2024年3月15日
#895 イザヤ プニヴァイ 『自分をリードするために』
今シーズンは開幕から全試合出場を続け初トライも決めたプニヴァイ選手。いつも絶やさない笑顔の奥にはどんな想いが潜んでいるのでしょうか。 (取材日:2024年3月上旬)
◆とても良かった
――第9節花園近鉄ライナーズ戦では初トライ!おめでとうございます
とても良かったです。亮土(中村)がしっかりとセットアップしてくれていたので、自分が出場した試合の中ではいちばん取りやすいトライだったかなと思います。リーグワンで初トライを挙げられて嬉しいです。試合を通じての初トライでもあり、フォワードがセットピースでプレッシャーをかけてくれていたので、バックスが上手く仕上げられて良かったと思っています。
――2つ目のトライはどうでしたか?
1つ目と似ていて、フォワードが真ん中でラインブレイクしてくれた後のトライだったので、そこから勢いづいたと思っていて、最後に自分にボールが回ってきたという感じでした。
――あのような場面では、比較的に外側にいることが多いんですか?
そんなに外側にいることはありません。ここ数試合はバックスが同じメンバーでプレーすることが多いので、それぞれのポジションが変わっても同じプレーが出来るようになっていると思います。全員、パスもキックもキャリーも出来る選手が揃っています。だからポジションにこだわってプレーするのではなく、いろいろとポジションを変えながらも、それぞれの役割が出来るようになっていると思います。
――そこは自身で判断しているんですか?
そこのポジションに入るようにやろうと言っているわけではないんですが、最終的にはそうなっていた形でした。フィールドにしっかりと広がっていないといけないということに対して、誰がそこにいなければいけないということには固執していないですね。全員がどこで何をするかということが分かっていますし、それが出来るスキルがある選手が揃っています。
◆心とエネルギーをフレッシュな状態に持って行く
――今はとても調子が良いですか?
はい、そうですね。フィジカル面ではS&Cスタッフやメディカルスタッフがサポートしてくれて、身体を良いシェイプに持って行ってくれています。メンタル面でも全身全霊を費やす感じがあって、昨シーズンまではリーグワンのレベルやチームのやり方に慣れる途中でしたし、まだ自分がどんなプレーヤーなのかを模索している途中だったと思います。
1年間を日本で過ごして、今年2年目のシーズンとなったところで、自分のコンディションを整えるためには何をしなければいけないのかが分かるようになりましたし、自分の心とエネルギーをフレッシュな状態に持って行くためには何をしなければいけないのか、が分かってきた気がします。
――今日の練習が終わった後も、いちばん最後まで身体のケアをしていましたよね
そうですね。自分の身体がいちばんの武器で道具なので、しっかりとケアをしています。今シーズンは自分史上最高のフィジカルのシェイプかなと思います。
――開幕戦から好調を続けていると思いますが、自分としてはどうですか?
自分のラグビーが成長していると感じています。それと同時に、ここ12ヶ月、18ヶ月は自分自身について学ぶことがとても多かったと思っています。もちろんコーチ陣やS&Cスタッフのサポートもある中で、1週間でやるべきことがどんどん分かってきた感覚があります。
試合までに自分の頭の中でやるべき準備をぜんぶやり切ったという感触を得るためには何をやらなければいけないのか、映像もぜんぶ見て、覚えなければいけないこともぜんぶ覚えたという実感をどうやって得ていくのかということが見えてきています。そういう状態で試合を迎えると、あとはハードワークをするだけの状態に持って行けると感じています。
――その感覚はニュージーランドにいた時には無かった感覚ですか?
一貫性という意味では、今ほどではなかったと思います。もっと若かったですし、キャリアも始めたばかりだったので、良い試合をいくつかしたけれども、それで満足してしまって、しっかりと準備が出来ていない中でも、大丈夫と思ってしまう時期はあったと思います。
◆一人暮らしは初めて
――日本でどうマインドチェンジしたんですか?
