2024年3月29日
#897 山本 凱 『ガンガンタックル』
復帰して2試合目の山本選手。タックルを連発し、本来の姿に戻ってきたようです。(取材日:2024年3月下旬)
◆思いっきり行くディフェンス
――横浜キヤノンイーグルス戦は大逆転負けを喫してしまいましたが、あの試合でのパフォーマンスはどうでしたか?
その前のトヨタ戦で復帰しましたが、トヨタ戦では自分らしいプレーが出来なかったので、もう一度自分らしいプレーに立ち帰ろうと思い、キヤノン戦ではガンガンタックルに行こうと思って、どんどんタックルに行きました。その中で、タックルに行くというエンジンをかけすぎて、ひとりで飛び出したり、タックルを外されたりという場面もありました。自分らしい思いっきり行くディフェンスを取り戻そうと、多少リスクを伴ってもやろうと思っていましたが、タックルを外されたりする場面がありました。そういうところは無くしていきたいなと思っています。
――試合中に当たる確率はだんだんと上がっていませんでしたか?
そうですね。取り戻そうとアグレッシブに行って、だんだんタックルが当たるようになっていったと思います。
――7試合休んでいたブランクは取り戻していますか?
キヤノン戦で自分らしいプレーというか、手応えであったり自信は戻ってきたと思います。
――得意のランも出ましたね
タックルだけじゃなくランでも魅せたいですし、長い距離を走ってインパクトを与えるプレーも楽しいので、そういうプレーもどんどん逃さずにやっていきたいと思います。
――フィットネスはかなり鍛えていて自信があるんですか?
久しぶりの80分だったので、結構、だましだましで、最後は足をつりかけていました。ゲームフィットネスはゲームを重ねないとついて行かないですね。
――スクラムは押されていたように見えましたが、どうでしたか?
前半は押されてしまいましたね。
――どの辺が上手く対応できなかった部分ですか?
キヤノンのスクラムはバック5がガツンと押してくるので、そこで負けないように対応しようと考えていました。ですがそこで力負けしたというか、キヤノンはバック5の押しが強かったと思います。
――バック5の戦いで負けたとしたら悔しいですね
そうですね。前半は分かっていて押されてしまったところがあります。最初スクラムで相手にモメンタムを与えてしまいました。今後の改善点だと思います。
◆ずっと出し続ける
――後半は無得点でしたが、プレーしていてどうでしたか?
そうですね。何か流れを掴み切れなかったなという感じで、ずっとズルズルと守って、良い感じで攻め込めていても、ミスやペナルティで相手にボールを渡してしまって、防戦一方だったなと思います。次のミーティングで、キヤノンにモメンタムを与えてしまった要因は何か。試合の流れがずっとキヤノンだったので、その要因をみんなで話して分析する予定です。
――今シーズンは3試合でラストワンプレーでの逆転勝ちをしていて、どのチームとも競った試合が多いですが、相手の強さを感じますか?
周りのチームのレベルも上がっているので、どの試合も競った試合が多いなと思います。全体として競った試合が多くなっていると思います。
――その中でいち選手としては、何をやっていけばいいと考えていますか?
サントリーとしては、サントリーらしさという点で、みんながハードワークするし、ボールを持っていないところで頑張って動いて、泥臭くアタックに繋げる力があるチームですし、みんなのスタンダードも高いので、そういうサントリーらしさを見つめ直して、試合中にずっと高いレベルで出し続けることが出来れば良いかなと思います。
◆マイク・タイソンの自伝
――復帰戦では緊張はしましたか?
そうですね。緊張感と、あとは怪我したところに対する緊張はありました。
――そこから生まれるワクワク感は?
トヨタ戦では、復帰戦ということで不安の方が大きくて、そこまで乗り切れませんでした。キヤノン戦は良いメンタルでラグビーが出来ました。
――あまり考えすぎないことが山本選手のモチベーションに繋がっているのかなと思いますが、どちらかと言うと、感覚重視ですか?
そうですね。あとは、試合の前日に、最近買ったマイク・タイソンの自伝を読んだんですけれど、そこに試合前のマインドセットについて書かれていて、それを読んだことが良かったですね。
――マイク・タイソンでも緊張するんですね
マイク・タイソンがあそこまで強くなる前に、最初白人のトレーナーに鍛えられたんですけれど、そのトレーナーは心を大事にするトレーナーで、心の持ちようをマイク・タイソンに叩き込んだそうで、その教えが書いてありました。
――それはどんなことでしたか?
