SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2024年1月19日

#887 箸本 龍雅 『僕のベースはそこです』

今シーズン初先発の前節で決勝トライを挙げた箸本選手。自身初トライに至る道、そして目指す目標を聞きました。 (取材日:2024年1月中旬)

Hashimoto_01.jpg◆あのプレーは奇跡

――静岡ブルーレヴズ戦の逆転決勝トライ!どうでしたか?

試合残り10分くらいで、8点差を追いかける苦しい状況でした。試合を通して相手を追いかけるシチュエーションやプレッシャーを受ける場面が多く、上手くいかない状況が続きました。その様なこの前の試合で、良かったと思った部分は、80分間常にコミュニケーションを取り合ってやれたこと。最後にみんなが諦めずに20フェーズ近くアタックし続けて、最後に逆転できたことが良かったと思います。

――トライを取った時は?

逆転を狙うという感覚は、あまりありませんでした。とりあえず自分に来た目の前の仕事を全うする。ボールが回ってきたら、絶対に強いキャリーをする。ぜんぜん先のことは考えられていませんでした。

――トライをした瞬間はホッとした表情に見えました

まさにホッとしました(笑)。何にホッとしたかと言うと、ラストパスをしっかりキャッチ出来たことにホッとしました。あまりあのポジションにいることがないので、晟也さん(尾﨑)がパスしたあと、ボールが来るまでスローに見えました(笑)。そこでボールが取れたことに対する「ホッとした」という感じです。

――ラインアウトから数えて、あの一連のプレーに関わったのは延べ54人いました。箸本選手は逆サイドでもアタックを仕掛けて、そのうち4回ボールに絡み、4回目のタッチがトライになりました

バックローなので、システム的に両サイドにバランスよく配置されています。自分が必要な役割の場所に行っていたという感じです。

――トライの前にはライン際でバックフリップパス、松島選手もボールが来るものと構えていたように見えましたが、あのプレーは練習していたんですか?

いや、していないです。マツさん(松島幸太朗)が素晴らしいと思います。良く取ってくれたと思いました(笑)。

――誰がいるか分からない状態でパスしたんですか?

マツさんが内側にいるのは分かっていました。とりあえず自分がタッチから出そうになっていたので、ボールを残さなければという意識と、あとは味方がいそうな気配を感じたので。あのプレーは奇跡です(笑)。ただ、闇雲にパスをした感じではなくて、何か感じるものがありました。

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◆行きたいと思う場所に行ける

――前進する時の細かいキレも良かったと評価されていますね

そこは最近、課題にしていたところです。怪我などがあり、3節のホンダ戦が今シーズン最初のメンバー入りとなりました。その試合では、自分がやりたい動きではなくて、普段だったら行けるところに行けない感覚があって、それで何かを変えなければと思っていました。その次の神戸戦はメンバーから外れて、2~3週間くらいかけて、練習から意識を変えて取り組んでいました。それにプラスαで自分でやることを決めて取り組み、静岡戦では行きたいと思う場所に行けるようになっていました。

――それは以前は出来ていたんですか?

そうですね。前に出来ていたことが出来なくなっていたという感じでした。なので、やっていて「こんな感じだったなー。自分がやりたいようにやれているな」という感覚で、ちょっとずつ出来ている感じがありました。

――怪我明けで3節の三重ヒート戦初登場となったわけですが、怪我をするのは珍しいですよね

珍しいですね。怪我をしまくっていたので、「これはヤバいなー」と思って、府中にある大國魂神社へ行って、厄払いをしてもらいました(笑)。これだけ怪我が続くのはただの偶然じゃないと思って、大國魂神社に行ってお祓いをしてもらいました。そこからは良い感じです(笑)。

――お祓いの効果が続き、静岡戦でのトライは自身初トライでしたね

まさかあんな良い場面で、初トライが取れるとは思いませんでした。けれど、ホッとしたこと以外に、喜びなどは無かったですね。

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◆フィジカルの部分で当たり負けない

――今シーズンに入る前の課題は?

今まで僕の強みにしていた、ボールキャリーの質と強さ。今シーズンはナンバー8で出場することが多くなりそうで、最初の起点になるアタックが多いことと、やはりチームとしてもナンバー8は、強いボールキャリー、激しいコンタクトが必要とされているので、今シーズンの初めから意識しているところは、フィジカルの部分で当たり負けないということと、タックルの精度を上げていくことです。フィジカルを意識しすぎて動きが鈍くなっていたところが先ほどの話に繋がっていて、バランスが悪かったところがシーズンが始まって気づいたところです。

――明らかに身体は大きくなりましたね

そうですね。周りの人からも言われます。オフシーズンとプレシーズンに、力を入れて取り組みました。

――自分でもパワーがついたと思いますか?

思います。ボールキャリーのところはもうちょっと必要だと思いますけれど、ディフェンスで身体を当てた時の感覚は、良くなっていると思います。

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――ナンバー8での出場が多くなるということですが、これまでナンバー8はサム・ケイン選手でしたね

他の選手の状況でケインが7番になることはあると思いますが、ケインも8番ですから、そこでポジション争いをすることになると思います。自分がやりたいプレーをやるためにやるということがベストですけれど、お互いに強みが違うと思うので、あまり気にしていません。まだチャンスを掴めた段階ではないと思うので、もらったチャンスが続いているだけだと思っています。

――サム・ケイン選手から学ぶこともありますか?

ジャッカルとか教えてくれます。シンプルに身体が強いのと、経験だと思うんですけれど、教えられていることはわかるんですが、特別なことはやっていないと思います。そのプレーの質がとても高いんだと思います。

――6番、7番、8番だったらどこでも良いですか?

