2023年12月 1日
#878 松島 幸太朗 『体の強さはラグビーの基本』
ワールドカップ・フランス大会で299分間プレーし、287mのゲインメーターを記録した松島選手。ワールドカップを振り返りつつ、新しいシーズンへの目標を聞きました。(取材日:2023年11月下旬)
◆100%の準備
――3度目のワールドカップはどうでしたか?
難しかったですね。個人的にですが、合宿スタートからフルバックでずっと準備してきて、直前でウイングに変えられたので、それまで準備してきたフルバックとウイングは全く違います。ただ代表から外れた選手もいますし、試合に出られない選手もいるので、中途半端な気持ちで試合に出たくないという気持ちもありましたし、出るからには100%の準備をしたつもりです。
――今回はノートライでしたが、ゲインメーターの数値は高かったですね
そこの数値を見ていないので分からないですけれど、ボールをもらえれば、チャンスをつくったりチームに勢いをつけられるようなプレーをする自信がありました。ただ、ウイングに行くことでボールタッチが減って、自由に動いてくれと言われていたとしても、ボールをもらうことはそんなに簡単なことではありません。15番で出ていれば違う結果になったと思いますし、その自信もありました。
――4戦目の前の状態はどうでしたか?
大事なところで、みんなミスをしたくてしているわけではないですし、精神的にも身体的にも疲労はあったと思います。ワールドカップは疲労度ということでは、異次元だと思うんですよ。疲労がある中で、次の試合まで長い期間が空く週だったとしても、例えば土曜日が試合で日曜日が休み、次の土曜日が試合だったら、それまでずっとグラウンドに出る感じだったので、精神的にも身体的にも疲れた感じでしたね。
――松島選手でも疲れが出たんですね
いや、誰でも疲れると思います。練習も結構キツかったので。
――2019年の時には感じなかったストレスがあったということですか?
前回大会の時には感じてなかったと思います。2019年はみんながイキイキしていましたし、メンバーが固定されていてもみんなが動いていました。みんな年が上がっているということもあると思いますが、最後の20分で疲労が溜まって自分たちの力が発揮できなかったと思います。僕にとってはめちゃくちゃストレスでしたね。ストレスで肌荒れがひどくなって、ワールドカップが終わった瞬間に治りました(笑)。
――次のワールドカップを目指しますか?
目指したいという気持ちは心の中ではどこかにあると思いますけれど、今すぐということはあまり考えていません。今から次を目指すという感じでは、まだないです。
◆14人になった時への対応
――サンゴリアスに戻ってきて、帰ってきたなという感じですか?
そうですね。みんな知っている選手ですし、帰ってきた感はありましたね。
――昨シーズンは4位という結果でしたが、これについてはどう思っていますか?
プレーオフの準決勝はみんな出し切ったという感じでしたね。最後のTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の時も、みんながやり残したことがないという感じでしたし、僕たちがどうこう言っても結果が変わるわけではなかったので、本当によくやったという雰囲気でした。悔いとかは無いですね。
――あの試合がいちばん良かったですか?
第3節のキヤノン戦も14人になった状況がありましたし、それが活きたという部分もあると思いますし、その試合で14人でもしっかりやれると。戦術をこうしようと話も出来ましたし、14人という意味では、そういう経験が活きたんじゃないかなと思います。14人になった時への対応が出来ていたので、14人での攻め方など、そういう部分でみんなの成長を感じられました。
――対応できたということは、やる部分とやらなくていい部分等の取捨選択があったんですか?
どのポジションが抜けるかにもよりますけれど、とにかく相手陣地でやらなければいけないという感じでした。準決勝のクボタ戦は、14人になった瞬間にキックが多くなるんですが、最後にはサンゴリアスらしい繋ぐラグビーが出来ました。同じ14人でもどこのポジションが抜けるかによって、だいぶ変わりますね。
◆ちょっと物足りない
――昨シーズンの自分自身の出来はどうでしたか?
