2023年11月 3日
#874 下川 甲嗣 『みんなを追いかける立場』
フランス大会でワールドカップ初出場をはたした下川選手。初めてのワールドカップで得たものは?(取材日:2023年10月下旬)
◆それをやるしか勝てない
――ラグビーワールドカップから帰ってきましたが、まずは日本代表に招集された時の気持ちを聞かせてください
まずは「諦めずに頑張ってきて良かった」という気持ちがいちばんです。「やったぞ!」という気持ちよりは、どちらかと言えば、将伍さん(中野)の怪我もあったし、やらなきゃという気持ちが強かったです。
――気持ちとしては、すぐに入っていけましたか?
入れましたね。合宿の時からメンバーに入るつもりでやってきましたし、やっている内容もチームとして同じ絵を見てやってきていて、「誰がプレーヤーとして試合に出るか」という問題だけだと思っていました。
――実際にワールドカップに行ってみて、普段とは違いましたか?
国内のテストマッチでは、自分たちがやりたいラグビーが100%出来ていなかったので、少し不安な様子を感じていました。それでも「やってきたことに間違いはない」と全員が思っていて、その気持ちを持ちながら根気強くベーシックな部分を続けてやっていきました。そしてディテールのところでミスしていることがあったので、その部分を突き詰めていきました。
あとは対戦相手に対して、試合に出るメンバーだけじゃなく、メンバーに入っていない選手がどれだけメンバーにプレッシャーを与えられるか、そして相手の分析をしっかりとやって、全員がその週の試合に勝つためにチームのために何が出来るか、という部分は、ひとりひとりが出来ていたと思います。
――自分たちのラグビーに自信を持てていた理由は何ですか?
「これで戦うんだ」というジャパンのラグビーを最初のミーティングで提示されて、「それをやるしか勝てない」と思っていました。精度の部分がまだあまり高くなかったので、得点に繋がらなかったし、相手にスコアされることもありましたが、精度が上がれば大会中の良い時間帯に日本のラグビーが出来ると、全員が分かっていたと思います。
今回、僕や若手のメンバーは初めてのワールドカップでしたが、それこそ亮土さん(中村)、ユタカさん(流大)、マツさん(松島幸太朗)など、経験している人たちは、「このラグビーが出来れば戦える」とわかっていたと思うので、そういった人たちについて行った部分もあります。
――提示されたラグビーが良かったということですか?
良かったというよりは、それが日本のスタイルだと思っていました。そのラグビーを4試合でもやり切れたと思います。
◆浮足立って
――改めてワールドカップを経験してどうでしたか?
テストマッチやサンゴリアスの試合とは周りの注目度が違うし、長い間ハードなことをしてきたので、重みを感じました。チリ戦はスタメンで出ましたけれど、他は残り5分や10分の出場で、それでも浮足立ってしまって、正直、自分のパフォーマンスは100%出しきれませんでした。個人的にはそこが悔しかったですね。
――浮足立ってしまったのは、気合が入り過ぎてしまったんでしょうか?
そういうところもあると思います。自分の中ではあまり意識していませんでしたが、あのような場面でいざ出場してみると、良いプレーは出せませんでした。短い時間で自分のパフォーマンス、チームから求められているインパクトプレーヤーとしてのインパクトは残せなかったと思います。そこは悔しい部分でもありますし、経験ある選手は短い時間でも自分の役割を果たせるのが素晴らしいと思いました。
――チームに戻ってきて、その経験は課題として役立っていますか?
課題というよりは、その経験が出来たことが本当に良かったと思っています。正直、技術的なところではなくて、「やらなきゃいけない」と思い過ぎていて、周りのプレッシャーもありましたし、空回りしてしまったと思います。その経験をしたということが、今後の自信に繋がると思っています。
――顔つきが変わった、ひき締まった、と感じますが、周りから言われたりしませんか?
顔つきに関しては、まだ言われていないですね(笑)。今シーズンはめちゃくちゃ大事だと思いますし、サンゴリアスでのシーズンに気持ちが切り替わっているからだと思います。
◆プレーにムラがあった
――昨シーズンの自分自身の出来はどうでしたか?
良かったか良くなかったかだけで言ったら、あまり自分の中では納得できていません。自分の良い時のラグビーを一貫性を持って出来なかったので、良くなかったと思っています。振り返ってみると、プレーにムラがあったと思います。試合に出た時に、チームに良い影響を及ぼすプレーが、あまり出来なかったと思います。
――その原因は何でしょうか?
試合中も練習中も、自分のプレーでフラストレーションを溜めてしまって、上手くいかない時のコントロールが、上手く出来ていませんでした。
――その改善策は?
昨シーズンの最後の方では、もう一度「自分の強みは何なのか」ということを見つめ直し、自分の場合はボールキャリーとブレイクダウンの集散のところで、しっかりと働き続けることを意識しました。あと、セットプレーで、ラインアウトに入るポジションでしたし、そこを徹底的にやることを考えました。
いろいろなところで上手くやろうと考えすぎて、ひとつ上手くいかないと、そこに執着してしまって、そこから崩れていってしまっていたので、まずは自分の強みをしっかりと磨いて、そこをベースとして、それが出来た先に他のプラスαがあると思うんです。例えば、昨シーズンはぜんぜんなかったですけど、ジャッカルとかそういうプレーにチャレンジしていかなければいけないと思っています。
昨シーズンはジャッカルも含めてぜんぶやろうとして、結局自分の強みが何なのかが分からなくなるような、試合で強みを出せずに終わることが多かったんです。そのことにシーズン中に気づいて修正しようとしましたが、完璧には修正できずにシーズンが終わってしまって、チームも目標としていたチャンピオンを取れなかったという結果だったので、チームの一員としても個人としても、とても悔しいシーズンでした。
――よくシーズン途中で気づきましたね
自分でもどこから直していけばいいか分からなくなりそうな時があって、そういう時にいろいろな人の話を聞いて、やっぱり結局は「自分の強みを出さないとチームのためにならない」と思いました。試合に出る出ない関係なしに、ノンメンバーだったら自分の強みを出せばメンバーに良いプレッシャーをかけることになりますし、試合のメンバーに入るアピールにもなります。それが出来ていない時は、チームのためになれていないと思ったので、修正しなければと気づきました。
◆自分の強みを出し続ける
――今は目標が明快になっている感じですか?
そうですね。今は大きいことを目標にせずに、昨シーズンの最後の方に気づけた、自分の強みを出し続けることを最初に持っていきたいと思っています。
――チームの雰囲気はどうですか?
まだ練習に参加していないので、正直分からないんです。ですが、昨シーズンやその前のシーズンも、トーナメントで勝てていないということが現実なので、本当に勝って優勝したいです。
――次のシーズンの目標は?
いちばんは、優勝することです。個人的には優勝する時にグラウンドに立っていることです。それがいちばんです。
日本代表でもサンゴリアスでも、ようやくフラットになりましたし、サンゴリアスで言えばチームは8月から活動していて、僕の立場としてはみんなを追いかける立場だと思うので、早くラグビーがしたいですし、試合に出たいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]