SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2024年1月 5日

#885 チェスリン コルビ 『ゼロから何かを生み出す』

最初の質問への答えが止まらず、ジェシー通訳から途中で待ったがかかるくらい、ずっと語り続けてくれたコルビ選手。その話に引き込まれ、45分近いロングインタビューとなりました。(取材日:2023年12月下旬)

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◆学び

――第3節までを終え、日本でのこれまでのプレーはどうですか?

最初の2試合は15番として出場して、久しぶりにプレー出来てとても楽しかったです。第3節はウイングでの出場でしたが、おそらくコーチ陣として、15番の役割を他の選手とシェアしながら進めていっているのだと考えています。個人的なパフォーマンスとしては、3試合とも悪くはなかったと思います。まだまだ成長できるところはあると思うんですけれど、基本的には良かったかなと思います。

開幕戦は良い状態で勝てたので良かったです。第2節で負けてしまったということは残念でしたけれどいろいろと学ぶことが出来ました。第3節もいろいろ良い学びがあって、結果としては勝ちましたけれど、修正しなければいけないところがいろいろ見えてきました。学びとしてはとても良かったです。

まだチームに慣れていかなければいけない部分はありますが、日々の中でいろいろな人から学べることがありました。個人的にも以前からいた選手やコーチから様々なフィードバックをもらいながら、日々学び、チームに貢献していけるようにしていきたいと思っています。

――日本のラグビーは想像していた通りですか?また自分としてはそれにフィットしていると思いますか?

日本に来てとても楽しみです。競争も激しいですし、世界が思っているよりも日本のリーグのレベルは高いと思います。ゲームメイクやチャンスメイクのところなど、期待されている部分については他の選手もいますし、チームが勝つことが重要です。周りに人たちにもサポートしていただき、良いパフォーマンスを出して良ければ良いと思っています。

自分がスペースを見つけてそこにアタックすることよりも、他の選手にスペースを作ってあげることの方がチームのためになるのであれば、それでもいいと思っています。自分に期待されている部分よりも、良いパフォーマンスをしてチームが勝つことが重要だと思っています。

個人的には自分のパフォーマンスをまだ100%発揮できていないと思っています。毎週試合を重ねていくと、そこもフィットしてくると思うので、それで100%を発揮することも出来るようになると思います。ただ、まずはチームのことにフォーカスしていきたいと思っています。

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◆飛ぶときと飛ばない時を見極める

――キックキャッチがなぜあれほど上手なんですか?

身長が高くないですけれど、キックキャッチはスプリングボクス(南アフリカ代表)でも重要視されていました。だから個人的に時間を割いてトレーニングしました。細かいスキル練習をやりながら、キックキャッチを相当伸ばしてきたと思っています。細かいスキルはずっと練習しないと、試合で自信を持って発揮できないと思うので、1週間を通してトレーニングするようにしています。

キャッチについては、飛ぶときと飛ばない時を見極めることが重要だと思っています。ボールを取りに行けないと思ったら、そのまま飛ばずにタックルに入るという判断が大事で、その経験をスプリングボクスでも個人的にも積んできました。この経験を日本の同じポジションの選手にも伝えて、貢献していきたいと思っています。

日本人の選手も学ぶ姿勢が強くて、いろいろな質問をしてきてくれますし、練習後には毎日5~10分くらいハイボールキャッチの練習をしていて、私が教える立場になる時もありますが、学ぶ立場にもならなければいけないので、いろいろと学びながら進めています。

――キャッチに行く判断をする時には、何がいちばん大事ですか?

時間がある時には飛ばなくて、相手が詰めて来て時間が無い時には飛びます。相手よりも早く飛ぶことが大事だと思うので、ボールが落ちるところのスペースに自分の身体を置きに行くことが重要です。

飛ぶか飛ばないかの判断を最後まで見せなければ、ディフェンス側も難しくなると思います。飛び方には個人差があると思うので、自分が飛びやすいように飛ぶことも重要だと思います。

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◆出来ることは常に100%でやりたい

――コンバージョンキックを蹴られる側のファンは、これまでじっと見守るしかなかったのが、コルビ選手のチャージで、見る楽しみが新たに出来た気がします

何かのインタビューの時に冗談で、キックチャージについて、「昔からずっとやっているけれど届かなかったのはスピードが足りなかった」と答えました。キックチャージを成功されるということよりも、キッカーの目線に入ったり、キッカーにいかにプレッシャーをかけられるかがいちばん重要だと思います。ワールドカップの時にたまたまキックチャージが成功した時がありましたが、チームに少しでも貢献するために動きますし、試合後にこれをやっておけば良かったという後悔をしたくないので、出来ることは常に100%でやりたいと思っています。

――あのワールドカップ準々決勝の時は「行ける」と思って走っていたんですか?

