2024年2月 9日
#890 流 大 『毎日を全力で、1年1年出し切りたい』
最後の最後で逆転勝ちしたダイナボアーズ戦。長く続いたチームの攻撃を指揮していた流選手は、どんな思いでプレーしていたのでしょうか。サンゴリアスと自分自身のラグビーについて語ってもらいました。(取材日:2024年1月下旬)
◆周りのインパクトを出す
――第6節三菱重工相模原ダイナボアーズ戦は後半からの出場でしたが、試合をコントロールしていてどうでしたか?
コントロールしたというよりは、後半のスタートから入ったので、僕が入ることで周りをピリッとさせるというか、周りのインパクトを出すというところが僕の仕事でした。僕自身がインパクトあるプレーが出来るとか、ビッグタックルが出来るとか、そういうプレーヤーではないので、周りを締めて、コミュニケーションを多く取ることを意識しました。僕が試合に入った時には15点差で、逆転できる点差だと思っていたので、落ち着いて40分間、組み立てようと思ってプレーしていました。
――本当に落ち着いてプレーしている様に見えましたが、ラックに入ってボールを投げる時と、フォワードを使う時は、どう使い分けているんですか?
あの試合はリスクを考えなければいけなくて、雨というコンディションと風というコンディションがあったので、ボールをいつ持つか、どういう状況の時にボールを持てばいいかを考えながらプレーしていました。僕からパスを多くした方が良い時、そうするとキャッチでミスが起こる可能性がある時、フォワードもタイトな試合でプレッシャーを受けている時、フォワード主導でボールを動かした方が良い時、などいろいろなシチュエーションがあるので、そこはバランスを見ながら考えていました。僕がどうこうというよりも、みんながやり切ってくれるしかないという状況でした。
――プレーしている最中はあまりミスのことは考えていませんでしたか?
リスクを取り過ぎてもあまり良い結果にはならないので、行く時には思い切っていこうと考えていました。最小限に自分たちがコントロール出来るところはしっかりとコントロールしながら、落ち着いてゲームを運ぼうという話をしていました。
――9番が落ち着いていると周りのみんなも落ち着いていますね
そこが役割でもあると思います。
――インパクトという意味では自分でトライを取りましたね
あれはたまたま転がって来ただけです(笑)。晟也(尾﨑)の良いラインブレイクだったと思います。
――素直にトライを喜んでいる姿が良かったですね
トライはいつ取っても嬉しいものです。なかなか取る機会がないポジションなので。
◆もっと脅威になれる
――第5節の静岡ブルーレヴズ戦も最後のプレーで逆転したわけですが、チームとしてのこの2試合の戦い方はどうですか?
静岡戦に関しては、前半20分は不甲斐ないというか、サンゴリアスとして決して良い試合だったとは言えないと思います。ただ、特に今シーズンになって、リーグワンの競争力がかなり上がっています。感覚としてはもっとスッキリ勝ちたいという思いはありつつも、タイトな試合になることは予想できるし、スッキリ勝ちたいと思うことが失礼なリーグになってきています。
どの相手でもクロスゲームになることを想定して、僕の中では挑んでいます。そういうところで勝ち切れているということはチーム力がある証拠ですし、良い日本人選手が育っている証拠だと思います。ただ、それでチャンピオンになれるかと言えば、またそれは別の話なので、もっともっとやらなければいけないことがあると思っています。
――昨シーズンの準決勝の最後の場面で出来なかったことを、この2試合やっているようにも見えますが
昨シーズンは昨シーズンで、今シーズンはまた違ったラグビーに取り組んでいるので、一概には言えないですけれど、クラブとして負けてはいけない部分というのはあります。僕らはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを掲げていますけれど、それに至るまでの部分で、キックも蹴りますし、キックチェースの貪欲さとか、ルーズボールに対する反応とか、そこだけは絶対に負けないでおこうと、毎週口酸っぱく言い合って、プライドを持ってやっています。そういうところは、今後もっとやっていきたいと思っています。
――そこはだんだん出来てきているところですか?
ルーズボールに関しては良くなってきていますし、キックチェースのところも素晴らしいものがあるので、よりコミュニケーションを取ったり、組織として出来るようになれば、もっと脅威になれるんじゃないかなと思います。
◆どうにか食らいついて勝っていく
――先発でもリザーブでも変わりはありませんか?
ぜんぜん変わらないです。前にも言ったかもしれないですけれど、今のラグビーは23人で戦うスポーツなので、9番でも21番でも、本当に大事な役割があります。僕はチームが勝てば何番でも良いと思っていて、チームが勝つことが最優先です。メンバーを選ぶスタッフがいて、選ばれたポジションでベストを尽くす、ベストな選手になるということです。先発で出場することが多くなった前半戦でしたが、今後はどうなるか分かりませんし、リザーブでの出場が増えても、メンバー外になることがあっても、自分のベストを出し続けることだと決めています。
――見ていてハラハラしつつ勝っているので面白いのですが、プレーしている選手たちはあのような試合で勝つということは自信になりますか?
