2024年1月12日
#886 堀越 康介 『成長し続けたい』
顔つきが変わったように見えるのは何故か?身体を張った活躍でプレイヤーオブ・ザ・マッチを獲得した堀越選手に聞きました。(取材日:2024年1月上旬)
◆100%近く出せた
――第4節ではこれまでの中でいちばん目立っていたんじゃないでしょうか
どうですかね。たまたまその場にいたのが僕だったという感じです。その場に入れたことが、運が良かったなと思います。特別なことをした感じではないんですが、練習でやってきたことが試合で出たので良かったと思います。
――特に調子が良いというより、いつも通りだったということですか?
そうですね。いつも通りでした。練習でやったことを試合で100%出すことを目指してやっていますが、試合展開などで100%出せない時もあります。この前の試合は、練習でやったことが100%近く出せたと思います。
――運が良かったとのことですがその要因は?
今シーズン特に意識しているところは、フィジカルバトルはもっと僕が引っ張っていかなければいけないという責任感があるので、そこをもっと前面に出していこうと思っています。あと、ゲームを予測していく力を強みにしていきたいと考えているので、そういうところも含めて良いポジションにいられたのかなと思います。
――フィジカルバトルの手応えは?
まだまだですね。アタックは良いところがありますが、ディフェンスでももっと良いタックルを決められると思いますし、やっぱり日本代表を目指しているので、インターナショナルレベルのコンタクトという点は、まだまだ課題かなと思います。
――ゲーム予測の手応えは?
あのゾーンに入った時にはどんどんボールが欲しいと思えるような選手にならなければいけないと思っていて、そういうところで上手い具合にパスが来たりしてトライに結びつけられたので、そこは良かったと思います。
◆練習に対しての自信
――トライのシーンでは、ただ真っすぐ行くのではなく、空いているスペースを狙って飛び込んでいましたね
そこも予測するというところに関係していますが、ゲームの流れ的にふたつポンポンとパスが繋がって、それに対応するためにディフェンスが順目に行ったんです。チラッと横を見たらブラインドサイドが空いていて、それに対して相手もヤバいと思って2人くらい詰めに来たので、それも見えてインサイドが空くと思って飛び込みました。
――よく見えるようになりましたか?
今までは見えていたけれどそうやって動けなかったのが、動けるようになったと思います。見えていてここが空くと思って思い切り行ったからこそ、トライに繋がったと思います。
――終盤に長い距離も走りましたね
やりながら、ここで相手を止めたら勝てると思っていましたが、みんながとても良いディフェンスをして、チェス(チェスリン・コルビ)が最後にインターセプトした場面ですね。あの時もたまたま僕がいて、走ったという感じです。
――出来ることが増えてきたという感じですか?
練習に対しての自信が今シーズンは特に強くて、あまり上手くいっていない試合の週でも本当に毎日みんなで良い練習が出来ているので、それに対しての自信はとてもありました。それが試合で出せたのは嬉しかったです。
◆開幕戦は全てがハマった
――4節を終えて、チームとしての手応えはどうですか?
良い状態だとは思います。ただ、いつも言っていますが、シーズン中にどんどん成長していかなければいけないと思うし、そのマインドがみんな強いと思います。試合に対しての準備、その準備がポジティブな形で出ていますし、逆に毎試合、新たな課題も見つかっています。僅差での勝ちですが、1試合1試合成長していくことが大事だと思います。どのチームもかなり強くなっています。だから力の差が無いですね。
――開幕戦は会心の出来でしたか?
開幕戦はずっと準備してきたこと、全てがハマったという感じです。
――その要因は何だったんですか?
プレシーズンからずっと、まずは開幕戦がターゲットと意識してやってきましたし、やっぱり昨シーズンに3回も負けている相手だったので、それに対しての気持ちが入っていたと思います。
――フォワードの新戦力、サム・ケイン選手はどうですか?
かなり良いと思います。神戸戦を見てもらったら分かると思いますが、ケインはタックルが相当強力ですし、下にあるボールに対しての働きもチームの中でいちばん良いというくらいです。あと、どんな時でもサボらないですね。そういう小さいことがゲームに大きな影響を与えると分かっているから、そこに対しての集中力はとてつもないですね。
◆スキルのセットとメンタルのセット
――いま個人的な課題は何ですか?
