SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年9月22日

#868 呉 季依典 『もっと孤独に』

呉選手が"森川選手の弟"と呼ばれるのでなく、森川選手が"呉選手のお兄さん"と紹介される日が来るのはいつでしょうか。家族への、そしてラグビーへの想いを聞きました。(取材日:2023年8月上旬)

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◆人目を気にするな

――先ほどお兄さん(森川由起乙)に会って、「伝えることは?」と聞いたら、「もっと自分を殺せ」と言っていました

サンゴリアスでプレーして3年目になりますが、オフシーズン中に一緒にご飯を食べに行きました。その時にも言われましたし、その前からも言われていたことです。「人目を気にするな」ということだと思います。僕は5人兄弟の末っ子で、周りを気にしないようにはしていますが、顔色を窺ってしまうところがあるんだと思います。何か上手くやろうとか、これをやるとどう思われるかとか、そういうことを気にしてしまいます。そうではなくて、「もっと孤独になっていい」と言われました。「いつまでもそのラインを越えられないと、遠慮してしまって、結局自分自身にも問い詰めきれないまま、2年間過ごしていたと思う。もっと空気を読まなくていいし、もっとお前の色を出して、1人になっていいんじゃない?」と言ってくれました。
兄は兄弟5人いる中で群を抜いてストイックですし、負けず嫌いですし、努力家です。僕としても兄貴を尊敬しているんですが、兄貴としたら「尊敬しているんだったら、そういうところをもっと盗めや」と思っているんじゃないですかね。

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――長男に生まれていたら、そういう性格になっていたかもしれないですね

そうかもしれないですね。周りのみんなから「お前は懐に入るのが上手い」と言われるんですが、僕としては全く意識していませんし、思うままに行動しているんですが、「なんかそういうところ嫌やわー」って言われます(笑)。良いところでもあると思うんですが、甘えている部分がチラチラ見えるのかなと思います。

そこは自分としても反省しなければいけない部分で、兄貴が言うように、もっと自分を殺してガツガツ行くようにしなければ、それが結果に繋がっていますし、2シーズンで10試合しか出られていない部分なのかなと思います。

1年目は3試合、2年目は7試合と、出場機会は増えましたけど、やはりビッグゲームなどになると出られていないのが現実なので、そこはしっかりと受け止めて、新しいシーズンに向けて、しっかりと勝負したいと思っています。

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◆人目を気にするな

――お兄さんに言われ始めたのはいつ頃からですか?

それはサンゴリアスに入る前からですね。「お前は移籍してきて失う物がないんだから、何も気にせずガツガツ行けよ」とずっと言われていました。兄貴と一緒に2年間プレーしてきて、今まで一緒にプレーしたことはなかったんですが、それでより兄貴としては「お前はもっと行けるんじゃない?」と感じたんだと思います。

――お兄さんから改めて「もっと自分を殺せ」と言われたわけですが、自分としてはまだ出来ていないと感じていますか?

いや、そんなことは無いと思います。正直、僕自身としては結果が出ていないので、兄貴としては「もっともっと」と言ってくれているんだと思います。実際にはまだ足りていないのかもしれないですが、トレーニングして急に出来ることではないので、そこは積み重ねだと思いますし、結果でしか証明できないので、その期待に応えたいと思います。

グラウンド内外で自分を出していこうと思っていますが、いつまでも兄貴の目を気にしてやるわけではないので、自分のやりたいように一生懸命やって、後悔しないようにしたいと思っています。

これまでの2シーズンと同じことをやるつもりはありませんし、今のプレシーズンでも1人で動き出して、ほぼ休みを空けずにやってきているので、そこを自信に変えてしっかりとやっていくつもりです。

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◆一貫性

――フッカーとしていろいろなコミュニケーションが必要になりますね

チームから求められているフッカーの動きだったり、チームとしての動きだったり、だいぶ理解が出来てきましたし、リズムにも慣れてきました。フッカーはやることが多くて、スクラムもそうですし、セットプレーが大概フッカーから始まるので、そこの精度をしっかりと上げたいと思っています。

――フッカーとしての自分の強みは何だと思いますか?

フッカーは何でも出来るオールマイティな選手が多くて、その中でも自分の強みはフットワーク、ハンドリング、そして瞬発力を強みにしたいと思っていましたし、そこは継続して伸ばしていこうと思っています。そしてサンゴリアスに入って、青木さん(アシスタントコーチ)に出会ったことで、ホンダ時代と比べても「全然違う選手」というくらい、スクラムには手応えを感じています。

ただ、昨シーズンからずっと言われているのですが、ラインアウトが試合では成功率はそれほど悪くはなかったのですが、練習の中で大事な場面でのスローミスをしてしまったり、精度を欠いている部分がありました。セットプレーに関しては、一貫性を持ってやらなければいけないと思っています。

――スクラムが強化されて武器になった部分はどこですか?