みんながどう思っているか分かりませんが、ファンの方からすれば、スッキリ勝ちたいという気持ちがあるのかもしれません。本当に今は競争力が高くて、差のないリーグになってきているので、だからこそ、どう接戦をものにするかというところも大きなポイントだと思います。それはチームカルチャーであり、経験であり、そういう部分がクロスゲームをものにするのに大きな影響を及ぼします。そういうところで勝ち切れるための要素を、日々の練習で積み重ねることがとても大事になります。
個人的にはもっとトライも取りたいですし、失点を減らさないといけないと思っているんですけれど、簡単なリーグではなくなってきています。今後も接戦は増えると思いますが、どうにか食らいついて勝っていくというイメージです。
◆若い選手が高いレベルで競争できている
――6試合を終えた今、チームとしての力は上がってきていますか?
チームの状態は、ひとつの要素だけでは言えませんが、良くなってきていると思います。いろいろな選手が試合を経験していますし、怪我人が多くて難しい部分もありましたが、怪我人がいようがどうなろうが、その時に出ている選手がサンゴリアスとしてベストなメンバーなので、試合に出たメンバーが力を発揮できているということが大事なことです。いかに日頃の練習でコンペティションが出来て、良い練習が出来ているかが反映されているところだと思うので、良い状態にあると思います。
――リーグワンのレベルが上がっていることと、チーム内で良いコンペティションが出来ていることで怪我人が増えたということですか?
怪我に関してはいろいろな理由があって、練習が激しいから怪我人が出ているだけではありません。運もあるので一概には言えません。ラグビーなので怪我人が出ることは仕方のないことで、そこはあまり悲観的にならずに、誰かが怪我をしても、サンゴリアスではマイナスな空気にはなりません。次に誰が入っても、すぐにコミット出来ますし、自信を持って準備が出来るんです。開幕戦の週にも2人くらい怪我をしたんですが、パパっとメンバーが変わっても動揺することもなかったので、特に若い選手が高いレベルで競争できているということが、とても大事なポイントだと思います。
――若い選手が国際的なレベルを経験できるという意味では、クロスボーダーラグビーは貴重な試合ですね
本当に貴重ですよ。相手がどう考えているか分かりませんし、ルール的に28人登録で入替が可能とか、リーグのポイントに反映されないとか、いろいろな声を聞きますけれど、ただ単に日本のクラブとして、サンゴリアスとして、力を示すだけだと思っています。それは若い選手だけじゃなくて、このチームとして力を示したいと思っているので、良い機会だと思っています。
もちろんやる時期とかは考えないといけないとは思いますが、そういう機会を作ってくれたことに感謝していますし、こういう第一歩がないと、次に繋がっていきません。サンゴリアスというチームのミッションにもあるんですけれど、日本のラグビーを牽引して、世界にチャレンジするチームになるということがあります。そういうチャレンジを設計してくれた協会、リーグには、とても有難いなと思っています。
◆いま本当に欠かせない選手
――個人のプレーに話を戻すと、キックの種類が増えたように感じたのですが
増えたということはないですが、もともとキックのバリエーションは強みにしていましたし、今シーズンはこれまで以上にキックを蹴っていると思います。昨シーズンと比べて、1試合でのキックの回数は平均して5回くらい多いんですが、それによって良いアタックが出来ている回数とか、ゲインラインを越えている回数とか、良いカウンターが出来ている回数も同じくらい増えています。
いかにキックを有効に使えていて、キックを蹴ったことによるディフェンスや、キックチェースがいかに有効かを示していると思います。ボールを持っていない時の選手たちの働きが、本当に今シーズンは際立っていると思います。そこは今後も強みにしていきたいと思っていますし、だからこそ、自分自身のキックの精度もとても大事だと思っています。
――そこは練習していることが出せているんですね?
そうだと思います。
――日本人の若手選手の話がありましたが、具体的にどの選手が注目ですか?
ひとり挙げるとすると、泰雅(尾﨑)ですね。練習もハードにやって、本当に度胸があると思います。物怖じしないですし、相手のセンターに有名な外国人選手がいても「絶対やってやりますよ!」みたいな(笑)、そういうとことが良いなと思います。実際のプレーも今シーズンはとても伸びていて、フィジカルも強くなって、スピードもあって、スキルもあって、左足のキックも精度高くて、いま本当に欠かせない選手になっていると思います。成長した選手のひとりだと思います。
あと小林賢太もそうですね。下川甲嗣もそうですね。その辺りは、リーダーになってきているので、そういう気持ちが芽生えているし、リーダーシップも取れてきています。あと幹也(髙本)もそうですし、若手はみんな良いですよ。ハングリーだし、試合に出たいという気持ちが伝わってきます。そういうところがチームにとって大事だと思います。
――チーム内の競争は激しいけれども、自信を持ってプレーしているという感じですか?