スクラムとタックルです。
――スクラムはどこが課題ですか?
4試合を終えましたが、まだ納得したスクラムを組めていません。スキルのセットとメンタルのセットで両方が無いと、どんなプレーもダメですけれど、特にスクラムはいちばんが気持ちです。その気持ちのメンタルセットのところが、弱かったのかなと思います。いまは押された原因をすべてスキルセットのせいにしているように感じます。スキルも必要ですけれどメンタルも大事なので、どちらか片方にならないようにしないといけません。スクラムは相手がいて、相手も必死だし、こちら側が毎回100%の状態で組めるわけではないので、例え80%のセットアップになってしまったとしても、「残りの20%で押されたなんて言い訳をするな」と、みんなに言いました。
――スクラムの相手との駆け引きは?
やっぱりエキサイトしますよね、スクラムって。フォワードのパックのプライドとプライドの勝負なので、目に見えて分かりますよね。だから、絶対に負けたくないという気持ちが出て来ます。いまスクラム徐々に良くなっているところです。
◆ドミネートするタックル
――タックルはどこが課題ですか?
成功率は良いんですけれど、相手をドミネートする(圧倒する)タックルがまだ1回も出来ていないですね。そこはテクニック不足なんじゃないかなと思います。
――昨シーズンは出来ていたんですか?
そんなに多くは無かったんですけれど、相手に乗られるようなタックルはありませんでした。これまでは前に出て倒すタックルでした。
――そうならないためにはどうすればいいんですか?
いまチームとして前に出るディフェンスをしていて、スピードに乗っている分、一瞬のズレとかで良い感じにタックルが決まらないということが続いているのですが、そこのテクニックですね。スピードを上げてちょっとゆっくりしてから、またスピードを上げてバチンと当たるタックルを練習しないとダメだと思います。
――タックルと言えば山本凱選手はどうですか?
凱はそんな細かなことをしている印象は無いですけれど、バーンって当たりますよね。だから点で当たれているんだと思います。ここでタックルポイントが起きそうだなというところに一直線で当たりに行っている印象です。ある種、天才だと思います。だから、あいつはそれで良いと思います。
――タックルを改善するポイントは何ですか?
予測も含めて、テクニックだと思いますね。
◆勝った時には嬉しいし負けた時には死ぬほど悔しい
――チームとしての課題は何ですか?
今週取り組んでいることは、ブレイクダウンの精度です。僕たちはアタックするので、ブレイクダウンがしっかりしないと僕たちのラグビーが出来なくなります。だから、外側と内側の役割をしっかりすることを意識して取り組んでいます。あとはインディビジュアルの、1人1人のタックルの精度を上げていくことです。
――みんなの課題が堀越選手の課題でもあるんですね
そうですね。
――各チームと競い合っている状況は、大変でありながらも楽しさがあるんじゃないですか?
楽しいです。やっている最中は楽しくないんですけれど、勝った時には嬉しいですし、楽しいですね。
――負けた時には?
死ぬほど悔しいです。
――東芝ブレイブルーパス東京は強かったですね
東芝は強いですね。また戦うことになるので、早くやりたいですね。負けたままでは終われないですね。自分自身としてもチームとしての自信があるので。
――試合にお客さんがたくさん入っていますね
本当にありがたいですね。
――声援は聞こえるんですか?
聞こえますね。特に秩父宮は客席が近いので、めちゃくちゃ声が聞こえますし、お客さんがたくさんいると力になります。
――褒められているのも文句を言われているのも聞こえるんですか?
僕は良いことしか耳に入ってきません(笑)。
◆自分のプレーに満足することが無い
――スクラムとタックルを改善できれば、日本代表が見えてきますか?
それは分からないです。入りたくて入れるところではないので。
――入りたい気持ちは今までの中でも高いですか?
