2024年2月23日
#892 桶谷 宗汰 『子どもが覚えているような年齢まで足掻きたい』
第7節ワイルドナイツ戦にフル出場した桶谷選手。7番をやり切ったことや続けている2番へのチャレンジなど、ラグビーへの思いを聞きました。(取材日:2024年2月下旬)
◆アピールする時間が伸びた
――第7節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦、フル出場でしたね
フルは久々でした。出場しても60分とか70分弱くらいだったので、その10分、20分の差はめちゃくちゃキツく感じました。足もつっちゃいました。パナソニックが相手で前半からキツかったんですけれど、試合の前から80分だろうとは思っていたので、ハーフタイムで気合を入れ直して、足はつってしまいましたがなんとか最後までは出来ました。足をつって動けなくなるのも本当に久しぶりでした。55分くらいからつりそうな雰囲気が出ていて、結構ヤバいなと思っているタイミングで、あのラインアウトがとどめになりました(笑)。
――取れると思って走ったわけですよね
あのラインアウトの前にも同じサインが出ていて、その時は走っても大丈夫で取れたんですけれど、その次のラインアウトでは、走り始めの二歩くらいで足がピーンとなって、コケちゃいました。
――あれが取れていたら、試合も分からなかったですね
そうですね。無理せずに亮土さん(中村)に代わってと言えば良かったと思ったんですけれど、その後に亮土さんも足をつっていたので、なかなかタイトな試合だったなと思いました。
――サム・ケイン選手の代役というプレッシャーはありましたか?
プレッシャーというよりは、もともとは7番のポジションで出ることにはなっていて、ケイノ(サム・ケイン)が出られないことになってスタメンにはなりましたが、仕事の内容が変わることはなかったので、単純にゲームタイムが伸びた、アピールする時間が伸びたと思って、ポジティブに考えていました。もちろん緊張はしましたけどね。
◆もっと自分の強みを出せなきゃおかしい
――チャレンジ中のフッカーの方はどうですか?
継続してやろうとしていますが、個人練習の時間もバックローの時間が長くなっています。
――ぜんぜん違うポジションを並行して出来るということは器用なんですね?
バックローと言っても、ラインアウトでジャンプを飛ぶとかの仕事はしていなくて、本当にインディビジュアルなジャッカルの練習とかタックルの練習とか、そういうことに時間を割いています。元々ずっとバックローでやってきたので、フッカーに挑戦していても、7番に戻ることはすぐに出来ます。特別なスキルが失われているわけではありません。
――7番としての出来はどうでしたか?
パナソニック戦は全部が上手くいって良いプレーが出来たと思います。フッカーに挑戦しつつ、今はフランカーをやっていますが、フッカーをやっていた時のセットピースのプレッシャーなど上手くいかない感じがメンタル的にキツくて、フランカーをやることになった時に、セットピースやスローイング、スクラムのことを考えなくてラグビーが出来ることが楽で(笑)、そこのメンタルの差はありますね。
――楽ということは、集中が出来るということですか?
元々フッカーがある程度できて、今のフィールドでの動きが出来れば良いよねと言われてフッカーをやることになったんですけれど、フッカーに気持ちがやられ過ぎていました。フッカーはスクラムも組むので足がしんどいんですけれど、それがあったから、いまこれだけ楽に動けている自分がいて、実際にスクラムを組んでいる人がいるからもっと動かなきゃと思いますし、あれほどの重圧がない中で、もっと自分の強みを出せなきゃおかしいと思うようにしています。
◆見ることも聞くことも
――強みは出せましたか?
そうですね。出せたと思います。直近の練習でもアピールしようと取り組んだことが、パナソニック戦でも出せたかなと思います。
――自分ではどの辺がいちばん出たと思いますか?