まずは考え方ですね。ただ押せばいいわけじゃなくて、スクラムがどこで決まるかと言えばセットアップのところです。そこのマインドや丁寧さで、相手に勝つのは当たり前で、自分がボスということですね。自分自身がしっかりと構えて、いちばん強いポジションを取った上で、1番と3番に入ってこいということです。自分が土台としてしっかりとしないといけないのに、1年目の頃は遠慮が出て、1番と3番に何も言えないこともありました。

2年目、3年目となって、もっとコミュニケーションを取って自分がボスになれるようになってきて、自分の感覚で青木さんと何度も何度も1対1で組んだりしていくうちに、こういう感覚なら上手くいくということもありますし、ここが違うから失敗するなと思ったら失敗しますし、そういう感覚の部分と青木さんから言われることが合ってきたので、自信が持てるようになってきました。

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◆ゲームでしか培えない体力

――今の課題は何ですか?

ゲームフィットネスですね。練習で走っているフィットネスと、試合でのフィットネスは別になります。信頼を得て、試合に出られる機会を得なければいけません。今シーズンはもっと試合に出たいと思っていますし、そのためにはゲームフィットネスもそうですし、グラウンドで動き続けられる体力が必要になります。そこにこだわって取り組みたいと思っています。

――昨シーズンの第3節から9節までは連続で試合に出ていましたね

最初は緊張があって、この少ないチャンスを絶対に掴まなければいけないという変なプレッシャーを感じていました。3試合くらい消化してからは、自分の仕事もクリアになってきましたし、自分により集中して出来るようになったので、改めてゲームでしか培えない体力ってあるんだなと感じました。

――試合に出続けるために何をターゲットにしていますか?

まずは絶対に怪我をしないことで、ずっとグラウンドに立ち続けることです。あとは一貫性です。波がある選手は使いにくいと思うので、その波を出来る限り小さくすることがターゲットです。

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――波を小さくする方法は?

例えば、何も決めずに取り組むのではなくて、スクラムで言えば意識しなければいけないポイントがありますし、ラインアウトのスローする上でのルーティンもあります。その全てに一貫性を持ってやることが大事です。波を小さくするためには、何に関しても一貫性を持ってやることだと思います。しんどいから雑にやるんじゃなくて、ずっと同じフォーム、同じことをやり続けられるかだと思っています。そういう選手が、試合で使いやすくて強い選手なんじゃないかなと思います。

――そのためには準備も大事になりますね

他の選手があまり経験をしていない他のチームのことを知っていますが、そこで実感しているのはスタッフの充実度です。勿論ホンダにも良いスタッフはいましたが、洗礼された人たちがたくさんいて、S&Cやメディカルにもプロフェッショナルなスタッフがいるので、練習前の準備のメニューなどを出してもらったりしています。

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◆ナンバー1になることが目標

――新しいシーズンに向けての目標と、そこに向けての自信のほどは?

みんなが口を揃えて言うと思いますが、サンゴリアスは絶対に勝たなければいけないチームなんです。だから、絶対に優勝しなければいけませんし、僕自身は優勝の経験をしたことがないので、チームとしても個人としてもナンバー1になることが目標です。そのために怪我をしないでずっとグラウンドに立ち続けることが、その目標を達成するためには必要なことだと思います。そして、何事においても、一貫性を持ってやっていくことです。

その自信はやっていく中でついていくと思いますが、プレシーズンの良いタイミングでブランビーズとの試合があるので、そこでしっかりと勝って、自信をつけて、その勢いでシーズンに入って、ナンバー1になるつもりです。

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――最初お兄さんからのメッセージで始まったので、逆にお兄さんへのメッセージはありますか?

昨シーズンは一緒にプレー出来る機会が少なかったので、悔しさがありました。サンゴリアスのメンバーもファミリーですが、兄貴は本当のファミリーなので、兄弟で一緒に試合に出られることをいちばんに求めています。それが親孝行にもなると思っています。

僕が偉そうなことは言えませんが、兄貴には「怪我せずグラウンドに立ち続けて欲しい」ということと、僕としてもポジション争いに勝って試合のメンバーに入るようにするので、「一緒に試合に出ようぜ」と伝えたいですね。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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