ノー(笑)。出来るだけ近くに寄ろうと思っただけでした。

――自分のイメージよりも速く走っていたということですね

ハハハ(笑)。

――キックチャージを成功する確率は?

あとちょっとの時は何回かありましたが、あの時が初めて成功したシーンでした。キッカーの動きやルーティンなどを見極めることも大事になります。本当にギリギリの判断だと思いますが、毎回、出来ればやろうとしています。

――キッカーの動きを映像などで見ているんですか?

はい。すぐにキックするキッカーもいるので、チェースが無駄な時もあるかもしれませんが、それでもやろうと思っています。

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◆祈りながら泣いていた

――ワールドカップのもう一つの印象的なシーンが、決勝戦でイエローカードが出て、ジャージをまくって被リ続けていた姿です。あの時はどんな心境だったんですか?

決勝に出場する時には80分間出たいと思っていました。これまでの中で2、3回目のイエローカードでしたが、決勝の大舞台でイエローカードをもらうということにはがっかりしますし、チームをがっかりさせてしまっている、国をがっかりさせてしまっている、チームをサポートしてくれている皆さんをがっかりさせてしまっていると思いました。

イエローカードをもらった時にスクリーンを見て、72分と表示されていたので、試合には戻れないことが分かっていました。シンビンの椅子に座りに行って、そのままジャージを被って試合を見ませんでした。椅子に座ってからは試合を見ていません。正直に言うと、祈りながら泣いていました。

試合を見直してみて、そのまま試合を終わらせるのではなく、私をシンビンにさせてチームのために祈らせるということを、神様がさせたんだと今は思っています。がっかりはしましたけれど、神様が導いたことだったんじゃないかなと思います。

その後からインターネットなどにジャージのシーンなどが載せられていましたし、いちばん心地が悪い場所にいなければいけない選手だったのですが、まぁ勝ったので良かったです。結果がついてこなければ、もっと反対の意見なども出てきたと思いますが、勝てて良かったと思います。

――なぜ試合を見なかったんですか?

ラグビーはプレーしたいので、見るのは嫌いです(笑)。特に自分のチームに関しては。相手のチームの試合は見ますが、自分のチームでは参加をしたいので、見るのは嫌いなんです。特に決勝など大きな舞台では、最後までグラウンドに立ちたい、チームに貢献したいという思いが強いので、余計に見るのは辛いですね。ジャージを頭から被って、応援の声をずっと聞いていました。全員がオールブラックスの応援でしたが、応援が盛り上がり、ピンチだと思った時もありました。逆に静かになった時には、スプリングボクスがコントロール出来ていると思っていました。

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◆ラグビーの素晴らしいところ

――決勝を戦ったサム・ケイン選手と同じチームになりましたね

ラグビーだけじゃなくスポーツ全般的な話ですが、勝ち負けがあります。ラグビーの素晴らしいところは、グラウンドでは本気で戦いますが、試合が終わった後はみんなが仲良くなります。相手チームの選手と、家族のことやラグビーのことについて話が出来るのが素晴らしいところだと思います。スプリングボクスが勝つことは出来ましたが、相手をリスペクトしなければいけないので、調子に乗って話をするわけではありませんし、相手のことを常に考えて行動することが重要だと思います。

サム(ケイン)がオールブラックス(ニュージーランド代表)のキャプテンになっていたのは、人間性が素晴らしかったからだと思います。優勝したことは過去のことで、日本に着いた瞬間から日本でのことだけを考えたいと思っていました。過去のことは置いといて、前に進みたいと思っています。

――サム・ケイン選手と仲が良さそうですね

日本に来た日がほぼ同じだったので、どこに行くにも常に一緒でした。そこでお互いをどんどん知ることが出来ました。サムの家族も日本に来たので、私の家族とよく遊んだりしているみたいです。どんな選手かという部分だけじゃなく、オフ・ザ・フィールドの部分、人間性の部分も知ることが出来て、どんどん仲良くなっています。

◆希望を持ってもらえる立場にいられること

――ラグビーのいちばん楽しいところはどこですか?