マイク・タイソンは獰猛なイメージがあったんですけれど、元々いじめられっ子で、本当はそこまで心が強くないファイターでした。不安や緊張は誰しも心の中にあって、それを上手く利用するか、その不安に飲み込まれるかは、自分次第です。それを上手く利用すると、変わると書いてありました。
負ける人も勝つ人も、心の中では緊張していて、大事なのは何を持っているかと言うよりもリングの上で何をするかで、これから何をするかだけに集中するように。僕が何となく思っていたことが書いてあったので、参考になりました。
――全く同じ感じですね
とてもしっくりきました。
◆来るぞと心の中で思って入る
――タックルが好きになったのはタックル動画集を見てということでしたが、タックルが良いなと思ったのはどの辺だったんですか?
タックルの一連の動きというか、豪快に相手を上向きに倒すとか、見ていて気持ちが良いですし、楽しいなと思いました。今でも良いタックルの動画を見ることが好きですし、タックルが強い選手は好きですね。
――大相撲でも相手を見事に倒すシーンもありますが、そういうプレーを見るとカッコいいなと思いますか?
相撲はそんなに(笑)。どちらかと言うと格闘技の方が良いですね。MMAとかボクシングとか。
――タックルに行く前に狙いを定めると思いますが、その辺りも楽しみという感じですか?
そうですね。読みすぎてしまって外す時もあるので、上手いバランスで、チームのディフェンスを崩さない中で狙いを定めて。狙いを定めるのは前に行くだけじゃなくて、来るぞと心の中で思ってタックルに入ると違うと思うので、予測して、前に出るだけじゃなくて、そういう予測をするようにしています。
――チームのディフェンスを崩さないようにと言いながらも、視野は狭めと言っていましたね
どうなんですかね。狭めだと思います。経験を積んで広くはなってきていると思います。
――タックルをする際、同じ肩と足を出すんですか?
そうですね。右でタックル行くなら、基本的には右肩と右足を同時に出して当たるようにしています。
――基本ということは、それが出来ていないとダメと言うことですか?
ダメというわけではないと思いますが、練習ではそう意識してやるようにして、試合では無意識でタックルしているので、同じ肩と同じ足が出ている時もありますし、そうじゃない時もあります。強いタックルで相手を止めることが出来ればどちらでも良いと思いますが、基本的には右肩と右足、左肩と左足でタックルに行く方が強い力を発揮できると思います。
――左でタックルに行く方は不得意と言っていましたが、それは解消されましたか?
前に比べたら良くなっていると思いますが、まだまだ成長が必要だと思います。継続してやっていこうと思っています。
――良いタックルはどんなタックルですか?
やっぱりターンオーバーに繋がると良いタックルというか、満足できますね。
◆ゲーム勘を研ぎ澄ませていきたい
――ジャッカルについてはどうですか?
ジャッカルも意識はしていますけれど、今はそれよりもタックルとアタックを意識しています。ジャッカルはペナルティにもなる可能性もあるので、ブレイクダウンにプレッシャーをかけることに重きを置いています。チャンスの時に反則しないでジャッカルが出来るようになりたいです。
――全体的な自分自身の調子は、シーズン最初の頃よりも良いですか?
同じくらいですね。
――これから上げていく?
どんどん良いプレーを重ねて、もっともっと良くしていくという感じですね。
――今の課題は何ですか?
復帰して2試合をやって、タックルのところとボールキャリーのところでゲーム勘は戻ってきているので、これからゲーム勘を研ぎ澄ませていきたいですし、80分間もっと動き続けるフィットネスを馴染ませていきたいです。
◆流れに乗っていきたい
――音楽は日常的に聴いていますか?
そうですね。時間があるときはずっと聴いていますね。邦楽も洋楽も聴きますし、古いのも新しいのも聴きます。ロックもヒップホップも何でも聴きます。
――例えば、今日は何を聴きましたか?
今日はNWAという、90年代から2000年代に活躍したラップグループの音楽です。
――それだけ音楽を聴いていると、プレー中に頭の中で流れることはありませんか?
それは無いですね(笑)。試合前のアップ中に知っている曲が流れていると、「おっ!」って思う時はあります。
――試合中にこんな曲を流して欲しいということはありますか?
いっぱいありますね。プレイリストを組んで送りたいです(笑)。
――さて、リーグ戦は残り5試合、そしてプレーオフ、目標は?
これまではモメンタムがある形で良い状況で来ていたんですけれど、先週末のキヤノンに2試合とも負けてしまって、自分を失いそうになる時だと思うので、ここで自分たちがやってきたことを見つめ直して、しっかりと自信を持って神戸に勝って、最後には良い形で締めくくれるように流れに乗っていきたいと思います。
――ミーティングが重要になりそうですね
そうですね。大事だと思います。そこがターニングポイントになったら良いですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]