き続けるという感じです。新しいことをやるというよりは、スクラムハーフが相手をぶちかますということはない話で、スクラムハーフとしてやるべき仕事を日々レベルアップさせていくというイメージです。
――理想とする姿が見えていて、それを目指しているという感じですか?
自分の中で限界を作りたくないんです。だから、いつも好きでやれているんだと思います。性格的にめちゃくちゃ大きい欲というものはないんですよ。昔はラグビー日本代表に絶対に入りたいというようなものも無くて、楽しんでやっているという感じでした。それでひとつの目標がクリアされたら、また次の目標ができるというタイプでした。
例えば、世界にはアーロン・スミスがいる、アントワーヌ・デュポンがいるとか、たくさん世界的な選手はいますが、そういう選手になりたいという欲はありません。それぞれを参考にしていくタイプだと思います。アーロン・スミスはパスが上手いからどんな感じで投げているのかとは思いますが、それを真似しようとは思わないです。それぞれの良いところを盗んで、自分流にしていきたいですね。
――自分の持ち味は何ですか?
自分で突破するランニング。スクラムハーフはなかなか得点を取ることが少ないと思うんですけれど、僕にあって他のスクラムハーフに無いのは、トライを取り切れる部分なのかなと思います。
――それは何か秘訣がありますか?
常にブレイクダウン周りの状況を見ながら、駆け引きになるんですけれど、少しでも空いていると思ったら躊躇しないで、閃きのプレーでもこれだと思ったら、自分を信じて遂行することだと思います。
――相手に自分で来るかもしれないと思わせれば、パスも効果的になりますね
そうですね。だから、そのバランスが大事です。大学生の時には自分でチャレンジし過ぎていて、「スクラムハーフの仕事はそれだけか?」ということになったので、今はリーグワンになって、日本代表でナギー(流大)とかと一緒にプレーするようになって、コンロトールをしつつ、自分の持ち味であるところや、閃きのプレー、スピードを出すのはどこなのか、そのバランスを考えるようになりました。
◆2027年のワールドカップに出たい
――大学時代は田中監督でしたね
また一緒にやれて嬉しいですよ。もしかしたら、このチームに来たのも、その存在が大きいと思います。
――サンゴリアスに移籍しようと決めたのはいつ頃ですか?
僕は怪我をしていたんですけれど、2023-24シーズンが終わる直前頃ですね。
――それはどんな気持ちから?
その都度その都度、目標が出てくるタイプなので、日本代表に入る前までは、日本代表でプレーすることが目標でした。元々は、桜のジャージとは無縁、ほど遠い存在だと思っていたので、いざ日本代表に選んでいただいて、もちろん選手としては目指すべきところではあるんですけれど、とても嬉しかったんです。
現役中に1キャップ取れたら良いかなくらいの考えだったんですが、実際に日本代表に参加して、直接ナギーとかから学んだりして、試合に出た時間は短かったんですけれど、自分の中でとても成長できた感覚が、あのワールドカップの期間中にありました。ワールドカップが終わって帰ってきて、トヨタでプレシーズンを過ごしていく中で4試合を戦ったんですが、そこでは今までとは感覚が違いました。
ワールドカップやプレシーズンを経て、2027年のワールドカップに本気で出たいという気持ちが芽生えてきました。去年、日本代表に行っていなければ移籍もしていなかったと思いますし、あの場所でとても成長を感じられて、2027年のワールドカップに出たいという目標が出てきたことがきっかけです。
――サンゴリアスに流選手がいることも大きな要因ですか?
それはもちろんあります。僕の中でこのチームを選んだのは、流さんとキヨさん(田中澄憲監督)がいるということが大きいです。
◆競争がめちゃくちゃ楽しかった
――2022-23シーズンは全試合に出場しましたが、自分の中で成長したシーズンでしたか?
とても成長した感じがありました。そのシーズンは海人さん(茂野)が日本代表に入っていた時で、ずっとレギュラー争いをしていました。それが楽しかったんですよ。自分が良い動きをした時、良いパフォーマンスだった時にはスタメンで試合に出られて、自分でもダメだと思った時にはリザーブに落ちていて、逆に海人さんがダメだったときは海人さんがリザーブになったりして、その競争がめちゃくちゃ楽しかったんです。
僕は小学1年生からラグビーを始めて、そのラグビー人生を振り返ってみたら、本当に競い合えるライバルが近くにいる時に大きな成長を感じられるんです。そういった面で、ナギーがこのチームにいるということもとても大きいです。
プレータイムだけを求めての移籍だったら、わざわざサンゴリアスに来るという選択をする必要はないじゃないですか。スクラムハーフのポジションが薄いところに行くという選択の方が簡単だと思います。ライバルがいて、一緒にバチバチ競い合って、その中でリスペクトしつつ、それが自分の中で成長を感じられる体験談としてありました。
――2023-24シーズンの終盤には移籍できればという思いだったんですね
だから、僕としてはチームを絞っていました。トヨタからもオファーをいただきましたが、移籍する先のチームは絞っていました。
――目指すべきところは再び日本代表ですか?
