2024年4月12日
#899 ツイ ヘンドリック 『ボールを持って前に出るところがいちばん好き』
ボールを持って何度も相手を突破していくツイ選手。まさに"怪力無双"、その好調の秘密を聞きました。(取材日:2024年4月上旬)
◆しっかりとバランス良く走れている
――今シーズン、とても調子が良いのでは?
最初はゆっくりとしたスタートで、あまり良いスタートは切れなかったんですが、毎試合良くなってきています。歳を取ってきているので、時間がかかってしまいました(笑)。
――歳を重ねても毎試合良くなっていく秘訣はありますか?
前からそうですが、試合が続くとゲームフィットネスは上がっていくので、ゲームフィットネスが上がっていくとパフォーマンスも上がってきます。
――オフシーズンはいらないですね
ハハハ(笑)。オフシーズンは必要です(笑)。
――身体が大きくなったのではないでしょうか?
プレミアムモルツを飲み過ぎたのかもしれないですね(笑)。フィジカル的に大きくなっているわけではなく、お尻周りを強化していかなければいけなかったので、そこでパワーがついてきたのかなと思います。怪我をしてから、毎日の準備に一貫性を持たせたのですが、それがパフォーマンスにも影響しているかと思います。
――準備やリハビリの効果出てきたんですね
そうですね。もう1回怪我をしないためにやっていますが、走っているとよりバランスが良くなったと感じています。筋肉がちゃんと機能していて、しっかりとバランス良く走れているという感覚があります。
◆好きでずっとやってきた部分
――今までの中でいちばん感覚は良いんですか?
ベストではないですね。もう36歳なので、歳を取った感覚があります(笑)。
――瞬間的なパワーや突破力には、まったく歳を感じませんよ
ありがとうございます(笑)。ゲームプラン的に自分がやらなければいけないことに対して、コーチたちからは「絶対にボールを前に運んでください」と言われているので、そこを意識してボールキャリーをパワフルにやるようにしています。前にインタビューを受けた時にはずっとロックをやっていたと思いますが、ここ数年間で役割が違ってきていますし、今シーズンは8番としての役割を担っています。
――「ボールを前に運んで」と言われて実際にやるのは、とても大変なことだと思います。なぜ出来るんですか?
ボールを持って前に出るというところ、そこがいちばん好きな部分です。これまでのキャリアとしても、そこが好きで、ずっとやってきた部分です。キャリアを積んでくると、スピードは落ちてきますけれどね(笑)。
――そういうプレーをしている時は無敵な表情で前に進んでいますが、心の中では楽しくてニコニコしているんですね
今の段階では、キャリアがいつ終わるか分からない中、チームの中ではいちばん年齢が上のベテランですし、1回1回のラグビーを楽しんで、チャンスを活かして、毎試合楽しんでいけるように心がけています。
――見ている方も楽しいです
ありがとう(笑)。毎試合後、私がサンゴリアスに来た時にいたOBなどが連絡をしてきてくれます。「良い試合だったね」とか「なぜ負けたんだ?何が起きているんだ」とか、怒ってくれる方もいます(笑)。
――そういう人たちの代表でもあるんですね
大事な役割です。
◆みんながポジティブでいられるように
――コベルコ神戸戦でチーム5トライのうち3トライはフォワードでした。トライも取り、トライアシストもしています。より上手くなっているのでは?
アシストしたホッコ(ホッキングス)のトライはセットピースの動きだったので、フォワードとしてトライが取れて嬉しかったです。晟也(尾﨑)が良いキャリーをしてくれて、晟也がすべての難しいところをやってくれたので、私は運良くその場に入れて、トライになりました。
――ボールが来ると思っていましたか?
晟也はオフロードが得意なので、チャンスはあると思っていました。晟也は最初のディフェンダーを抜くと思っていました。
――トライをした時の気持ちは?
とても嬉しかったです。晟也が1人目を上手く抜いてくれて、次にタックルされながらも良いオフロードパスをくれました。片手のフリックパスでしたが、キャッチした後にフルバックがいたので、それを抜いてトライが取れて嬉しかったです。
――子どもの頃の憧れは"幸せになりたかった"そうですが、幸せになっていますか?
少しずつなっています(笑)。
――ラグビーをやっていて良かったことは、"友達と遊び、新しい友達と出会い、自身の体と心を試す"とのことですが、まさに遊びの延長のような感じですね
いろいろなチャレンジが目の前にありますが、今でも楽しんでやっていますし、タフな日もありますが、常にポジティブで前向きに、他の人とも前向きに接してみんながポジティブでいられるようにやっています。練習の時など、全員が同じゴールを目指しているので、それを達成できるように常に前向きに進んでいます。試合に勝って、優勝できるように、自分の役割を遂行しようと思っています。
◆自分の仕事がラグビーなのはとてもラッキーで光栄なこと
――"体と心を試す"ということは大変なことですが、ひとつの楽しみですか?
