2023年9月15日
#867 桶谷 宗汰 『新しいプレースタイルのフッカー』
フッカーに転向してまだ公式戦未出場の桶谷選手。フッカーとしての手応え、そして展望について聞きました。(取材日:2023年8月上旬)
◆ポジティブに得るものはあった
――昨シーズンは残念ながら公式戦出場はありませんでした
今フッカーに転向して1年目で、みんなが目標としてやっていると思いますが、目標としては公式戦に出て、活躍してチームに貢献し、チームが日本一になることだと思います。僕もフッカー1年目で公式戦に出たいと思いでやっていましたが、フッカーというポジションはセットピースの中心になるポジションで、そこがなかなか難しくて出場できませんでした。
出場はできませんでしたが、1年間通してやって得るものもあり、練習試合などでは実践的なスクラムやラインアウトなどをプレーすることが出来たので、昨シーズンは公式戦には出ることが出来ませんでしたが、1年目ということもあって、ポジティブに考えています。得るものはあったので、次のシーズンにどう活かそうか前向きに考えています。
――フッカーを1年やってみて、自分に合っているポジションだと思いますか?
合っているか合っていないか、自分の感想としては合っていないというか、今までやってきたラグビーとは少し違う感じのラグビーをしているなという感じです。
――新しい感じですか?
新しいです。特にフッカーは、スキルや技術が大事になってくる世界なので。今までフランカーだと技術も大事ですが、考えながらやることもとても大事でした。自分のフランカーとしての持ち味はワークレートで、疲れていてもずっと動き回ることや、強くタックル入ることや、ブレイクダウンでプレッシャーをかけるなど、そういうフィジカリティーなプレーをやってきました。今まではそのようなラグビー人生でした。
フッカーは技術的なことがとても大事で、毎回毎回のルーティーンをきちんとして、それをいつも同じようにして、というようなポジションだと感じています。自分の性格や今までやってきたラグビーとは、全く違うものだったなという感じです。
◆丁寧にやっていくもの
――性格が違うとは?
あまりルーティーンなどを気にせずやってきました。大雑把とかではなく、大体の流れはありますが、そんなに神経質にはならずやってきました。フッカーは毎回同じようにスクラムでセットアップをして、丁寧に丁寧にやっていくものです。
――それはフランカーをやっている時には気づかなかったことですか?
全く違う感覚です。フッカーは一つひとつを、とても丁寧にやらないといけないポジションだなと思っています。
――スクラムハーフの次に丁寧なイメージでしょうか?
相当丁寧です。スクラムハーフも丁寧ですが、フッカーはこだわるところも大いにあります。
――どのようなこだわりなんですか?
例えば、スクラムだと自分がいちばん押せるポジションが人それぞれにあって、そのポジションが少しでも違うと、絶対にこのまま組むのはダメだという感じです。とてつもないコミュニケーションが、あの前の3人の中で行われています。僕が後ろで構えている時には知らない世界があそこにはあって、「もっと肩を出して」や「もっと内に寄ってこい」など、一人ひとりがスクラムを押すためにとても強いこだわりを持っています。
自分なりのスタイルも持っていて、そのこだわりの形に持っていくためのセットアップにもまた大きなこだわりがあります。こうしてこうしてこうしてっていう手順があって、初めてそれがぜんぶ出来た時に、良いスクラムが組めるといいう感じを、全員が共通認識として持っています。
◆全く知らなかった世界
――フッカーは真ん中なので1番と3番の両方と合わせないといけませんね?