ちょっと物足りない感はありました。プレーもそうですが、少し身体が弱かったかなと思います。疲労が溜まっていたこともありましたが、ウエイトの部分で体幹重視にしてしまって、身体の強さの部分をトレーニングで続けていなかったので、ちょっと身体が弱いなとは感じていました。
――シーズン途中で方向を変えることは、なかなか難しいんですか?
難しくはないですけれど、上手くいっていた部分が体幹の部分だったので、バランスが難しかったですね。
――そこは今シーズンの課題ですか?
今やっていることを続けて、プラスアルファで体幹系をやれば良いと思っています。身体の強さはラグビーの基本だと思うので、今シーズンはそこをメインにしてやろうと思っています。
――昨シーズンで良くなったと感じた部分はどこですか?
ロングパスは良くなったかなと思います。あと、そこの精度をもっと高めれば、パス、キック、ランのオプションが出来るので、そういう3つのオプションを持っている選手は相手からしたら嫌だと思うので、そこは常に磨きをかけていきたいと思っています。
――瞬発系の速さにも磨きがかかっていたように見えました
悪くはなかったかなと思います。ただ、もっと出来るとも思いました。
◆ただ、好きなことをして欲しい
――今シーズンのサンゴリアスでの楽しみは何ですか?
10番争いですね。誰が10番になるかでチームは変わっていくと思うので、そういった楽しみはありますね。スタンドオフによって、攻撃的だったり、バランスが取れていたり、キッキングゲームになったり、みんな性質が違うので、それによって自分たちの合わせ方が変わってくると思います。10番が自信を持ってプレーしてくれることによってチームは大きく前進できるので、特に幹也(髙本)はまだ若いので、みんなでサポートする意識がありますし、森谷とアンスコムは経験値があるので、周りがどうやりやすく出来るかというところですね。
――家族を持って変わったことはありましたか?
今までやってきた自分の準備の仕方が変わったと思います。子どもを寝かせたり、一緒に遊んだりすると、自分の時間は無くなるわけで、それでも苦とは思わないですし、それ以外の時間でやれば良いやと思うタイプなので、そういうタイプで良かったなと思います。
――子どもにもラグビーを勧めますか?
いや、たぶんやらせないです(笑)。ただ、好きなことをして欲しいと思います。
――気分転換やスイッチの切り替え方法が変わリましたか?
そうですね。前まではシーズン中はあまり外に出たくなくて、家にいることが多かったんですけれど、家族3人でサイクリングに出かけたり、近くの公園で遊んだり、そういうことが増えたので、気晴らしになる感じがしました。
――メリハリが出てきて集中度が増しましたか?
相手が見えている時は、集中しているかなと思います。チャンスがありそうな場所が見えると、逆にそこだけしか見られなくなるパターンもあって、そんな時には行き切れるということがありますね。
◆精度が上がっていけばいくほど、引き出しが多くなる
――31歳の年になりますが、肉体的にはまだ成長過程ですか?
そうですね。リカバリーが遅いと感じませんし、一般的に聞いているようなことは、まだ起きていないですね。
――選手としての理想とする姿と比べて、どのくらいまで来ていますか?
割と来ていると思います。ワールドカップで狂いましたけれど(笑)。
――最年長のリーチマイケル選手はもう一度ワールドカップを目指すと言っていますね
身体がちゃんと動いていて、チームのためにパフォーマンスがしっかりとそのレベルの達しているのであれば、目指したいと思います。やっぱり気持ちという問題も出てくるので、今のところは問題ないですけれど、3~4年はすごく年月があるので、自分のペースでやっていければ良いかなと思います。
――ラグビーをやっていて楽しいと感じる時はどんな時ですか?
積み上げてきているものがちゃんとグラウンドで出ている時は楽しいですし、そこの精度が上がっていけばいくほど、引き出しが多くなると思うので楽しいですね。
――今シーズンの目標をお願いします
もちろん優勝するために、全力でコミットすること。相手が怖がるようなチームになっていきたいと思います。個人的な部分はあまり考えていないですね。自分のパフォーマンスでチームが勢いづいてくれればいいですが、それは後からついてくるものだと思っています。まずチームのためにしっかりとやれることをやる、という感じですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]