ディフェンスやブレイクダウンのところでアピールしようと思っていたんですけれど、パナソニック戦ではアタックが調子良くて、亮土さんがトライを取ったシーンでは、ボールをもらった時も冷静で、周りに繋ごうという意思があって、完璧にパスが出せて、トライに繋がりました。練習で自分のフィールドプレーをアピールしようと動いてきた中で、周りと上手く繋がろうと取り組んだことが、あのパスに繋がったのかなと思います。
――以前よりも周りが見えている感じですか?
あの時は亮土さんもとても呼んでくれていたんですけれど、ボールをもらう前に相手ディフェンスが前に飛び出しているところや、そのディフェンスだからユタカ(流大)はここに放ってくれるかなと思っていたら放ってくれたとか、あとボールをもらう前の亮土さんのコールで、何となく裏に亮土さんが走っているイメージが出来ていて、少し待っていたら亮土さんが左から声を出しながら上がってきてくれたことが分かりました。見ることもそうですし、聞くこともいろいろと出来ていたかなと思います。
――聞こえてきた声で、見なくてもどこにいるか分かっていたんですか?
だいたいあぁいうシチュエーションって、フォワードが前に走っていたらバックスが裏に走っていて、もともとそういうコールも聞こえていたから、何となくこの辺りにいそうという感じでした。
◆フィールドプレーを効率的にやろう
――フッカーをやることによって、フランカーに戻った時に集中度が増すという感じですか?
そうですね。良い効果があったと思います。あとフッカーの時に、スクラムもラインアウトもキツいので、フィールドプレーを効率的にやろうというマインドになっていて、いまセットピースが無くなった中でもそういう意識は残っているので、フランカーでフィールドプレーをしていても効率的になっていると思います。サポートのコールや、無理に自分で行くんじゃなくてパスをしようとか、効率的にゲインが出来るオプションを選択するようになっていると思います。
――いま微妙なバランスが良いと思いますが、それを今後はどうキープし、より良くしていこうと思っていますか?
いまたまたま上手く回るようになってるんですが、それは自分で意識してこうしようと思った結果ではなくて、試合に出るために頑張ってきて、ブルーズ戦にも選んでもらえてボコボコに負けはしましたが、自分たちのスタンダードを見直そうとチームで話が出た時に、自分自身のスタンダードを見つめ直して、毎日の練習で集中してスタンダードを上げようと思って取り組むようになりました。その結果で今のバランスにたどり着いたと思います。
もともとできている日もあればできていない日もあったと思うんですけれど、もう一度スタンダードを見つめ直して、毎日毎日レベルアップしようと思った時に、良いバランスのプレーが何日か続いて、それがベースとして固まってきたかなと思います。
このバランスで行くために、毎日毎日スタンダードを見つめ直してやっていこうと思っています。これまで毎年怪我をしていて、今シーズンは怪我をしていませんが、やる時はやって、休む時は休むように、自分を客観的に見ながらやっていけたらこの状態をキープできるのかなと思います。
◆毎試合でジャッカル
――フランカーとしての課題はどこですか?
自分の強みを出すことがチームから求められていますが、自分のいちばんの強みはブレイクダウン周りでの仕事になるので、それを出したいのですが、毎試合でジャッカルが出来ているわけではないですし、パナソニック戦では1本取れましたけれど、その前のブルーズ戦では取れませんでしたし、自分の本当に出したいプレーを出さないといけないのに、出せていないというところが課題です。いま慎太郎さん(石原)にも言われるんですけれど、僕がフランカーをやっている存在意義って、そういうプレーなんですよ。それを出せないのはダメだと思います。
――フッカーでの課題は?
もちろんセットピースですね。スローイングもぜんぜんダメですし、スクラムもぜんぜんコントロール出来ないし、セットピースのところは大きな課題になっています。
――やっぱりフランカーに専念しようか、という意識はありますか?