どこでも大丈夫です。その中でも8番が、いちばん面白いと思います。セットプレーからの何フェーズかは決まりがありますが、この前みたいに何フェーズも重なってくると、どのポジションでもあまり変わらないかもしれないですね。

――身体が大きくなったにも関わらず、フィットネスは衰えていないんですね

昨シーズンのフィットネスレベルには戻ってきたかなと思います。

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◆ひとつひとつの質を上げる

――今の課題は何ですか?

前からキヨさん(田中澄憲)などから言われていますけれど、いろいろな場所に顔を出すことや、仕事をやる回数、運動量などは認めてもらっているので、そこのひとつひとつの質を上げること。特にボールキャリーとディフェンス、そしてサントリーはアタックが大事で、ブレイクダウンの2人目と3人目のサポートを重視していますが、行く回数は良いけれどその質がまだ低かったり出来ていなかったりするので、そこの質を上げていくことが課題です。

――質を上げるために気をつけていることは何ですか?

準備はめちゃくちゃ大事にしています。ぜんぶですけれど、ストレッチと睡眠、栄養もそうで、結構気にしています。

――それが成果として出ると、試合をしていて楽しいんじゃないですか?

そうですね。静岡戦は、1週間の過ごし方とか、準備の積み重ねで試合前から自信がありました。1週間で思ったことが、結構完璧に準備が出来たなと感じました。

――準備ではどんなことをやっていたんですか?

体幹とか下半身のメニューとか、今シーズンからやり始めたことがあって、それを毎日やっている感じです。あとは、体力がないと判断する余裕がなくなるので、もうちょっと体力をつけて、より見る時間と考える時間を長くしたいと思っています。判断の時間を長くするために、早くセットすることが大事だと思います。

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◆前の日の自分と競う

――体力をつけるためにはどんな練習を?

ランニングですかね。

――ランニングは好きですか?

好きですね。好きというか、中学校の頃からずっとやっていました。中学3年の夏の時に福岡県選抜のセレクションがあって、その時はセンターで、学校の部活はサッカーをやっていたんですけれど、どちらも引退して何もやっていない時がありました。その時は105kgくらいあって、めっちゃ太っていたんですよ。

それでセレクションの人から「セレクションで選ぶけれど、これから身体を絞らないと試合に出さない」と言われて、これはまずいとめちゃくちゃ走って、半年で20kgくらい痩せました。家の前が川で、川を周り1周3kmくらいだったので、タイムを測りながら走って、日に日に速くなることに成長を感じて、それが自信になる。自分で勝手にやっている積み重ねが自信になるということで、それを続けていました。

――それは高校でも、ずっとですか?

高校ではたまにで、大学でも「調子が悪いな」と思う時には走っていました。そこが基本だと思っています。だいたい調子が悪いと感じる時って、走るとぜんぜん走れないんですよ。それで走って1週間くらいすると止まらずに走れるようになるんです。それで2週間目くらいになると、昨日のタイムを気にし始めて、昨日の自分と競うようになるんです。

それをどんどんやっていったら、自分の勝手な積み重ねが、グラウンドで自信になって、思い切り出来るようになります。それでまた自信になって、更にやるようになるんです。それの繰り返しですね。調子の悪い時は、走ります。

――静岡ブルーレヴズ戦では良い準備が出来たのは、今の話が繋がっている感じですか?

そうですね。練習で自信を持っていくようになります。その自分の積み重ねが、自信になっている感じです。

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――走るということがベースなんですね

そうですね。僕のベースはそこですね。ひとつひとつの強さとかではないですね。

――もっと強くなりたいと思っていますか?

はい、なりたいです。もっと走れるようになりたいですね。なりたいですし、これが限界だという感じではないので、やっている感覚だともっと出来ると思っています。追い込み走りとかではなく8割で走るんですが、その自分の8割のきつさの限度が違う日がありますよね。その8割がだんだん楽になってくると思います。

――そのまま続けていたらバックスも再び出来るんじゃないですか?

いやー、わからないです(笑)。今からではきついなと思いますし、スピードのレベルが違うと思います。

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◆良い準備

――改めて今の課題は何ですか?

質のところですね。

――そのヒントは見えていますか?

ブレイクダウンのサポートはひとりで出来るものではないので、いかに練習の限られた時間の中で、自分がどれだけ試合をイメージして練習できるかだ思います。

――そのためには集中力が大事ですよね

そのための良い準備です。

――日本代表についてはどう考えていますか?

そこを考える余裕はまだないですね。とりあえず、このチームでの競争に勝ち続けることにしかフォーカスしていないので、代表までは考えられていないですけれど、自分がやりたいパフォーマンスのレベルを上げていくことが、そこに繋がると思っています。

――日本人ではなかなか選ばれないポジションでもあるので、ぜひ選ばれて欲しいですね

今の課題は、日本代表を目指す上でも課題として挙げられると思うので、そこは繋がっているかなと思います。

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――今シーズンの目標は?

自分がメンバーに入り続けて、サントリーの優勝に貢献することが、いちばんの目標ですね。サイクルが上手く回っている時は調子が良いので、良い準備、栄養、睡眠が良いパフォーマンスになって、自分の信じたものをやり続けること。走りとか体幹とか下半身とかですね。それをやると自信になって、自信がプラスされて、また良い準備をしていくというサイクルです。

――ファンの皆さんにはどこに注目してもらいたいですか?

運動量はいつも言っているのでそこではなく、いま自分が目標にしている激しいボールキャリーと、どれだけ箸本が前に出られているかというところに注目してもらいたいですね。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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