両方と合わせなくちゃいけないし、フッカーは中心のポジションだから、良い具合にいちばん良いポジションに持っていきます。「この3番はこんな組み方」ということを考えながら多分やっていると思います。昨シーズン僕は一生懸命、自分のやることしか出来なかったです。他のフッカーはそういうところも考えながらやっています。
相手はこうだからということも、考えながらやっているんだろうなと思っています。相手のことも考えながら自分たちのセットアップもやってと、とてつもない世界でした。チームとしてのスクラムがあり、サンゴリアスはこういうスクラムを組んでこういうふうに押そうというのは全員がわかっていると思います。
そして練習中やゲーム中にプレッシャーがかかるタイミングで、どうしてもプラン通りにいかない時に、それをコントロールします。後ろから大きなプレッシャーが来ていても、サンゴリアスのスクラムは雑に組まないです。プレッシャーが来ているときは、「今プレッシャーが来ているから1回集中しよう」など、ちゃんとそれを伝えます。
――プレッシャーが来ているということは、組む前から力が伝わってくるということでしょうか?
ロックからプレッシャーが来ている場合、ロックがもたれかかって自立出来ていない状態です。もちろん組む前にバインドするので、そこである一定の戦いが行われます。そこにおいてフロントローが負けないくらいに壁を作って支えるという役割があるんですが、それ以上、前に出てはいけないんです。押されると当たりに行けないので。
前に行きたいのにその前に後ろからの力がロックから来ていると、一旦それを押さえてやることになります。そうするとヒットのタイミングで出られなくなリます。そのようにプランと違うことが起きた時のコントロールなども、フッカーはしていきます。今まで全く知らなかった世界でそのようなコミュニケーションが行われていることや、実際に組んでみた感覚など、そういう点で得るものがありました。
◆常にコミュニケーションを取り続ける
――これは同じ1番でも人が変われば変わるわけですよね?
そうですね。組み方も少し違うし、出し方も違います。
――そうするとチームメイトのほぼ全員を把握しているんですか?
リーグワンのシーズンに入ると、組むメンバーが大体固まってきます。試合に出ているメンバーの1、2、3番、リザーブの1、2、3番、2本目の1、2、3番、その裏の1、2、3番、というように固まってくるので、固まってきたメンバーの特徴や「毎回こうなるからこうしよう」などのコミュニケーションは取れるようになってきました。しかしシーズンが始まってしまうと、前の1、2、3番のパックのメンバーとはあまり組むことはなくなってくるので、そう言った意味では、特徴がわかってきた選手もいますし、全然わからない選手もまだ正直います。
――どれくらい組むと分かるんですか?組む選手によりますか?
コミュニケーションの量や組んでフィーリングが合う選手ももちろんいるので、それは個々によります。ただ、1回合ってしまえば合うものだと思います。青さん(青木佑輔コーチ)も、常に常に細かいコミュニケーションをずっと取り続けるように、ということを言っていました。ラインアウトなども含めてフォワードにはそういうセットピースがあるので、小さいコミュニケーションやフィードバックなど、常にコミュニケーションを取り続けるようにと言われています。
――今の話を聞いていると、みな1回は第1列を経験した方が良いのでは?
本当にやったら、感覚が変わると思います。前3人はあのような戦いをしている、ああいうコミュニケーションをしているというのを知ると、冗談ですが、ノックオンできなくなると思います。スクラムはしんどいですから。初めて組んだ時は足が疲れ過ぎて、ぜんぜん動けなかったです。あのきつい中でまた話して、ゲーム中でもレビューして、またスクラム組んでって、素晴らしいなと思いました。
――全員が全部のポジションをやってみても良いかもしれないですね
そうですね(笑)。機会があれば面白いと思います。
◆カッコ良いこと
――フッカーになるきっかけは何だったんですか?
前の前のシーズンが終わった時に、青さん(青木佑輔コーチ)とキヨさん(田中監督)から、「チャレンジしてみないか」という話がありました。いろいろ考えて、「やります」と答えました。
――チャレンジしようと思った時はどんな気持ちだったんですか?
