2024年7月 5日
#911 齋藤 直人 『ゼロからの気持ち』
シーズン終了直後に行った斎藤選手インタビューをお届けします。移籍先の話を追加出来ればと待ちましたが、原稿入稿時現在まだ発表されていませんので、発表され次第、続編を掲載する予定です。(取材日:2024年5月下旬)
◆勝つ喜び
――まずは3位決定戦で勝って良かったですね
良かったですね。必ず勝ちたいと思っていたので、良かったですね(笑)。昨シーズンはあそこで負けていることもあったので、もちろん目標は優勝でしたけれど、良かったです。
――特別に嬉しいということはなかったですか?
今シーズンに限って言えば、あの試合までの5戦で勝ちが無かったので、久しぶりに勝つ喜びを感じられたと思いました。
――あの試合そしてその前の準決勝、合計すると160分フル出場でしたけれどどうでしたか?
今までも何回か80分間出させてもらったこともありましたが、最初から80分と決まって臨む試合は、人生で初めてだったので、初めてだったが故に考えられなかったというか、最初からセーブしようとは思いませんでしたし、とにかく1週間でリカバリーだけちゃんとやって、あとはいつも通りにプレーしました。
――リザーブにスクラムハーフがいないと分かった時には、どんな気持ちでしたか?
いつも通り準備して、ただ、だいたい練習ではスタートメンバーとリザーブメンバーが替わってやったりするんですけれど、そこで80分間出るということになると、もちろん毎回やらなければいけないと思いますが、この時にこの選手が入ったら、このサインの時はここに気をつけなきゃなとか、いつもよりもちょっとした気を遣う部分のインプットの量はありました。
◆伸ばしていかなければいけない部分が明確になった
――実際に自分の出来はどうでしたか?
セミファイナルはチームとしても入りから良くて、自分の身体もどんどん動いて、負けてはしまいましたが、自分たちがやろうとしていたラグビーのプランを遂行するという面では、かなり出来たんじゃないかなと思います。その中でも個人としてもタックルとか要所要所で良いプレーが出来たかなと思います。
ただ、3位決定戦の方は、最善を尽くして1週間準備をしたんですけれど、やっぱりアップと前半の最初の頃はなんか身体が重いと感じていて、まぁ勝てたので良かったです。
――自信になったんじゃないですか?
準決勝でしっかりとやり切れた時には自信になって、その後にS&C(ストレングス&コンディショニングコーチ)とも話しましたが、S&Cとしても80分間やり切れるとは思ったそうです。が、次に求められるのは、80分の中でもアクセルとか、ただ長い距離を走れればいいわけじゃなくて、試合の中でのスピードチェンジとか、そういったところが次の課題だと言ってもらえました。そういう意味では自信にもなったし、逆にその中でも伸ばしていかなければいけない部分が、明確になったかなと思います。
――今シーズンはリザーブでの出場が多かったので、フル出場するということは、楽しみでもありますよね?
喜びというか、プレーすればするほど、自分のことが良くも悪くも分かります。良い部分はどんどん感覚が良くなっていく感じはあるので、ましてやプレーオフというリーグ戦とは違うプレッシャーの中で長い時間プレー出来たのは、今後に活きて来るんじゃないかなと思います。
――もともとスタミナには自信を持っていますか?
そうですね。スクラムハーフのリザーブがいないと決まった後に、将伍(中野)と話したんですけれど、「そういえば、大学生の時は替え無しでやっていたよね?」という話になって、「出来るんだ」と思います。ただ、コンタクトのレベルとか、全てのレベルが学生とは違うので、その中でより良いパフォーマンスをするかが大事になってくるかなと思います。
◆1年目の時の自分と似ている
――今シーズン全体としてはどうでしたか?
リザーブで出ることが多くて、ワールドカップが終わってチームに合流して、その前のシーズンとはまた違ったラグビーにもなっていて、そこを理解するのに時間がかかりましたし、なかなかスタートで出られない時期もあって、1年目の時の自分と似ているように感じていました。
3年目の時にはキャプテンをやらせてもらって、試合にもたくさん出させてもらいましたが、2年目の時には試合毎にスタート、リザーブという感じで、そういった意味で言うと、1年目の時と似ていて、どうやったら出られるかを考えて、その中で自分がコントロールできない部分ではどうしようかとか、自分に必要なことをしっかりと準備しようとか、そういう感じのシーズンでした。途中からユタカさん(流大)が怪我をして、もちろん勝てなかった時間が多かったので、自分のパフォーマンスが良かったとは言い切れないですけれど、出られない期間にしっかりと準備していたことが、リーグ戦の最後とプレーオフには繋がったかなと思っています。
――今シーズンはなるべくキャプテンをサポートしようと言っていましたが、サポートは出来ましたか?
たぶん出来てないです(笑)。ホリさん(堀越康介)に聞いてもらっても分かると思います。
――その辺はどうだったんですか?