クルセイダーズから来て、クルセイダーズはサポートもしっかりしていますし、アドバイスも豊富だし、身体も心のケアも十分でした。栄養という教育面もちゃんと整っている中で、情報量がたくさんありましたが、それを実践するというところまで至れていませんでした。
そんな環境でしたが、自分としては試合に出場するまでには至らないという思いがあったので、そこまでやる意味があるのかと思ってしまっていました。いま振り返ると、その時こそ本当に細かい基礎のディティールに集中する良い時間だったのにと思っています。
その頃も知識はあったかもしれませんが、日本ではサポートのスタッフから「これやってる?」と聞かれることが増えましたし、日本に来てから一人暮らしをして、自炊をしなければいけなくなりました。実は一人暮らしは初めてで、自分の生活、自分の人生を管理しなければいけないということが初めてでした。
実際にシーズンが終わってみないと、本当にディシプリン高く、今まで持っていた知識を活用しながら出来たと言い切れないところはありますが、もちろんいつだっていろいろな知識を吸収したいと思っていますし、成長したいというハングリーな精神は持っているつもりです。そうしていけばどんどんチャンスが広がっていくと思いますし、そのとっかかりの部分に自分が来ているかなと思っています。シンプルにまとめると、「大人になったかな」と思います(笑)。ちゃんと大人になってきたんだなと。
――では伸び悩んでいる若者には一人暮らしを進めますか?
そうかもしれないですね(笑)。視野が広がるというか、特に外国で、英語を話さない国に来て、自分しか頼れないという気持ちになります。日本語もペラペラじゃないですし、日本でのやり方も分かっているわけではないので、自分が出来ることは、自分がコントロール出来ることをコントロールして、自分のケアをすることだと思います。日本を選んだのは良い選択でした。
◆ディフェンスの方がやりがいがある
――前回のインタビューでは、ラグビーの楽しさはディフェンスと話していましたが、最近の試合を見るとめちゃくちゃアタックしています。ラグビーの楽しさは変わりましたか?
そこは変わらず、ディフェンスも好きです。ラグビーのフィジカルという面も好きです。もちろんアタックも楽しいと思います。でも、ディフェンスの方がやりがいがあると思います。
――ディフェンスも好調ですか?
ディフェンスのコーチとして新しく来たヒュー(ホーガン)ともいろいろと取り組んでいますが、プレーヤー同士でもいろいろとやっています。お互いのスタンダーをドライブする姿勢が今シーズンは強くて、チームメイトから「この部分はもっと丁寧にやらないといけない」とか「ここをベターにしなければいけない」、「ここをこうやって一緒にやっていこう」と言われます。その方が、コーチから「あれをやれ、これをやれ」と言われるよりも、メッセージとしては強いかなと思います。プレーヤー同士で指摘し合う方が、メッセージは強いですよね。
――プニヴァイ選手はどんな選手にメッセージを送ることが多いですか?
亮土が多いですね。亮土はディフェンスリーダーとしてもとても良いプレーヤーですし、ラグビーの知識もとても豊富です。センターとして、亮土が何をして欲しいかも分かっていますし、12番でプレーする感覚が自分でも分かるので、お互いを理解しながら、どうやって連携しながら出来るかを確認しています。
――自分としてはどのプレーが良くなったと思っていますか?
リーダーシップの面かもしれません。フィールド内外を問わずのコミュニケーションもそうですね。フィールド内では自分の周りのプレーヤーに何をして欲しいかと要求できるようになりましたし、自分の位置をもっと伝えられるようになりました。次のフェーズはこうなる、とかも言えるようになりました。
あとはスペースがどこにあるかを見ることです。周りのプレーヤーを自分の声でサポートするという部分ですね。英語では"トリプル・スレッド"と言うんですが、ラン、パス、キックの3つをしっかりやることを意識しています。これまではキックをぜんぜんやっていませんでしたが、そこがいちばん伸びたところと言えるかもしれません。アタックのスキルセットがいちばん伸びたと思います。
――今キックを蹴ることが楽しいですか?
キャリーかパスの方が自分はやりやすいけれど(笑)、キックしないといけない時はキックします。キックに対して自信がついてきました。
◆自分をプッシュ
――リーダーシップについて、将来サンゴリアスのキャプテンに選ばれたら素晴らしいですね
このチームのキャプテンとしてリードできることになれば、とても名誉なことです。ただ、リーダーシップはキャプテン、バイスキャプテンに限らないことでもあるので、場合によってはキャプテンやバイスキャプテンじゃない人がリーダーシップを発揮することも大事かなと思います。自分がベストなプレーヤーになるために自分をリードしなければいけませんし、チーム内のスタンダードを上げる、全員をそのスタンダードに向けて引き上げていくこともリーダーシップだと思います。
――自分をリードする秘訣は何ですか?
