2024年3月 1日
#893 中村 亮土 『ここからめちゃくちゃ楽しくなっていく』
ベテランの領域に入っても、元気にフル出場する中村選手。サンゴリアスと自分自身の現状、そしてこれからについて語る姿は、淡々としていながらも力強さに溢れていました。(取材日:2024年2月下旬)
◆自分たちの自信とプライドを取り戻すための準備
――第7節のワイルドナイツ戦、惜敗でしたがフル出場してどうでしたか?
もちろん悔しいですね。やっぱり試合に負けることは悔しいですし、パナソニックは何が何でも勝ちたかった相手でした。この試合に向けて、自分たちの自信とプライドを取り戻すための準備をしてきました。クロスボーダーのブルーズ戦の後から自分たちを見直して、「サントリーとはこういうクラブだ」ということを見つめ直して、それを練習の中で積み上げて来て、パナソニック戦を迎えました。
結果は負けましたが、「こういうラグビーがしたい」という意思とか、自分たちが譲れないもののプライドは見えました。そういう意味では自分たちのラグビーを取り戻す作業が出来たので、これからの時間の中で、最後に勝つ準備を出来たらと思います。
――試合中は「勝てる」と思っていましたか?
試合前も思っていましたし、試合中も良い感覚はありました。
――その感覚はワイルドナイツ戦では久しぶりなんじゃないですか?
最近勝てていませんが、これまでも「行ける」という感覚はあるんですよ。どこか勝負所でのミスだったり、反則だったり、そういうことが重なって、結果負けてしまうということが続いていました。そこには原因があるので、自分たちを見つめて、直していかないといけないところだと思います。
――ラインアウトで苦戦していましたね
もちろん攻撃の起点を相手にあげてしまったので、敗戦のひとつの原因でもあるかもしれないですけれど、あれはフォワードの課題として考えればいいと思います。チームとしてもっと出来たところとしては、反則の数がパナソニックとぜんぜん違うので、反則を取られないような理解力とか、対応力、コミュニケーション能力、すべてを兼ね備えていかなければいけないと思います。そこはいちばん伸びしろがあるところかなと思います。
◆クリアなプレーをし続ける
――具体的に反則を取られないようにするには?
誰が見てもクリアなプレーが出来るように。あと、時間帯と場所。この時間帯は、この場所、エリアは、絶対にペナルティしてはいけないということを理解してプレーすること。それがとても大事なのかなと思います。
――ワイルドナイツ戦では開始早々押していながらもペナルティを取られるシーンがありましたね
そこは試合を進めていくうちに合わせていけば良いんですけれど、自分たちの良い流れを継続することが大事で、良いアタックして、ペナルティをもらって、そこからタッチに出してアタックしている中でペナルティをしてしまうとか。どこかで流れがへこんでしまうところがあるんですよ。良い流れをいかに継続させるかが大事で、自分たちのやりたいことをやるために、クリアなプレーをし続けることが大事ですね。
――実際にやるのは大変ですね
大変です。やっぱり考えながらしないと出来ないことですけれど、考えすぎでも大胆にプレー出来なくなるので、その塩梅は人それぞれ違いますが、ある程度理解した上でプレーしないと、強度の高い試合になると、ひとつのプレーで流れが変わったりします。
――そこはリーダーグループの役割ですか?
そこをリードするのはリーダーですね。
◆プレッシャーを感じながら、大胆に、思いっきりプレー
――第5節、第6節と最後ワンプレーで逆転する試合が続いていましたが、あの試合では大事な場面でミスやペナルティをしないというこが出来ていたということですか?
出来ていないです。出来ていないから、あのような試合になったんだと思います。ただ、間違いなく地力はあるので、そこで勝ったというだけです。もっと良いゲームが出来たはずです。
サンゴリアスって追い込まれないと力が出ないんですよ。シンビンで誰かひとりいないとか。あぁいう時に開き直れるから、良いんだと思います。プレッシャーの問題ですね。開き直った時ってプレッシャーを感じないじゃないですか。開き直って思いっきり大胆にプレー出来るんですよ。ただ、そうじゃなく、どこかプレッシャーを感じながらプレーしている時に、いかに大胆に、思いっきりプレー出来るかが大事になると思います。
――ハラハラするけれど、最後に逆転して勝つ、それは面白いラグビーに近づいているのか、まだまだなのか?
ぜんぜんまだまだです。そういう意味では、今回のパナソニック戦は見ていて面白い試合になりつつあるんじゃないかなと思います。サンゴリアスらしく、かつパナソニックの強さも際立って、どちらに試合が転ぶか分からない緊張感があって、それでいてボールも動いて試合の展開が速いというラグビーを、僕らは求めています。
――試合のメンバーが変わっても、プレーが大きく変わることがないように感じました
そこは間違いなくサンゴリアスの強みです。誰がメンバーに入っても、ベストなサンゴリアスを出さなければいけないと思っています。
――今シーズンはハードな試合が多いように思います
パナソニック戦で言えば、試合自体はハードだったと思います。オケ(桶谷宗汰)が足をつっていましたが、足をつるほどハードなことをやっていましたし、相当走っていて、ハードにコンタクトしていて、それくらいのことをやっているから、つったんだと思います。僕自身も足をつってしまいましたが、出し切った感じがありました。
◆すべての精度を高くしていかなければいけない
――自分自身の調子はどうですか?
僕は調子良いと思っています。
――いま意識している課題はありますか?
これからはプレーの質を高めていかなければいけないと思っています。もうプレーのぜんぶですね。ラン、キャッチ、パス、ボールキャリーの質、タックルの質、コミュニケーションレベルの質、そのすべての精度を高くしていかなければいけないと思っています。
――そのぜんぶのレベルは、これまでの中でも最高レベルに来ているんですか?