試合に出られないとか、自分のことに精一杯になっちゃったかなと思います。いろいろな形のサポートがあると思いますが、いち選手としてはまずは自分のパフォーマンスを出すことが絶対だと思うので、ちょっと言い訳ですけれど(笑)、いちプロ選手として、まずはパフォーマンスで貢献することが本当に大事だと思うので、そこに結構フォーカスしちゃいましたね。
――その成果か、日本代表に選ばれましたね
もちろん嬉しいですし、光栄なことだと思います。ここ3、4年くらい選んでもらっていますけれど、毎回選んでもらった時は改めて有難みを感じるというか、当たり前のことじゃないと思います。ただそこには責任も伴うと思うので、もちろん100%準備しますし、選ばれるだけじゃなくて、日本代表でもっと成長したいですし、もっと高みを目指していきたいと思っています。
――6月22日のイングランド戦はスタメンを目指していますか?
それはそうしたいですけれど、監督も変わって、どういうラグビーなのか、自分がどういう役割なのか、まずはそこをクリアにしないといけないですし、そこから始まると思うので、フレッシュな気持ちというか、1年目の気持ちじゃないですけれど、謙虚に、本当にゼロからだと思うので、これまで代表に入っていたとか関係なく、そういったゼロからの気持ちでやりたいです。
――エディーさん(日本代表ヘッドコーチ)が超速ラグビーを掲げていますが、それには合っているんじゃないですか?
まあ、そうですかね。超速が何を意味しているのかもちゃんと分かっていないので何も言えないですけれど、良い選手であればどんなラグビーにも適応できると思うので、そこを見せていきたいですね。
◆伸びたところはキック
――今シーズンを終えてみて、いま感じでいる課題は何ですか?
逆に伸びたところはキックだと思っていて、チームとしてキックが増えたこともありましたけれど、そこは自信を持って伸びたと言えると思います。あと課題は、プレーじゃないんですけれど、やっぱり問題解決とか、試合中にはいろいろなことが起こって、その中で次に何をするかを明確にしなければいけないのがゲームドライバー、ゲームリーダーです。そういったところと自分のプレーのバランス、自分の強みはテンポだと思っていて、考えすぎるとそこが薄れてしまうことがあるので、そこのバランスがとても大事で、永遠の課題になるかもしれないですけれど、そこを突き詰めていきたいですね。
――もともと判断は速い方ですか?
クリアになっていると速いと思います。戦術でもそうですし、判断基準があって、それって味方がいてやることなので、いかに試合の前にコミュニケーションが取れているか。それが選手同士のコミュニケーションなのか、コーチとのコミュニケーションなのか。やるべきことがしっかりとクリアだったら、速い判断とか速いプレーが出来ると思うので、先ほど課題と言いましたけれど、問題解決の中には試合中のこともありますが、試合前の時点で準備しておかなければいけないこともあると思っています。
――そういう課題を持ちながら日本代表に行き、その後はどうするんですか?
決まっていないです(笑)。6月中には決まると思います。みんなに聞かれるんですけれど、まだ決まっていないと答えていますし、決まっていないんです。
――なぜサンゴリアスを出ようと思ったんですか?
海外でプレーしたいとずっと思っていて、それは入団した時にも言っていたと思います。
◆いちばん近くで4年間
――流選手という日本代表のスクラムハーフがいるサンゴリアスを敢えて選んで入りましたが、その選択はどうでしたか?
間違いなく良かったです。最初、敬介さん(沢木/現横浜キヤノンイーグルス監督)が声をかけてくれて、敬介さんが僕に「本当に代表で9番を狙いたいなら、どちらにせよ倒さなければいけないんだから、サントリーで倒したらいいんじゃないか」って言ってもらって、それが腑に落ちてサントリーを選びました。
結果としてそれが出来たかと言えば、自信を持って「はい」とは言えないですけれど、学ぶことは本当に多くて、スタイルがぜんぜん違ってもプレーで学ぶことが多くて、あとはオフ・ザ・フィールドのところで、試合前の準備、別に身体の準備じゃなくて、いかにチームメイトと情報をすり合わせるか、こういう時に自分はこうしたいからこう動いて欲しいとか、そういったところの準備や関係性。
あとはリーダーシップ。リーダーシップと言うとざっくりですけれど、どうやってハドルでみんなの印象に残るような声のかけるのか、間の置き方とか、タイミングもそうですし、ポイントをどうやって絞るか。どういうものがリーダーシップなのか、そこでどういうことが必要なのか、そういう細かいところを学びました。
本当にずっと一緒で、サントリーでシーズンが終わればすぐ代表に行って、いちばん近くで4年間くらいプレーもしましたし、見てきたので、そういったところはとっても学びました。けれど、あれだけお酒は飲めないです(笑)。
――ずっと応援をしてくれたファンの皆さんにメッセージをお願いします
4年間、本当にありがとうございました。入団の年がコロナウイルス・スタートの年だったので、それ以前のことは分からないですけれど、以前よりファンの皆さんと交流する機会は少なかったと思います。SNSでもそうですけれど、街で会った時に話し掛けてもらったり、グラウンドでも名前入りのタオルを振ってくれて、本当に力になりました。
毎回、勝っても負けても、スタンドにいるファンの皆さんが声援をくださって、そういう姿を見て、また頑張ろうと思いましたし、試合後に見る黄色い光景が良かったですね。チームは変わりますが、ラグビーは続けるので、自分のことを応援して欲しいですし、サンゴリアスのことも引き続き応援をよろしくお願いします。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]