一昨年、27歳の時であまり試合にも出られていませんでした。そのシーズンが終わるタイミングで同期の1人である成田秀平が引退して、同期が引退するという経験をしたのが初めてでした。成田は同期ですし、明治大学時代からずっと一緒にやってきたんですが、あまり試合に出られていないまま、引退となりました。
結果を見ていると僕も同じような境遇なので、次の引退は僕かもしれないなと思っていました。その時に、今まで小学生からやってきたラグビー人生の終わり方をいろいろと考えるようになり、「出来るだけ長くラグビーをやりたい」と思いました。今年29歳ですが、30歳を超えるくらいまではラグビーをやっていたいなと。30歳を超えてもやっているサンゴリアスの先輩もたくさんいて、それは素晴らしいことだと思います。ほとんどが、社員選手としてやっていて、それはカッコ良いことだなと僕は思っています。
このまま行くと30歳を超えないで引退してしまうかもしれないと思っていたタイミングで、フッカーになるという話を頂きました。引退するかギリギリの位置にいる中で、本当に最後の挑戦なんだろうなと思いました。出来るだけラグビーをしたいし、最後やるなら何かチャレンジして、悔いのないように終わりたいと思いました。また、僕には子どもが2人います。1歳と2歳10ヶ月なんですが、子どもの記憶に僕のラグビーしている姿が残るくらいの年齢まで、ラグビーをやりたいなという思いもあって、フッカーにチャレンジしようと決めました。
◆高校までNo.8とフランカー
――2番が合っていると思う人がいて、そういう話になったんですね?
合っているという感じよりも、身長や体重、フランカーとしての僕のフィールドプレーのところを考えて、ですね。このままセットピーズが出来るフッカーになれば、なかなか面白い新しい武器を持ったフッカーになれるんじゃないかというような感じです。今のフィールドプレーのままセットプレーが出来たら、それこそ代表にもあまりいない、新しいプレースタイルのフッカーになれるんじゃないかと。
――自分ではどうですか?やれそうだなと思いましたか?
僕は高校までNo.8とフランカーをやっていましたが、いざ明治大学に入ってみるとフッカーでリクルートされていました。僕はフッカーはやるつもりはないですと言って、大学ではバックローをやっていました。でも高校生の時も、2試合ほどフッカーで試合に出ています。フッカーをやっていた同期が怪我をしてしまい、フッカーをやる選手が他にいなかったので、体型的に僕がフッカーをやることになりました。フッカーとして、誰かがそういうふうに見てくれていたことがあったので、やれそうというのが心のどこかにあったのかもしれないです。
――フッカーになってみて、スローインはどうでしたか?
難しいです。青さんに最初教えてもらった時に、真っ直ぐ持って真っ直ぐ引いて真っ直ぐ投げてってシンプルにと言われて、実際にやってみるとやはりそんなに単純なものではなく、ジャンパーとのタイミングも難しいです。的がそこに見えていれば、そこには投げられると思います。的に投げるだけならば狙えますが、いざラインアウトでサインなどをやると、初めにそこには的がなくて、動いていてジャンプするタイミングに合わせつつ、大体あの空間だなというところに投げ入れる才能が僕にはなくて(笑)。
バスケットボールをやっていた選手は、バスケと同じだよと言いますが、その才能がなく今も難しいと感じています。また、ラインアウトが始まる時は、フッカーが1人こっちにいて他のフォワードはみんなあっちにますし、サインを覚えることも当たり前に覚えていたとしても、1人でみんながいるところに投げ入れるということは、とても孤独でありそして責任があります。
ノットストレートをしてしまうと、その瞬間相手ボールになってしまいますし、向こうの仲間のことを信頼して、取ってくれるだろうといちばん高い所に投げ入れることは、とても勇気がいります。僕にとってはメンタル的に、とても難しいポジションです。
――緊張しますか?
毎回緊張します。練習でも緊張します。
◆一筋縄ではいかない
――お手本にしたのは中村駿太選手の投げ方なんですね?
最初は青さんに教えてもらっていましたが、駿太さんが僕のフォームなども見てくれていました。駿太さんも体幹があまり強くない方なので、自分の体をしならせて投げています。僕も上手く体が使えていなかったので、駿太さんの投げ方を真似してみたら上手くいくようになりました。いろいろ教えてもらいながらやっていたので、最後にはグラウンドで投げていても、見た目のフォームは全く一緒になりました。
――中村駿太選手が投げるフォームを変えたのに気づいたのは、桶谷選手だけだったというくらい良く見ていたんですね?