そうですね。
――そこへの課題は何ですか?
まずはしっかりと怪我を治すことが大事だと思います。元通り、自分がプレーしていた時以上の状態で戻ることが第一で、戻った先に、ゲームの理解度、ナレッジのところを上げるというところが、ワールドカップで自分に足りないことだと思いました。あとはキッキングゲーム。この2つですね。そこって、僕に持っていない強みをナギーが持っているので、その分を本当に吸収したいという意味で、ここがベストなチームだと思っています。
――吸収する方法は?
実際にグラウンドレベルで見て、目で見ることがひとつと、今の時代はドローンなどでいろいろな角度で撮影しているので、様々な視点でナギーがどういうピクチャーで試合を俯瞰で見ているのかというところもそうですね。あとは一緒に練習映像を見ながら質問をしたりすることだと思います。
やっぱり肌で体感することが大事だと思います。いろいろな人がオールブラックスのプレーを見ろと言うと思いますが、それって見るのは大事ですけれど、それだけだと限界が来ると思うので、実際にグラウンドレベルで自分が実際に相手として立つことで体感することが大きいと思います。
――2023-24シーズンのサンゴリアスは流選手がほぼ先発で出場していました
そうですね。代表の時も相手として立っていたわけで、自分がヤバいと思った時には、そこにもうボールが運ばれている状況が多かったので、そこが僕の課題でもあるし、僕の課題のところがナギーの強みでもあるし、そこの自分の課題のところをレベルアップできたら、2027年に出たいという目標も達成できるんじゃないかなと思っています。
◆走るのが好き
――小学校1年生の時にお父さんに勧められてラグビーを始めたそうですが、なぜ勧められたんですか?
高校が大越元気さんと同じ茗渓学園なんですけれど、父親も同じ出身校です。それで、茗渓学園の学校の講義でラグビーがあるんです。だから一般の生徒も入学したら、全員がラグビーをやるんです。それで15対15のバチバチの試合を行うような学校なんですね。父親は元々野球をやっていたんですが、茗渓学園で初めてラグビーと出会って、ラグビーが面白いと思ったそうで、ファンとして早明戦などを見るようになったのがきっかけみたいです。僕は幼稚園からサッカーをやっていたんですが、父親はラグビーが好きだったので、近くでラグビーボールじゃなくてアメフトのボールを買って来て、一緒に遊ぶようになりました。
――ラグビーをやってみて面白かったですか?
面白かったです。最初はただのボール遊びだったんですけれど、小学生だったので5対5とかで試合をしてみて、ボールを持って自由に走ってトライを取るということが楽しかったですね。
――サッカーと比べてどうでしたか?
ラグビーの方が楽しかったです。シンプルにサッカーのセンスがなかったのかもしれないです(笑)。あとは走るのが好きでしたね。小学生のころは小さかったんですけれど、小さくても活躍できるところですね。他の武道、例えば空手とか柔道だと、対格差で負けるじゃないですか。そうではなくて、小さいながらに走って大きい人を抜く楽しさというところに、魅力を感じていました。
――トップアスリートやラグビー選手はみんなが負けず嫌いだと思いますが、その中でもスクラムハーフはいちばん負けず嫌いな選手が多いと思います。その点についてはどうですか?
めっちゃ負けず嫌いです(笑)。小学生の時は試合に負けたら、毎回泣いていましたね。
◆ボールを持ってプレーする楽しさ
――ラグビーをずっと続けていこうと思ったのはいつ頃ですか?
小学3年、4年の時にはラグビーがめちゃくちゃ楽しいと思っていて、小学5年生くらいの時には決めていました。父親に早稲田大学か明治大学のどちらかに入ってラグビーをしたい、中学、高校でも強いところでラグビーがしたいと伝えました。
僕は茨城出身なので、茗渓学園だと中学の部活で毎日出来て、シンプルにずっとラグビーがしたいという理由で、茗渓学園を受験しました。そこから塾に通ったりしていましたね。
――いまラグビーが面白いと思う、いちばんのポイントはどこですか?
