2023年12月22日
#883 尾﨑 晟也 『目標はトライ王』
開幕戦3トライ、第2戦1トライ、2試合で計4トライを重ねた尾﨑晟也選手。よりパワフルになった昨シーズンのトライ王が目指すものは?(取材日:2023年12月中旬)
◆トライに繋がるまでの過程
――東芝は強かったですね
東芝のいちばんの強みの部分である、フィジカルのところでやられるシーンが多かったです。そこが勝敗を分けたと思います。
――試合前からあのような展開になることはイメージしていましたか?
そうですね。東芝とのゲームで何がいちばん大事かということは、みんなが理解していたと思いますし、そういう準備を1週間かけてやってきたんですけれど、相手のプレッシャー、圧力を感じるシーンが多かったというのは事実ですね。
――その中でいちばん沸いたシーンが尾﨑選手のトライシーンだったと思いますが、あのトライはどうでしたか?
トライに繋がるまでの過程が、とても良かったです。フォワードがあのエリアに入ってペナルティーをもらったところでバックスにボールを出したんですけれど、みんなが良いコントロールをして相手を引き付けてくれました。そして自分に良い形でボールが回ってきたので、絶対に取りきってやろうという気持ちはありました。
◆自分の間合い
――よく倒れず走りきりましたね
自分のいちばん得意な間合いというか、相手がどうこうじゃなく、自分の得意なシーンでした。
――バランスを崩しても倒れないところが、より一層パワフルになったと感じたのですが
力強さのところは、シーズンに入る前に意識して強化したところであったので、その強さがしっかりと出たと思いますし、ちょっとタイミングをずらすとか、普段からやっている自分の間合いを確保できたので、あそこで走り切れたのかなと思います。
――身体技法の研究家が「つまずいて前へ進む時が実はいちばん速く走れる」と言っていたのを思い出しました
走る時にスピードを意識している時は、前傾姿勢というか、転ぶような勢いで走ると、よくS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチも言っていますし、コンタクトしてから走るとか、普段のトレーニングで意識していることが出たシーンかなと思います。
◆最後のディンフェンスとして止める
――リーグ戦新記録の31,900名を超える来場者でしたね
やっぱりあれだけスタンドが黄色に染まって、32,000名近くのお客さんの前でプレー出来たことはとても楽しかったですし、とても嬉しかったですね。ここ数年コロナウイルスの影響もあって、無観客でやっていた頃を振り返ると、とても嬉しいですし、あのような大歓声の中でプレーしていると選手はテンションが上がって、パフォーマンスにも少なからず影響してくると思うので嬉しかったですね。
――開幕戦で3トライ、第2節で1トライと、昨シーズンよりも良いペースでトライが取れていますね
いや、まだ2試合なんで(笑)。昨シーズンとはサンゴリアスのラグビーが少し違いますし、めちゃくちゃトライを取りたいという気持ちよりも、勝つための動きを意識してやっているので、それが結果として数字に表れているのは嬉しいですね。
――攻撃だけじゃなくディフェンスでも目立っていますね
ディフェンスはとても意識して、今シーズンハイプレッシャーをかけているので、そこのコントロールと、自分が最後のディンフェンスとして止めることを意識しています。
◆近くにお手本がいる
――今シーズンはフルバックがチェスリン・コルビ選手ですが、コンビネーションはどうですか?
最初は細かいズレも多少あったんですけれど、最初から感覚的なところやラグビー観は、お互いに似ている部分があります。コミュニケーションを取りながら、だんだん精度を上げていっているという感じです。
――ラグビー観が似ているというのは?
自分がボールを欲しいタイミングや、見ているスペースが一緒だとか、そういったところです。
――あの身長で、あのキャッチの上手さはどこにあると思いますか?
まず飛ぶタイミングが上手いですね。もちろんジャンプが高いですし、スピードもあると思うんですけれど、いちばん自分が強くて高いところでボールを取っているという印象です。キャッチの高さだけだったら他にも高い選手とか、もともと背の高い選手の方が有利だと思うんですが、それをさせないタイミングや、自分がいちばん高いところで強い姿勢で取っているところが素晴らしいと思います。
――参考にしていますか?
いま、どういうタイミングで入るのか、そして手の使い方など、細かいところを聞いている感じです。空中戦のところは自分の課題だと思っているので、近くにお手本がいるのは嬉しいですね。
◆チェスから学ぶことはとても多い
――昨シーズンよりも更にバージョンアップしたところは具体的にはどこでしょう?
ワークレートの部分はとても意識している部分で、昨シーズンよりもボールタッチ回数を増やせるように、そしてずっと心掛けていることではありますが、ボールを持っていない時の動きを更に高い意識で出来るようにやっているので、そこが昨シーズンとは少し違うところかなと思います。
――意識だけじゃなく、それをやる身体も出来ているということですね?
そうですね。キックチェイスも昨シーズンよりも多いと思いますし、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)のスタッツを見ても昨シーズンよりも走っているので、その辺のレベルアップは感じています。
――首がとても太くなりましたよね
意識はしていなかったですけれど、プレシーズンで首のトレーニングをS&Cが取り入れてくれたりしていました。ただ、そこを意識したことはなかったです(笑)。
――昨シーズンよりもレベルアップしているところは、意識して強化したんですか?