そうですね。サンゴリアスに入る時って、同じポジションに絶対に日本代表クラスの選手がいます。それでもこのチームに入ってくるという意味は、このチームだから成長できるということと、その選手に勝てば日本代表が近づくとか、その選手にチャレンジして勝って、もっと成長したいとか、そういう思いがあって入ってくるんだと思いますし、僕がサンゴリアスに入った時もそうでした。デュプレア(フーリー)がいて、日和佐さんがいました。そういう選手たちに勝ちたいと思って入ってきて、だから練習にも貪欲ですし、そんな選手たちの勝ちたい気持ちが周りの選手にどんどん伝わってくるので、そういう若手がたくさんいるのは良いことだ思います。
――齋藤直人選手はどうですか?
代表でも一緒で長く一緒にいるので、もう言うことはないですし、伝えられることは伝えてきています。どういう関係になろうがライバルには変わりないので、お互いに競争し合っていくということですね。切り離したりとかは一切ないですけれど、あえて僕から寄り添うようなこともしていなくて、特に心配もしていないという感じです。
◆試合がいちばん楽しい
――自分自身のこれから課題は何ですか?
タックル成功率を上げなければいけないと思っています。良かった試合もあるんですけれど、システム的にミスマッチが起こるようなこともあって、タックルを外されるシーンも多くなっているので、そこを良くしないとチームのディフェンスの向上にも繋がって来ないので、そこがいちばんですね。
――具体的にどう改善していくんですか?
1対1でディフェンスをしようとすると難しい部分でもあるので、いかに周りを巻き込んで組織としてディフェンスをしながら、相手を追い込んでいくことが大事になります。ひとりでディフェンスをしないということと、いざタックルシチュエーションになったら、自分のタックルスキルが大事になるので、練習をしていかなければいけないと思っています。ここ何週間か、個人練習もやっています。
――第7節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に向けては?
パナソニックの試合を見ていて、とても良い状態だと思っています。毎シーズン思っていることですが、強いという印象もありますし、良い選手がいるだけで作り上げられているチームではありません。良いチームの文化、ラグビーの文化があって、そこに良い選手がいるので強いのだと思います。
ただ、今はパナソニックだからという感覚はなくて、1週間前になったら意識すると思います。今はあまり先のことは考えられなくて、クロスボーダーだったりトレーニングマッチだったり、ひとつひとつ自分たちの課題をクリアしながら、チャレンジしていくだけだと思っています。
ただ、パナソニックは尊敬する相手ですし、何が何でも勝ちたい相手です。出来る限りの準備をして、必ず勝ちたいと思っています。
――次の試合に向けて話している時には楽しそうに見えますが、やはり楽しいですか?
楽しいですよ。試合がいちばん楽しいので。ウエイトとかバイクでのトレーニングとか、フィットネスとか、やらなければいけないんですけれど、楽しくはないですよね(笑)。ラグビーをやって勝つことがいちばん楽しいです。
――楽しさは試合で勝つことですか?
それは間違いないですね。勝てば良い反省も出来て、負けても学ばなければいけませんが、勝っても学びがあるということが、良いところだと思います。ただ、勝った時の喜びは何事にも代えられないものです。だからラグビーを続けています。
◆負けず嫌いだっただけ
――前のインタビューで話していた、「人に決められたくなくて自分で決めたい」ということは、いつから思っていることですか?
昔からそうだと思います。進路を決める時も自分の意思で決めてきましたし、社員選手からプロになった時も自分の意思で決めました。自分のモチベーションが高くなかった時に、日本代表を辞退したのも自分で決めたことです。やっぱり自分の人生なので、自分がやりたいことをやりたいですし、やりたくないことはやりたくないです(笑)。
強くなるためとか、ラグビーが上手くなるためとか、ラグビーで勝つためにやりたくないことをやらなければいけないはたくさんあります。それ以外のことで、目的がないのにやりたくないことをやるのは嫌なので、勝ちたいとか優勝したいとか成長したいとか、そういう気持ちがなくなれば、スパッとラグビーも辞められます。だから悔いのないように、いつ辞めてもいいように、毎日を全力で、1年1年出し切りたいと思っています。
――目的、目標があって、それを繰り返してきたという感じですか?
目的と目標がないと、やっている意味がないと思っています。それは子どもの頃からですね。ただ、負けず嫌いだっただけだと思いますけれど。勝ちたいから練習をしていましたし、外に走りに行っていましたし、そういう子どもでした。それを今でもやっている感じですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]