3年前の自分自身を振り返って今の自分と比較してみると、先ほども言った通り、自分の身体をしっかりとケアすること、丁寧にやること、自分の食生活、水分補給、そしてそこにディシプリンを持つこと。あと、自分をリードするためには、自分をプッシュして、そこに責任を持たなければいけないということだと思います。
自分のこれまでのキャリアの中でも、練習に来て、身体が痛い、疲れているとか、ずっと練習していたからストレッチ無しで家に帰ろうとか、そういう部分がどうしてもあったんですが、特にシーズン中はそういう部分をしんどくてもやること、ディシプリンを持ってやること、それがないと良いコンディションでいられないと思います。
例えば、月曜日は試合の後なので身体が痛くて、疲れも残っているんですが、そこでも必要なことをやって、更にエキストラで自分をプッシュすれば、火曜日もちょっと余分に出来るし、水曜日も出来るようになります。それを続ければ、3日間や4日間はやり続けられるので、週末の試合になった時にちょっとずつの積み上げがあります。ディシプリンを持って取り組んだことで、試合の感触をかなり上まで持って行くことが出来ます。
――それは身体も心も両方ですか?
どちらかと言うとメンタルの方が強いかなと思います。
――先ほど食事を気をつけていると話していましたが、日本の食べ物でいちばん好きなものは何ですか?
いつも食べるわけではありませんが、お好み焼きです。食べる時にはソースとマヨネーズをたくさんかけるのが好きです(笑)。
◆筋力もフィットネスも上げ続ける
――今の課題は何ですか?
筋力もフィットネスも上げ続けること。あと、攻守ともにブレイクダウンはもう少し頑張りたいと思っています。アタックの時のクリーンアウトをもっと効果的に出来る場面がたくさんあると思いますし、ディフェンスの時にはジャッカルを狙うスキルも磨いていけるかなと思います。あとはラックをカオスにして時間を稼いだりすることですね。
――身体をもっと大きくしたいんですか?
そうですね。あまり大きくし過ぎると重くなってしまいますが、肩周りをもう少し増やしても良いかなと思っています。
――ブレイクダウンやジャッカルについては、ツイヘンドリック選手のようなお手本が近くにいますね
サム・ケインが来た時に、その辺りをサム・ケインに聞いたりしていました。もちろんヘンディ(ツイヘンドリック)も素晴らしいですし、凱(山本)やオケ(桶谷宗汰)など、ジャッカルが得意なプレーヤーが多いので、サポートしてくれているんですが、もう少しワークしないといけないですね。
――今シーズンの目標は?
まずは優勝したいです。そこは自分がコントロール出来ない部分でもあるんですが、自分がコントロール出来る部分で言えば、毎試合出場して、しっかりとハードにトレーニングして、リカバリーもハードにやって、自分が出来る限りのことをやって、チームがベストになることに貢献することです。
――昨シーズンの終盤からずっと試合に出ていますよね。今の状態は自分がイメージしていた状態に近づいていますか?
もちろん目標としては、シーズンを通して出続けたいという思いがあります。それをやるためには、たくさんのワークをずっとやり続けなければその場にはいられないとは分かっていました。今後も出場し続けるためにワークをし続けたいと思っています。ただ、ポジション争いが激しいポジションなので、どうなるか分からないところではありますが、オフシーズン中もプレシーズン中もハードワークをし続けて、泰雅(尾﨑)やジョー・カマナ、トニー・アロフィポもいるので、激しいポジション争いが繰り広げられているかと思います。
――もう少し先の目標という意味では、このまま日本でプレーを続ければ日本代表という可能性も出てきますね
心の奥にある考えです。自分の彼女も日本にルーツがあるので、そういった意味でも彼女のルーツがある国を代表するというのは、とても嬉しいことだと思います。そうなれば、家族もとても喜んでくれると思いますし、誇りに思ってくれると思います。けれど、まだまだ先のことではあるので、まずは今に集中して、出来る限りのことをして、今シーズンの優勝に向けて貢献していきたいと思っています。
――今の髪形は気に入っていますか?
長い髪が好きです。自分の顔にかからないヘアースタイルが良いので、ちょんまげスタイルになっています(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:楠瀬紫野)
[写真:長尾亜紀]