2024年3月22日
#896 齋藤 直人 『迷ったりせずに思いっきりラグビーをやる』
大逆転のトライを決めた齋藤選手。そのプレーの前後に何を考えていたのか、そして今シーズンに懸ける思いを聞きました。(取材日:2024年3月中旬)
◆ボールを保持し続ける
――トヨタヴェルブリッツ戦の逆転のシーンを振り返ってもらえますか?
勝ちかけていましたが、ペナルティゴールがポストに当たってトライを取られてしまいました。あの時は、もしゴールが外れたら、残り時間をどう過ごすかという話をしていたんですけれど、ポストに当たった時に誰がカバーするかまでは話せていなくて、そこはひとつ学びになりました。あと、トライを取られた時点で、まだ1分以上時間があることは分かっていて、絶対にワンプレーはあったので、キックオフを手前に蹴ってボールを取りに行くという話までは、チーム全員で出来ていました。
その後は、僕としてはボールを失わないことと、どうやってアドバンテージをもらうか、テンポを上げようとも思わなかったし、とにかくボールを保持し続けること。結果としてトライを取ることが出来ました。
――ボールを真ん中に持って行くように意識していたんですか?
リスクの少ない選択肢をずっとし続けました。あれがもし2点差だったら別ですけれど6点差で絶対にトライが必要だったですし、あそこから取り切るのはなかなか難しいと思っていたので、アドバンテージをどうやってもらうかを考えていました。
――相手のペナルティでスクラムを選んだ理由は?
相手にシンビンが出ていて1人少なかったので、フォワードがゴール前でピックしていけると思っていました。タップして、シンプルに強い選手がキャリーして、そこからピックして行っても良いかなと思ったんですが、フォワードがスクラムが行けるし、相手も1人少ないからスクラムで行こうと言っていたので、そうしようと思いました。その時も同じ気持ちで先ずはスクラムを押して、アドバンテージをもらうことまでは考えていました。
――スクラムでアドバンテージをもらって、ボールが出て来てからパスダミーをしましたよね?
アドバンテージが出ていたので、何でも出来ると思っていました。相手がスクラムにバックスを入れていたので、右側に数的有利な状況が出来ていましたけれど、スクラムの左側が前に出たので、そこで判断しました。
◆嬉しかった
――後ろから松島選手も走り込んでいましたね
そこはスクラムの前に話していて、ボールインしてマツさん(松島幸太朗)が左に行くと。状況がどうであれ左に行くことは分かっていたので、見なくてもいることは分かっていました。外側のディフェンスが上がってきていたのでパスを出せなかったという状況でもありました。
――トライ後、思いっきりボールを投げ上げていましたね
正直に嬉しかったです。ああいう展開だったので。最後までみんなが我慢して我慢して攻めて、そういう展開ということもありましたし、とにかく勝ったことですね。あの時点ではまだ勝っていなかったんですけれど、ゴールが正面の位置で、割と入る位置だったので。
――ゴールが決めやすい位置にトライ出来たことも嬉しかったことですか?
そこはチームでも話していて、出来る限りポストの方に行こうと言っていて、僕の中では外側でもトライを取れるチャンスがあるならば、まずは5点を決めないと話が始まらないと思っていました。チームとしてはポストの方に攻めようという話が出ていました。
――今シーズンは最後ワンプレーで逆転した試合の3試合目になりましたが、いちばん興奮しました
展開が展開でしたからね。
――試合後、流選手との短い会話があったようですが、どんな話をしたんですか?
あんまり覚えていないですけれど(笑)、まず「勝って良かった」という感じだったと思います。
◆うちのペースに
――齋藤選手が出場したのは14点差あって、逆転に向けて「さあ、これから」という状況だったと思います。どんな気持ちで試合に入っていったんですか?
もともとトヨタは、前半と後半の残り20分で失点しているという話があったので、残り30分くらいの時に入りましたが、「60分くらいからはうちのペースになる」と話していました。あとコーチからも「グラウンド上で何が出来ていないのか」という話ももらってから入っていたので、プランを遂行しようと思っていました。
――入った時にはまだ行けるという気持ちだったんですか?
もちろんです。あとは、ブレイクダウン周りでフラストレーションが溜まっていたんですけれど、どんどんボールを捌くというところも意識していました。
――今シーズンはリザーブからの出場が多いですが、それについてはどうですか?