直近はフランカーで良いパフォーマンスが出せています。もともとは試合に出るための選択肢としてフッカーを始めたわけですが、試合に出ることが全てです。フランカーで試合に出られるならば、フランカーで試合に出たいですし、フッカーをやったことで得られたものも絶対にあるので、継続的にフッカーは続けていくつもりです。
――両方で試合に出られたら面白いですね
他のチームでもバックローをやっていた人がフッカーに転向することも多くて、この前のワールドカップでも南アフリカの16番の選手はバックローもフッカーも両方出来る選手でした。世界的にそういう流れがある中で、珍しいことでもなくなると思いますし、チャレンジしたいことのひとつになっています。
――フッカーにチャレンジしていて楽しいところはどこですか?
ずっとバックローをやっていたので、正直、スクラムのことはぜんぜん分からなかったんですけれど、スクラムを組んでみて押せたりすると、それはそれでめちゃくちゃ楽しいんですよ。スキルもまだまだで、1番と3番に助けてもらってスクラムを押すということなんですが、それでも押せたときは気持ちが良いですし、カッキーさん(垣永真之介)が吠えている理由も分かる気がします(笑)。
――スクラムを後ろで押しているのとはぜんぜん違いますか?
ぜんぜん違いますね。押してやった感が違います。
――フランカーの楽しさは何ですか?
フォワードなのでセットピースは大事ですけれど、フッカーに比べると重圧は軽くなります。セットピースよりもフィールドプレーにフォーカス出来て、フィールドを走り回ったり、球技をやっている時間が楽しいですね。
◆思い残すことはなかったと思えるラグビー人生
――東京サンゴリアスに入った時には今の状況を想像できていなかったと思いますが、改めて今の状況をどう思っていますか?
サンゴリアスに入った時にはフッカーをやっているとは思っていませんでしたが、フッカーをやっていなければ、もしかしたらもうラグビーはやっていなかったかもしれません。社会人6年目くらいでラグビーを辞めて、ずっとラグビーを続けてきたのに呆気ない終わり方だったなと思っていたかもしれないです。でもいまフッカーをやっていることで、引退した時に思い残すことはなかったと思えるようなラグビー人生というか、キャリアのところが、最後に気持ちよく終われるんじゃないかなと思っています。
サンゴリアスに入って5年間くらい、ぜんぜん試合に出られなくて、同期が引退した時に、次は自分なんじゃないかと思っていました。社員選手なので、自分で引退のタイミングも決められませんし、そういった中でリアルに自分のラグビー人生を考えて、もうちょっとラグビーをやりたいと思ったんです。子どもにも自分がラグビーをやっている姿の記憶を残したいですし、足掻くじゃないですけれど、30歳前半まではラグビーを続けたいという思いがあって、アオさん(青木佑輔アシスタントコーチ)やキヨさん(田中澄憲監督)にも相談して、フッカーをやりながらフランカーをやる形になっています。
フッカーをやらずにラグビーを引退してしまっていたら、「パパはラグビーやっていたの?」くらいになってしまいますし、自分としてもぜんぜん試合にも出られず、良いプレーをした記憶もない中、辞めてしまうのと、少しでも足掻いて可能性があることをぜんぶやって、例え公式戦に出られなかったとしても練習試合の記憶が子どもにあるくらいで終われたら、今までラグビーをやってきて良かったと思えるような最後になるんじゃないかなと思います。
――お子さんはお幾つですか?
3歳と1歳で、どちらも女の子です。上の子は何となくラグビーって分かるようになってきましたけれど、大きくなって覚えているかどうかは微妙な年齢です。だから、子どもが覚えているような年齢までは足掻きたいなと思っています。
――今シーズンの目標をお願いします
昨シーズンはぜんぜん試合に出られなかったので、昨シーズンよりは多く試合に出たいですし、現実的な話でフッカーで試合に出ることは今シーズンは難しいとは思うんですけれど、ゆくゆくはフッカーでも試合に出たいと思っています。試合に出るということは毎日毎日の積み重ねだと思うので、今シーズンは1試合でも多く試合に出ることと、フッカーにも毎日毎日チャレンジしていくことです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]