そうですね。昨年サンゴリアスにいたフッカーで、駿太さんはいちばんスローイングが上手いと僕は思っています。シーズン通してみると実際にとても高い成功率で、めちゃくちゃ上手いなと思って見ていたというのもあって、フォームも教えてもらっていますし、ほぼ一緒だったのでずっと見ていました。そうしたら急にフォームが変わったので、「そんな投げ方でいくんですか」ってなりました。お手本にしていたので、目につきました。
――お手本にしていた姿はもう自分のものになった感じですか?
ずっと投げていても完全にコツを掴んだ感じまでは、まだまだ行けていないです。フォームとしては同じ感じで投げていますが、絶対にその場所に投げられるという自信はまだ得られていないので、一筋縄ではいかないなという感じです。
◆新しいラグビーが始まった
――いろいろな部分で発展途上だと思いますが、今の状況は大変ですか?それとも楽しいですか?
最初はとても楽しかったです。今までやってきたラグビーではない、新しいラグビーが始まった感じがして。1日1日いろんな人に教えてもらって、成長している感覚も自分の中ではありました。最初は楽しさが勝っていましたが、やはり練習試合などが始まり、少しわかってくると、そこに対する悩みや難しさを感じる部分が大きくなり、楽しさよりも苦労の方が大きくなりました。
楽しい楽しいと最初やっていたので、最後の方はそんな感じがなくなってきた感じはあります。でもまだ2年目なので、楽しもうというのは一旦置いておいて、今年は公式戦に出られるように頑張ろうと。本当にポジションを取りに行こうというマインドでやろうという感じで、今週から始まっています。
――ポジションを取るためのポイントは何ですか?
セットピースは、やって、やって、やって、やりまくるしかないと思っています。それ以外のところでいくと、フィジカルは今シーズンアピールしていきたいところです。それプラス、今までバックローとしてやってきたフィールドのワークレイトのところやブレイクダウンのところは、コーチ陣たちによりアピールしたいです。
――スクラムにはかなりパワーを使うとのことですが、その対応は出来てきていますか?
練習試合をしていちばん初めにスクラムを組んだ時は、きつ過ぎて全然動けませんでした。押して昨シーズンの最後の方の練習試合は、バックローの人数が足りず、後半の始めにバックローで出て、最後にフッカーで出ましたが、バックローでたくさん動いた後でもスクラムをちゃんと組めました。慣れてきたと思いますし、スクラムを組んでから走ることも全然大丈夫になりました。今年はさらにフロントローとしてそしてタイトファイブとして、もっともっとチームを前に出させるようなボールキャリーやタックルなど、フィジカルの部分を出していきたいです。
◆トータル的な自信、自尊心
――そうするとある程度2番として自信は掴みましたか?
そうですね。んー、やはり毎回緊張しますし、スローインを投げる時も緊張するので、まだ絶対にこれ行けると言うような自信を掴み切れた感じは、正直ないです。今シーズン、ブランビーズ戦という大きな目標があり、たくさん合宿にも参加する中で、自信がついたと言えるくらいやれればと思います。フィールドのところは昨シーズンアピールできたかなと思うので、セットピースの自信さえ掴めれば、トータル的な自信、自尊心がつくような気がします。
――フッカーに転向して2年目の来シーズンはチャンスだと思いますが、目標は何ですか?
中村駿太選手がいなくなったのは大きいですが、フッカーは全員で5人いるので、僕だけのチャンスではないです。全員、中村選手が抜けたところを狙っているので、自分の強みやキャラクターを出して、公式戦は絶対に出るということを目標としてやっているところです。
――まずはそれを達成しないと、ラグビーをやっている姿を子どもが物心ついた時に見せられませんね
草ラグビーをやっているところしか、見せられないかもしれない。その目標を達成するために、このチームが始動するタイミングでいろいろなターゲットが出されますが、今コンディション的にも準備が整っている感じがします。そこの公式戦に出るためには、まずはブランビーズ戦です。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]