そうなった以上はその準備をしようと思っています。いち選手としてはスタートで出たいと思っています。
――やり足りないという感じですか?
そうではないですが、ひとつ言われているのは、「パフォーマンスの安定感はメンバーセレクションで大事にしている」とコスさん(小野晃征/アシスタントコーチ)から話をもらったので、練習でも試合でも一貫して良いパフォーマンスを出し続けられれば、9番に近づくのかなと思っています。
――自分としてはパフォーマンスに波があると思っていますか?
そう言われている以上はそうなんだなと思っています。それを受け止めなければいけないと思っています。
◆一貫したパフォーマンスを出す
――シーズン前のインタビューではディフェンスやキックが課題と話していましたが、そこについてはどうですか?
毎週、毎週取り組んでいます。良くなってきた感覚はありますが、まだまだ伸ばしていかなければいけないと思っています。
――タックルについてはどうですか?
伸びてきていると思います。ただ、欲を言えばもう少し強いヒットが出来るようになりたいです。成功率もそうですが、確実に良くはなっていますが、もっともっと求めたいと思っています。
――明らかに身体が大きくなりましたよね
やっぱりすぐには筋肉がつかないので、シーズン中も一貫してエクストラのウエイトとかをやるようにしています。
――もっと大きくしたいですか?
出来るならもっとですね。
――持ち前のスピードには影響しませんか?
しないと思っています。
――今の課題は?
先ほど言った一貫したパフォーマンスを出すことと、あとは試合中に何が起こるか分からないので、そこに対してどう対応するか。自分が対応することもそうですし、チームをどう動かすかも求められていると思います。
◆勝ち切ることはと大事
――着実に目指したレベルアップは出来ていますか?
出来ていると思っています。スキルとかも含めて。
――キックについてはどうですか?
今シーズンはキックを蹴って始まるシーンが多いので、裏のスペースを見るとか、少しずつ昨シーズンよりは良いかなと思っています。課題と言うか、ユタカさん(流大)がそこが上手いということもありますね。あと、プレースキックも常に準備をしています。
――最後のワンプレーで逆転勝ちする試合が3試合ありましたが、チームとしてはどんどん良くなっていますか?
勝ち切ることはとても大事なことだと思います。勝つことによって生まれる自信も絶対にあるので、良い方向に行っていると思います。練習もとてもハードですし、チーム内の競争という意味でも良い状況だと思います。
――チームとしても自信を深めていますか?
そうだと思います。
――いま日本代表に対してはどうですか?
もちろん選ばれたいですね。
――自信は?
それは分かりません。僕にはコントロール出来ない部分なので。
――今シーズンも海外の名選手が日本でプレーしていますが、そこから得ているものはありますか?
取り組み方とか、試合中のアティテュードの部分は素晴らしいなと思います。僕はバックスなので、ニコ(ニコラス・サンチェス)とチェス(チェスリン・コルビ)は試合中に身体を張るところとか、最後までチェースするところとか、そういう選手がトップに行くんだなと改めて感じました。
――そういう部分は実行しようと思っていますか?
そうですね。大事にしたいと思っています。
◆もっともっとレベルアップしていく
――シーズンが中盤から終盤に差し掛かってきますが、今の目標は?
優勝ですね。個人としてはもっともっとレベルアップしていくことです。もちろんもう一度ワールドカップに出たいと思っていますし、けれど4年後なのでその目標を持ちつつも、まずは日本代表に選ばれたいですし、そのためには日々、成長し続けなければいけないと思っています。
――自分が目指しているところのどの辺まで来ていますか?
ぜんぜん。言葉で表現するのは難しいです。常に成長を続けることじゃないですかね。
――成長を続けていて、感覚を掴むようなことはあったりするんですか?
いやー分からないです。
――日々成長しているということは、日々楽しいですよね
出来なかったことが出来るようになることは楽しいですし、感覚が良くなったりすることは楽しいですね。
――今シーズンでいちばん楽しかったことは?
ぜんぜん覚えていません(笑)。タックルとか自分が取り組んでいることが試合で決まったら嬉しいですね。
――自分のどういった成長をファンの皆さんに見てもらいたいですか?
思いっきりラグビーをやっているところですかね。迷ったりせずに思い切りやっているところを見て欲しいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]