そこは変わらないですね。ボールを持ってプレーする楽しさです。スクラムハーフとしては、ゲームコントロールとか、昔には無かった頭を使ってプレーするという楽しさもありますけれど。あとは強い相手に勝つ時が楽しいですね。そういう相手に勝った時はスカーッとしますね(笑)。
――大人になって、負けて泣くことはありますか?
それは無いですね。けれど、小学生の時に持っていた純粋な心、負けず嫌いというところは今も忘れていないです。
あとは、各世代で楽しさが違いますね。高校時代にライバルだった人たちと大学でチームメイトになったり、そこでチームメイトと切磋琢磨して、4年間寮生活で仲良かった仲間が、今度はリーグワンでそれぞれのチームに入って、またライバルになる。大学の時に相手のキャプテンだった選手が、リーグワンで同じチームになったり、友の和という部分も楽しさですね。
リーグワンになったら、自分が小学生の時にテレビで追っていた選手とチームメイトになったり。ラグビーって自己犠牲のスポーツなので、世界中どこでも薄っぺらい関係じゃないんです。そういったところは大人になって感じるラグビーの魅力かなと思います。
――いつからプロ選手としてプレーしているんですか?
トヨタでのリーグワン初年度ですね。ですけれど、最初は結構、保守的でした。ラグビーをやりつつ会社員として勤められたらいいかなと。だから、最初にトヨタに入った時は社員でした。
――社業とラグビーの両立は?
会社は会社でまた大学とは違うので、新鮮味があってとても楽しかったですね。
――日本でいちばんの会社での仕事を経験するということも良いことでしたか?
そうですね。トヨタの会社のメソッドが改善だったり、細かいことをとても大事にしているので、そこはラグビーにも結びつくと感じましたね。
◆何かと縁があるチーム
――長い目で見た時のラグビー人生の目標は?
自分の中で限界を作りたくないと思っていて、自分が現役を引退する時に、「ここまで到達したから引退」というより、引退する時でも常に成長して終わりたいと思っています。
――例えば、海外でのプレーも考えたりしますか?
今はそこまで考えていませんが、小さい頃からスーパラグビーなどを見ていたので、チャレンジしてみたいという気持ちはあります。ただ、どちらかと言うと、目の前の目標をひとつひとつクリアしていくタイプなので、それはこれからも続けていきたいと思っています。
――サンゴリアスは対戦チームとしては、どんなチームでしたか?
嫌なチームですね。嫌なチームと言うか、強い。
――どこが強いと感じましたか?
アタッキングですね。カルチャーとして、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーを存分に体現しているチームだと感じていました。
――それを自分もやってみたいと思っていますか?
はい。あとはタレントもいるし、良い選手も多いですね。あと、大学で明治の時も、サンゴリアスとの合同練習がありました。大学とは違う、キリっとした練習の雰囲気がありましたし、プロフェッショナルな集団というイメージが昔からありますね。
――入ってきてもそう感じますか?
はい。なぜか分からないですけれど、何かと縁があるチームでしたね。僕が初めて買ったトップリーグのチームのジャージはサンゴリアスです(笑)。ジョージ・グレーガンが着ていた、肩にインテルのロゴが入っているジャージです。
――それは試合を見に行って買ったんですか?
そうです。小学5年か6年の時に買いました。
――同じスクラムハーフですね
好きでした。ただ、フーリー・デュプレアの方が好きでしたね。だから、結構サンゴリアスの選手のサインも持っていますよ(笑)。
◆チャンピオン、ベスト・フィフティーン、トライ王、そして...
――サンゴリアスのファンの皆さんにメッセージをどうぞ
まずラグビーがこうして出来ているのも、ファンの皆さんがあってからこそだと思っています。それに関しては、サンゴリアスファンに限らず、ラグビーファンの皆さんに感謝しています。僕の性格としては、明るいキャラですし、グラウンドでファンの皆さんに会ったら直接感謝を伝えたいです。距離が近いのがラグビーの魅力でもあると思うので、グラウンドで会ったら気軽に声をかけてもらえたら、僕も日頃の感謝を精一杯伝えたいと思います。
あと、プレーでは、サンゴリアスのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーの架け橋になれるように、そして自分の持ち味を存分に出して、見ていて楽しい、サンゴリアスのラグビーは他のチームと違うな、見ていて気持ちいいラグビー、ワクワクするような試合が出来るように頑張るので、応援よろしくお願いします。
――最後に目標をお願いします
まずチームとしてリーグワン・チャンピオンになること、個人としては目標は3つあります。ベスト・フィフティーン、トライ王、そしてこのスピリッツ・オブ・サンゴリアスに10回以上載ることです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]