自分の仕事がラグビーなので、それはとてもラッキーなことですし、光栄なことです。世界ではもっとタフなことや難しいことがたくさんありますが、しっかりと感謝をして、自分がラグビーをできていることに対して、常に感謝の気持ちを持っています。
――自分の身体に対しての自信はどうですか?
あと1~2kgくらいは落とせると思います(笑)。プレーオフの準決勝、決勝に向けて、ピークを持ってくることが出来れば嬉しいですね。それに向けて自信をつけていく、という感じです。今の段階では90%くらいの自信なので、それがプレーオフに向けて100%にしていきたいと思っています。
――サンゴリアスの注目選手として、下川選手と箸本選手を挙げていますが、どんなところですか?
2人とも若い選手で、お互いに違う強みを持っています。楽しみですし、ワクワクする選手たちです。甲嗣(下川)に関しては、全部のポジションをカバーできる能力があります。ワークレートが高くて、アタックでもディフェンスでも常にワークレートが高いですね。あとはラインアウトのジャンパーも得意です。
龍雅(箸本)もワークレートが高くて、アタックもディフェンスも良いですね。甲嗣の方がラインアウトが得意で、そこが甲嗣がより試合に出ている理由かなと思います。2人ともとても才能がありますし、良い選手だと思っています。
――2人にツイ選手の突破力を教えることは出来ますか?
教えることは出来ると思いますが、2人とも良い選手なので、質問があれば答えますし、何かサポートが必要であればやろうと思います。いろいろと質問をしてくることもありますし、2人とも良い方向に進んでいると思います。
◆スタンダードを若い選手に
――今シーズンも新しい外国人選手がチームに加わりましたが、何か伝えようと思っていることはありますか?
いま難しいところは、若い外国人選手が増えてきていて、世代が違って歳が離れているので、なかなか繋がるのが難しいですね(笑)。私がサントリーに来た時には、ジョージ・スミスなどがいて、あの時はサントリーのスタンダードとか、練習でのスタンダードとか全員が当たり前として知っていました。それは優勝が続いていた時でもありました。エディー(ジョーンズ/現日本代表ヘッドコーチ)がコーチで、プログラムを全部変えて、スタンダードを明確に理解していた時でした。
だから私がサントリーに来た時は、明確にスタンダードが分かりやすかったんです。今は優勝から時間が空いてしまっていますし、そのスタンダードを若い選手に教えていかなければいけません。ただ、世代が違うので、どうやって伝えるかが難しいですね。
――ツイ選手の姿を見て学ぶということもありますよね
若い選手はお酒もあまり飲みません。ですのでオフフィールドで関係性が作りにくいのですが、やっぱりサントリーはお酒の会社ですからね。
――ツイ選手が好きなお酒は?
サントリーのハイボールです。
◆一貫性が重要
――今の課題は何ですか?
個人としては、ゲームフィットネスです。80分間出場できる選手になりたいので、少しずつ出場時間を長くしていきたいですね。チームとしての課題は、毎週良かったポイントと悪かったポイントが違ってきているので、アタックでもディフェンスでも一貫性のところ、同じパフォーマンスを出せるようになることが重要だと思います。
――一貫性を保つコツはありますか?
毎週の練習や試合に向けての準備は良いと思うんですが、試合の日のメンタルのところで、少し課題があるのかなと思います。規律などを最後まで油断せずに守るとか、80分間遂行するというところです。今シーズンはこれまで、80分間を通して良いパフォーマンスを出せた試合が無いと思います。
――最終的には集中力が大事になりますか?
そうですね。その一貫性です。勢いがどちらに転ぶか分からない時がたくさんあると思いますが、相手からボールを取り返すとか、ボールを持ち続ける時とか、規律を守ってペナルティをしないとか、いろいろな要素があります。
――ツイ選手が言い続けなければいけませんね
私としては若い選手について行けるように、頑張らなければいけません(笑)。
――今シーズンの目標は?
毎年同じですが、優勝することです。最後に優勝してからだいぶ時間が空いてしまったので、佐治さんのためにも優勝したいです。今シーズンはチャンスがあると思っています。他のチームはあまりサントリーのことを見ていないと思いますが、ダークホースになると思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:樋野ジェシー興太郎)
[写真:長尾亜紀]