いや、どうなんですかね。コンディション的には良いので、練習を繰り返すしかないですね。
――出来ることは増えているんですか?
出来ることは増えていないです。
――出来ていたことが出来なくなっていることもありませんか?
それも無いですね。
――イメージとしては、いろいろとキープしている感じですか?
怪我の痛みなどもあって、トレーニング出来ない時期もありましたし、そういう意味で言うと、もっともっとトレーニングを続けていって、試合を重ねることで洗練されていくと思います。
――洗練されてくるとどこに現れてきますか?
プレーの質ですね。パナソニック戦で言うと、ゴール前でボールを落としたり、ペナルティをしたりと、ちょこちょこミスをしていました。そのミスを無くすことが大事かなと思います。
――何が加わるとミスが無くなるんですか?
余裕ですかね。久しぶりの80分の試合で、パナソニックということもあって、思いっきりやろうという気持ちが強かったんです。とにかくボールに触れて、プレー回数を多くして、チームに良い影響を及ぼして、そこを経験した上での余裕も、これから試合を重ねるごとに出てくると思います。試合に出たり出なかったりすると、僕の中ではマインドが変わってきます。たまに試合に出たりすると、「この試合は絶対にやらなければいけない」という気持ちになるので、それが無くなってくると、もっと洗練されてくると思います。
――ワイルドナイツ戦でのトライは、思い切りやろうという気持ちが入ったトライでもあったわけですね
そういう良い面もあるんですよ。そこをどう共存させていくかですね。
◆自分が失敗しても受け入れられるくらい、やっています
――サンゴリアスとしては、まだまだこれからという感じですか?
まだまだですよ。本当にここからです。ここからめちゃくちゃ楽しくなっていくと思いますよ。
――個人的に目指すところは?
無いです。チームに貢献するということは別として。
――過剰になり過ぎるくらいの自信はどうですか?
常に自信はありますよ。そこはあまり変わらないですね。
――自信があるということは、その分やっているということですよね
そうですね。その分、練習をやっています。自分が失敗しても受け入れられるくらい、自分が納得するまでやっています。「自分が失敗するなら、他のみんなも失敗するでしょ」というくらい。それがどれくらいかと言うと、人それぞれだと思いますが、量もあるし、質もあるし、自分の満足度がどこにあるかもあるし、受け入れるメンタルとか、やってきた経験とか、いろいろなことが重なると思います。
――心の持ち方は不変ですか?
変わらないですね。自分の中では「大したことは出来ない」と思っています。僕が3トライも取ってチームを勝たせることは出来ないし、全てのボールに絡んでアメフトのクォーターバックのようにチームを動かすわけではありませんし、大したことは出来ないからこそ、自分のやるべきこと、出来ることだけをちゃんとやっておけば良いんですよ。自分がやるべきこととやっていれば勝つ可能性は広がるので、自分のやるべきこと以外は何も考えずに、そこだけにフォーカスしてやっています。
◆自分と向き合って、考えた
――そう思えるようになったのはいつ頃からですか?
いつ頃ですかね。2016年、17年くらいにどんどんそういう考えになっていったかもしれません。
――そこは日本代表での活躍と比例しているんですか?
いや、僕はサンゴリアスでずっと試合に出られなかった時期があったんですけれど、その時に自分と向き合って、考えた結果がそうなったと思います。
――その辺りから自信の塊になっていきましたよね
自信というか、何を信じるかというか、他のものに影響されなくなりました。人からの評価だったり、ライバルの存在やその活躍とか、そういう部分にフォーカスしていたんですが、そこを排除するようになりました。自分が思うこと、自分がやりたいと思うことを優先して、「自分がこうなりたい、」という理想のものに対して努力し続ける方が、100%になりました。
――それを自分で見つけたんですよね。どうしてそれを見つけられたんでしょうか?
そうですね。なぜ見つけられたんですかね。そうしてから結果が出ましたからね。追い込まれていたということもありました。パーンって変わった時がありましたね。
――そこからはずっと楽しいですか?
楽しいです。評価が自分軸なので、面白いですね。だから、本当に影響されないです。
◆アグレッシブなラグビーを見て欲しい
――いまやっていて楽しいところはどこですか?
僕の場合はこれからですね。これからチームがどう成長して、自分自身もどう良くなっていくかが、めちゃくちゃ楽しみです。
――では、まだまだ引退は先になりそうですね
いや、考えてはいますよ。僕の中では、それは全く別物です。グラウンドに来て、やるべきことをやる、そして引退した後のプランも考えてはいて、それはクラブハウスを出た後の時間でいろいろやったりしています。
――いつ頃まで頑張ろうという具体的なものは?
ありますよ。いま32歳で、あと2~3年は身体の状態をキープ出来ると思っているので、その辺までは出来るようにコンディションを整えておきたいですね。でも、タイミングもあるので、実際にどうなるかは分からないですよ。他にやりたいことが出てきたら、そっちの道に進むかもしれません。あとはラグビーに対してのモチベーションだったり、いろいろなものが影響してくると思います。
――日本代表やワールドカップについてはどうですか?
日本代表としてはやり切りましたし、ワールドカップはもう無理ですね(笑)。今32歳で、次の時には36歳ですから。その歳でワールドカップに出ている人もいますけれど、それは稀で、ましてやバックスでは無理だと思います。
――めちゃくちゃ楽しみというこれからのサンゴリアスの、どこに注目すればファンも楽しみが増えますか?
もう、アグレッシブなラグビーを見て欲しいだけです。もっともっと、アグレッシブになっていくと思います。まだ2割くらいしか出していないですよ。伸びしろがあるので、まだまだ良くなっていきますよ。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]