2023年11月24日
#877 流 大 『ずっとリーダーをやってきた』
自身、選手として最後のワールドカップから帰ってきた流選手。今の心境と新シーズンへ向けての熱い目標を聞きました。(取材日:2023年11月中旬)
◆リーダーの仕事
――ラグビーワールドカップフランス大会、やり切りましたか?
やり切りました。
――最後の2試合に出られなかったことへの悔いは?
たまたま今まで怪我が少なかっただけで、もちろん残念ではありますけれど、あのタイミングで来たというだけです。それも人生なので、しっかりと受け入れて、次に活かせればとすぐに切り替えました。
――9番での出場は改めて自信になりましたか?
いや、僕は正直、9番でも21番でも自分の役割をやるだけだと思っていたので、背番号に関係なく試合に出て、チームに貢献することしか考えていませんでした。もともと9番でも21番でも出来る自信はあったので、それで自信になったということは無かったですね。
――初戦は特に大事だったと思いますが、9番としてどう入っていきましたか?
前回大会も経験しているので、9番として開幕戦がどういう状況になるかを理解して臨みました。姫野が怪我をしてゲームキャプテンでもありましたが、あまりいろいろなことは考えていませんでした。自分なりのリーダーシップと、あとはチームの方向性をしっかりと決めることだけにフォーカスしていました。リーダーは他にもいたので仕事を振りながら、自分のやるべきことだけをやる、周りを落ち着かせるということを考えていました。
――方向性を決めることは大変なのでは?
いや、それがリーダーの仕事なので。リーダーは最後にどうすればいいかを決めればいいと思っていて、その決める役を僕がやっていたというくらいです。
――人によっては、その決める役がプレッシャーになると思いますが、もはやそれも楽しみに?
いやいや(笑)。楽しみとかは無いです。それがリーダーの役割なので。今までずっとリーダーをやってきたので、それが普通でした。
――それが出来る喜びや面白さなどはありませんか?
いや、無いですよ。責任は感じますけれど、喜び自体は全くないですし(笑)、辛くもないです。リーダーしかやってきていないので、リーダーでいることが普通で、自分の中では普通のことをやっているだけです。リーダーやキャプテンとなって特別だと思うこともないですし、いつも通りのことをやれば、それが自分のキャプテンであり、リーダーであるというだけです。
――目指す姿ではなく、自分のいつも通りのことをやっていれば良いということですか?
はい、いつも通りのことをやっていれば、みんなにとってのリーダーになっていたんじゃないかなと思います。
――そんなふうに思う人は、なかなかいないのでは?
どうですかね。リーダーになる人って、大体そうだと思っています。
◆成長スピードが追いついていなかった
――今回の日本代表の4試合はどうでしたか?
やっぱり世界の壁は高いと思いましたし、どの相手とやっても50~60分は接戦で戦えると思うんですが、その後に突き放されたりするので、そこはまだ課題ですし、世界との差はまだあると感じました。
――前回大会よりも日本代表は成長していましたか?
もちろん、2019年と比べたら今の方が絶対に強いんですけれど、世界ももっと速いスピードで成長しているので、その成長スピードが追いついていなかったかなと思います。
――そのスピードに追いつくためのヒントはありましたか?
いっぱい経験するしかないと思っていて、若い選手がインターナショナルレベルのプレーをたくさん経験するしかないと思います。あまり詳しくは知らないのですが、次の年からはテストマッチの数も増えるみたいですし、若い選手の中には海外でプレーした方が良い選手もいると思うので、そういう選手たちが経験を積んでいけばいいと思います。
あとは日本代表だけが頑張ってもダメなので、本気で考えて、ジュニア世代から最終的に日本代表まで繋げていけるかという骨組みになるようなシステムを構築しない限りは、最終的に本当の世界のトップにはなれないと思っています。
――流選手の代わりに9番をつけた齋藤直人選手には、かなりアドバイスしましたか?
プレーのアドバイスはそんなにしていないですけれど、緊張していたので、「いつも通り」やれということとか、コーヒー飲みながらリラックスさせて臨ませたというくらいです。
――齋藤選手もリーダータイプですか?
リーダーだったんですけれど、直人の良さって、いちラグビープレーヤーとしてラグビーを楽しんでいる時がいちばん良いプレーが出来るんだと思います。リーダーというよりも、ひとりのラグビープレーヤーとして思いっきりプレーしている時に、より良いプレーをしていますね。ただ、リーダーをやりたいんだったら、やっていっても良いと思います。
◆自分の人生を自分で決めていきたい
――日本代表の活動を引退ということで、どんな気持ちですか?
日本代表は選ばれてなれる場所なので、本来、僕からそういうことを言うのは、選ばれるかも分からないのでおかしいことだとは思っています。ただ、自分の人生を他の人に決められたくなくて、自分で決めていきたいですし、自分で区切っていきたいので、選ばれなかったとかクビになったとか嫌なんですよ。だから次に行く時には、自分で区切りをつけて次に行きたいと思っています。
――選ばれないとかクビになるとかは、自分でコントロールできない部分ですね
だから、プロでずっとやり続けて、1年1年頑張って契約を勝ち取って、最終的に契約できませんって言われるまでやり続ける選手って、本当に忍耐強くて、本当にプロフェッショナルだなって思うんですよ。僕はそれが出来ないというだけで、いろいろな考えがある中、僕は自分で決めたいというだけです。
――自分で決めるタイミングだったということですか?