私がよく言っていることなんですが、「朝起きて、楽しんでラグビーの練習に行きたいと思わない日が来たら引退する」と思っています。だから今はラグビーが楽しいですし、常に楽しんでラグビーをしています。仲間と仲良くなってラグビーをするということは常に楽しいことですけれど、個人的に楽しいと思うことは、毎週毎週メンバーに選ばれて、自分の才能などを皆さんに見せることが出来て、子どもたちに希望を持ってもらえる立場にいられることが楽しいと思います。あとは毎日クラブハウスなどで学んで、新しいことを試すということも楽しいことです。

――自分が持っているいちばんの才能は何だと思いますか?

みんなが期待しているところはアタックのところで、ゼロから何かを生み出すという期待をしてくれていると思います。自分でも足は速いと思いますし、ステップは自分の強みだと思います。そこを磨いていくためにも、どんどん練習していかなければいけないと思っています。

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――素質の面でもお父さんの影響を受けたんですか?

父も母もトップのレベルでスポーツをやってきた家系だったので、常にその影響はあると思っていますし、父はクラブでトップのレベルでラグビーをやっていて、インターナショナルレベルでもプレーしていました。常に父を追いかけてスポーツをやっていくということは、恵まれた環境だったと思っています。

父はアンドリューと言い、ポジションは12番と15番でプレーしていました。父がラグビーをやっていた時はプロではなかったので、父が叶えられなかった夢を、今は父の分も自分が叶えられていると思っています。

――お母さんは何をしていたんですか?

母はネットボールです。他の家族では陸上をやっている人もいました。私もラグビーを始める前は陸上をやっていました。ハードルをやっていたんですが、ハードルが高すぎたので、そこからはラグビーをやるようになりました(笑)。陸上では、あと100m走と200m走もやっていました。きょうだいには姉がいますが、姉はあまりスポーツはやりませんでした。いとこなどもスポーツをやっていて、2016年のオリンピックで400mで良い結果を残した人もいます。

――速かったんでしょうね

100m走では、10.6秒がベストでした。もっと速い人たちがいました。

――今はもっと速いでしょうね

ハハハ(笑)。分からないですよ(笑)。

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◆全て家族のため

――いま活躍していて親孝行していると思いますか?

そう思いたいですね。いま私がやっていることは全て家族のためです。妻や子どもたち、父、母、今まで自分のために犠牲を払って来てくれた人たちへ貢献するために今があると思っています。そして父の夢も叶えられているのかなと思います。

――お子さんは?

娘が2人と息子が1人です。

――ラグビーをやらせますか?

正直に言うと、やって欲しくはないです(笑)。自由にさせたいですし、楽しんで欲しいですけれど、改めて考えてみても、いちばん上の長女はやらないと思います。次女はスポーツは好きですね。息子は絶対にやると思います。けれど、何のスポーツを選ぶかは分かりません(笑)。ラグビーボールを持って遊んでいますけれど、無理やりやらせることは無いので、もしラグビーをやりたいと言えばやらせようと思います。

◆サントリーにトロフィーを

――ポケットロケットを始めコルビ選手にはニックネームがたくさんありますが、新たにどんなニックネームをつけられたら嬉しいですか?

これまでいろいろなニックネームをつけられてきましたが、シンプルに「チェス」が嬉しいですね。ラグビー選手だけとして見られたくなくて、ちゃんとした人間性を持っている人、スポーツだけでなく社会にも貢献できている人になりたいですね。今、子どもたちだけじゃなく必要としている人たちにアプローチできるようなプロジェクトも始めようと思っています。彼らが自分たちの夢、スポーツでも勉強でもそれを達成するためのサポートができるようなことを始めたいと思います。

――チェスリン・カレッジ?

はい(笑)、チェスリン・カレッジ!

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――今シーズンの目標は?

一貫性を持って、グラウンドに立ち続けて、チームに貢献したいと思っています。日本に来た理由はいろいろなことを学びたいと思いましたし、サントリーは勝つ意志が強いチームだと思うので、勝つことがとても重要だと思います。

その中で自分としては、常にベストを尽くして勝てるようにやっていきたいと思っています。そして、いろいろなことを学びながら進めて行ければ良いと思っています。あとは楽しむことが大事ですね。最後にはサントリーにトロフィーを持ってきたいと思います。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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