高いと思いますけれど、あまり考えてはいません。もっともっと成長していかなければと思える指標のひとつが日本代表です。そういうところは、普段からブレずにやっていきたいと思います。
――ワールドカップで試合に出るという目標もありますね
具体的な思いはありません。ワールドカップで試合には出られなかったんですけれど、長い間、日本代表で活動してきて、このくらいのレベルにならなければインターナショナルレベルの試合には出られないと身に染みて分かっているので、そういうところでは自分の中で指標になっています。日本代表があるから、自分のプレーに満足することが無いですね。
◆人に任せることが多くなった
――殻を破ったという印象を受けるんですが、どうですか?
自分的には殻を破ったという感じはありません。必死なので、そんなこと考えていないです(笑)。
――1人キャプテンになって、プレーにも磨きがかかっているように感じます
それはあるかもしれないですね。常に言っていますが、リーダーやキャプテンに大事なことは、いちばんはパフォーマンスなので、その気持ちは強いと思います。感覚的には昨シーズンよりも人に任せることが多くなったので、楽な部分があります。
――人に任せようと思ったのはなぜですか?
昨シーズン、キャプテンをやってみて、自分のパートじゃないのになぜ自分が話しているんだろうと思う時がありました。そういう時は相手に伝わらないですし、相手としても「何言っているの?」と感じていたと思います。だから、自分のパートであるチームのマインドのコアの部分をブラさずに絶対やろうと思って、アタックのディティールやディフェンスのディティールは任せようと思いました。
――キャプテンは楽しいですか?
楽しくはないですよ。ただ、試合に勝って、ノンメンバーが笑顔で喜んでくれる姿を見た時に、「あーこのチームのキャプテンで良かった、頑張って良かったな」って思います。それで「また来週頑張ろう」というモチベーションになっています。
◆泥臭くてひた向きで全員がハングリーな集団
――ノンメンバーへの意識も大切ですね?
まだそんなには意識していないです。これからシーズンが深まっていくと、僕が話すこともあると思いますけれど、目指すところは優勝なので、優勝するためにはみんなの力が必要というところはブラさずにシーズンを通して言っていきたいと思います。誰かひとりでも練習でサボったら、そのひとつの小さなことが積み重なって、最後の最後で負けるという芯を、通していきたいと思います。
――東京サンゴリアスにとって、最もコアな部分は何ですか?
泥臭くてひた向きで、全員がハングリーな集団だと思います。どんな時も成長マインドを持って取り組む、グラウンド内だけじゃなくてグラウンド外でもそういうところだと思います。その成長マインドでやっていくと、このクラブの良いところって、ポジションの競争にも繋がっていくので、そういうところが僕としては大事かなと思います。
――他にどんなことに気を配っているんですか?
昨シーズンのインタビューで、「チームは生き物」って言ったと思うんですけれど、波があるんですよね。その波を出来る限り小さくすることが僕の役割だと思います。
――それはどうやって?
雰囲気を感じることに気を遣っているので、雰囲気が緩く感じる時には厳しく言うようにしています。特にフォワードに対しては厳しく言いますね。
◆黄色いジャージがグラウンドをかき回している姿
――今シーズンの目標は?
チームとしても個人としても優勝です。
――試合ではファンにどういうところを見て欲しいですか?
チームとしては、見ている人がワクワクするようなラグビーをするので、グラウンドを見たらあちこちで黄色いジャージが走っているし、寝ている黄色いジャージの選手はいないし、黄色いジャージがグラウンドをかき回しているという姿を見て欲しいです。
――昨シーズンよりも良い顔をしていますね
僕がですか?......良かったです(笑)。周りに任せることが出来ているからじゃないですかね。
――怪我の心配は?
今のところは大丈夫です。身体の調子はとても良いので、自信はあります。サンゴリアスに入って、全試合いちばん走っていると思います。試合中に、こんなに走れるんだって思いました(笑)。体重も重いと思っていましたが走れていますし、良い感じだと思います。僕が走っている姿を見て欲しいですね。これ、見出しにしますか?(笑)
――見出しはもう一度インタビューを振り返ってピックアップしようと思ってます
かっこいいやつにしてください(笑)。見出しは「満足せずに成長し続けたい」...「成長し続けたい」でお願いします。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]