そうですね。あと、正直に言えば、もうあれだけキツイことは出来ないです(笑)。もうビックリするくらいキツいですよ。だから、日本代表の選手って本当に素晴らしいと思います。本当にリスペクト出来ます。
――キツいことを乗り越える喜びのようなものはありますか?
キツいことを乗り越える喜びというよりは、最終的な大義というか、日本のラグビーを世界に証明したい、ワールドカップで勝ちたいということがあるので頑張れているだけで、それが無ければあんな練習は絶対に出来ないです。
日本代表のシステムでは、代表だからと言って、お金のために日本代表をやっている選手は1人もいません。それでも日本代表で頑張るというのは、それぞれに様々な思いがあって頑張っているので、本当に素晴らしいと思います。
◆勝っている時のサンゴリアス
――サンゴリアスは昨シーズン4位という成績でした。これについては?
求めている結果ではなかったです。みんな言っていますが、サンゴリアスというチームは「優勝か優勝じゃないか」なんです。そんな中、プレーオフの準決勝の試合は、見ている人に何かを伝えられたと思うんですよね。サンゴリアスのNEVER GIVE UPの精神とか、ファイティング・スピリットを見せることが出来て、「サンゴリアスはこういうラグビーだ」と証明できたと思います。ただ、それで勝てていないということには原因がありますし、勝つために受け入れなければいけないこともたくさんあったので、そこは今シーズン、少しずつ変えていきたいと思います。
今シーズンも優勝するために頑張りますけれど、例えばサンゴリアスだと分からないジャージを着ていたとしても、このチームはサンゴリアスだと分かるようなプレーをしなければいけないと思っています。他のチームと同じようなラグビーじゃなくて、ラグビーのシステムどうこうというよりも、頑張る姿勢やひた向きさ、泥臭さを見せないといけないと思っています。勝っている時のサンゴリアスは、それらが根底にあります。今シーズンはそこのプライドを僕自身も持って、そういうラグビーを見せたいと思っています。
――1年1年の勝負だと思いますが、サンゴリアスでの現役はまだまだ続けていきますか?
どうなんですかね(笑)。自分で決めたいんで、40歳までやりたいとかは一切ありません。いま31歳なので、やるとしてもMAX3年くらいじゃないですかね。今シーズンで終わることはないと思いますし、来シーズンまでは確実にやると思います。そこで終わる可能性もありますし、プロなので契約の話もありますしどうなるか分からないですけれど、長らく優勝から遠ざかっているので、優勝していないまま終わりたくないという気持ちは常にあります。
――引退後はコーチングですか?
セカンドキャリアで目指すところはコーチングで、コーチをしっかりと経験して監督もやりたいと思っています。ただ、そういうことは頭の片隅に置いてあるだけで、いま本当に考えているのは、プレーヤーとして責任を果たすことで、チームを勝たせることなので、コーチどうこうは常に思っているわけではありません。
――いちプレーヤーとしては、まだまだ成長できますか?
もちろんです。身体の衰えをちょっと感じることはありますが、それは勝手に自分が決めていることであって、絶対にどうにでも出来ることだと思っています。それを証明しているラグビープレーヤーは世界にたくさんいますし、日本でもリーチさんや堀江さんを見たら分かるように、常に身体も進化しています。だからそこは自分次第なので、自分では「もうおじいちゃんだから」とか言ったりしますけれど(笑)、気持ちの部分では若手に絶対に負けないと思っています。
◆サンゴリアスのラグビーを世界に見せつけたい
――サンゴリアスにとって、今シーズンは何がいちばん大切ですか?
自分たちを信じることだと思います。今シーズンのスローガンは"THIS IS SUNGOLIATH"で、そのスローガンを決めた時の話を、僕は日本代表でいなかったので聞いていこうと思っていますが、でもスローガンを見ただけで分かると思うんですよ。これがサンゴリアスで、サントリーという会社の中にいるクラブだと、みんなが信じることがまず大事。そのためにはそれだけの積み上げをしないといけないし、誰がどこから見てもサンゴリアスのラグビーだと思われるラグビーをしないといけないと思っています。
――みんなでつくっていくものだと思いますが、つくる喜びはありますか?
本当に喜べるのは勝った時なので、つくる喜びは感じないですかね。ただ、つくる楽しさはあります。みんなでつくり上げて、キツいことを乗り越えて、昔からある文化を更に良くしていって、サンゴリアスというクラブを本当にもっと良くしていっているという過程を楽しむということはあると思います。喜ぶのは本当に勝った時なので、勝つまでは喜べないですね。
――今シーズンの目標をお願いします
サントリーのラグビー、サンゴリアスのラグビーというものを証明する。これがサンゴリアスというものを日本中に見せつける。もっと言えば、世界にも見せつけたいと思っています。目指すことはもちろん優勝ですけれど、ひとつひとつ目の前のプレー、目の前の試合、どの試合でもどの練習でも、自分たちのプライドを必ず証明することが大事だと思っています。
個人としては、今年怪我をして学んだので、しっかりとグラウンドに立ち続ける、それが僕の目標ですね。グラウンドにいないことには、いろいろ言っても説得力がないので、しっかりとグラウンドで良いパフォーマンスをすることが目標です。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]