自分のスタイルを突き詰めていくという、ラグビー選手としての段階だと思います。これからめちゃくちゃ身体が大きくなったり、足が速くなったりすることはないと思うので、自分の持っている力をどう最大限に活かすかを考えないといけないですし、それを考えた時にワークレートの部分をもっと増やさなければいけないと感じました。
あとチェス(チェスリン・コルビ)から学ぶことはとても多いです。あの身体のサイズで世界で戦える、活躍できるというのは、とても参考になるところです。いま良い刺激をもらっています。
◆細かいところにこだわりを持ってプレーしている
――相手のキックへのコルビ選手のチャージが新しい見どころになっていますが、一緒にキックチャージには行かないんですか?
そうですね。キックチャージには行ける時には行きます(笑)。キックチャージの部分もそうですけど、彼のプレーはランニングやハイボールキャッチに目が行くと思うんですが、それ以外にも1本のキックチャージに全力で行くとか、ラックを作る姿勢、ボディコントロールとか、そういう細かいところにこだわりを持ってプレーしている選手です。身体が大きい選手はやらなくても出来る部分、そういう部分への取り組みが素晴らしいといちばん最初に感じました。そこは自分でもどんどん精度を上げて行ける部分だと感じたので、真似して良い学びにしていきたいと思っています。
――そういう細かい部分も、コルビ選手は練習をしているんですか?
練習しているというより、既に普段から身についているんです。ひとつひとつのリアクションが早かったり、相手に抱えられそうになった時にボールを切るのが速かったり、寝るスピードが速かったり、そういうひとつひとつの動きがいつ見ても速いので、その辺が素晴らしいですね。
――本当に良い選手がチームに加わったんですね
そうですね。自分も「もっとやらなければ」「もっと出来る」と思わせてくれる選手ですね。
◆代表に絡めるように
――日本代表については?
日本代表に入りたい気持ちはとてもありますし、次のワールドカップを目指しています。小さい選手でも出来るというところを突き詰めて行ければ、代表でも活躍できる選手になれると思っていますし、逆にそこが足りなかった部分でもあると思うので、今シーズンがとても大事になってくると思います。そういったところをどんどん伸ばして、代表に絡めるようにやっていきたいと思います。
――本当にいいタイミングでコルビ選手が加わりましたね
そうですね。自分にとってはプラスのことだと思います。
――更に今シーズンは、弟の泰雅選手が13番で出場していて、隣の番号で一緒にやっていますね
それは泰雅の努力だと思いますし、昨シーズンが終わって休まずにニュージーランドに留学して、ラグビーを学んでしていましたし、意識や態度が変化してきて、それが彼の成長のスピードを上げている感じがしています。ただ、僕からしたらまだまだ足りない部分がたくさんありますけれど(笑)、彼なりに成長している感じがあるので、隣でやっていてとても頼りにしている部分もあって、その辺は良いんじゃないかなと思います。
――意識や態度はどのように変わってきたんですか?
今まではフィフティフィフティのプレー、イチかバチかとか、それが彼の良さでもあるんですけれど、それをやらなくていい場面でやったりしていました。そこがちゃんと選択できるようになってきたと感じますし、あとディフェンスでも痛いプレーが出来るようになってきているのかなと感じます。
――ラグビー全体を考えてプレーしている感じがありますね
ラグビーの理解度は上がっていると思います。それは泰雅だけじゃなく、若手もバックスもそうで、全員のゲームに対しての理解度は上がっていると感じます。
――それはなぜですか?
やるべきことが練習中からクリアになるようにコミュニケーションが取れていますし、自分の役割とか、練習の中で明確になっているので、それがゲームでも発揮されていると思います。グラウンド内でコミュニケ―ションを取っていますし、グラウンド外でも繋がっている感じがします。
◆1試合1試合レベルアップしていくことを毎週繰り返す
――今シーズンのキャプテン(堀越選手)とバイスキャプテン(尾﨑晟也選手、ホッキングス選手)、身体で引っ張る3人が揃いましたね
やっぱりまずは自分のパフォーマンスが大事だと思っていますし、康介(堀越)も言っていますけれど、自分がプレーで引っ張っていくということがリーダーとして大事なことだと思います。康介には康介のタイプがありますし、それは高校の時から知っていますし、大学でも康介がキャプテンで僕がバイスキャプテンということはやってきたので、何を考えでどうしていきたいかと感じることが多いですね。それをチームに浸透させることが僕の役割だと思っているので、その辺のリーダーシップの役割はバランスが良いのかなと思います。
――今シーズンの目標は?
今シーズンのスローガンでもある"THIS IS SUNGOLIATH"は、誰が見てもサンゴリアスのラグビーをしているということがテーマなので、それを毎試合出して、そして勝つということがサンゴリアスだと思いますし、それを出して最後に優勝にたどり着いたら良いなと思っています。
――どのチームも強化していて競った試合、負ける試合もあると思います。負けることもあると想定して前に進めていく感じですか?
東芝戦で負けましたが、負けてもリーグは続いていきますし、優勝が無くなったわけでもないので、まずは1試合1試合レベルアップしていくことを毎週繰り返していかないといけないですし、例えまた負けることがあったとしても、そこでネガティブになるんじゃなくて、自分たちがどんなラグビーをしたいかを突き詰めていくことが大事だと思っています。毎試合レベルアップして、1試合1試合勝ちにこだわってやっていくことが、優勝に繋がると思っています。
――個人としての目標は?
トライ王、と言っておきます(笑)。2シーズン連続のトライ王は今までいないと思うので、それを目指せるポジションでもありますし、個人的には目指していきたいですけれど、あまり意識せずにチームの勝利に繋がるようなワークレートを心掛けていきたいと思っています。
――ワークレートが増えれば、トライも増えると思いますし、トライアシストも増えるでしょうね
そうですね。ワークレートを上げていけば最後にチャンスが回ってくると思うので、そこでしっかりと仕事が出来ればと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]